マリバロン異世界転生   作:himuro0917

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ヒーローは誰だ!?

## 風都タワーの標的

 

風都駅前広場。

 

大勢の報道陣と市民が集まり、壇上には一人の女性が立っていた。

 

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。」

 

風都市議会議員――**楠原みやび**。

 

彼女は「第二風都タワー建設計画」の推進者として、市民へ政策を説明していた。

 

その傍らには、小さな女の子。

 

娘の**楠原あすか**が、母親の服の裾をぎゅっと握っている。

 

少し離れた警備エリアでは、翔太郎、亜樹子、そしてマリバロンが周囲を警戒していた。

 

翔太郎は壇上を見つめ、小さく呟く。

 

「……子連れで政策アピールか。」

 

「随分と思い切ったことをする。」

 

その時。

 

「た、探偵!?」

 

聞き覚えのある怒鳴り声が響いた。

 

振り返ると、風都警察の刑事・間倉が険しい顔で近づいてくる。

 

「なぜお前がここにいる!」

 

翔太郎は懐からパスカードを取り出した。

 

「依頼だよ。」

 

「楠原議員から、ボディーガードを頼まれてな。」

 

亜樹子も胸を張る。

 

「正式な依頼です!」

 

間倉は顔を真っ赤にする。

 

「なんで探偵なんかに!」

 

「我々警察だけで十分だ!」

 

その瞬間。

 

間倉の背後から、ぬるりと黒い影が現れる。

 

「黙れ。」

 

低く響く声。

 

「黙らぬか!!」

 

間倉は飛び上がるほど驚いた。

 

「うわっ!」

 

「い、いつの間に!」

 

そこには腕を組み、堂々と立つマリバロン。

 

(……あの女。)

 

(野心に満ちた眼をしている。)

 

(嫌いではない。)

 

(この世界を知るためにも、その行く末を見届けるとしよう。)

 

間倉はマリバロンを指差した。

 

「な、なんだこの、おばさ──」

 

「シーーッ!!」

 

亜樹子が人差し指を口元に当て、必死に首を横へ振る。

 

「その言葉だけはダメ!」

 

「絶対ダメ!」

 

「命が惜しかったら!」

 

間倉は意味も分からず固まった。

 

「……は?」

 

その直後だった。

 

**ギュン!!**

 

乾いた銃声。

 

壇上のマイクが弾け飛ぶ。

 

「きゃあああ!!」

 

市民の悲鳴。

 

続けざまに。

 

**ギュン!!**

 

**ギュン!!**

 

三発目の銃弾が警備隊へ飛び込む。

 

「ぐあぁっ!!」

 

間倉の脚を銃弾が貫く。

 

その場へ倒れ込む。

 

「間倉さん!」

 

警察官たちが駆け寄る。

 

会場は一瞬で大混乱となった。

 

「逃げろ!」

 

「伏せろ!」

 

「撃たれてるぞ!」

 

翔太郎は即座に動く。

 

楠原みやびと、泣きそうなあすかの前へ飛び込んだ。

 

「二人とも!」

 

「こっちだ!」

 

身体を盾にしながら非常口へ走る。

 

あすかは震える手で、小さなぬいぐるみを抱きしめていた。

 

「……パパ。」

 

涙が零れる。

 

「パパ……助けて……。」

 

翔太郎は優しく微笑む。

 

「大丈夫。」

 

「俺が必ず守る。」

 

そして一瞬だけ振り返る。

 

亜樹子とマリバロンへ、目だけで合図を送った。

 

――頼む。

 

二人は小さく頷く。

 

翔太郎は楠原親子を二人に託して会場を離脱した。

 

残されたマリバロンは、大きくため息をつく。

 

「……やれやれ。」

 

「この世界へ来てからというもの。」

 

「人間を守ることばかりだ。」

 

そうぼやきながらも、両腕を静かに広げる。

 

紫色の魔法陣が地面いっぱいに展開される。

 

「魔障結界。」

 

ブォォォン――。

 

半径二十メートルを覆う巨大な半球状のバリアが展開された。

 

飛来する銃弾は次々と透明な障壁へ弾かれる。

 

**ガガガガガッ!!**

 

火花が散り、銃弾が地面へ転がる。

 

避難し遅れた市民たちは呆然とその光景を見上げる。

 

「弾が……止まった?」

 

「助かった……。」

 

マリバロンは鋭い目で銃撃の方向を睨む。

 

「姿も見せずに狙撃とは。」

 

「随分と臆病な刺客だ。」

 

その時だった。

 

マリバロンの張った紫色の結界を、小さな少女がじっと見つめていた。

 

楠原あすかだった。

 

瞳は恐怖ではなく、純粋な憧れに満ちている。

 

「……すごい。」

 

マリバロンはその視線に気付き、不思議そうに首を傾げた。

 

「なんだ、小娘。」

 

「怖くないのか?」

 

あすかは首を横に振る。

 

「うん。」

 

「お姉ちゃんの不思議な力で安心できる。」

 

その一言に、マリバロンはわずかに目を見開く。

 

(……お姉ちゃん。)

 

これまで人間から向けられてきたのは、恐怖や憎悪ばかり。

 

こんな眼差しを向けられたことなど、一度もなかった。

 

隣のみやびも結界を見上げながら呟く。

 

「驚いたわ……。」

 

「あなた、一体何者なの?」

 

マリバロンは小さく笑う。

 

「私などどうでもよい。」

 

その笑みが消える。

 

鋭い視線が遠くを射抜く。

 

「……来るぞ。」

 

その瞬間――。

 

風が吹き抜けた。

 

二人の前へ、一人の仮面ライダーが静かに着地する。

 

緑と紫。

 

風をまとった戦士。

 

仮面ライダーW。

 

翔太郎の声が響く。

 

「っと、姉さん。」

 

「亜希子。」

 

「助かった。」

 

マリバロンは肩をすくめる。

 

「礼など不要だ。」

 

「当然のことをしたまで。」

 

しかし、その直後だった。

 

**ギュン!!**

 

再び銃声。

 

**ギュン!!**

 

**ギュン!!**

 

四方八方から撃ち込まれる弾丸。

 

結界に当たるたび、紫色の火花が散る。

 

「まだ終わらぬか。」

 

マリバロンは魔力をさらに高める。

 

フィリップが周囲を見回す。

 

「翔太郎!」

 

「相手の居場所が掴めない!」

 

「ここは守りに徹するべきだ!」

 

「ああ!」

 

翔太郎は一本のガイアメモリを取り出す。

 

「サイクロン!」

 

続いてフィリップ。

 

「メタル!」

 

二人の身体が再び一つとなる。

 

緑色だった右半身はそのままに、左半身が銀色へと変化した。

 

**仮面ライダーW サイクロンメタル。**

 

その右手には、長大な銀色の棍――メタルシャフトが握られている。

 

マリバロンは興味深そうに目を細めた。

 

「……なんと面妖な。」

 

「姿だけでなく武器まで変えるとは。」

 

「ライダーとは、実に不可思議な存在よ。」

 

その時。

 

再び狙撃。

 

**ギュン!!**

 

しかし。

 

「はっ!」

 

Wはメタルシャフトを高速で振るう。

 

**カキィン!!**

 

弾丸を弾き返す。

 

**ギンッ!**

 

**ガキィン!!**

 

撃ち込まれる銃弾は、ことごとく空中で叩き落とされていく。

 

マリバロンも結界を維持しながら感心する。

 

(なるほど。)

 

(守りながら敵を探る戦法か。)

 

(悪くない。)

 

数十秒後。

 

銃声が止んだ。

 

静寂。

 

Wは周囲を見渡す。

 

海辺。

 

用水路。

 

工場の屋上。

 

ビルの非常階段。

 

狙撃に適した場所を次々と確認していく。

 

しかし。

 

「……いない。」

 

敵の姿は、どこにもなかった。

 

フィリップが地面へ視線を落とす。

 

「翔太郎。」

 

「これだけ残っている。」

 

地面には一発の弾丸。

 

綺麗な状態で転がっていた。

 

「持ち帰ろう。」

 

「弾丸から何かわかるかもしれない。」

 

翔太郎は静かに弾丸を拾い上げる。

 

「了解。」

 

その様子を見ていたマリバロンは、小さく笑った。

 

「弾丸一つから敵を追うか。」

 

「力任せではない。」

 

