The Amazing Spider-Man 5: Legacy of Oscorp   作:たきび/まもる

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エピローグ

朝になっても、オズコープタワー周辺の封鎖は解除されなかった。

夜のうちにマンハッタン各地へ散っていた戦闘は終息していたが、タワーの周囲にはNYPDの車両だけでなく、消防、救急、連邦当局の車両まで集まり始めている。正面玄関からは避難を終えた社員が一人ずつ事情聴取へ回され、地下施設から回収された記録媒体や研究資料は、警察の監視下で次々と運び出されていた。

地下にスペシャルプロジェクトと呼ばれる秘密研究施設が存在していたことは、もはや隠しようがなかった。

そこに残されていたのは、単なる未公開の新技術ではない。

人体実験の記録があった。被験者に薬物を投与し、神経や認知へ干渉した研究があり、その過程で死亡者や重篤な後遺症を負った者が出ていることも記録されていた。そこから派生した技術は、遺伝子治療、神経インターフェース、身体機能補助、兵器開発へと枝分かれしながら、長い年月をかけてオズコープ内部へ蓄積されていた。

リーが破壊したことで失われた記録も多い。

それでも、すべてを消し去ることはできなかった。

地上のサーバーに残っていた管理記録、社員が使用していた端末、別区画に保管されていた資料、そして地下から回収された破損していない記録媒体。それらを照合していけば、オズコープが何をしていたのかを追うことはできる。

その日の朝には、すでにニュース各局がオズコープタワーを取り囲んでいた。

何十年にもわたってニューヨークを代表する企業の一つだった名前が、今度は巨大な不祥事の中心として画面に映し出されている。

経営陣への捜査。

研究部門への家宅捜索。

過去の事故や死亡事例の再調査。

株式市場が開く前から取引停止が発表され、オズコープと契約を結んでいた企業や研究機関も次々と関係の見直しを表明していた。

ノーマン・オズボーンが築いたものは、一晩で消えたわけではない。

だが。崩れ始めていた。

 


 

エイドリアン・トゥームズは、再び警察の管理下へ置かれた。

新型ウイングは原形を留めていなかった。オットーによって飛行機能を破壊されたうえ、墜落時の衝撃で機体各部も損傷している。警察は残骸をすべて押収し、トゥームズ本人は治療を受けたあと、そのまま厳重な警備下へ移送された。

担架に固定されながらも、トゥームズは妙に落ち着いていた。

近くを通った警官が、押収された翼の残骸を見ていることに気づく。

「気をつけた方がいい。」

警官が振り返る。

トゥームズは壊れた翼を顎で示した。

「それ、見た目よりずっと重いから。」

警官は何も答えなかった。

トゥームズは小さく笑い、そのまま救急車の中へ運ばれていった。

 


 

オットー・オクタヴィアスは、自分の足で警察車両へ向かった。

四本のアームはすでに外されている。

かつてなら、それを失うことに耐えられなかったかもしれない。

自分の研究の完成形であり、自分の身体を拡張するものでもあった。あの力さえあれば何でもできると思い、実際、その考えに飲み込まれた。

今は違った。

アームは証拠品として別の車両へ運ばれている。

オットーは一度だけそちらを見た。

それから、自分の両手を見る。

何もついていない。

警官が後部座席の扉を開ける。

オットーは抵抗せず乗り込んだ。

扉が閉まる直前、少し離れた場所にヒルが立っていることに気づいた。

二人の視線が合う。

ヒルは敬礼もしなければ、礼を言うこともしなかった。

オットーが過去にしたことまで消えたわけではない。

それでも、今夜オットーが市民を守り、トゥームズを止め、最後には自分からアームを外して投降したことも事実だった。

ヒルはただ、小さく頷いた。

オットーも同じように返した。

警察車両の扉が閉じた。

 


 

セントラルパークでは、クレイヴンがまだウェブに拘束されていた。

警察が到着した頃には、戦闘からかなりの時間が経っている。

それでも完全には抜け出せていなかった。

ピーターが時間差で仕掛けた複数のウェブボムによって身体の各部を別方向から固定されているため、一ヶ所を力任せに破れば、別の場所へ負荷が移る。クレイヴンが自分の力で暴れるほど拘束が身体へ食い込み、動きを奪う構造になっていた。

警官たちは十分に距離を取りながら近づいた。

クレイヴンは彼らを見ていない。

視線は、スパイダーマンが去った方向へ向けられていた。

蜘蛛は自分を殺さなかった。

それどころか、最後には戦うことさえやめた。

クレイヴンにとって、それは勝利ではなかった。

敗北とも違う。

狩りそのものを途中で打ち切られた。

獲物だと思っていた相手に、自分の存在を無視された。

「立て。」

警官が声をかける。

クレイヴンはゆっくり顔を向けた。

その表情に、怒りはなかった。

むしろ笑っている。

警官が警戒して銃を構える。

クレイヴンは抵抗しなかった。

今はそれでいい。

蜘蛛は生きている。

なら、狩りは終わっていない。

 


