元社畜はバウンティハンターとして成り上がる 作:赤魚の煮つけ
西暦2275年〇月×日――05:00時出勤。
「「「おはようございます!!! 今日も一日がんばります!!!」」」
毎度おなじみの喉を酷使する時間。
表情筋が筋肉痛になるまで口角を上げて、狂ったように会社への忠誠を吐き続ける。
06:30――通常業務開始。
「はい!! その件ですが、此方で確認をしたところ」
「大変申し訳ございません!! すぐにお詫びの品を」
「タニムラ様ですね? はい、はい!!! すぐに、お車の手配を」
「申し訳ございません!!! はい、はい!! 私はクズです!! この世のゴミで」
電話は鳴りっぱなし、必要書類の書き込みをしながら。
片手間で面倒な事を言ってくるクライアントの対応をさせられる。
普通の企業であれば、コールセンターと事務方は分けてある筈が、此処では兼任だ……イカれてるね!
12:20――10分だけの昼休憩開始。
「「「いただきます!!!!」」」
全員が駆け足で食堂へと行けば、質素な飯が並べられていた。
水がコップ一杯とパンが一切れに、細長い黄色いブロック状の栄養食品。
全部がぱさぱさであり、酷使された喉が水を求める。
コップ一杯の水で何とか全てを胃の中に流し込み食器を戻して全員がダッシュで戻る。
一秒でも遅れれば上司からの教育的指導が待っているので皆必死だ。
15:00――上司からの気合注入タイム。
「オラァ!! 気合入れろやァ!!」
「ぶぅ!! あ、ありがとうございます!!!」
肉だるまからの強烈な平手打ち。
頬が真っ赤に晴れていて口内に血の味が広がる。
涙目になりながらも笑顔を維持し感謝を述べる……イカれてるね!!
20:00――通常業務終了。
「「「お疲れ様でしたぁぁ!!!! お疲れ様でしたぁぁ!!!!」」」
上司と会社に対して挨拶をする。
今日は残業は無しだが、忙しくなればほぼ毎日残業だ。
地獄の労働生活であり、趣味を楽しむ時間もあまりない。
俺は鞄を持って、早歩きで会社を後にする。
これが俺の日常であり、変わる事がない社畜としての物語である……はぁ。
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素晴らしい体験が終了し、ゆっくりとゴーグル型のデバイスを目から外した。
体が汗で濡れていて、時計を見れば既に22時になっていた。
カタカタというキーボードを叩く音が聞こえて視線を向ければ。
アロハシャツに金歯でグラサンのアフロヘアーの浅黒い肌の男――ペッパーが立っていた。
「ペッパー、今日のおすすめは良かったよ! 最高にエキサイティングだったね!」
「だろぉ? ありゃ中々の出来だからな。特に、銃のリコイルの感触がな? リアルなんだよ」
ブレインシェイカーであるペッパーと話す。
此処は彼の店であり、映像チップをメインで扱っている店だ。
ブレインシェイカーとは、平たくいえば脳を弄る人間たちの事で。
彼も脳に手術を施せるほどの腕はあるが、基本的には映像を見せるだけだった。
彼のおすすめの凶悪犯罪者ジャック・ザ・ジャックの逃走劇は良かった。
追って来る警官隊とのカーチェイスに銃撃戦。
全てがジャック本人となって実際に体験したかのようなリアルさで、今でも手汗が凄い。
彼の腕は本物であり、リアルさを追求しつつ引き込まれない絶妙な調整を施していた。
信頼できるBSであり、これからもちょくちょく利用させてもらおうと考える。
赤いランプが灯った派手な内装の店を去る瞬間が一番名残惜しい。
如何に短い時間の睡眠で疲れが取れても、全く寝ないでいる事は出来ない。
俺は帰りに金を送金し、そのまま帰ろうとし――彼に呼び止められた。
「これ、もってけ」
「え? チップ? なにこれ?」
投げ渡されたのは黒いチップ。
首に差し込んで中のデータをインストールする為のものだ。
これは何かと聞けば、ペッパーはぱちりと指を鳴らす。
「護身用の格闘術の学習チップだ。最近は物騒だからな、気休め程度にはなるだろうよ」
「……もしかして、俺の事を心配して?」
「はは、そりゃそうさ。常連に死なれちゃ売り上げが下がっちまうからな?」
「はっ、そりゃそうだ! ま、ありがとう。帰ったら使ってみるよ!」
「おぅそうしろ。んじゃ――幸運を、レンジ」
「……?」
少し引っかかりを覚えたセリフ。
どういう意味かと聞こうかと思ったが、ペッパーはもう此方を見ていなかった……まぁいいか。
鞄とスーツの上着を持って店を後にする。
店の外に出れば、下品なネオンの光に満ちた都市――“ルクス・エンデ”が広がっていた。
光の園であり、希望に満ちた世界か。
詐欺もいいところだと思いつつ、貰ったチップをポケットに仕舞う。
もうすぐ、一日が終わり、明日が始まる。
此処には希望なんて無い。