「探偵らしい戦いだ。」

 

フィリップも微笑む。

 

「マリバロン。」

 

「君も最初は力だけの人かと思ったけど。」

 

「今は誰よりも状況を分析している。」

 

「少し、君のことが分かってきた気がするよ。」

 

マリバロンはふいっと顔を背ける。

 

「勘違いするな。」

 

「私は敵を知るために見ているだけだ。」

 

その言葉を聞いた亜希子は小さく笑った。

 

「はいはい。」

 

「そういうことにしておきます。」

 

マリバロンは咳払いを一つすると、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

 

「……あの小娘に、お姉ちゃんなどと呼ばれるとは。」

 

その横顔には、ほんのわずかだが柔らかな表情が浮かんでいた。

 

 

 

 

会場の混乱がようやく収まり始めた頃。

 

翔太郎は変身を解除し、深く息を吐いた。

 

ポケットから先ほど拾った弾丸を取り出す。

 

「亜樹子。」

 

「姉さん。」

 

翔太郎はマリバロンへ弾丸を差し出した。

 

「悪い。」

 

「これを持ってフィリップに渡してくれ。」

 

「解析してもらえば、何か分かるかもしれねぇ。」

 

亜樹子は弾丸を大事そうに受け取る。

 

「了解!」

 

翔太郎は帽子を被り直した。

 

「俺は行くところがある。」

 

「楠原みやびが風都警察署に保護されたって聞いた。」

 

「依頼人の護衛に行ってくる。」

 

マリバロンは腕を組み、静かに頷く。

 

「この世界の警察機関には興味がある。」

 

「私も同行させてもらう。」

 

「ドーパントが再び奇襲を仕掛ける可能性もある。」

 

翔太郎は鼻で笑った。

 

「姉さん。」

 

「頼りにするぜ。」

 

マリバロンは表情を変えぬまま、わずかに口元を緩める。

 

「ふっ……。」

 

「好きに言え。」

 

(この世界を知らねばならん。)

 

(ガイアメモリ。)

 

(仮面ライダー。)

 

(風都という街。)

 

(すべてを知り、その理を理解する。)

 

(そして――。)

 

(いつの日か、その力を手に入れる。)

 

(クライシス皇帝陛下……。)

 

(ジャーク将軍……。)

 

(私は必ず、あなた方の悲願を果たしてみせます。)

 

誰にも聞こえない誓いを胸に、マリバロンは翔太郎の後を歩き始めた。

 

---

 

### 風都警察署

 

警察署内は慌ただしく動いていた。

 

負傷者の搬送。

 

現場から届く無線。

 

刑事たちの怒号。

 

応接室では楠原みやびが事情聴取を受け、その傍らではあすかがぬいぐるみを抱きしめて座っている。

 

「失礼します。」

 

翔太郎とマリバロンが部屋へ入る。

 

みやびは腕を組み、不満そうな表情を浮かべた。

 

「左さん。」

 

「ちょっといいですか?」

 

翔太郎は苦笑いを浮かべる。

 

「はい……。」

 

みやびは少し声を強めた。

 

「襲撃の最中に、どこへ行っていたんですか?」

 

「私はともかく、娘まで危険な目に遭ったんですよ。」

 

「ボディーガードとして説明が必要ではありませんか?」

 

翔太郎は頭をかきながら困った顔になる。

 

「それは、その……。」

 

「えーっと……。」

 

言葉に詰まる翔太郎。

 

その横でマリバロンが一歩前へ出た。

 

堂々とした口調で言い放つ。

 

「この男は敵の居場所を探っていた。」

 

「私が貴様ら親子を護る。」

 

「左翔太郎が敵を追う。」

 

「最初からその手筈であった。」

 

部屋の空気が一瞬張りつめる。

 

みやびはマリバロンの鋭い眼差しに気圧され、小さく姿勢を正した。

 

「そ……そうだったのですね。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

そして翔太郎を見つめる。

 

「でしたら次からは、ちゃんと説明してください。」

 

「娘だって、とても怯えていたんですから。」

 

「……はい。」

 

翔太郎は珍しく素直に頭を下げた。

 

「すみませんでした。」

 

その様子を見たあすかは、ぬいぐるみを抱えたままマリバロンへ駆け寄る。

 

「お姉ちゃん!」

 

マリバロンは少し驚く。

 

「……なんだ、小娘。」

 

あすかはにこっと笑う。

 

「守ってくれてありがとう!」

 

その無邪気な笑顔に、マリバロンは一瞬だけ言葉を失う。

 

「……礼など。」

 

「当然のことをしたまでだ。」

 

そう言いながらも、以前のような冷たい声ではなかった。

 

その様子を見ていた翔太郎は、小さく笑う。

 

(姉さん……。)

 

(あんた、気付いてねぇだけで変わってきてるぜ。)

 

 

ふと、みやびが口を開く。

 

「……左さん。」

 

「はい?」

 

「実は……あすかには、まだ言えていないことがあります。」

 

翔太郎の表情が変わる。

 

みやびは娘を見つめた。

 

「主人が……。」

 

そこで言葉を止める。

 

「……あすかの父親が、亡くなったことを。」

 

翔太郎は絶句する。

 

「え……?」

 

「まだ、あの子には話していません。」

 

「知ったら……あの子はきっと耐えられない。」

 

「だから、あのぬいぐるみを……。」

 

みやびはあすかの抱いているぬいぐるみを見る。

 

「主人が生前、あの子に買ってあげたものなんです。」

 

「あすかは、あれを父親の代わりみたいにしている。」

 

「寝るときも、出かけるときも、ずっと一緒。」

 

翔太郎は黙り込んだ。

 

「……そうですか。」

 

みやびは涙をこらえるように微笑む。

 

「だから、あの子の前では……。」

 

「主人がどこかで生きていると思わせておきたいんです。」

 

翔太郎は帽子のつばを握った。

 

(……俺はどうすればいい。)

 

(嘘をつくのが正しいのか。)

 

(それとも、本当のことを伝えるべきなのか。)

 

その時。

 

耳元からフィリップの声が聞こえた。

 

「翔太郎。」

 

「なんだ?」

 

「君はまた迷っているね。」

 

翔太郎は眉をひそめる。

 

「うるせぇ。」

 

「これは……。」

 

フィリップが静かに言う。

 

「ハーフボイルドだよ、翔太郎。」

 

「……っ。」

 

翔太郎は悔しそうに顔をしかめる。

 

「分かってるよ。」

 

「分かってるけどよ……。」

 

その様子を、マリバロンは黙って見ていた。

 

(……人間とは。)

 

(敵に勝つことよりも、真実を伝えることに苦しむのか。)

 

すると、あすかがマリバロンのところへやって来た。

 

「お姉ちゃん。」

 

「なんだ?」

 

「あの時、私たちを守ってくれたよね。」

 

「あんなに強くて、勇敢で……。」

 

あすかはぬいぐるみを抱きしめる。

 

「なんだか、パパみたい。」

 

マリバロンの目がわずかに見開かれた。

 

「……。」

 

あすかは笑顔を浮かべる。

 

「お姉ちゃんがパパだったら、きっと――」

 

「違う。」

 

マリバロンは即座に遮った。

 

あすかが驚く。

 

「え……?」

 

マリバロンはしゃがみ込み、少女と目線を合わせる。

 

「私は、お前の父親ではない。」

 

「それは、決して間違えてはならぬ。」

 

あすかは少し寂しそうにする。

 

「……うん。」

 

しかしマリバロンは続ける。

 

「だが。」

 

「お前を守ることくらいなら、できる。」

 

あすかの顔が少しだけ明るくなる。

 

「ほんと?」

 

「……ああ。」

 

マリバロンは立ち上がる。

 

「それ以上でも、それ以下でもない。」

 

その直後――。

 

ギュン!!

 

銃声。

 

「伏せろ!!」

 

翔太郎が叫ぶ。

 

ギュン!!

