The Amazing Spider-Man 5: Legacy of Oscorp 作:たきび/まもる
夜。
マンハッタンから少し離れた工業地区では、ほとんどの工場がすでに操業を終えていた。大型車両が遠くの道路を通過する音が時折聞こえる程度で、日中なら人や機械の出入りが絶えない一帯も、今はひどく静かだった。
その中にある、かつて物流倉庫として使われていた大きな建物の一角だけに、薄い明かりが灯っている。
外壁は錆び、窓の多くは板で塞がれていた。内部にも古いコンテナや使われなくなった機材がそのまま残されているが、中央付近の一角だけは比較的片付けられ、長いテーブルと複数の椅子が並べられていた。
テーブルの上にはノートパソコンと何冊もの資料が置かれ、壁面にはプロジェクターによってオズコープタワーの外観と周辺地図が映し出されている。
カメレオンは椅子へ腰掛けたまま、ノートパソコンを操作していた。
オズコープタワーの出入口。
警備員の交代時間。
搬入口。
地下駐車場。
社内のセキュリティ区画。
ここ数週間、何人もの社員になりすまして内部を歩き回った結果、集めることのできた情報だった。
一通り確認したところで、カメレオンは腕時計へ目を落とした。
「時間通りに来る人間が一人くらいいてもいいと思うんだけどな。」
背後の暗がりから、低い声が返ってきた。
「俺は来ている。」
カメレオンは振り返らない。
「君は一時間前からいるだろ。」
倉庫の奥からクレイヴンが姿を現した。
完全な戦闘装備ではないが、普通に街を歩くための服装とも言い難い。腰にはナイフが下げられ、倉庫の外や周囲には彼の部下たちが待機している。
クレイヴンは壁へ映されたオズコープタワーを眺めた。
「この建物に蜘蛛は来るのか。」
カメレオンは椅子の背へ身体を預けた。
「またそれ?」
「答えろ。」
「来る可能性は高い。でも、最初から君のために呼ぶつもりはない。今回の目的はオズコープの地下に入ることだ。スパイダーマンとの狩りは、その邪魔にならないところで勝手にやってくれ。」
クレイヴンは少し笑った。
「俺に指図するのか。」
「兄弟だから遠慮なく言ってるんだよ。君がオズコープの前でスパイダーマンを見つけた途端に突っ込んでいったら、僕は中で何もできなくなる。」
「なら、先に仕事を終えろ。」
「そのつもり。」
カメレオンは再びノートパソコンへ向き直った。
クレイヴンもそれ以上は言わなかった。
彼がこの作戦そのものに強い関心を持っているわけではないことは、カメレオンにも分かっている。
クレイヴンが興味を持っているのは、スパイダーマンだけだった。
しばらくして、倉庫の大きな扉が開いた。
最初に入ってきたのはトゥームズだった。
その少し後ろを、オットーが歩いている。
トゥームズは倉庫の中を一度見回すと、露骨に鼻で笑った。
「すごいところに呼び出すな。もう少しまともな隠れ家はなかったのか?」
カメレオンは画面を見たまま答える。
「まともな場所には人が来る。人が来ないからここを選んだ。」
「椅子くらいマシなの用意できただろ。」
「刑務所よりはいいんじゃない?」
トゥームズは一瞬だけカメレオンを見る。
「その話、あんまり擦るなよ。」
「了解。」
トゥームズは近くの椅子を引き寄せ、そこへ腰を下ろした。
一方、オットーは座らなかった。
そのままプロジェクターの前まで歩き、壁へ映されたオズコープ内部の図面をしばらく眺める。
「これだけ調べても、地下施設そのものの図面は手に入らなかったのか。」
「残念ながらね。」
カメレオンは別の画面を表示した。
「通常の建築図面には載ってないし、現行の社員データからも完全に切り離されてる。僕が中にいた間にも随分探したけど、場所を直接示すものは出なかった。」
オットーは画面から目を離さない。
「だが、そこに私の研究があることは確かだと言った。」
「確かだよ。」
「君の情報源を聞いても?」
「教えない。」
オットーが振り返った。
「随分都合のいい話だな。」
カメレオンは肩をすくめる。
