希結理の一人称を「私」ではなく「あたし」に統一しました。理由はキュレネがそうだったからです。
──雄英高校入学2日目。本当にガイダンスなどもなく授業がスタートした。午前中は国語や英語、数学などの普通の授業だった。しかしその授業を行う教師もまたプロヒーローの面々であることから、雄英の凄さが伺えるだろう。
昼休み、希結理は緑谷と麗日、飯田と共に食堂に向かい、ランチラッシュの料理を食べることにした。安価で一流の色んな料理を食べられる食堂は、多くの人でにぎわっていた。
他愛もない話をして昼食を食べた後に迎えた午後の授業、『ヒーロー基礎学』。ヒーロー科特有の、文字通りヒーローとしての基礎を学ぶ授業だ。
「わーたーしーがー!普通にドアから来た~!!」
教室のドアをバーン!と開けて入ってきたのは誰もが知っているヒーロー、平和の象徴、オールマイトだ。オールマイトの登場に皆は歓声を上げていた。
(あら、思ったよりも普通の登場ね…?)
「オールマイトだ!」
「すげえや!本当に先生やってるんだな!」
「早速だが、今日はコレ!戦闘訓練!!そしてそいつに伴って・・・こちら!入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた
オールマイトがリモコンを操作するとともに、教室の壁からコスチュームの入ったアタッシュケースが出現した。これにクラス一同はまたしても沸き上がった。
「着替えたら順次、グラウンド・βに集まるんだ」
「「「はーい!!」」」
場面は変わって女子更衣室。女子の皆がコスチュームに着替えていた。希結理のコスチュームは簡素で着やすいつくりのため比較的早く着替え終わった。白いインナーに青を基調とした羽織のようなものを着ており、特にそれらに何かしらの機能が備わっているわけではない。希結理の個性は多様な能力を持つため、下手にサポート会社に特殊な機能をつけてもらうよりも自分の好きな格好に寄せることにしたのだ。
「パツパツスーツんなった…」
「でも似合ってるわよ?お茶子ちゃん」
「そ、そう?希結理ちゃんも似合ってると思う。何か…語り部?って感じ!」
「ありがとう、お茶子ちゃん」
その言葉に、希結理は少しだけ嬉しそうに微笑んだ。希結理のこのコスチュームは、夢で見たキュレネの服装の一つを再現したものだった。なのでこの服装を褒められるのは希結理としては内心結構嬉しかった。
「耳郎ちゃんのコスチューム似合ってるね!ロックだ!」
「ありがと。葉隠さんはそれ…手袋とブーツだけ?」
「うん!個性活かすにはこれが一番だからね!」
「八百万、布面積小さくない!?」
「いえ、寧ろ要望より増えているのですが…」
「ええ?それで…?」
耳郎や葉隠、芦戸や八百万もお互いのコスチュームを褒めたり意見を述べたりしている。各々の個性を活かす工夫がなされているものや、自分の好きな見た目に寄せたものなど様々だった。
やがて着替え終えた女子一行は途中で合流した男子たちと共にグラウンド・βにまでやってきた。
「いいじゃないかみんな、かっこいいぜ!さあ始めようか、有精卵共!」
質問の多さに戸惑ったり、カンペを読みながらシチュエーションを解説するオールマイト。
これから行われるのは『ヒーロー組』と『ヴィラン組』に分かれて行われる2対2の屋内戦。
状況設定は『ヴィランがアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている。ヒーローは制限時間内にヴィランを捕まえるか核兵器を回収する事。ヴィランは制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえる事が勝利条件』である。
コンビ及び対戦相手はくじで決めるらしい。緑谷曰くプロは急造のチームアップも多く、それらを見据えた計らいとのことだ。希結理のコンビは個性で透明人間となっている葉隠透だった。
「私、葉隠透!よろしくね、愛乃さん!」
「希結理でいいわよ。よろしくね、透ちゃん」
「分かった!希結理ちゃん!」
第1戦:ヒーロー側、緑谷出久・麗日お茶子 対 ヴィラン側、爆豪勝己・飯田天哉。
この戦闘訓練は壮絶な戦いと共に始まった。何と爆豪が開始と同時に緑谷達に向かって単身で突撃したのだ。音声は入っていないが、モニターを見る限り完全に爆豪の独断であり、飯田との連携も取れていない。
しかもイラついているのか、爆豪の攻撃はどんどん苛烈になっていき、緑谷も渡り合ってはいるが一歩間違えれば大けがを負いかねない。そしてとうとう、訓練で撃つような威力のものではない爆破を放ち始めた。モニタールームまで響き渡った轟音にクラスメイト達も困惑している。
(先生としてここは止めるべき……!!しかし……!)