 

窓ガラスが粉々に砕ける。

 

「きゃあっ!」

 

みやびがあすかを抱きしめる。

 

「また来た!」

 

翔太郎は周囲を確認する。

 

「フィリップ!」

 

『翔太郎、さっきの弾丸を調べた。』

 

「何かわかったか?」

 

『弾丸に特殊な加工がされている。』

 

『そして、狙撃地点を考えると――水辺が怪しい。』

 

翔太郎は窓の外を見る。

 

風都を流れる水路。

 

「水辺……。」

 

『海岸だけじゃない。』

 

『用水路、運河、貯水施設。』

 

『射線を確保できる場所が多い。』

 

「なるほど。」

 

翔太郎はマリバロンを見る。

 

「姉さん。」

 

「分かっている。」

 

マリバロンは目を閉じる。

 

両手を胸の前で組む。

 

「我が妖術よ。」

 

「風都の水脈に潜む者の気配を探れ。」

 

紫色の光がマリバロンの足元から広がっていく。

 

まるで蜘蛛の巣のように、魔力の線が地面を走る。

 

水路へ。

 

地下配管へ。

 

運河へ。

 

そして――。

 

マリバロンの表情が変わった。

 

「……見つけた。」

 

翔太郎が振り返る。

 

「どこだ!?」

 

マリバロンが目を開く。

 

「この先だ。」

 

「水の流れに沿って、何者かが移動している。」

 

フィリップが驚く。

 

『妖術による索敵か。』

 

『興味深い。』

 

マリバロンは不敵に笑う。

 

「仮面ライダー。」

 

「貴様らの検索と、私の妖術。」

 

「どちらが先に敵を見つけるか――。」

 

翔太郎がニヤリとする。

 

「勝負ってわけか。」

 

「面白ぇ。」

 

そして翔太郎は帽子を被り直す。

 

「行くぜ、フィリップ。」

 

『ああ。』

 

マリバロンも歩き出す。

 

その背後から、あすかの声が響く。

 

「お姉ちゃん!」

 

マリバロンが振り返る。

 

あすかはぬいぐるみを抱きしめながら笑っていた。

 

「気をつけてね!」

 

マリバロンは一瞬だけ黙り――。

 

「……お前もな。」

 

小さく笑った。

 

そして魔女将軍と仮面ライダーは、銃弾の主を追って風都の水路へ走り出した。

 

風都警察署から少し離れた水路。

 

夜の風に水面が揺れている。

 

翔太郎とフィリップ、そしてマリバロンは、先ほどの狙撃が行われた場所を追っていた。

 

マリバロンが突然足を止める。

 

「……。」

 

目を閉じ、周囲の気配を探る。

 

紫色の魔力が指先に集まっていく。

 

「……そこだ!」

 

マリバロンが勢いよく指を差す。

 

「仮面ライダーダブル!!」

 

翔太郎がニヤリと笑う。

 

「助かるぜ、姉さん!」

 

「フィリップ!」

 

「ああ。」

 

フィリップの声が響く。

 

「ここはルナトリガーで狙おう。」

 

翔太郎が二本のガイアメモリを取り出す。

 

「ルナ!」

 

「トリガー!」

 

二つのメモリが装填される。

 

『LUNA!』

 

『TRIGGER!』

 

瞬間、Wの姿が鮮やかな黄色と青色へ変貌する。

 

仮面ライダーW・ルナトリガー。

 

「そこだ!!」

 

ダダダダダッ!!

 

トリガーマグナムから放たれた弾丸が、水面へ飛び込む。

 

しかし普通の銃弾ではない。

 

黄色い光を帯びた弾丸が、まるで生き物のように軌道を変えながら、水中を泳ぐ何者かを追い始める。

 

マリバロンはその光景を眺める。

 

「……。」

 

少しだけ眉を上げる。

 

「ふん。」

 

「もう驚きはせぬ。」

 

「この世界の仮面ライダーが奇妙なのは、十分理解した。」

 

そして再び目を閉じる。

 

「だが――。」

 

「捉えたぞ!!」

 

マリバロンの手から紫色の光が放たれる。

 

ビュンッ!!

 

ビームウィップが水面を突き抜ける。

 

「なに!?」

 

水中にいた何者かに鞭が絡みつく。

 

「逃がすか!」

 

マリバロンが力を込める。

 

水面が激しく波打つ。

 

「グォォォォ!!」

 

水中から怪物の唸り声。

 

「観念しろ!」

 

マリバロンが鞭を一気に引き上げる。

 

ザバァァァン!!

 

巨大な異形が水上へ打ち上げられた。

 

その姿を見て、フィリップの目が輝く。

 

「翔太郎!」

 

「あれは――」

 

「アノマロカリス!」

 

「古代生物のアノマロカリスだ!」

 

翔太郎が怪人を見上げる。

 

「アノマロカリス……?」

 

「そんなのが怪人になってんのかよ!」

 

マリバロンは怪人の身体よりも、その腰に残るガイアメモリへ視線を向ける。

 

「……なるほど。」

 

「やはり、あれが力の源か。」

 

ゆっくりと怪人へ近づく。

 

「フン。」

 

「そのガイアメモリとやら――。」

 

「いただくぞ。」

 

マリバロンが手を伸ばす。

 

しかしアノマロカリスは激しく暴れ出す。

 

「そうはさせん!!」

 

「この弾丸で死ねい!!」

 

銃口がマリバロンへ向けられる。

 

「姉さん!」

 

翔太郎が叫ぶ。

 

その瞬間――。

 

「ヒート!」

 

「メタル!」

 

『HEAT!』

 

『METAL!』

 

Wの身体が炎に包まれる。

 

赤い炎と銀色の装甲。

 

仮面ライダーW・ヒートメタル。

 

「はあああっ!!」

 

メタルシャフトが唸る。

 

ガキィン!!

 

飛来した弾丸を叩き落とす。

 

ガキン!

 

ガキィン!!

 

次々と飛んでくる弾丸を、メタルシャフトが弾き飛ばしていく。

 

「マリバロン!」

 

フィリップが叫ぶ。

 

「今だ!」

 

「分かっている!」

 

マリバロンのビームウィップが再びアロマノカリスへ絡みつく。

 

「逃がさん!」

 

怪人の動きを封じる。

 

Wが一気に踏み込む。

 

「これで終わりだ!」

 

炎を纏ったメタルシャフトが振り抜かれる。

 

ドゴォォォン!!

 

アロマノカリスが吹き飛ぶ。

 

身体からガイアメモリが排出される。

 

「メモリブレイクだ!」

 

怪人の姿が崩れ、男が水辺へ倒れ込む。

 

静寂。

 

マリバロンは排出されたメモリを見つめる。

 

手を伸ばしかける。

 

しかし――。

 

翔太郎が先に拾い上げた。

 

「悪ぃな、姉さん。」

 

「これは証拠品だ。」

 

マリバロンは少しだけ不満そうな顔をする。

 

「……。」

 

「またか。」

 

翔太郎は苦笑する。

 

「何だよ。」

 

「せっかく捕まえたんだ。」

 

「研究くらいさせてくれたっていいだろ?」

 

「それに――。」

 

マリバロンは倒れた男を見下ろす。

 

「……まあ、よい。」

 

そして風都警察署の方向へ視線を向ける。

 

「あの少女と、その母親の身の安全は確保できた。」

 

「それならば、今回はそれでよしとしよう。」

 

翔太郎が少し意外そうに見る。

 

「姉さん……。」

 

「なんだ?」

 

「いや。」

 

翔太郎は笑う。

 

「なんでもねぇ。」

 

マリバロンは鼻で笑った。

 

「くだらん。」

 

しかしその横顔には、ほんの少しだけ満足げな表情が浮かんでいた。

 

――かつては、打倒南光太郎こそが勝利だった。

 

今のマリバロンにとっては、

 

一人の少女が無事であることもまた、勝利になりつつあった。

 

 

 

###園崎家の食卓

 

風都の夜。

 

街の喧騒から離れた丘の上に、一軒の巨大な屋敷が佇んでいた。

 

豪奢なシャンデリア。

 

磨き上げられた長いテーブル。

 

壁に飾られた美術品。

 

そこでは、一見すると何の変哲もない一家の夕食が行われていた。

 

しかし――。

 

この家に住む者たちを知る者ならば、決して「普通の家族」とは呼ばない。

 

食卓の上座に座る男が、新聞を叩きつけた。

 

「第二風都タワーだと!!」

 

低く響く怒声。

 

風都の名士。

 

園崎家当主――園崎琉兵衛。

 

そして彼の隣には、次女の若菜。

 

琉兵衛は新聞に掲載された完成予想図を睨みつける。

 

「こんなもの、この街に相応しくない!」

 

「風都の景観が台無しだ!」

 