 

フェリシアは、ビルの屋上から朝の街を見下ろしていた。

カメレオンとの戦闘でスーツにはいくつか傷がついていたが、大きな怪我はない。

問題は別にある。

カメレオン本人を拘束することには成功した。

しかし、逮捕には至らなかった。

警察が到着した時には、すでに用意されていた偽装工作が動き始めていた。身元を確認しようとするたびに異なる情報が表示され、照会先によって名前も経歴も変わる。フェリシアが奪い返そうとした電子身元偽装装置も、最終的には回収できなかった。

カメレオンは戦いには負けた。

それでも、自分が欲しかったものだけは持って消えた。

フェリシアはスマートフォンを取り出した。

ピーターへ連絡しようとして、一度止める。

オズコープタワーの方を見る。

朝焼けの中でも、まだ警察のヘリが周囲を飛んでいた。

フェリシアは少し考えてからスマートフォンをしまった。

「……まあ、生きてるでしょ。」

今はそれでいい。

屋上の縁から一歩踏み出す。

落下しながらワイヤーを撃ち、隣のビルへ向かって身体を振った。

黒い影が、朝のマンハッタンへ消えていった。

 


 

マーティン・リーは、意識を取り戻さないまま搬送された。

拘束具だけでは不十分だと判断され、両手にはネガティブパワーの発現を妨げるための絶縁処置が施されている。どこへ収容するのかについても、NYPDだけでは決められなかった。

だが、その名前が報道されたことで、別の混乱が起きていた。

ミスター・ネガティブ。

レイブンクロフト襲撃を指揮し、オズコープを破壊した男。

そして。

マーティン・リー。

F.E.A.S.T.を支援し、長年にわたって困窮者やホームレスを助けてきた慈善家。

二つの名前が、同じ人物のものとして報道されていた。

F.E.A.S.T.では誰もすぐには受け入れられなかった。

職員たちはニュースを見つめ、利用者たちは互いに顔を見合わせている。

メイも、その中にいた。

テレビには搬送されるリーの映像が流れている。

メイは何も言わなかった。

リーがしたことは消えない。

だが、ここで人を助けていた時間まで消えるわけでもなかった。

彼が差し伸べた手によって救われた人間は、本当にいる。

どちらか一方だけが本当だったわけではない。

その矛盾をどう受け止めればいいのか。

今は、誰にも分からなかった。

 


 

ハリー・オズボーンは、別の病院へ搬送された。

検査の結果、オズボーン家の遺伝病については異常が確認されなかった。

治療は成功している。

長い間ハリーを追い続けてきた病気は、消えていた。

だが、それで自由になったわけではない。

レイブンクロフトを出てからの行動。

オズコープへの侵入。

地下施設で起きた戦闘。

そして、過去にグリーンゴブリンとして起こした事件。

これから何がどのように扱われるのかは、まだ決まっていなかった。

病室の窓からは、遠くにオズコープタワーが見える。

ハリーはベッドに横になったまま、それを眺めていた。

テレビをつければ、自分の会社が崩れていく様子が流れている。

消音した。

静かになった病室で、ハリーは天井を見る。

最後に見たピーターの顔を思い出す。

振り上げられた拳。

目を閉じた自分。

そして、顔の横へ叩き込まれた拳。

許されたとは思っていない。

自分から許してほしいとも言っていない。

ピーターが何を考えて拳を止めたのかも、ハリーには分からなかった。

ただ止めた。

ハリーはそれ以上考えるのをやめ、窓の外へ視線を戻した。

 


 

数日後。

墓地には、静かな風が吹いていた。

ベン・パーカーの墓前に、新しい花が供えられている。

少し離れた場所には、ジョージ・ステイシーの墓がある。

そこにも新しい花があった。

そして。

グウェン・ステイシー。

墓石の前には、白い花が置かれていた。

ピーターはしばらくその前に立っていた。

何かを報告するために来たわけではない。

許しを求めるつもりもなかった。

ハリーを殺さなかったことが正しかったのか、それをグウェンならどう思うのか、答えを聞くこともできない。

だから、自分で決めるしかなかった。

ピーターは墓石を見つめる。

「……まだ、分かんないことばっかりだよ。」

少しだけ笑う。

「たぶん、これからも。」

返事はない。

当然だった。

ピーターはそれでも少しの間そこにいた。

やがて踵を返し、墓地を後にした。

 


 

