マスター?いいえデビルサマナーです 作:こちらメギドラオンでございます
「なんと! お主、マスターではなかったのか!」
コンテナ街から場所を移し、少し離れた公園にてイスカンダルの大声が響き渡る。
あの後、『聖杯』という聞き捨てならない単語を知った俺は、イスカンダルたちに情報交換を申し込み、報酬として「あの場に集まったサーヴァントたちの真名」を教えると言ったら、すんなりOKしてくれた。
まあ、内容が内容だけにだいぶ驚いてはいたが。
「まさかあの金ピカがバビロニアの英雄王だったとはなぁ! あの偉そうな態度にも納得だわい! 他にもアーサー王に、フィアナ騎士団のディルムッド……余も含め、揃いも揃って豪傑ばかり! 此度の聖杯戦争は実に面白そうだなぁ坊主!」
「いや、それよりも驚く事が山ほどあるだろ!? どうしてマスターでもないのにクー・フーリンとかいう超大物サーヴァントが召喚出来るんだよ! どうして他の英霊の真名を全部把握出来てるんだよ! なんでそんなに詳しいのに、肝心の聖杯戦争については丸っきり素人なんだよ、お前本当に何者なんだ!?」
「まあ、落ち着けよ。アムリタでも飲むか? ソーダ味の方だけど」
「気軽に不死の霊薬を勧めるなぁ! お前、時計塔の魔術師に知られたら消されるぞ!?」
ウェイバーはぜぇぜぇと肩で息をしている。
『うちの仲魔はジュース代わりに飲んでますよ』って伝えたらどんな反応をするだろう……。
興味はあるが、話が進まなくなりそうなので今は黙っておこう。
「というか、俺の方だって驚きだわ。ウェイバーはデビルサマナーじゃなかったんだな。……イスカンダルも本当に悪魔じゃないのか?」
「ワハハハ! 征服王やゼウスの息子と様々な異名で呼ばれた余も、悪魔と勘違いされたのは初めてだわい! 面白い奴だのぉお前さん!」
いや、冗談じゃないんだが……。
そう言い返す間もなく、豪快に笑うイスカンダルに背中をバシバシと叩かれた。
力強っ。背中が弾け飛ぶかと思ったぞ。
前世からの癖で、COMPを扱うサマナーとして『体』の能力値を高めに振っておいて本当によかった。
貧弱ステータスだったら、今の物理攻撃で気絶していたところだ。
「……でも、未だに信じられないな。その聖杯戦争も、聖杯ってアイテムも。どんな願いも叶うとか、いくらなんでも胡散臭過ぎるだろ」
サーヴァント達の真名を教えた見返りとして、俺は聖杯やそれを巡る聖杯戦争について尋ねたのだが、返ってきた内容は予想を遥かに上回るものだった。
七人のマスターと七騎のサーヴァントによる殺し合いのサバイバル。
どんな願いも叶う万能の願望機『聖杯』。
勝者はその聖杯で、どんな願いでも叶えることができるとか──。
……どんな願いも叶う、ねぇ。
メガテン世界でそういう甘い言葉を囁くアイテムや存在って、大抵はロクな結末にならないんだが……。
万能の願望機という響きに、俺は強烈な胡散臭さを感じ取っていた。
絶対、碌でもないものが宿ってるだろその願望機。
メガテン世界で『聖杯』なんてヤバい匂いしかしない。
まさか手にした瞬間、天使達が大挙して押し寄せて来るわけじゃないよな?
旧シリーズに登場したアンリ・マンユみたいな大物悪魔が出てくる可能性だってある。
どっちにせよ、胡散臭え〜〜〜。
「……あ、そうか。願いが叶うって事は…………イスカンダルやウェイバーにも、何か叶えたい願いはあるのか?」
そうでなければ、こんな怪しい儀式には参加しないだろう。
俺は世間話のような軽い気持ちでそう聞いてみた。
別に答えを求めていた訳ではないが、イスカンダルが口を開く。
「余の願いか? ウム…………」
先程までの豪快な態度とは一変。何処か恥ずかしそうにしながら、ポツリと呟く。
「……………………受肉したいのだ」
「受肉? 体が欲しいのか?」
「左様。余はこんな仮初の霊体ではなく、一人の人間としてこの大地に立ってみたい。そして、この世界を己が足で歩み出したいのだ!」
「ちょ、ちょっと待て! お前、そんな願いの為に聖杯戦争に参加あいだぁっ!?」
「そんな願いとはなんだそんな願いとは。全く失礼な奴め」
うわ痛そう。
イスカンダルに思いっきりデコピンされ、ウェイバーは涙目で額を押さえている。
流石に手加減したとは思うが、それでもかなり痛そうだ。
大丈夫? 宝玉いる?