「そうは思わんかね、若菜。」

 

若菜は父親に微笑みかける。

 

「えぇ。」

 

「お父様の仰る通りですわ。」

 

「そもそも、こんな計画を推し進める楠原みやびとかいう市議……。」

 

若菜の表情から笑みが消える。

 

「この計画を潰すために、冴子姉様は何をしているの?」

 

「ほんっと、使えないんだから。」

 

琉兵衛は一瞬目を丸くした。

 

そして――。

 

「わはははは!」

 

豪快に笑い出す。

 

「若菜よ。」

 

「そこまで言わなくてもいい。」

 

「……お父様。」

 

若菜は少し気まずそうに笑う。

 

「申し訳ありません。」

 

「ついつい……。」

 

そして再び穏やかな笑顔を浮かべる。

 

「でも、大丈夫ですわよね。」

 

「お姉様には……。」

 

少し間を置く。

 

「頼りになる婿さまがいますから。」

 

琉兵衛の口元がゆっくりと吊り上がる。

 

「ふむ。」

 

「確かにそうだな。」

 

ワイングラスを手に取り、ゆっくりと揺らす。

 

「婿殿……。」

 

「一体どれほどの実力を見せてくれるのか。」

 

若菜は楽しそうに笑う。

 

「お父様。」

 

「きっと、お姉様なら上手くやりますわ。」

 

琉兵衛は窓の外へ視線を向ける。

 

遠くには風都の街明かり。

 

そして、その向こうに建設予定地がある。

 

「……第二風都タワー。」

 

琉兵衛は静かに呟いた。

 

「この街には必要ない。」

 

「風都には、風都の姿がある。」

 

「それを壊す者には――。」

 

グラスをテーブルへ置く。

 

コトン。

 

「それ相応の報いを受けてもらわねばな。」

 

若菜が父を見る。

 

「では……。」

 

「冴子姉様たちに任せておけばよろしいのですね?」

 

琉兵衛は微笑む。

 

「ああ。」

 

「お手並み拝見といこうかね。」

 

「冴子と――。」

 

「婿殿の実力とやらを。」

 

その言葉と同時に、屋敷の地下深く。

 

巨大な地球の模型が静かに回転していた。

 

そしてその中央には――。

 

無数のガイアメモリ。

 

「地球の記憶」

 

それを管理する巨大な組織。

 

ミュージアム。

 

その頂点に立つ男は、まだ知らない。

 

自分たちの計画を妨げる存在が、この街に現れたことを。

 

仮面ライダーW。

 

そして――。

 

異世界から現れた、かつてクライシス帝国に仕えた女。

 

マリバロン。

 

風都の運命を巡る三つ巴の戦いが、静かに動き始めていた。

 

 

風都警察署。

 

取調室の中央で、先ほどのアノマロカリス・ドーパントの男が椅子に縛られていた。

 

その前に立っているのは――マリバロン。

 

「起きろ。」

 

男はぐったりしている。

 

「起きぬか!」

 

パァン!!

 

乾いた音が響く。

 

「うっ……!」

 

男が顔を上げる。

 

「……まだ寝ぼけているようだな。」

 

パァン!!

 

「痛っ!」

 

「起きろと言っておる!!」

 

パァン!!

 

「ひぃっ!」

 

パァン!!

 

パァン!!

 

パァン!!

 

もはや尋問というより、延々と続くビンタである。

 

「えぇい!」

 

「さっさと白状しろ!」

 

「なぜあの親子を狙ったのだ!!」

 

少し離れたところで見ている翔太郎と亜樹子。

 

二人とも、完全に引いている。

 

亜樹子が小声で呟く。

 

「……ねぇ、翔太郎君。」

 

「なんだよ。」

 

「なんかマリバロンさん、私たちより熱くない?」

 

「……。」

 

「ひょっとして――。」

 

亜樹子は翔太郎を見る。

 

「翔太郎君よりハードボイルドだったりして。」

 

「なにを~~~~!!」

 

翔太郎が露骨な変顔で亜樹子を睨む。

 

「俺のハードボイルドを何だと思ってんだ!」

 

「いやいや、ビンタで解決するハードボイルドなんて聞いたことないって!」

 

「うるせぇ!」

 

その間にも――。

 

パァン!!

 

「ぐぅっ!」

 

マリバロンは止まらない。

 

「貴様!」

 

「目的を言わぬのなら――。」

 

紫色の魔力が、指先に集まり始める。

 

「今度は怪魔妖族の実験材料にしてやる!」

 

「死ぬよりも辛い思いをさせてやるぞ!!」

 

男の顔が青ざめる。

 

「ひ、ひぃぃ……!」

 

「わ、分かった!」

 

「話す!話します!」

 

マリバロンが腕を組む。

 

「最初からそうすればよいのだ。」

 

男は震えながら口を開く。

 

「た、鷹村さんの指示で……やったんだ。」

 

「うぅ……。」

 

その言葉に、部屋の空気が変わった。

 

楠原みやびが驚いて声を上げる。

 

「鷹村……?」

 

「それって……。」

 

「第二風都タワー建設予定地の、土地交渉を担当している先方の鷹村さんです!」

 

「鷹村……」

 

翔太郎は腕を組む。

 

「なるほどな。」

 

「そいつが黒幕で、楠原さんを狙ってたってわけか。」

 

「それだけじゃねぇ。」

 

「その土地に、何か秘密があるのかもしれない。」

 

フィリップが静かに続ける。

 

「翔太郎。」

 

「もしかすると――。」

 

「そこにはミュージアムの工場、あるいは研究施設が存在する可能性がある。」

 

翔太郎の目が鋭くなる。

 

「ミュージアムの……。」

 

「工場。」

 

「一度、現場を調べ直す必要があるな。」

 

その瞬間。

 

マリバロンが立ち上がった。

 

「ならば――。」

 

「私はその現場とやらに行きたい!!」

 

全員が振り返る。

 

「えぇい!」

 

「何をもたもたしておる!!」

 

「こんなことをしている場合か!」

 

「今この瞬間にも、楠原親子が命の危険に晒されているのだぞ!!」

 

翔太郎が苦笑する。

 

「姉さん、ちょっと落ち着け。」

 

「これが落ち着いていられるか!!」

 

マリバロンは机を叩く。

 

「守りを固めて攻める!」

 

「それしかないだろうが!!」

 

「敵の目的が土地にあるならば、そこを押さえればよい!」

 

「敵の拠点があるなら、叩き潰す!」

 

「単純明快ではないか!」

 

亜樹子が目を丸くする。

 

「……なんか、すごい。」

 

翔太郎も苦笑する。

 

「完全にスイッチ入ってるな……。」

 

その時。

 

部屋の隅にいたあすかが、マリバロンをじっと見つめていた。

 

「……。」

 

勇ましく立つ姿。

 

誰よりも堂々と敵へ立ち向かう姿。

 

怖いはずなのに――。

 

あすかには、なぜか頼もしく見えた。

 

「お姉ちゃん……。」

 

マリバロンが振り返る。

 

「なんだ、小娘。」

 

あすかは目を輝かせていた。

 

「かっこいい……。」

 

マリバロンは一瞬、言葉を失う。

 

「……何?」

 

「お姉ちゃん、強くて勇敢で……。」

 

「私も、お姉ちゃんみたいになりたい。」

 

マリバロンは困ったように眉をひそめる。

 

「……私は、お前が思っているような人間ではない。」

 

「昔は、人間を守るために戦うような者ではなかった。」

 

あすかは首を傾げる。

 

「でも、今は守ってくれるよ。」

 

「……。」

 

マリバロンは答えられない。

 

やがて、ふっと顔を背ける。

 

「……くだらん。」

 

しかし、その口元にはほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。

 

その様子を見ていたフィリップが、静かに呟く。

 

「翔太郎。」

 

「ああ?」

 

「マリバロンは、もうこの街を自分の居場所だと思い始めているのかもしれないね。」

 

翔太郎は帽子を被り直す。

 

「……かもな。」

 

マリバロンは二人を睨む。

 

「何をこそこそ話しておる!」

 

「早く現場へ向かうぞ!!」

 

「はいはい。」

 

亜樹子が笑う。

 

「じゃあ行きましょうか、マリバロンさん。」

 

「うむ!」

 

その返事だけは、妙に威勢がよかった。

 

 

風都郊外――。

 

