「うーん、負けちゃったわね」
「ごめんね、私ほとんど何もしてないよ~…」
「そんなことないわ。透明人間がいるってだけで警戒させられるもの」
希結理がトボトボと歩みを進める葉隠を励ましながら二人で階段を下っていくと、建物の入り口にはすでに轟と障子が戻って二人を待っていた。
「建物の外は想定外だったわね~」
「轟と愛乃の戦闘をくぐり抜けるのは無理そうだったからな。一旦戻って建物の外から攻めることにした。三階まで登らないと届かなかったから少し時間がかかったし、愛乃が戻ってきたのは想定外だったが…内部を厳重に警戒していたお陰で外から核に触れられた」
「無意識に視野を狭めてたってことだね!反省だ~」
障子の個性”複製腕”は腕や口、目、耳など身体の部位を複製する事が出来る。更に複製された部位の能力は格段に上がる為、建物の壁をよじ登るのは難しいことではなかった。
「轟くん。そのしもやけ、治しましょうか?」
「……治療もできるのか。大丈夫だ、自分で治す。さっきは……怒鳴って悪かった。少し熱くなりすぎた」
「いいのよ。あたしもつい気になって聞いちゃったし。でも、その内聞けることを期待してるわ♪」
「……」
そう言って微笑みかけてくる希結理に対して「諦めはしないのか」と轟は少し呆れるのだった。
「さて、今回の試合は中々に素晴らしかったぞ4人とも!そんな中でもベストは障子少年だ!なぜかわかるかな?」
オールマイトがそう尋ねると、第1戦と同じように八百万が手を挙げた。指名された八百万はテキパキと考えを述べていく。
「障子さんは開幕の索敵や、終盤の核確保までの判断の速さまでベストにふさわしいと言えるでしょう。葉隠さんは透明人間がいるというだけで相手を警戒させられる点は良かったですが、感知能力の高い障子さんとは相性が悪かったと言えますわ。しかし本番ではそうもいきません」
「愛乃さんは障子さん同様最初の索敵、轟さんの作戦を見破るや否や即座に葉隠さんと一緒に回避行動をとり、長い時間主戦力の轟さんを3階に釘付けにしていました。姿をくらませた後も進路の妨害に余念がなかったのも評価点ですわね。建物の外から攻められるという前提思考があればなおよかったでしょう」
「そして轟さん。愛乃さんが居なければ初撃で全てが決まっていた氷撃、行動不能にできずともビル全体を凍らせたことでヴィラン側の行動を抑制した点は、素晴らしいの一言ですわ。愛乃さんの問いかけに感情的になり、相手を見失ったのは減点ですね」
「ま、またしても正解だよ…くぅ!」
第1戦と同様すべて言われてしまったオールマイトは悔しそうにグッドサインを八百万に送った。
そしてやがてすべてのチームの訓練が終了した。全5戦の結果はヒーロー側が不利に見える条件での訓練であったにも関わらず、ヒーロー側の全勝となった。純粋な強さだけで無く、索敵や戦略、連携がどれだけ大事であるかを理解させられる結果となった。
「お疲れさん!緑谷少年以外は大きな怪我も無し!しかし真剣に取り組んだ!初めての訓練にしちゃ皆、上出来だったぜ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば!皆は着替えて教室にお戻り~!」
オールマイトはそう言い残すと、ものすごい風圧と共に急ぐように走り去っていった。実際、オールマイトの活動時間は授業時間でギリギリであった。落ち込む爆豪を気にしながらも、オールマイトは緑谷の眠っている医務室へと急いだ。
そして放課後、クラスでは切島の提案によってヒーロー基礎学についての反省会を行われていた。しかし爆豪と轟は気にも留めず帰宅してしまった。ワイワイとしていたが内容は真面目に訓練について振り返っており、この雄英高校がヒーローを目指す最高峰の学校であることを思い知らされる。
「にしても、第1戦と第2戦は特にすごかったよなー!」
「俺、何が起こってんのかよくわかんなかったぜ…」
瀬呂の言葉に上鳴が続く。話題の中心はもっぱら第1戦と第2戦が掻っ攫っていた。緑谷と爆豪、轟と希結理の戦いはクラスメイトたちの心に少なからずインパクトを残したようだった。
「そういえばよ、結局愛乃の個性って何なんだ?やってることが多すぎて、戦ってるところ見ててもよく分からなかったし」
「そうですわね、私も気になりますわ。聞いてもよろしいかしら?」
そして一同の注目が希結理に集まった。クラスメイトの未だ全貌が見えない個性の詳細がみんな気になっている様子だった。
「ええ。あたしの個性は”黄金裔”。簡単に言えば、12の異なる権能を切り替えて自由に使う個性よ。今使えるのはその内の8つね」
「てことは、まだ俺たちが見てないのもあるってことか!」
「ケロッ。そんな個性、今まで聞いたこともないわ。珍しい個性なのね」
「でも二つ以上同時には使えないのよ。それに、切り替えるには台詞を言わないといけないから」
「あー、それであの台詞だったんだ!納得!」
そうして希結理の個性について盛り上がっていたところに、怪我をした緑谷が戻ってきた。負傷した腕は包帯やギプスで固定されており、怪我の大きさを物語っている。戻ってくるなりクラスメイトに褒められながら詰め寄られ、今までにない経験だからか動揺している。そこへ緑谷を心配していた麗日と希結理も駆け寄っていった。
「あれ、デクくん!怪我治してもらえなかったの!?」
「ああいや、これは僕の体力のアレで…」
「あたしが治しましょうか?少なくとも元の状態には戻せると思うけれど」
「ううん、愛乃さんに何度も直してもらうのも悪いし、これは僕が個性を制御できてない結果だから。頼りっぱなしなのもよくないと思うんだ。それよりも、かっちゃんは…?」
緑谷は希結理の治療を拒否しつつ、リカバリーガールの言葉を思い出していた。
『言っとくけど、愛乃に治してもらうのはダメだよ。友達に何度も治してもらってちゃ、変に癖になっちゃうかもしれないからね。とにかく明日も来ること、いいね?』
と、このように釘を刺され、緑谷自身もそう思っていたことから希結理の治療を受けることを避けていた。そして教室に爆豪がいなかったことから、麗日たちにその居場所を尋ねた。
「爆豪くん?みんな止めたんだけど、さっき黙って帰っちゃったよ……」
「っ!ごめん!僕行かなきゃ…」
「ふふっ♪伝えたいことがあるなら、急いだほうがいいわよ?」
「…!うんっ!」
希結理の言葉に緑谷は頷くと、廊下を走っていった。これを飯田が見ていたら間違いなく注意していたことだろう。そして緑谷が校門で爆豪に対して何か言っているところを教室の窓から芦戸、麗日、蛙吹、希結理の4人で眺めていた。
「何だったの?あれ」
「男の因縁ってやつです!」
「あら、面白そうね♪」
「緑谷ちゃんが一方的に言い訳してたように見えたけど」
「男の因縁です!」
希結理は緑谷と爆豪の関係に、また新たな予感を胸に抱いていた。その後もお互いの個性について話したり、自己紹介をし合ったりした。そんな時、希結理の脳内に声が響き渡った。『歳月』の権能による不定期の予言。その内容は──
──緑谷出久。汝はいずれ勝利と引き換えに、その力を失うだろう。
『歳月』…不定期に希結理に予言を授ける。任意で使用することは出来ず、対象も時期も不明。抽象的ながらも的を射ている内容のものが多い。第一話の『歳月』は、おまじない程度に希結理が台詞を放ったタイミングでたまたま『歳月』が発動した。