「僕を信用する必要はない。自分の目で確認すればいい。そのためにここまで来たんだろ?」
オットーは返事をしなかった。
カメレオンが見せた資料には、明らかに自分の研究を基礎として作られた技術が含まれていた。どこまで残されているのか、それが何へ転用されているのかを確認せずにはいられない。
しばらくして、オットーは静かに言った。
「私が欲しいのは、自分の研究だけだ。正確には、それがどう使われているのかを確認したい。もし危険な兵器に転用されているなら、その場で破棄する。」
トゥームズが椅子の上で身体を起こした。
「おい。それ、俺が欲しい物まで壊すつもりじゃないだろうな。」
オットーが横を見る。
「君が何を欲しがっているのか、私は知らない。」
「飛ぶやつだよ。翼。」
「それが私の研究を利用しているなら話は別だ。」
トゥームズは呆れたように笑った。
「研究者ってのは面倒だな。作った後まで所有権があると思ってる。」
オットーの眉が僅かに動いた。
「少なくとも、盗人に好き勝手使われるために研究したわけではない。」
「使える物は使う。世の中そんなもんだろ。」
「二人とも。」
カメレオンが会話へ割って入った。
「地下に着く前から取り分の喧嘩を始めるのはやめてくれ。実物を見てから好きなだけやって。」
壁際にいたクレイヴンが二人を見る。
「奪われたくないなら守ればいい。それだけの話だ。」
トゥームズが笑った。
「ほら。この大男の方が話が早い。」
オットーはクレイヴンを一度見ただけで、それ以上は何も言わなかった。
再び倉庫の扉が開いた。
今度はハリーだった。
黒いコートを羽織り、特に警戒した様子もなく中へ入ってくる。視線だけを動かして、集まっている人間を順番に確認した。
オットー。
トゥームズ。
クレイヴン。
そしてカメレオン。
「……これが君の集めた連中か。」
カメレオンが答える。
「まだ一人来てない。」
ハリーはトゥームズを見る。
トゥームズも面白そうにハリーを眺めた。
「あんたがハリー・オズボーンか。」
「そうだけど。」
「もう少し化け物みたいな奴を想像してた。」
ハリーの顔から表情が消える。
「それで?」
「いや。思ったより普通だなって。」
「君も思ったより年寄りだな。」
トゥームズが一瞬黙った。
それから、小さく笑う。
「口は元気そうだ。」
ハリーはもう相手を見ていなかった。
そのまま壁に映されたオズコープの図面へ近づき、しばらく眺めてからカメレオンへ視線を向ける。
「地下への経路が分からないって?」
「正確には、図面に出ない。」
「だったら最初から僕に聞けばよかった。」
カメレオンが椅子から身体を起こした。
「知ってるのか?」
ハリーは画面上のエレベーター区画を指した。
「地下へ行く専用のエレベーターがあるわけじゃない。通常のエレベーターに特定のコマンドを入力すると、表示されていない地下階へ直通する。」
カメレオンは数秒黙った。
「……それ、もっと早く言ってくれない?」
「聞かなかっただろ。」
「何週間もオズコープの中を探してたんだけど。」
「ご苦労様。」
カメレオンが露骨に嫌そうな顔をする。
少し離れたところで、トゥームズが笑った。
ハリーは気にせず続ける。
「以前、僕もそこから地下へ入った。父が死んだ後、経営陣の一人に案内させたから間違いない。」
オットーが横から尋ねた。
「案内させた?」
ハリーは平然と答える。
「脅した。」
少しだけ沈黙が生まれた。
オットーは何とも言えない表情になる。
「……なるほど。」
ハリーはエレベーターの位置を指した。
「コマンドも覚えてる。システムが大幅に変わってなければ、地下へ行くこと自体は難しくない。」
カメレオンが頷く。
「なら問題は、そこまでどうやって行くかだ。」
「そういうこと。」
ハリーは画面から離れた。
「警備を力ずくで抜けることはできるだろうけど、オズコープは一度警報が入れば建物全体が封鎖される。地下へのエレベーターを壊して無理やり降りる方法もあるけど、それをやったら絶対に面倒になる。」
クレイヴンが口を開いた。