人目につかない工業地帯の一角。

 

巨大な建物が、夜の闇に沈んでいた。

 

表向きは何の変哲もない工場。

 

しかし、その地下では――。

 

無数の機械が規則正しく稼働していた。

 

ガラスケースの中に並べられた無数のガイアメモリ。

 

製造ラインを流れるメモリ。

 

そして、それらを監視する白衣の研究員たち。

 

ここは――。

 

ミュージアムのガイアメモリ製造工場。

 

その最奥部。

 

工場長室の扉が開く。

 

「……どういうこと?」

 

冷たい声が響いた。

 

部屋に入ってきたのは、一人の美しい女。

 

園崎冴子。

 

表向きは風都のIT企業――ディガール・コーポレーションを率いる女社長。

 

そして裏では、ガイアメモリの開発・製造・流通を統括するミュージアム幹部。

 

冴子は机の前に立つ男を、冷たい目で見下ろしていた。

 

「楠原の始末が遅れている。」

 

「それどころか……。」

 

机の上に資料を叩きつける。

 

「第二風都タワーの土地売買まで進んでいるじゃない。」

 

「どういうこと?」

 

男――工場長の鷹村は、額に汗を浮かべる。

 

「は、はい……。」

 

「その……申し訳ございません。」

 

冴子が一歩近づく。

 

「分かっているの?」

 

「あなたの代わりなんて、いくらでもいるのよ。」

 

「は、はい!」

 

鷹村は慌てて頭を下げる。

 

「申し訳ございません!」

 

「ですが……まだ手はあります。」

 

「アノマロカリス・メモリが……。」

 

「まだ一つ残っています。」

 

冴子の目が細くなる。

 

「……そう。」

 

鷹村は少しだけ安堵した。

 

「それに――。」

 

「もしよろしければ、旦那様のお力をお借りできませんでしょうか?」

 

冴子の隣に立っていた男が、ゆっくりと前へ出る。

 

長身。

 

端正な顔立ち。

 

そして、どこか底知れない冷たさを感じさせる男。

 

園崎霧彦。

 

冴子の夫であり、ミュージアムの幹部。

 

霧彦は穏やかな笑みを浮かべた。

 

「私の力が必要なら、協力しますよ。」

 

懐から一本のガイアメモリを取り出す。

 

「ちょうど、このナスカメモリの性能を試すにはいい機会です。」

 

鷹村は安堵の表情を浮かべる。

 

「ありがとうございます!」

 

しかし――。

 

冴子は冷めた目で夫を見る。

 

「……ふん。」

 

「結果次第では、この工場は閉鎖よ。」

 

「えっ……。」

 

鷹村の顔から血の気が引く。

 

「冴子さん、それは……。」

 

「当然でしょう?」

 

冴子は淡々と言う。

 

「失敗する工場を残しておくほど、ミュージアムは甘くないわ。」

 

霧彦は苦笑する。

 

「相変わらず厳しいですね。」

 

「あなたにも同じことが言えるわ。」

 

冴子は踵を返す。

 

そして、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

 

(仮面ライダーW……。)

 

(ビギンズナイトの雪辱。)

 

その言葉に、冴子の表情がわずかに険しくなる。

 

(今度こそ……。)

 

しかし、父・琉兵衛からの命令が脳裏をよぎる。

 

――仮面ライダーには手を出すな。

 

――私の計画を妨害してきた時のみ対応しろ。

 

――それ以外は泳がせておけ。

 

冴子は小さく舌打ちする。

 

(……何を考えているの、お父様。)

 

(仮面ライダーWを放っておけですって?)

 

(あれほどの脅威を……。)

 

そしてもう一つ。

 

冴子の脳裏に、先ほど報告された「謎の女」の情報が浮かぶ。

 

――マリバロン。

 

――紫色の結界。

 

――未知の妖術。

 

――仮面ライダーと共に行動している異様な女。

 

冴子は資料に目を落とす。

 

そこには、マリバロンの監視映像が映っていた。

 

「……あの女。」

 

「一体、何者なのかしら。」

 

冴子の目が鋭くなる。

 

一方、霧彦はナスカメモリを眺めながら、楽しそうに笑っていた。

 

「未知の力を持つ女性。」

 

「仮面ライダーW。」

 

「そして私のナスカ。」

 

「……面白くなってきましたね。」

 

工場の奥で、無数のガイアメモリが青白い光を放つ。

 

風都を巡る戦いは――。

 

確実に次の段階へ進もうとしていた。

 

 

市議会議事堂――屋上。

 

夕暮れの風が、風都の街を吹き抜けていた。

 

屋上のベンチには、楠原あすか。

 

その隣には翔太郎とマリバロンが立っている。

 

あすかは、何度も市街地の方を見つめていた。

 

「……パパ、まだ帰ってこないの。」

 

そしてマリバロンを見上げる。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。」

 

「パパ、いつ帰ってくるのかな?」

 

マリバロンは少女を見つめる。

 

何か言おうとして――。

 

目を細める。

 

そして、無言で視線を逸らした。

 

翔太郎はそんなマリバロンを横目で見る。

 

(……俺が言わなきゃならねぇ。)

 

耳元からフィリップの声がする。

 

『翔太郎。』

 

「ああ……。」

 

『真実を話すべきだ。』

 

「……分かってる。」

 

『彼女はもう、真実を受け止められる。』

 

翔太郎は頭を掻く。

 

「ったく……。」

 

「しょうがねぇな。」

 

そして、あすかの前にしゃがみ込む。

 

「あすかちゃん。」

 

「いいか?」

 

「心を強く持って聞くんだ。」

 

あすかはキョトンとする。

 

「……?」

 

翔太郎は唇を噛む。

 

「あのな……。」

 

「実はな……。」

 

「君のお父さんは……。」

 

「えっとな……。」

 

言葉が出てこない。

 

その横でマリバロンが腕を組む。

 

しばらく翔太郎を見ていたが――。

 

とうとう我慢の限界を迎えた。

 

「ええい!」

 

「焦ったい!!」

 

翔太郎が振り返る。

 

「姉さん?」

 

マリバロンはあすかを真っ直ぐ見つめた。

 

「いいか、小娘!」

 

「お前の父親は――。」

 

一瞬の間。

 

「もう、この世におらぬ!」

 

翔太郎の顔が凍る。

 

「これは紛れもない事実だ!」

 

「……!」

 

翔太郎がカッとなる。

 

「おい!」

 

「姉さん!」

 

「そんな言い方はねぇだろ!」

 

マリバロンもカッとなった。

 

「黙れ!」

 

「黙らぬか!!」

 

翔太郎の襟元を掴む。

 

「真実から逃げて何になる!」

 

「真実を受け入れることこそ、人の成長なのだ!」

 

「そんなことだから――。」

 

マリバロンの目が鋭くなる。

 

「仲間からハーフボイルドなどと揶揄されるのだ!!」

 

「……。」

 

翔太郎は何も言い返せなかった。

 

フィリップの声も聞こえない。

 

ただ、風の音だけが屋上に響く。

 

やがて――。

 

あすかが静かに口を開いた。

 

「……お姉ちゃん。」

 

マリバロンが振り返る。

 

「なんだ。」

 

「教えてくれて……ありがとう。」

 

マリバロンの目がわずかに見開かれる。

 

あすかは抱えていたぬいぐるみを胸に抱きしめる。

 

「私、このぬいぐるみ……。」

 

「いつまでも大事にするね。」

 

「パパが買ってくれたものだから。」

 

翔太郎は黙って少女を見る。

 

マリバロンもまた、じっとあすかを見つめていた。

 

そして二人は――。

 

小さく息を吐いた。

 

(……よかった。)

 

あすかは泣いていた。

 

しかし、逃げてはいなかった。

 

マリバロンが腕を組む。

 

「小娘。」

 

「……はい。」

 

「偉いぞ!」

 

あすかが顔を上げる。

 

「え?」

 

「よくぞ真実を受け止めた!」

 

マリバロンは満足そうに頷く。

 

「よし!」

 

「ええい!」

 

「もう第二風都タワーの建設など、どうでもよい!」

 

翔太郎が目を丸くする。

 

「は?」

 

「この少女に祝杯だ!」

 

「今日は酒盛りだ!!」

 

「いや、未成年に酒飲ませんなよ!」

 

翔太郎が即座に突っ込む。

 

その時――。

 

