「エクバターナを捜索した結果、魔道士どもの根城とおぼしき家屋を四軒発見してございます」
王都に凱旋した若き国王に大将軍キシュワードはかしこまって報告した。
この報告は、裏を返せば魔道士本人の捕縛はできなかった、ということなのだが、それを責め立てるようなアルスラーンではない。
「そうか、よくやってくれた。引き続き、捜査と調査を頼むぞ」
微笑みを浮かべての勅命に、キシュワードとザラーヴァントは深々と頭を下げた。
そこに、ナルサスが進言してきた。
「ところで、地下神殿を見つけ出したそもそもの発端となった件ですが……。リョーツーン、おぬしがカリヤーンの石切り場に砦をつくろうと考えたらしいな」
同席していたリョーツーンに向き直る。
「ええ、あそこに砦があったら、いろいろと便利になりそうだなって。いや、本当、あさはかな思いつきで……」
「そう卑下するものでもあるまい」
「えっ」
「あそこに砦があれば、確かにエクバターナを攻めるのはやりづらくなる。城の堅固さを決めるのは、城壁の高さ、壕の深さだけではない、ということだな」
「ですが、蛇王神殿の出入口がありますよ、あそこ」
「なればこそだ。どのみち監視の兵を置かねばならぬのだからな」
「はあ、そういう考え方もありますか」
「わたしとしては、地下の祭壇に乗せられていたという白い棺が気になるな」
そこへ、ファランギースがそんなことを言い出してきた。
「棺の中にはいかつい大男の死体がはいっていたのだったな……。まさか、こんな顔ではあるまいな」
ナルサスは紙に筆をはしらせて、リョーツーンに見せた。
「いや、この似顔絵とは似ても似つかぬ男でござった。ワシが見たのは、こんな感じの……」
リョーツーンも紙に筆をはしらせる。
すると。
「アンドラゴラス三世ではないか!」
複数の口から同じ叫びが飛び出した。
「当たって欲しくない予想が当たってしまったらしいな……」
苦虫をかみつぶしたような顔で、ナルサスはつぶやいた。
やはり、リョーツーンに宮廷画家を代わってもらったらどうだ?
そんなことを言いたげな親友の視線を無視しながら。
暗黒神殿の二つの出入口は封鎖されたままだが、どうやら、このままにはして置けぬようである。
「早急に地下神殿に乗り込むべきでごさろう。陛下、どうか、このダリューンめにお命じ下され」
「待て待て、おぬしはシンドゥラでさんざんに暴れてきたばかりであろう。ここは、このキシュワードに任せてもらうぞ」
「あんなのは暴れたうちに入りませぬ」
「お待ちあれ、お二人とも。ここはまず、小手調べからはじめるべきかと。なれば、このザラーヴァントめが露払いを……」
「おぬし、露払いで済ませる気など、さらさらないであろうが」
「いや、まあ、事と次第によっては拙者だけで片づけてしまうこともあるかもしれませんが……」
やれやれ。そんなにあの穴倉に入りたいものかね。
リョーツーンはこっそりとため息をついたが、この男とて、石切り場の穴をみつけるなり洞窟短剣と洒落込んだのである。人のことを言えたものではない。
結局、キシュワードとザラーヴァントが二千人の兵を率いて暗黒神殿の探索をすることになった。さらに、ダリューンとジムサが三千人の兵とともにカリヤーンの石切り場で待機する。
大げさなようにも見えるが、蛇王ザッハークの眷属が相手である。用心のしすぎということはあるまい。
案内役に任じられたのはリョーツーンであった。
「しまったな。あの地下神殿に入ったのはワシだけなんだから、こうなるのは予想できたはずなのに。すっかり油断してたぜ」
他人事と決め込んでいた角刈りの郵政官は、小声でぼやくのだった。