「警備を全員倒せば済む。」
ハリーは横目で見る。
「それで済むなら僕もそうしてたよ。オズコープの警備は建物の中だけじゃない。警報が外へ出れば警察も来るし、そのうちスパイダーマンも来る。」
その名前を聞いて、クレイヴンの口元が僅かに上がった。
「なら都合がいい。」
「君にはね。」
カメレオンがすぐに口を挟む。
「でも僕には都合が悪い。」
クレイヴンが見る。
カメレオンは画面を切り替えた。
表示されたのは、オズコープの監視カメラ、入退室管理、警報系統、セキュリティセンターなど、内部警備に関する情報だった。
「作戦を変える。」
全員の視線が集まる。
「まず僕が一人で中へ入る。今まで何度もやってるし、社員として潜ること自体は難しくない。先に監視と警報を止める。」
オットーが画面を見る。
「完全に停止できるのか。」
「完全に落とす必要はない。異常を検知してから外へ通報が飛ぶまでの時間を稼げれば十分だ。警備室の端末と社内ネットワークに触れられれば、ある程度は操作できる。」
ハリーが腕を組む。
「ただし、長くは持たない。」
「もちろん。だから僕が合図したら、そこからは力仕事。」
カメレオンはクレイヴンを見る。
「君と部下。」
それから、まだ空いている席へ目を向ける。
「それと、リーの部下。」
まるでその言葉を待っていたかのように、倉庫の扉が開いた。
マーティン・リーが一人で入ってきた。
F.E.A.S.T.で見せている服装とは違い、黒を基調とした簡素な装いだったが、顔は普段のマーティン・リーそのものだった。仮面もつけていない。
リーは倉庫へ入ると、まず一度だけ中にいる全員を見渡した。
その視線が、最後にハリーで止まる。
ハリーもリーを見る。
二人は初対面だった。
先に口を開いたのはリーだった。
「彼がハリー・オズボーンか。」
ハリーは少し眉を上げた。
「君は?」
「マーティン・リー。」
「知らないな。」
「知ってもらう必要はない。」
ハリーは少しだけ口元を歪めた。
「ならいい。」
それで会話は終わった。
リーも、ハリーへ愛想を振りまくつもりはなかった。
ただ、オズボーンという名前を前にした時だけ、その目の奥にほんの僅かな冷たさが浮かんでいた。
カメレオンが両手を軽く叩く。
「これで全員。ちょうど作戦を説明してたところだ。」
リーはテーブルへ近づき、画面を見る。
「続けてくれ。」
カメレオンはオズコープの警備配置を表示した。
「僕が先に潜入して、警報と監視を止める。成功したら、クレイヴンとその部下が正面から入る。」
クレイヴンが画面を見る。
「正面でいいのか。」
「その段階まで行ったら隠れる意味はない。警報だけ止まっていれば、外から見た時の初動はかなり遅れる。」
カメレオンはリーを見る。
「同時に、君の部下も別方向から入ってほしい。」
トゥームズがリーへ視線を向けた。
「例の鬼みたいな仮面の連中か。警察じゃデーモンとか呼ばれてる奴ら。」
リーが静かに訂正する。
「夜叉会だ。」
トゥームズが眉を上げる。
「夜叉?」
「彼らは夜叉会と呼んでいる。デーモンというのは、外の人間が勝手につけた名前だ。」
カメレオンが少し笑った。
「なるほど。じゃあ今後は夜叉会。」
リーはそれ以上何も言わなかった。
カメレオンは画面上へ二つの侵入経路を表示した。
「クレイヴン側と夜叉会で一気に警備を制圧する。長引かせる必要はない。エレベーターまでの通路を開ければいい。」
オットーが腕を組む。
「私たちは後から入るのか。」
「そう。君とトゥームズとハリーは、最初の突入には参加しない。装備もないし、余計な危険を増やす理由もない。」
ハリーが少し不満そうな顔をした。
「僕は自分の会社で待機させられるのか。」
「君が撃たれて死んだら、地下へのコマンドを知ってる人間がいなくなる。」
ハリーは数秒カメレオンを見る。
「……合理的ではある。」
「ありがとう。」
「褒めてない。」
「知ってる。」
カメレオンは続けた。
「警備を抜いたら三人も合流する。そこからハリーがエレベーターを操作して、全員で地下へ降りる。」