「何を勝手なことを言っているんですか!!」

 

鋭い声。

 

振り返ると、そこには楠原みやびが立っていた。

 

腕を組み、怒りに満ちた表情でマリバロンを睨んでいる。

 

「第二風都タワーの建設をどうでもいいですって?」

 

マリバロンは眉をひそめる。

 

「うむ。」

 

「断固としてどうでもよい!」

 

「この小娘の心のほうが――。」

 

「ダメです!」

 

みやびが遮る。

 

「建設は――。」

 

一歩前へ出る。

 

「風都の、そして私たち家族の夢なんです!」

 

翔太郎は少し驚いた顔でみやびを見る。

 

みやびは続ける。

 

「主人も、この計画に賭けていました。」

 

「私たち家族が前へ進むためにも……。」

 

「あすかがいつか、大人になったときに誇れる風都を作るためにも。」

 

「私は絶対に諦めません。」

 

マリバロンは黙ってみやびを見る。

 

そして――。

 

「……なるほど。」

 

「お前もまた、譲れぬものを持っているというわけか。」

 

みやびは頷く。

 

「ええ。」

 

マリバロンは風都の街を見下ろす。

 

(この世界の人間は……。)

 

(弱いだけではない。)

 

(失ったものを抱えながら、それでも未来へ進もうとする。)

 

その時、遠くから風が吹き抜けた。

 

マリバロンの髪が揺れる。

 

「……面白い。」

 

「ますます、この世界を知りたくなってきた。」

 

そして彼女は、誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。

 

「クライシス皇帝……。」

 

「私は今、少しだけ分からなくなってきました。」

 

「この世界を滅ぼすことが、本当に悲願だったのでしょうか――。」

 

マリバロン自身も、その問いの答えをまだ知らなかった。

 

 

「建設は風都の、そして私たち家族の夢なんです!」

 

みやびがそう言い切った――その瞬間だった。

 

ヒュンッ!!

 

「えっ――?」

 

あすかの身体が、一瞬で視界から消えた。

 

「きゃあああっ!」

 

「なに!?」

 

翔太郎が振り返る。

 

そこには、巨大な異形の怪人が立っていた。

 

長い腕。

 

魚類とも節足動物ともつかない不気味な身体。

 

そして、その腕には――あすか。

 

「アノマロカリス……ドーパント!」

 

翔太郎が叫ぶ。

 

「もう一匹いたのか!」

 

怪人はあすかを抱えたまま、不敵に笑う。

 

「へへへ……。」

 

「こいつはいただいていくぜ!」

 

「小娘!」

 

マリバロンが叫ぶ。

 

「今、救うぞ!!」

 

マリバロンの手から無数の紫色の光弾が放たれる。

 

「食らえ!!」

 

ドドドドドッ!!

 

しかし――。

 

ギィン!

 

鋭い弾丸が飛来し、光弾を次々と撃ち落としていく。

 

「なに!?」

 

「……!」

 

マリバロンが目を見開く。

 

アノマロカリスはあすかを抱えたまま笑う。

 

「こんなんでやられる俺じゃねーよ!」

 

「お姉ちゃーーん!!」

 

あすかが叫ぶ。

 

「マリバロンお姉ちゃん!!」

 

マリバロンの顔色が変わる。

 

「待て!」

 

その瞬間――。

 

ギュン!!

 

弾丸が翔太郎を直撃する。

 

「ぐあっ!」

 

翔太郎の身体が大きく弾き飛ばされる。

 

「翔太郎!」

 

マリバロンが振り返る。

 

翔太郎の身体はそのままビルの屋上から落下していく。

 

「くっ……!」

 

「翔太郎!!」

 

しかし翔太郎は落下しながら、懐から小型のガジェットを取り出した。

 

「逃がすかよ……!」

 

シュッ!!

 

ワイヤー付きの小型発信機が射出される。

 

それは正確にアノマロカリス・ドーパントへ取り付いた。

 

「へへへ……。」

 

怪人は気付かない。

 

「これで、小娘はいただきだ!」

 

「また会おうぜ!」

 

そのまま、あすかを抱えたまま闇の中へ消えていく。

 

「待て!!」

 

マリバロンは追おうとする。

 

しかし――。

 

「……。」

 

足を止める。

 

悔しそうに拳を握る。

 

「……くっ。」

 

「小娘……。」

 

その時、マリバロンはふとビルの下を見下ろした。

 

すると――。

 

ビルの壁面から伸びたワイヤー。

 

そして、その先にぶら下がっている翔太郎の姿が見えた。

 

「……。」

 

マリバロンは目を細める。

 

翔太郎はガジェットを操作しながら、どうにか命を繋いでいた。

 

「ふん。」

 

「仮面ライダーにならずとも……。」

 

「機転は十分に利くようだな。」

 

翔太郎は息を切らしながら通信機を取り出す。

 

「フィリップ……!」

 

「フィリップ!!」

 

すぐに返事が返ってくる。

 

『来たね、翔太郎。』

 

「……ああ!」

 

翔太郎はガジェットを足場にして地上へ降りる。

 

そして、二本のガイアメモリを手に取った。

 

「サイクロン!」

 

「ジョーカー!」

 

『CYCLONE!』

 

『JOKER!』

 

風が吹き荒れる。

 

翔太郎とフィリップが一つになる。

 

仮面ライダーW。

 

「よし……。」

 

その瞬間――。

 

ドドドドドッ!!

 

「っ!!」

 

Wの周囲に無数の光弾が飛び交う。

 

「なんだ!?」

 

マリバロンも咄嗟に結界を張る。

 

「下がれ、仮面ライダー!」

 

ドォン!!

 

床が爆発する。

 

Wが飛び退く。

 

「一体どこから……!」

 

フィリップが上空を見上げる。

 

『翔太郎。』

 

『上だ。』

 

「何!?」

 

二人が見上げる。

 

風都の夜空。

 

そこには――。

 

見たことのない異形の怪人が、ビルの屋上からこちらを見下ろしていた。

 

人間のようなシルエット。

 

しかし、その身体には異様な装甲。

 

そして両手には、見たこともない武器。

 

怪人はゆっくりと笑う。

 

「やぁ。」

 

「仮面ライダー君!」

 

マリバロンは怪人を睨みつける。

 

「……また新たな怪人か。」

 

怪人は軽く手を振る。

 

「君は……。」

 

「確か、最近この街に現れた不思議な女だね。」

 

マリバロンの目が鋭くなる。

 

「……私を知っているのか?」

 

「もちろん。」

 

「君たちのことは、調べさせてもらったよ。」

 

Wが構える。

 

「てめぇ……。」

 

「目的はなんだ!」

 

怪人は笑みを浮かべる。

 

「目的?」

 

「そんなものは決まっているじゃないか。」

 

怪人の視線が、マリバロンへ向く。

 

「――君たちを倒すことさ。」

 

マリバロンの表情が変わる。

 

「……面白い。」

 

「ならば、こちらも遠慮はせぬ。」

 

そして翔太郎が叫ぶ。

 

「フィリップ!」

 

『ああ。』

 

二人が構える。

 

風都の夜空に、三者の殺気が交錯した。

 

その一方で――。

 

アノマロカリス・ドーパントに連れ去られたあすかは、まだ知らない。

 

自分を救うために、マリバロンがどこまで戦うことになるのかを。

 

そして――。

 

この誘拐そのものが、ミュージアムによって仕組まれた次なる計画の始まりだったことを。

 

 

風都の夜。

 

ビルの屋上に立つ青い怪人は、ゆっくりと剣を構えた。

 

その姿は、まるで青き騎士。

 

「手合わせといこうか。」

 

「仮面ライダー君。」

 

そしてマリバロンへ視線を移す。

 

「そして……美しいお姉さん。」

 

マリバロンの眉がわずかに動く。

 

「……。」

 

怪人――ナスカ・ドーパントが剣を振り抜く。

 

ヒュンッ!!

 

鋭い斬撃が二人を襲う。

 

「姉さん、下がってろ!」

 

翔太郎が前へ出る。

 

マリバロンは少し考えたあと、腕を組んだ。

 

「ふむ。」

 

「ここは任せる。」

 

数歩後ろへ下がる。

 

(お手並み拝見といこうか。)

 

(新たな敵の能力。)

 

(そして……仮面ライダーWのポテンシャルとやらを。)

 

Wはガイアメモリを切り替える。

 

「サイクロン!」

 

「メタル!」

 

『CYCLONE!』

 

『METAL!』

 

緑と銀の装甲へ変化。

 

メタルシャフトを構える。

 

「はぁっ!」

 

ガキィィン!!