ニューヨークは、いつも通り動いていた。

地下鉄が走り、タクシーがクラクションを鳴らし、歩道には急いで職場へ向かう人々がいる。

オズコープタワー周辺だけは今も封鎖されていたが、街全体から見れば、それもマンハッタンで起きている数え切れない出来事の一つになりつつあった。

エンパイア・ステート・ビルの高所に、一人の男が立っていた。

赤と青のスーツ。

マスクは新しいものへ交換されている。

ウェブシューターも修理した。

ピーターは街を見下ろしていた。

遠くにオズコープタワーが見える。

両親の死から始まり、コナーズ、マックス、ハリー、オットー、リーと続いてきた出来事の中心には、何度もあの会社が現れた。

今、そのオズコープは崩れようとしている。

だからといって、何かが終わったようには感じなかった。

ピーター自身も同じだった。

ハリーを許してはいない。

リーについても、まだ整理できていない。

オットーが最後に自分で止まったことを嬉しいと思う一方で、彼がしたことまで忘れるつもりはなかった。

全部が綺麗に片づいたわけではない。

それでも。

街は動いている。

ピーターはビルの縁へ足をかけた。

眼下を走る車の音が聞こえる。

どこか遠くでサイレンが鳴った。

ピーターはそちらを見る。

少しだけ身体を前へ傾けた。

そして、朝のマンハッタンへ飛び出した。

落下しながら右腕を伸ばす。

ウェブがビルへ伸びる。

糸が張り、身体が大きく前へ振られる。

スパイダーマンはそのままビルの谷間を抜け、朝のニューヨークへ消えていった。

 

THE AMAZING SPIDER-MAN 5: LEGACY OF OSCORP

END

 


 

オズコープタワーでの事件から、数日が経っていた。

マンハッタンでは大規模な戦闘そのものは収束していたが、その痕跡はまだ街の各所に残っていた。破壊された道路や建物の復旧作業が続き、オズコープ周辺では警察による封鎖も完全には解除されていない。戦闘に巻き込まれて住居を失った者や、一時的に帰宅できなくなった者も多く、市内の支援施設には連日、大量の物資が運び込まれていた。

F.E.A.S.T.も、その一つだった。

マーティン・リーがミスター・ネガティブだったことは、すでに警察の捜査によって明らかになっている。施設にも捜査の手は入ったが、それまでF.E.A.S.T.が行ってきた活動までなくなったわけではない。リーの正体を知らなかった職員やボランティアたちは残り、事件によって新たに支援を必要とするようになった人々を受け入れていた。

建物の前には、支援物資を積んだトラックが何台か停まっている。

ピーターも、その荷下ろしを手伝っていた。

トラックの荷台から大きな段ボール箱を受け取り、側面に書かれた内容を確認する。

「これ、食料品?」

「そう。奥の倉庫にお願い」

「分かった。」

箱を抱え直し、ピーターはF.E.A.S.T.の中へ入っていく。

スパイダーマンとして街を飛び回っている時とは違い、ここでやっていることは以前と変わらない。荷物を運び、必要な場所へ届け、手が足りなければ次の仕事を探す。リーがいなくなっても、ここを必要としている人間がいる以上、ピーターにとって来なくなる理由はなかった。

箱を置いて外へ戻る途中、一人の少年とすれ違った。

黒人の少年だった。

まだ中学生くらいに見える。ピーターよりずっと小柄で、両腕には自分の身体に対して少し大きすぎる段ボール箱を抱えている。

狭い通路ですれ違うため、ピーターが横へ避けた。

「大丈夫? 持とうか?」

少年は箱の向こうから顔を出した。

「大丈夫。これくらい持てる。」

「そっか。」

ピーターは少し笑って道を譲った。

少年もそのまま通り過ぎる。

それだけだった。

互いに名前を聞くこともなく、ピーターは外へ向かい、少年は建物の奥へ消えていった。

外では、ちょうど別のトラックの荷台が開けられていた。

今回運び込まれた物資の中には、オズコープ周辺の施設から回収されたものも混じっていた。戦闘によって使用できなくなった建物から運び出された備品や、避難者向けに確保されていた未使用品のうち、安全が確認されたものが支援物資として回されている。

先ほどの少年も外へ戻ってくると、荷台へ近づいた。

「次、どれ?」

作業をしていた職員が、奥に残っている箱を指した。

「それお願い。そんなに重くないから。」

「分かった。」

少年は荷台へ上がり、指定された箱を持ち上げる。

箱の側面には、オズコープのロゴが印刷されていた。

少年は特に気に留めなかった。

両腕で箱を抱え、トラックから降りる。

その時、箱の底に隠れていた小さな蜘蛛が動いた。

蜘蛛は段ボールの側面へ回り込み、ゆっくりと上へ這っていく。

少年はそのままF.E.A.S.T.へ向かって歩いていた。

蜘蛛が箱から少年の手首へ移る。

「……ん?」

何かが触れた感覚に、少年が一度だけ腕を動かした。

しかし、両手は箱で塞がれている。袖口を確認することもできず、少し気になった程度でそのまま歩き続けた。

蜘蛛は袖の中へ入り込んだ。

少年は何も知らないまま、支援物資の箱を抱えてF.E.A.S.T.の中へ入っていく。

袖の内側では、小さな蜘蛛がゆっくりと腕を這い上がっていた。

 

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