オットーが画面を見る。
「そこまで上手くいけば、だが。」
「当然、上手くいかない場合も考えてる。」
クレイヴンが笑った。
「その場合は壊せばいい。」
カメレオンは露骨に嫌そうな顔を向ける。
「最後の手段ね。エレベーターを破壊して縦穴から降りることもできるだろうけど、地下側が封鎖されたら厄介だ。なるべく設備は生かしたまま入る。」
ハリーが頷く。
「それがいい。父は施設そのものを守ることを最優先にしてた。異常侵入と判断されたら、地下側だけで閉鎖される可能性がある。」
オットーがハリーを見る。
「君は随分詳しいな。」
「僕の父親の会社だからね。」
その言葉に、リーが僅かにハリーへ視線を向けた。
しかし、何も言わなかった。
カメレオンは画面をマンハッタン全体の地図へ切り替えた。
複数の地点に印がついている。
「ただし、もう一つ問題がある。僕が警報を止めても、オズコープの警備が突破されたと分かれば、そのうち警察は来る。スパイダーマンもね。」
クレイヴンが少し笑う。
「やっと本題か。」
「君にとってはね。」
カメレオンは地図を拡大した。
「だから、オズコープへ入る前に警察を散らしておく。」
オットーの表情が険しくなった。
「何をするつもりだ。」
「マンハッタンの数か所で、同時に事件を起こす。全部を大事件にする必要はない。警察が無視できない規模ならそれでいい。」
オットーはすぐに聞いた。
「待て。市民を巻き込むのか。」
先に答えたのはリーだった。
「その必要はない。」
全員がリーを見る。
リーはマンハッタンの地図へ視線を向けたまま続ける。
「夜叉会には、警察の注意を引くことだけを命じる。道路を塞ぐ。武装した姿を見せる。警察車両を足止めする。それで十分だ。無関係な人間を傷つける意味はない。」
オットーはリーを見る。
「君の部下がその命令に従う保証は?」
「従わせる。」
リーは静かに答えた。
声を荒らげることも、威圧するような仕草を見せることもない。
それでも、その一言にはそれ以上問い返させないだけの強さがあった。
カメレオンが話を戻す。
「クレイヴンの部下にも別地点で動いてもらう。さらに金で雇った連中も使う。全部が同じ組織に見えないようにすれば、警察は最初、それぞれ別件として対応する。」
ハリーが地図を見る。
「市内の警察戦力を最初から分散させるわけか。」
「そういうこと。」
「スパイダーマンは?」
「どこへ行くかは分からない。でも、一人しかいない。」
クレイヴンが低く言った。
「最後は俺のところへ来る。」
ハリーが横を見る。
「随分自信があるんだな。」
クレイヴンはハリーを見ることもなかった。
「来なければ、俺が探す。」
カメレオンがすぐに釘を刺す。
「おい、僕がオズコープの警報を切るまでは動くなよ。」
クレイヴンは鼻を鳴らした。
「分かっている。」
カメレオンは少し意外そうに兄を見る。
「今回はいやに素直だな。」
「狩り場を荒らすほど馬鹿ではない。」
画面が再びオズコープタワーへ戻った。
カメレオンは、改めて全員を見回す。
「まとめるよ。まずマンハッタン各地で陽動を起こして、警察とスパイダーマンの動きを散らす。その間に僕がオズコープ内部へ入って、警報と監視を切る。」
クレイヴンとリーへ順番に視線を向ける。
「合図が出たら、クレイヴンとその部下、リーと夜叉会が突入して警備を制圧する。」
続いて、オットー、トゥームズ、ハリーを見る。
「通路が開いたら三人が合流。ハリーがエレベーターにコマンドを入れて、地下へ降りる。」
少し間を置く。
「そこまで行けば、僕の仕事はほとんど終わり。」
トゥームズが笑った。
「その後は好きにしろ、って?」
「最初からそういう契約だろ。」
オットーが静かに口を開く。
「確認しておくが、私は君たちと行動を共にすること自体を目的としているわけではない。地下に残されている研究を確認し、危険なものがあれば処分する。そのためだけに同行する。」
「分かってる。」
カメレオンは気楽に答えた。