 

ナスカの剣とメタルシャフトが激突する。

 

「フフ……。」

 

ナスカが笑う。

 

「このナスカの力に勝てるかな?」

 

「ナスカ……。」

 

フィリップがその名に反応する。

 

『翔太郎。』

 

「ああ?」

 

『あのメモリ……。』

 

『そして、あの腰のベルト。』

 

フィリップの声が鋭くなる。

 

『彼はただのドーパントじゃない。』

 

『おそらく――ミュージアムの幹部クラスだ。』

 

マリバロンの眉がピクリと動く。

 

「……幹部?」

 

「ミュージアムの幹部だと?」

 

マリバロンはナスカを見つめる。

 

(我もクライシス帝国の幹部。)

 

(この世界にも、組織を率いる者たちがいるのか。)

 

(ならば――。)

 

「私と同格か……。」

 

口元に不敵な笑みが浮かぶ。

 

「……面白い。」

 

ナスカはその言葉を聞き逃さなかった。

 

「ほう?」

 

「私を同格と呼ぶとは。」

 

「君は一体、何者なのかな?」

 

マリバロンは答えない。

 

「貴様が知る必要はない。」

 

「ただ――。」

 

「その程度の力で、私を測ることはできぬ。」

 

ナスカが笑う。

 

「ますます興味深い!」

 

「ならば、もう少し楽しませてもらおう!」

 

ザシュッ!!

 

激しい剣撃。

 

Wはメタルシャフトで必死に受け止める。

 

「くっ!」

 

「翔太郎!」

 

『ああ、フィリップ!』

 

翔太郎が叫ぶ。

 

「サイクロン!」

 

「トリガー!」

 

『CYCLONE!』

 

『TRIGGER!』

 

Wがルナトリガーへ変身。

 

トリガーマグナムを構える。

 

「これならどうだ!」

 

ナスカが踏み込んだ瞬間――。

 

「おおおっ!!」

 

ダダダダダダッ!!

 

至近距離から大量の弾丸を撃ち込む。

 

「ぐっ!」

 

ナスカが後退する。

 

弾丸が次々と命中。

 

「なるほど……!」

 

爆煙がナスカの姿を包む。

 

Wは警戒する。

 

「やったか……?」

 

しかし――。

 

「……。」

 

煙の向こうから、ナスカが立ち上がる。

 

傷を負いながらも、その口元には笑み。

 

「ふふ……。」

 

「面白い。」

 

その直後。

 

マリバロンが手を広げる。

 

「翔太郎!」

 

「ここは引くぞ!」

 

「え?」

 

「今はあの小娘を救うことが先だ!」

 

マリバロンの魔力が周囲に広がる。

 

紫色の煙幕が一気に屋上を覆い尽くす。

 

「なっ――!」

 

ナスカが目を細める。

 

「これは……!」

 

煙の中で、Wとマリバロンの姿が消えていく。

 

「待て!」

 

しかし、もう遅い。

 

屋上には静寂だけが残った。

 

ナスカは煙の向こうを見つめる。

 

やがて変身を解除した霧彦は、剣を肩に担ぐ。

 

「仮面ライダー……。」

 

そして――。

 

楽しそうに笑った。

 

「ふふ。」

 

「面白い連中だ。」

 

「これからが楽しみだよ。」

 

霧彦にとって、今日まで仮面ライダーは単なる障害に過ぎなかった。

 

しかし今――。

 

初めて、一人の戦士として認めた。

 

仮面ライダーW。

 

それは、ナスカ・ドーパント――園崎霧彦が、仮面ライダーを自らのライバルと認めた瞬間だった。

 

 

風都警察署。

 

楠原みやびは、椅子に座ったまま震えていた。

 

「……あすか。」

 

「どうすれば……。」

 

側近たちが必死に声をかける。

 

「楠原先生、落ち着いてください。」

 

「必ず警察が見つけます。」

 

しかし――。

 

「落ち着けるわけないでしょう!」

 

みやびが声を荒らげる。

 

「実の娘が拉致されたのよ!」

 

「私が……私が母親なのに……!」

 

誰にも止めることはできなかった。

 

その時。

 

ピピピ……。

 

携帯電話が鳴る。

 

みやびが画面を見る。

 

送信者――不明。

 

メールには、短い文章だけが表示されていた。

 

吹上町の廃工場に一人で来い。

 

「……!」

 

みやびは周囲を見渡す。

 

警察に知らせるべきだ。

 

そんなことは分かっている。

 

しかし――。

 

(あすかがいるかもしれない。)

 

みやびは携帯電話を握りしめる。

 

「……私が行く。」

 

誰にも告げず、席を立った。

 

吹上町・廃工場

 

錆びた鉄骨。

 

割れた窓。

 

風に揺れる古びた看板。

 

みやびが恐る恐る工場の入口へ近づく。

 

「……あすか。」

 

すると――。

 

暗闇の中から、一人の女が姿を現した。

 

「来たか。」

 

「……!」

 

そこに立っていたのはマリバロンだった。

 

みやびは驚く。

 

「マリバロンさん……。」

 

「あなたも一人で来たの?」

 

「お願い!」

 

「私は一人で行かせて!」

 

マリバロンは腕を組む。

 

「ならぬ!!」

 

「我々は依頼者を守ることが勤め!」

 

「貴様を一人で行かせるわけにはいかん!」

 

「でも……!」

 

マリバロンは懐から何かを取り出した。

 

それは――。

 

古びた、不思議な手鏡。

 

紫色の装飾が施されている。

 

「ならば。」

 

「これを持っていくといい。」

 

「……な、何なのよ、これ?」

 

みやびは鏡を受け取る。

 

「ふざけてるの?」

 

マリバロンは口元を吊り上げる。

 

「ホホホホホ……。」

 

「それは後のお楽しみだ。」

 

「さあ!」

 

「娘を救ってみせよ!」

 

「母親の意地を見せてみよ!!」

 

みやびは怪訝そうに鏡を見る。

 

「……本当に大丈夫なの?」

 

「心配するな。」

 

「その鏡は、必ず役に立つ。」

 

「……?」

 

みやびは覚悟を決め、廃工場へ入っていった。

 

マリバロンはその背中を見送る。

 

「……さて。」

 

「もうすぐ来る頃だな。」

 

地下へ続くエレベーター。

 

みやびは一人、ゆっくりと降りていく。

 

「……なんなのよ。」

 

「マリバロンさんって……。」

 

手に持った鏡を見る。

 

「本当に、あのおばさんは……。」

 

チン――。

 

扉が開く。

 

「……!」

 

目の前に広がっていたのは、薄暗い廃工場。

 

その中央。

 

一本の柱にロープで縛られている少女。

 

「……あすか!」

 

「ママ!!」

 

「ママぁ!!」

 

みやびが駆け寄ろうとする。

 

しかし、その前に男が立ちはだかる。

 

「待ってくださいよ。」

 

「楠原さん。」

 

鷹村。

 

工場長の男だった。

 

みやびの顔が青ざめる。

 

「……鷹村さん。」

 

「あなたが……。」

 

「この事件の黒幕だったのですね。」

 

鷹村はニヤニヤと笑う。

 

「土地買収なんかされちゃあ、困るんですよねぇ。」

 

「こっちは色々と都合がありましてね。」

 

そして、あすかを見る。

 

「しかし……。」

 

「葛原さん。」

 

「あなたの娘さん、本当に笑わないねぇ。」

 

「僕とオモチャの趣味が合わない……のかな!!」

 

鷹村が手にしていたヨーヨーを――。

 

ガンッ!!

 

床へ叩きつける。

 

乾いた音が廃工場に響く。

 

「……!」

 

みやびが怯む。

 

「やめて!」

 

「お願い!」

 

「あすかを……あすかを返して!」

 

鷹村は笑う。

 

「そうはいきませんよ。」

 

「せっかくだ。」

 

「こっちのオモチャで遊んでもらいましょう。」

 

鷹村がガイアメモリを取り出す。

 

「アノマロカリス!!」

 

ギュイィィィン!!