「まあ、余の話はこれくらいでいいだろう! 坊主、お前さんも自分の願いを口にしたらどうだ? 余に話したみたいにな!」
「ぜ、絶対に嫌だ!」
イスカンダルの言葉に、ウェイバーが全力で拒否を示す。
ニヤニヤしているイスカンダルの顔からして、裏で相当やり取りがあったな。
「そ、そんな事よりだ! 僕達は約束通り、聖杯戦争について知ってる事は全て話した! 次はお前の事について教えろよ!」
「俺の事について?」
「そうだよ! マスターでもないのにサーヴァントがいる事といい、はっきり言ってお前はこの戦争最大のイレギュラーだ! 全て話してもらうからな!」
「確かに余も気になっておったなぁ。お主が召喚したクー・フーリンといい、興味が尽きん! 無理にとは言わんが、一つ教えてはくれぬか?」
ウェイバーは俺への警戒、イスカンダルは好奇心からそれぞれ尋ねてくる。
俺が何者かだって? ただのデビルサマナーですが何か?
そこまでして知る程の情報じゃないと思うが…………。
まあ、いいか。
知りたい事は全部知れたし、情報の見返りが真名だけというのも気が引けていたところだ。ここは自己紹介をするとしよう。
「まずは名前から言おうか。俺の名前は
「タダノヒトナリ? 変わった名前だな……」
うるさいやい。
偶然にもメガテンシリーズの主人公とおそろいの名前なんだぞ。
カッコいいだろうが。
っていうか、ウェイバー・ベルベットって名前も相当珍しいと思うぞ。
いや、外国人の名前の相場なんて知らないけど。
「タダノヒトナリ、か。良き名前だな! ヒトナリよ!」
「あざぁーっす! 流石は王様、見る目が違うね。お前も見習えお前も」
「う、うるさいな! 言っとくけど、僕のほうが年上なんだからな! ちゃんと敬意を払えよ!」
え、ウェイバー君って俺より年上なの?
完全に年下だと思ってた……。
「………………おい、なんだその目は」
「いや別に………………人は見かけによらないんだなぁって」
「嘘つけ! 今、僕のこと童顔だと思っただろ!」
「オモッテナイヨ(棒読み)」
「なんでカタコト!? クッソぉぉぉぉぉ! 時計塔の連中といい、どいつもこいつも僕の顔をイジりやがって! 今に見返してやるから覚悟しておけ! と言うかさっさと本題を話せ! いつまで名前の話を続けてるんだ!」
そういえばそうだった。
と言っても、話すことなんて大してないんだが。
「よし、こうしよう。聞きたい事を一つ質問してくれ。それに一つずつ答えていくから。そのほうが手っ取り早いだろ」
「……まあ、余計な話をされるよりはマシか。それじゃあ最初の質問だが、どうやってサーヴァントを召喚してるんだ?」
「え、そりゃ『悪魔召喚プログラム』に決まってるだろ」
「へ?」
「え?」
お互いに顔を見合わせる。
ごめん、今なんて?
「あ、悪魔召喚プログラム……?」
「……もしかして知らないのか? ウェイバーもイスカンダルを召喚してるから、てっきりプログラムを使ってるのかと……。あ、もしかして封魔管スタイル?」
だとしたら、ちょっと封魔管を使う所を見てみたい。
葛葉ライドウシリーズはメガテンの中でもかなり好きだったんだよな。本物の封魔管が見れるならめちゃくちゃ嬉しいんだが。
しかし、ウェイバーの答えは俺の予想外のものだった。
「ま、待て待て待て! 悪魔召喚プログラムってなんだ!? お前、何を使ってサーヴァントを召喚したんだ!? 僕はそんなプログラム、聞いたこともないぞ!」
「えぇ!? 嘘つけ! じゃあどうやってイスカンダルを召喚したんだ!? サマナーじゃなくたって、召喚にはプログラムを使うのが常識だろうが!」
「お前の常識が間違ってるんだよ! そんな常識があってたまるかぁ!!」
ま、マジかよ…………悪魔召喚プログラムの存在を知らないとか───。
きっと、何らかの事件に巻き込まれて仲魔を得たタイプだな……。
『デビルサバイバー』の初期メンバーみたいな感じか。
よし、ここは先輩サマナーとしてしっかり導いてやらねば(使命感)。
「いいかウェイバー。俺たちデビルサマナーはこのCOMPを使って悪魔を召喚する。COMPとは悪魔召喚プログラムがインストールされた電子端末で、ボタン一つで簡単に悪魔が召喚できるようになる。召喚に特別な才能は必要なく、その気になれば誰だって悪魔や天使を喚び出せるんだ。ここまではいいか?」
「何も良くないんですけど!?」
なんと、それは少し予想外。
だが、俺は優しいデビルサマナー。分かるようになるまで教えてやろうじゃないか。
まずは基本となる悪魔狩りのやり方からだな。