トゥームズも続ける。
「俺は翼が手に入ればそれでいい。余計な研究だの会社の恨みだのには興味ない。」
クレイヴンはさらに簡潔だった。
「俺は蜘蛛だ。」
ハリーはテーブルへ片手をついた。
「僕は治療法を手に入れる。それが済んだら、他のことは好きにすればいい。ただし、僕の邪魔をするな。」
最後に、全員の視線がリーへ集まった。
リーは少し考えてから答える。
「私はオズコープに残された記録を確認する。それだけだ。」
ハリーが少し笑った。
「ずいぶん曖昧だな。」
リーがハリーを見る。
「君に説明する必要があるのか?」
「僕の会社に入るんだ。聞く権利くらいはあるだろ。」
その瞬間、リーの目つきが僅かに変わった。
「君の会社?」
ハリーは怯まなかった。
むしろ当然のことを説明するように答える。
「父が作った。僕が引き継いだ。今の経営陣が僕を追い出したからって、オズコープがオズボーンの会社だった事実まで消えるわけじゃない。」
倉庫の空気が少しだけ静かになる。
リーは数秒間、ハリーを見ていた。
やがて口を開く。
「そうか。」
それだけだった。
声は穏やかなままだったが、先ほどまでより明らかに冷たくなっている。
ハリーはその変化を特に気にした様子もなく、視線を外した。
カメレオンだけが、二人を一度ずつ見た。
そして何も言わなかった。
会議が終わっても、誰も握手をしなかった。
そもそも、同じ目的を持って集まったわけではない。
最初に出ていったのはトゥームズだった。
「連絡はちゃんと寄越せよ。もう一度刑務所に戻って迎えを待つのは御免だからな。」
カメレオンが答える。
「分かってる。」
トゥームズはそのまま倉庫を出ていった。
オットーはプロジェクターに映された資料を最後にもう一度確認してから、出口へ向かう。
途中で足を止め、カメレオンへ振り返った。
「もし見せた資料が偽物だったなら、私はその時点で降りる。」
「本物だよ。」
「それを確かめるために行く。」
オットーも去っていった。
クレイヴンはカメレオンの横を通り過ぎようとして、そこで足を止めた。
「ドミトリ。」
「何?」
「スパイダーマンには手を出させるな。」
カメレオンが眉を上げる。
「誰に?」
「全員だ。」
「そんなの本人たちに言ってよ。」
クレイヴンの目が細くなった。
カメレオンは小さくため息をつく。
「分かった。なるべくね。」
「なるべくではない。」
「はいはい。」
クレイヴンも部下を連れて出ていった。
ハリーはコートを着直し、出口へ向かった。
その途中でリーの横を通り過ぎる。
一度だけ足を止めた。
「君がオズコープに何の恨みを持ってるのかは知らないけど、地下で僕の邪魔だけはしないでくれ。」
リーはハリーを見る。
「君も私の邪魔をしなければいい。」
「そのつもりだ。」
互いに、それ以上は何も言わなかった。
ハリーは倉庫を出ていく。
大きな扉が閉まる。
残ったのは、カメレオンとリーだけだった。
カメレオンはノートパソコンを閉じながら言う。
「気に入らない?」
リーが横を見る。
「何が。」
「ハリー・オズボーン。」
リーは少し考えた。
「まだ何も知らない。」
「ならいい。」
カメレオンは資料をまとめ始める。
リーが静かに尋ねた。
「君は本当に、この六人が最後まで協力すると考えているのか?」
カメレオンは笑った。
「まさか。」
リーが見る。
「地下に入るまで持てば十分だよ。そこから先で誰が誰と喧嘩しようが、何を壊そうが、僕には関係ない。僕は僕の欲しい物を取る。」
少し間を置き、リーも倉庫の出口へ向かう。
「私も同じだ。」
カメレオンが顔を上げた。
リーは振り返らずに続ける。
「オズコープの地下へ入れれば、それでいい。」
扉が閉まり、倉庫の中にはカメレオン一人だけが残った。
プロジェクターの光も間もなく消える。
最後まで画面に残っていたのは、六人の人物資料だった。
誰も仲間ではない。
誰も互いを信用していない。
ただ、それぞれが欲しがっているものが、同じ場所にある。
彼らを一つにまとめているのは、それだけだった。