地獄であり、救いは死しかないんじゃないかと俺はひそかに思っていた。
家へと帰り、シャワーを浴びた。
六畳一間の安いアパートの一室で、年十年も前の古い映画のポスターくらしか個性を感じない。
チンという音を聞き、レンジから低品質の即席麺の入ったカップを出す。
蓋を開ければ、何ともいえな微妙な匂いが広がる。
フォークでくるくると麺を巻いて咀嚼。
ゴムのようで、味付けは死ぬほど薄い醤油味。
まずくはないが美味くもない。
ただ滅茶苦茶安くて日持ちする事くらいしか買う理由はない。
簡素な食事を手早く済ませる。
そうして、しっかりと歯を磨いて俺は寝間着に着替える。
時計を見れば、もう既に24時であり、諸々の準備や通勤を考えれば三時間程度しか睡眠はとれない。
が、もう慣れたからこそ特に苦には感じない。
「はぁ、嬉しくない成長だな」
ため息を零す。
そうして、寝る前に机の上に置いたチップを手に取って指で転がした。
「……ペッパーがくれたものなら心配ないと思うけど……まぁ寝てる間に学習は出来るかな?」
怪しければ調べたりするが。
そんな時間も惜しいので、早々に首にチップを差し込む。
そうして、電気を消して網膜に投影されるインストールのパーセンテージを見つめる。
ゆっくりとインストールは進んでいるが、ベッドに横になれば自然と睡魔が襲ってきて――……
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……――苦しい。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
苦しい……熱い。
体が燃えるように熱い。
頭が沸騰していて、呼吸すらも苦しい。
毛布を弾き飛ばし、寝間着すらも乱暴に脱ぎ捨てる。
そうして、近くに置いていたボトルとコップを取ろうとし――ベッドから転げ落ちる。
「う、あ、あぁ、し、ぬの、か?」
死が迫っている気がした。
呆気ない最期であり、未練は……ないな。
思い残す事も、心残りも何も無い…………いや、一つあった。
「は、はは……俺も、伝説の存在みたいに、かっこいい、男、に……」
ルクス・エンデの伝説の存在たち。
その中でも誰もが知る存在。
最強のバウンティハンターであった男――“ブラッド・ウルフ”のようになりたかった。
そんな少年のような夢を吐き捨てて、俺はそのまま、意識、を――……
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「……ぅ、ぁ、れ?」
意識が覚醒する。
目を開ければ見慣れた天井だった……生きてる?
体を起き上がらせる。
すると、羽のように体が軽く感じた。
はだけた体を見て――変な声が出た。
「え!? ななななにこれ!? 腹筋!? 板チョコみたいになってる!? へ!?」
バッキバキに腹筋が割れていた。
いや、腹筋だけじゃない。
腕の筋肉も足回りも、全てが鋼のように鍛えられていた。
少しぽっちゃりしていた体だったのに、何が起きたのか……まさか。
俺は慌てて洗面所の方へ走る。
そうして、鏡の中の自分を見て――感嘆の息が漏れた。
「おぉ」
イケメンだ。
凄まじいイケメンであり、少し髭が生えているがそれがいい。
漢らしい顔つきであり、鋭い目が野性的だ。
白髪交じりだた少しはげかけていた髪もふさふさで。
軽くワックスをつけてから後ろに流して見れば……似合ってる。
本当に自分の顔なのか。
奇跡のように思いながら色々な角度で自分の顔を確認し――ハッとする。
「い、今何時だ!?」
慌てて時計を確認しに戻る。
すると、時刻は08:00をさしていて……お、終わった。
ガチガチと歯を鳴らしながら首に指を添えて着信履歴を確認する。
すると、一時間前まで鬼のように上司から連絡が来ていた。
俺は絶対に教育的指導をされると思いながら、それでも連絡をすべきだと上司に掛ける。
首に指をあてながら暫く待つ。
ワンコール、ツーコール、スリーコール……あ、あれ?
《おかけになった電話をお呼びしましたがお出になりません》
「……珍しいな。もし遅刻してかけたら秒で出て怒鳴られるのに」
変だと思いながらも、胸騒ぎがしてテレビをつける。
すると、丁度ニュースが流れていて……何故か、会社のビルが映っていた。
《――繰り返します! 先ほど、オオカワ商社のビルがテロリストより爆破されました! 現在判明している情報では、従業員の避難は確認されていません。恐らく、生存の可能性は絶望的でしょう! テロリストは政府に不満を持つ――》
「……会社が、爆破? え、じゃ、俺の仕事は…………無職?」
朝起きて別人のような変貌を遂げた。
そして、テレビのニュースで会社が爆破された事を知った。
物理的な倒産であり、確実に職を失った状態だ。
俺はどうすべきかを考えて……取り敢えず、ご飯でも食べに行くか!