「いいかウェイバー! まずは適当な雑魚悪魔をブッ殺してレベルを上げろ! そしたら中には命乞いしてくる奴がいるから、そういう奴は徹底的に脅すか痛めつけるかしてアイテムをカツアゲし——」
「待て待て待て、本当に待て! お前が何を言ってるのかサッパリ分からないんだが!? 最初から全部、分かるように説明しろぉ!」
ええ……………(困惑)。
しかし、ウェイバーの必死な顔に押し切られ、渋々最初から説明を始める。
すると最初は困惑顔だったウェイバーも、説明を聞くうちに顔を真っ青にし、最後の方はショックで倒れそうなくらいの驚愕の表情を浮かべていた。
「き、機械の力で魔術を再現しているだって……!?」
「ふむ。それはそんなに驚くような事なのか坊主?」
「驚くに決まってるだろ!? 魔術回路どころか、魔力すら無しに召喚術が使えるんだぞ!? それもクー・フーリンなんてサーヴァント級の存在を容易くだ! こんなの、魔術世界そのものが崩壊してしまいかねない代物だぞ!」
ウェイバーは顔面蒼白で冷や汗をダラダラ流しながら頭を抱えている。
その様子はまるで、明日地球に隕石が降ってくるのを知った人間みたいだ。
「こんなプログラムが時計塔に知られたら、間違いなくとんでもない事になる……いや、それを知った僕まで消されるかも……!」
「おい坊主、大丈夫か?」
「うるさぁい! これが大丈夫に見えるかぁ! あぁぁぁぁ、聞かなければ良かったこんなプログラム! いいかヒトナリ! 絶対に、他の連中にこれの存在を知られるなよ! 魔術師には特にな! いいな!?」
「あ、ああ……分かった」
とんでもない剣幕で詰め寄るウェイバーに、思わず圧倒されてしまう。
まあ、ウェイバーの言う通り、悪魔召喚プログラムの存在は秘匿したほうが良い。ゲームでもプログラムが拡散した結果、野放しになった悪魔が世界を荒らしたり、邪悪なサマナーが悪事を働いたりと、ロクなことにならなかったからな。
ウェイバーに言われなくても普段から秘匿は心掛けてるし、改めて気を引き締め直すとしよう。
ウェイバーに話したのは、相手もサマナーの一種だと思っていたからノーカンということで……。
最悪、いざとなれば精神系スキルを持つ悪魔で記憶を操作すればいいしな……。
そんな外道な思考を巡らせていると、イスカンダルが豪快に肩を叩いてきた。
「まあ、細かい事は余にはよく分からぬ! だがヒトナリよ、お前さんが相当な実力者という事は理解出来た! そこで改めて提案だ。余の旗下に加わり、共に聖杯を手にする栄光を掴むつもりはないか!」
「ばっ……! お前、まだ勧誘を諦めてなかったのか!? こいつは絶対止めとけって! 僕はもう胃が痛い予感しかしないぞ!」
イスカンダルとウェイバーの喧嘩を尻目に、俺は思考を巡らせる。
要するに同盟か。戦力が増えるし、敵が減るのは非常にありがたい。戦略的にも組むメリットは非常に高いだろう。
だが、それはあくまで俺が聖杯戦争に参加した場合だ。
このまま身を隠し、戦いが終わるまで静観するのが一番賢い選択なのだろうが……。
「─────うん、決めた。同盟という形ならその申し込みを受けるよ。俺もこの戦争に参加する」
「本当か!」
「ほ、本気で言ってるのかお前!? マスターでもないのに、どうして!?」
ウェイバーの正気を疑うような眼差しに、俺はしっかりと視線を合わせる。
聖杯なんてヤバい匂いしかしない代物を放置するほうが遥かにリスクが高いし、他のマスターが手に入れた場合、どんな破滅的な願いを叶えるかも分からないからな。
それに——
「ここは、俺の生まれ育った街なんだ。マスターだろうがサーヴァントだろうが、そんな連中に好き勝手させてたまるかよ」
結局のところ、終末フラグ云々以前に、俺はこの冬木という街が好きなのである。
転生して十六年。愛着が湧くには十分な時間である。
それを壊そうとする連中には容赦しない。
誰だろうとこの手でブッ飛ばしてやる。
こうして、俺は聖杯戦争への参戦を決意した。
同盟が結ばれたことを喜んだイスカンダルが、豪快な笑みを浮かべる。
「喜べウェイバー! 我らは強力な味方を手に入れたぞ!」
「ああ……不安だ……! 胃が痛い……!」
「改めて名乗ろう、余の名はイスカンダル! マケドニアの征服王にして、此度の聖杯戦争ではライダーのクラスとして現界した! 今後ともよろしく頼むぞヒトナリよ!」
「……オレサマ オマエ マルカジリ」
「なんだその挨拶!?」
「ハッハッハ!本当に面白い奴だ!」
やっべ、ついメガテン式の挨拶が出ちゃった。