翌朝、希結理が登校するとマスコミの大群が校門前に群がっていた。どうやらオールマイトが教師になったという情報を聞きつけてなだれ込んできたようだ。インタビューの矛先は登校してきた生徒たちに向いており、希結理もその波から逃れることは出来なかった。
「オールマイトの授業はどんな感じですか?」
「うーん、そうね……“いい先生”だと思うわよ♪」
希結理はそう短く答えて雄英の敷地内に入っていく。希結理としては大人としての振る舞いや、逆に教師として初心なところも含めて、“いい先生”という回答だったのだが、当のマスコミはあまりその真意を理解していない様子だった。しかしさすがに敷地内までは追いかけて来ないようで、マスコミは登校してきた他の生徒に対してインタビューを継続していた。
「昨日の戦闘訓練、お疲れ。VTRと成績、見させてもらった。爆豪、お前もうガキみてぇなマネするな。緑谷は…個性の制御がいつまでも出来ないから仕方ないじゃ通させねえぞ。俺は同じ事言うのが嫌いだ。それさえ出来ればやれる事は多い。焦れよ緑谷」
朝のHRで相澤は戦闘訓練について爆豪と緑谷に注意を促す。といっても緑谷に対しては激励半分といったところだが。爆豪はそっけなく返事をし、緑谷は焦燥感に駆られながらも元気よく返事をした。
「HRの本題だ。急で悪いが今日は君らに……学級委員を決めてもらう」
(((学校っぽいの来たー!)))
それを聞くなり、みんなが一斉に挙手をして立候補し始めた。ヒーロー科では集団を導くというトップヒーローの素地を鍛えられる役であるため、普通科とは違って大人気の役職である。ちなみに希結理はやろうとは思っていない。自分よりも委員長にふさわしい者がいると思っているからだ。
“多”を率いるといえば、希結理にはケリュドラという例がいるが、「皇帝」と「委員長」では前提が違いすぎるため、参考にはならないだろう。
「静粛にしたまえ!"多"を牽引する責任重大な仕事だぞ。やりたい者がやれるモノではないだろう。周囲からの信頼あってこそ務まる聖務。民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!」
(((腕そびえたってるじゃねえか!)))
飯田が声を上げて皆を制止するが、勢いよく上がっている右腕のせいで説得力がない。しかしみんな自分に入れるに決まっているという意見に対して、だからこそ複数票を取った者こそが真にふさわしい人間だという反論には一理あり、時間内に決まるなら何でもいいという相澤の後押しもあって投票で決めることになった。
結果、緑谷が3票、八百万が2票でそれぞれ委員長、副委員長に決定した。0票だったのは麗日、轟、そして希結理の3人。他の皆は“飯田を含めて”1票づつ入っていた。
(僕に1票入っている…?一体誰が?)
自分ではなく緑谷に投票していた飯田はそんな疑問を内に抱えながらも、学級委員決めは終了した。
その後の昼休み、今日も希結理、緑谷、麗日、飯田の4人でランチラッシュのご飯を食べていた。委員長という仕事に対して不安を抱える緑谷を3人で元気づけている。
「うわぁ…いざ委員長やるとなると務まるか不安だよ」
「こういう時に大事なのは自信よ?」
「そうそう、デクくんなら大丈夫!」
「大丈夫さ。緑谷君のここぞという時の胆力や判断力は“多”をけん引するに値する。だから君に投票したのだ」
「そういえば、希結理ちゃんも0票だったよね?誰に入れたの?」
そして麗日は希結理に対して率直な疑問を投げかけた。実際緑谷と飯田も気になっているようで、ご飯を食べながらもその視線は希結理に向いていた。
「私は天哉くんに入れたわ。そういうことに向いてそうって思ったから。それに、さっきクラスを一旦まとめ上げていたのも天哉くんだしね」
「君だったのか!期待に応えられずすまない…!」
「いいのよ、投票の結果だし、気にしてないわ」
「でも、自分に投票しなかったんだね、飯田君。委員長やりたかったんじゃないの?眼鏡だし!」
そんな何気にザックリいく麗日を横目に飯田は持論を述べた。
「やりたいと相応しいか否かは別の話。僕は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」
「「僕!?」」
「いつもは俺って……」
飯田の一人称が“僕”になっていたことに緑谷と麗日が反応する。希結理も声には出していないが、少し驚いていた。
「ちょっと思ってたけど、飯田君って坊ちゃん?」
「そう言われるのが嫌で一人称を変えていたんだが…俺の家は代々ヒーロー一家なんだ。俺はその次男だよ」
「「ええ~!すご~!」」
「ターボヒーロー、インゲニウムは知っているかい?」
