王都エクバターナは、復興の活気に満ちていた。
ルシタニア軍を撃退し、ルクナバードを佩刀とした新たな国王アルスラーンのもと、パルスは戦禍の傷をいやしはじめていた。
それは目に見えるものだけではない。
政治、軍事、経済。
奴隷解放をはじめとして、さまざまな分野でさまざまな改革がすすめられていた。
新たな時代に新たな居場所を手に入れようと、希望に満ちた者が、そして野心にあふれた者が今日もエクバターナの門をくぐる。
そのなかに、左右でつながった太い眉毛が印象的な角刈りの男がいた……。
国王アルスラーンによって統制官に任じられたジムサは、エクバターナに邸宅をあたえられていた。
王都近郊での演習にてトゥラーン流騎馬戦術を指導した帰宅の途でのことである。
エクバターナの門をくぐってしばらくした頃。
「………!」
突如として、ジムサは馬の足をとめた。周囲を見回し、耳をすました。
町の喧騒の中で、ある音色が響いている。馬頭琴だ。ジムサの故国であるトゥラーンの楽器である。ましてや、この調べは……。
「この馬頭琴を奏でている者を探し、おれの邸宅までつれてまいれ」
ジムサは従者に、そう命じるのだった。
石造りの家屋になじめぬジムサは、庭に天幕を張り、そこで邸宅での時間のほとんどを過ごしている。
「いやあ、高名なるジムサ将軍のお邸に招かれるとは、光栄の至りですな。なんでも、ワシの演奏がお気に召されたそうで……」
その天幕に、陽気な声で流暢なトゥラーン語を話しながら、馬頭琴をたずさえた角刈りの男が入ってきた。左右でつながった太い眉毛にいかつい顔の輪郭と、凶暴さすら感じさせる顔立ちだが、そこに底抜けに明るい笑顔が浮かべられると、なんとも憎めぬ愛嬌が醸成される。
「リョーツーンと申します。今後ともよしなに」
角刈りの男は愛想よく名乗った。
「こちらはお近づきのしるしでございます」
うやうやしくリョーツーンが差し出した革袋には馬乳酒が満たされていた。
リョーツーン自身が毒見役をみずから買って出たあと、ジムサは杯に注がれた馬乳酒を口に含んだ。吟味し、飲み下す。
「……はじめてくれ」
ジムサにうながされ、リョーツーンは馬頭琴を奏ではじめた。
素朴だが心に染み入るような調べがあたりを満たした……。
「……で、なにをたくらんでいるのだ?」
数曲の演奏のあと、ジムサはずけりといった。
「…………」
リョーツーンは笑顔で無言をまもった。
「その調べ。この馬乳酒。いずれも、おれの生まれ育った一族のものだ。言え。どうやって、これらを手にした」
「この調べはジムサ将軍の姉君に教わりました。その馬乳酒はジムサ将軍の兄君にいただきました。……まずは、こちらをご一読いただきたく」
リョーツーンは懐から、蝋で封をされた手紙をとりだした。
「……まさか、ここまで窮乏しているとは……」
リョーツーンから渡された手紙は、間違いなくジムサの兄からのものだった。
手紙は切々と訴えていた。
トゥラーン王家は国王トクミシュと親王イルテリシュをうしない、瓦解したこと。
トゥラーンの民衆は放牧のみにたよるしかなく、困窮していること。
そして、パルスにて身を立てたジムサに一縷の望みをかけてたすけをもとめていた。
「待っていてくれ。出来る限りの金子を用立てる。それを持って兄上のもとに……」
「お待ちください。どこのだれともわからぬ者に金子を預けて、持ち逃げされたらなんとします」
「…………どうやら、ペテン師のたぐいではないようだな、リョーツーン?」
ようやく、ジムサの眼光が底からやわらいだ。
「わかっていただけたようで、なによりです」
やっべー。ここで『責任をもって兄君にお届けいたします』なんていってたら、頭と胴体が泣き別れになってたな。そんな内心をおくびにもださず、リョーツーンはかしこまって返事をした。
「で、なにがのぞみだ」
「トゥラーンの窮乏をすくうため、アルスラーン陛下にお取次ぎ願いたく」
ぎらり、と。
一瞬だけ、リョーツーンの小さな瞳が野心に輝いた。
今度はアルスラーン戦記に両さんをぶち込んでみました。
「こちら銀河英雄伝説」はラスト四行にむけて突っ走った作品ですが、今作はまったくのノープランです。更新頻度がどうなるかはわたしにもわかりません。続きは気長に待っていていただきたいです。
ただ、内容があらすじ通りなのだけは確かです。
楽しんでもらえたらうれしいです。
あと、カクヨムでも「亀頭十三」名義で作品を投稿しています。そちらではコミカルなオリジナル冒険譚を投稿していくつもりです。気が向いたらのぞいてみていただけると嬉しいです。