俺は気持ちを切り替える。
そうして、久々の休日気分を満喫する為の準備を始めた。
カフェでお茶をし、好きな映画を見た。
そして、現在は銀行に来ていた。
給料をチャージする為であり、ちょうど今月の分が振り込まれている筈だった。
爆破される前が振込日で良かったと思いながら額を確認し……嬉しくなった。
「……仕事で今まで金を使う機会は限られてたからなぁ。かなり溜まってるし、暫くは好きなように暮らそうかなぁ」
心の休養期間であり、存分に楽しもうと――入口の扉が蹴り破られる。
瞬間、警備用のロボットたちが弾丸によって破壊された。
バラバラと残骸が飛び散り、俺は彼らの前で目を点にして固まる。
「金塊を頂きに来たぜぇ!!! 全員、裸になってその場で伏せろや!!」
「逆らう奴らは皆殺しだ!!! ひゃっはー!!」
「オラオラ!! さっさと下着も含めて脱ぎやがれ!! 女も子供も関係ねぇからな!!」
「……へ?」
明らかにアウトローの装いをした厳つい顔の男たち。
手には厳つい銃器を持っていた。
中にはサイボーグもいて、腕から鋭利な刃物を出していた。
完全に目がイっていて、話が通じない相手だと分かる。
俺は突然訪れた非日常に心臓をバクバクと鼓動させた。
「おい!! てめぇ俺たちの言葉を聞いてねぇのか!!! とっとと全裸になって――」
「へ、へ、へ、へ、へ」
呼吸が苦しい。
心臓が激しく鼓動する。
相手が叫んでいるが全く聞き取れない。
殺意を感じて、相手がゆっくりと散弾銃を向けるのをただジッと見つめて――体が勝手に動く。
「――ぁ」
「「「……!?」」」
乾いた銃声が鳴り響く。
が、銃弾は俺の体に触れる事は無かった。
俺は一瞬で敵との間合いを詰めた。
そうして、相手の巨漢の腕を掴んで――ごきりと関節を外す。
「あが!?」
「このや」
「――ぇ」
異変を察知した別の敵が銃口を向けようとした。
が、明らかに動きがスローに見えていた。
何だこれと思っていれば、俺は関節を外した敵のホルスターからリボルバーを奪い。
そのまま流れるように、二人の敵の眉間を――撃ち抜いた。
一瞬だ。
瞬きするほどもない時間。
そんな時間で初めて人間を殺した。
自分がやったなんて思っていない。
戸惑っているが、体が勝手に動き――背後から迫った敵の斬撃を躱す。
「い!?」
そのまま、敵の鳩尾に肘打ちをし。
吐しゃ物を吐き出しながら白目を剥いた敵を放置。
瞬間、体は前に飛び、腕を外した敵の攻撃を回避していた。
そうして、そのまま視線を向ける事無く銃弾を二発撃ち――何かが倒れる音を聞いた。
「…………ぇ」
見れば、あの巨漢のこめかみを精確に撃ち抜き。
心臓すらも精確に撃ち抜いていた。
神業であり、四人もいた敵をほんの数秒足らずで――殲滅した。
俺が目を白黒させていればサイレンの音が聞こえて来た。
銀行の前で停まり、警官たちがなだれ込んできた。
「銃を捨てて!! 両手を頭の後ろに回せ!!」
「え、え、え、え……え?」
「3!! 2!!」
「ああああはいぃぃ!!!」
俺は慌てて銃を床に置く。
そうして、両手を頭の後ろに回せば屈強な警官たちが俺を床に押さえつけて来た。
「ぐ、ぐるじぃぃ」
「……どういう事だ? 仲間割れか?」
「あ、あの! その方は襲撃者を撃退してくれた方です!」
「……本当か?」
「は、はい! それはもう鮮やかな動きで! 恐らく、バウンティハンターの方じゃないかと? か、監視カメラの映像もあります!」
「……署で話を聞かせて貰う。嫌とは言わさんぞ?」
「へ、へへ、な、何で、こんな、目に?」
俺は涙を流す。
人を殺した事は初めての経験だった。
銃なんて使った事もなければ持った事も無い。
格闘経験なんてまるでない自分がどうやってあんな…………あれ?
「……もしかして……ペッパー?」
「早く立て!! 行くぞ!!」
無理矢理に立ち上がらされて連れていかれる。
俺は心当たりがペッパーしかない事に気づいた。
まさか、そんな筈はないと思いたいところだが……。
『おぅそうしろ。んじゃ――幸運を、レンジ』
「ぺ、ペッパー、嘘、だよな?」
少なからず信頼していた。
だからこそ、調べもせずにチップを使った。
俺はこれからどうなるのか。
不安と恐怖で胸を一杯にしながら、俺はペッパーを殴りたい衝動にかられていた。