その言葉に、緑谷は興奮気味に答える。ヒーローの話題になった途端この有様なのはさすがヒーローオタクといったところだろうか。
「もちろんだよ!東京の事務所に65人もの
「それが俺の兄さ!」
「あからさま~!」
自身の兄を褒められたためか、飯田は胸を張ってメガネをクイッとあげる。普段真面目な飯田だが、この時の飯田は希結理たちからは本当に嬉しそうに見えた。
「規律を重んじ、人を導く愛すべきヒーロー!!俺はそんな兄に憧れ、ヒーローを志した。しかし、人を導く立場はまだ俺には早いのだと思う」
「兄弟でヒーロー!素敵じゃない♪」
緑谷にとってのオールマイト、希結理にとっての黄金裔たち。それが飯田にとってはインゲニウムなのだ。
「天哉くんにも、憧れる人がいるのね」
「“にも”?愛乃君にも、そういう人がいるのかい?」
希結理の言葉に、飯田が反応した。黄金裔たちについて語れる機会が来たのが嬉しいのか、希結理の頬は若干緩んでいる。
「ええ。正確には人たち、だけれど。気になる?」
「気になるっ!」
「僕も、愛乃さんみたいな人が憧れる人は少し気になるかな」
「少し長くなるかもしれないけれど、まずは──」
希結理が憧れについて語ろうとしたその時、それは起きた。
『セキュリティ
警報とともにそのアナウンスが聞こえた途端、食堂は大騒ぎになった。
「セキュリティ3て何ですか?」
「校舎内に誰か侵入してきたってことだよ!三年間でこんなの初めてだ!!君たちも早く!!」
飯田が近くにいた人にアナウンスの意味を確認すると、侵入者がいるということだった。希結理は先ほどまでとは一転して頬を膨らませる。
「もう、空気の読めない侵入者さんね……」
「そんなこと言ってる場合じゃない。ひとまず俺たちも避難しなければ!」
しかしパニック状態の生徒たちは廊下に人詰め状態となっており、その波に希結理たちも飲まれてしまう。
「流石最高峰、危機への対応が迅速だ……!」
「じ、迅速すぎてパニックに……!」
「ぐっ…一体何が侵入したというんだ…!……ん?」
人混みから離れ、窓の側まで来た飯田と希結理は校内へと近づいていく集団を見た。担任である相澤とプレゼントマイクが対応に追われている。
「あれって、今朝のマスコミかしら?」
「何かと思えばただのマスコミか!皆さん落ち着…痛っ!」
飯田は警報の原因がマスコミであることを伝えようとするが、パニック状態で耳に届いていない上、窓に押し付けられてしまう。
(みんな気付かずパニックに陥っている!緑谷君なら、兄なら、こういう時……!)
「麗日君!俺を浮かせろ!」
「…!う、うん!」
麗日を見て対応策を思いついた飯田は麗日の個性によって無重力状態となり、宙に浮かび上がる。その瞬間、浮かび上がった飯田の足元に束ねられた金色の糸が出現した。
「…!これは!」
「──『浪漫』が永遠に続きますように。踏み台が必要でしょ?天哉くん」
「ああ、感謝する!」
飯田は金糸を踏み台にして一気に加速、個性のエンジンでバランスと速度を確保しながら廊下の目立つ場所、「EXIT」の看板の上の壁に非常口マークのようなポーズで激突した。
「きゃっ!?」
しかし次の瞬間、希結理は背後の生徒たちに押され、転倒しそうになってしまう。『浪漫』の神権を行使したことにより視覚が機能しておらず、金糸も飯田の方へ総動員してしまった結果、周囲へ注意を配ることができなくなっていたのだ。もしこのまま転倒してしまえば、パニックの生徒たちによって大けがを負いかねない。だがその体が床に横たわることはなく、誰かの手が希結理の体を受け止めた。
「大丈夫!?愛乃さん!」
「出久くん!?え、ええ、大丈夫よ。ありがとう」
先程の光景を見ていた緑谷が間一髪で希結理の正面に何とか滑り込んだのだ。一方、パニックになっている皆の視線は、その大声で一点に集まった。
(短く、端的に。それでいて大胆に!)
「皆さん、大丈ー夫ッ!ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません、大丈ー夫ッ!!ここは雄英!!最高峰に相応しい行動をとりましょう!!」
それを聞いて皆落ち着いたのか、窓の外を確認すると一安心していた。飯田の起こした行動により、パニックを鎮静化させてみせた。
(やっぱり、委員長に向いてるじゃない。天哉くん)
そして、その後の委員会決めで緑谷は先ほどのパニックを納めた飯田を委員長に推薦。それをみていた切島と上鳴の言葉もあり、緑谷の代わりに飯田が学級委員長を務めることとなった。
金糸は飯田の足元にしか出現させていないので死柄木やカリキュラム横流しには気づいていません。