「止めてあげたくない、でしょう?先生」
「愛乃少女」
マイクを手に持ちながら迷いを見せるオールマイトに対して希結理はそう言った。クラスの皆は爆豪がこのままの勢いで殺してしまうのではないかと心配していたが、オールマイト、そして希結理は爆豪が最低限殺さないように気をつけていることを見抜いていた。
「確かに危険だけれど…私もあの2人の物語を見届けたいわ」
「………爆豪少年。次それ撃ったら、強制終了で君らの負けとする」
そして最終的に、爆豪を出し抜いた緑谷の捨て身の策で麗日が核を確保。ヒーロー側の緑谷・麗日チームの勝利となった。
第2戦:ヒーロー側、轟焦凍・障子目蔵 対 ヴィラン側、愛乃希結理・葉隠透。
訓練に使う建物まで移動した後、建物の中を一通り確認した上で、四階で作戦会議を始める。
「私は見ての通り『透明化』の個性だよ!希結理ちゃんはどんな個性なの?高速移動とか、ドラゴン出したりとかは昨日見たけど…」
「うーん、一言で説明するのは難しいのだけど…色んな能力を切り替えて使えるわ。索敵・身体強化・治癒・高速移動…他にも色々」
「待って待って!?出来ること多すぎない!?めっちゃ強個性じゃん!」
希結理には手袋とブーツしか見えていないのだが、声音とブンブン振っている手の動きだけでも驚いて興奮していることは容易に想像がついた。
「でも、各能力に短所があるし、二つ同時には使えないの。それに焦凍くんは推薦組だし、きっと一筋縄じゃ行かないと思うわ。目蔵くんの個性もよく分かっていないし」
「そっか、そうだよね。よーし、私ちょっと本気出すわ!手袋もブーツも脱ぐわ!」
そう言って葉隠は唯一身に着けていた手袋とブーツをポイポイと脱ぎだした。葉隠が身に纏っているものはインカムだけになったのだが、小さなインカムはよく見なければ分からない。戦闘中なら猶更だろう。無論、透明人間としては正解なのだろうが、躊躇わず裸になるのは女子としてどうなのかと思う希結理であった。
その直後、オールマイトの合図によって訓練がスタートした。
「──『浪漫』が永遠に続きますように」
開始と同時に希結理は建物中に金色の糸『金糸』を張り巡らせる。それを伝って一階にいる二人の会話が聞こえてくる。
『四階北側の広間に一人、もう1人は同階のどこか。素足だな…』
「まずいわね、位置がばれてるわ。足音を聞いているのかしら?」
「すご!会話まで聞き取れるの!?」
「ええ、代わりに目が完全に見えなくなるけれど…っ!」
『外出てろ、危ねえから。向こうは防衛戦だと思ってるみたいだが…』
希結理は、その音を聞き取った。建物が一階からパキパキと音を立てて凍っていく。このままでは氷漬けになって二人とも戦闘不能だ。
「──『門と道』に別れがありませんように。透ちゃん、私の合図でこの門に入って!」
「え?う、うん!」
希結理は背後に咄嗟に門を作り、葉隠に指示を送る。鬼気迫った希結理の様子に葉隠は何も言うことなく従った。
「3…2…1…今!」
「はいっ!」
二人同時に飛び込み、門をくぐった希結理と葉隠が目を開けると、そこは同建物の三階だった。
「あれ、ここって三階?って、床冷たっ!」
「これが『門と道』の能力。場所と場所をつなぐ「百界門」を開けるわ。行ったことのある場所限定…っと、説明してる時間は無いわね。私が焦凍くんの相手をするから、透ちゃんは万が一に備えて核の所まで戻ってくれる?」
「おっけー!任せて!」
そうして程なくして、悠々と歩いてきた轟が希結理の視界に入った。
「障子からの報告で氷結を逃れたのは分かっていたが…。どうやった?」
「あら、すぐにネタばらしじゃつまらないでしょ?そっちこそ、障子くんを置いてきてよかったの?」
「こっちの方が動きやすいってだけだ。さっさと終わらせる」
「すぐに終わったらつまらないじゃない。もっと楽しみましょ?」
淡々と、最低限の返事しかしない轟に対して希結理は笑いながら話しかける。少しお互いを見つめ合った後、希結理が踏み出すのと轟が氷を生み出したのはほとんど同時だった。
戦闘訓練のコンビは砂藤のいたところに尾白が入っただけで他は原作と全く同じです。
『浪漫』…金糸による索敵や盗聴を行える。使用中は視界が完全にシャットアウトされる。
『門と道』…行ったことのある場所と場所をつなぐ「百界門」を開くことができる。