 

身体が異形へと変貌する。

 

長い腕。

 

巨大な顎。

 

古代生物を思わせる不気味な姿。

 

「グオオオオオ!!」

 

みやびが後ずさる。

 

「いやぁぁぁ!!」

 

その時だった。

 

みやびが持っていた手鏡が――。

 

ピカッ。

 

怪しく紫色に光り始める。

 

「……え?」

 

アロマノカリスが鏡を見る。

 

「なんだ、それ?」

 

「ははっ!」

 

「脅しのつもりか?」

 

みやびは震えながら鏡を掲げる。

 

「わ、私は……。」

 

その瞬間。

 

鏡の中から声が響く。

 

「脅しではない。」

 

「……!」

 

紫色の光が一気に強くなる。

 

「なっ!?」

 

ビュンッ!!

 

鏡の中からビームウィップが飛び出した。

 

「グアッ!?」

 

ロープが一瞬で切断される。

 

あすかが床へ落ちる。

 

「きゃっ!」

 

「危ない!」

 

みやびが抱きしめる。

 

そして――。

 

鏡の表面が水面のように揺らぐ。

 

その中から、一人の女がゆっくりと姿を現した。

 

「ホホホホホ……。」

 

マリバロン。

 

「鏡渡りの術!」

 

「これぞ、怪魔妖族に伝わりし秘術!!」

 

アノマロカリスは後ずさる。

 

「な、なんだこいつは!?」

 

マリバロンはあすかを背に庇う。

 

「遅いぞ、鷹村。」

 

「その小娘に手を出したこと――。」

 

「後悔させてやろう。」

 

そして――。

 

マリバロンは不敵に笑った。

 

「ホホホホホ!」

 

「そして――。」

 

「来たな、仮面ライダー!!」

 

「え?」

 

鷹村が振り返る。

 

廃工場の入口から風が吹き込む。

 

「サイクロン!」

 

「ジョーカー!」

 

『CYCLONE!』

 

『JOKER!』

 

仮面ライダーWが現れる。

 

翔太郎がマリバロンを見る。

 

「姉さん!」

 

「早すぎだぞ!」

 

「なんで発信機より早いんだよ!」

 

マリバロンは鼻で笑う。

 

「当然だ。」

 

「私を誰だと思っている。」

 

フィリップが興味深そうに鏡を見る。

 

『なるほど……。』

 

『空間そのものを繋げているのか。』

 

『さすが異次元の秘術だね。』

 

マリバロンは胸を張る。

 

「そうだ!」

 

「私の妖術を甘く見るな!」

 

翔太郎が苦笑する。

 

「……頼もしい姉さんだぜ。」

 

Wが構える。

 

マリバロンもビームウィップを構える。

 

その後ろでは、あすかが母親に抱きしめられていた。

 

鷹村――いや、アノマロカリス・ドーパントは二人を睨みつける。

 

「……仮面ライダー。」

 

「そして、あの妙な女。」

 

「二人まとめて――。」

 

「俺のオモチャにしてやるよ!!」

 

Wとマリバロンが同時に構える。

 

「上等だ。」

 

「望むところだ。」

 

戦いの緊張が張り詰める中――。

 

みやびは、あすかを強く抱きしめていた。

 

そこにいたのは、市議会議員としての楠原みやびではない。

 

一人の母親だった。

 

「あすか……!」

 

「よかった……。」

 

「無事でよかった……!」

 

みやびの声が震える。

 

あすかは母の胸の中で、静かに首を振った。

 

「ママ。」

 

「私、大丈夫。」

 

「泣かなかったよ。」

 

「……え?」

 

みやびが顔を上げる。

 

あすかは涙を見せず、まっすぐ母親を見つめていた。

 

「だってね。」

 

「あのお姉ちゃんと――。」

 

ちらりとマリバロンを見る。

 

「仮面のおじさんが助けてくれるって、信じてたから。」

 

「……。」

 

翔太郎の顔が固まる。

 

「え?」

 

「あ?」

 

そして、自分を指差す。

 

「おじさん?」

 

「おいおい、あすかちゃん。」

 

「俺、まだそんな歳じゃ――。」

 

マリバロンが鼻で笑う。

 

「フッ……。」

 

翔太郎が振り返る。

 

「姉さん、笑ったな!?」

 

「何のことだ?」

 

「いや、今絶対笑っただろ!」

 

マリバロンは無視してアロマノカリスを睨む。

 

「……仮面ライダー。」

 

「奴を倒せ。」

 

「この事件を無事に解決してみせよ。」

 

翔太郎は一瞬だけマリバロンを見る。

 

そして、静かに頷いた。

 

「あ、あぁ。」

 

「任せろ。」

 

「行くぞ、フィリップ!」

 

『ああ、翔太郎!』

 

二人がガイアメモリを構える。

 

「ルナ!」

 

「トリガー!」

 

『LUNA!』

 

『TRIGGER!』

 

Wの姿が鮮やかな黄色と青色へ変化する。

 

ルナトリガー。

 

その手にはトリガーマグナム。

 

「さぁ……。」

 

「追い詰めるぜ!」

 

アノマロカリスが咆哮する。

 

「グオオオオオ!!」

 

巨大な鉤爪を振り上げ、Wへ突進。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

ガキィン!!

 

しかし――。

 

Wは後退しながらトリガーマグナムを構える。

 

「そこだ!」

 

ダダダダダッ!!

 

青白い弾丸が放たれる。

 

しかし、その弾丸は――。

 

ヒュンッ!

 

あり得ない角度へ曲がる。

 

「なっ!?」

 

さらに別の弾丸が壁を回り込み、背後から襲う。

 

「ぐああっ!」

 

「弾が……曲がる!?」

 

アロマノカリスが必死に身を捻る。

 

「くぅぅっ!」

 

フィリップが告げる。

 

『翔太郎、ルナメモリの力だ。』

 

『敵の動きを予測して、弾道を自在に変化させられる。』

 

「へっ。」

 

「逃げ道はねぇってことだ!」

 

しかしアノマロカリスは突然、横の配管を破壊する。

 

ドガァン!!

 

大量の水が噴き出す。

 

「なに!?」

 

「グオオオオ!」

 

アロマノカリスは水の中へ飛び込んだ。

 

そして――。

 

ザバァッ!!

 

床に広がった水を利用して、猛スピードで逃走する。

 

「逃げた!」

 

翔太郎が叫ぶ。

 

マリバロンが目を細める。

 

「水……。」

 

「なるほど。」

 

「奴は水辺では異常な機動力を発揮するというわけか。」

 

フィリップが頷く。

 

『その可能性が高い。』

 

『アノマロカリスという古代生物の特性を、ガイアメモリが再現しているのだろう。』

 

翔太郎が走り出す。

 

「だったら追うまでだ!」

 

マリバロンも続く。

 

「待て、仮面ライダー!」

 

「私も行く!」

 

「おう!」

 

二人は廃工場を飛び出す。

 

その後ろから、みやびが叫ぶ。

 

「二人とも!」

 

「気をつけて!」

 

あすかも大きな声で叫ぶ。

 

「お姉ちゃん!」

 

「仮面のおじさん!」

 

翔太郎が振り返る。

 

「……だからおじさんじゃねぇって!」

 

マリバロンは走りながら、また小さく笑った。

 

「フッ。」

 

「……何がおかしいんだよ!」

 

二人の姿が夜の風都へ消えていく。

 

その先には――。

 

風都を流れる巨大な水路。

 

そして、水面を猛スピードで進むアノマロカリス・ドーパント。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

「ここまで来れば……!」

 

だが、その背後から――。

 

バシュン!!

 

光弾が水面を撃ち抜く。

 

「なにっ!?」

 

水柱が上がる。

 

アロマノカリスが振り返る。

 

そこには――。

 

水路の岸に立つマリバロン。

 

そして、その隣には仮面ライダーW。

 

「見つけたぞ。」

 

マリバロンが不敵に笑う。

 

「さあ――。」

 

「今度こそ逃がさぬぞ。」

 

 

水路を逃げるアノマロカリス・ドーパント。

 

追撃する――マリバロン。

 

そして仮面ライダーW。

 

「くっそぉおおお!!」

 

アノマロカリスが水面を叩く。

 

「もう後はないならば……!」

 

「こうするしかねぇ!!」

 

ガイアメモリの力が一気に増幅する。

 

ゴゴゴゴゴゴ……!!

 

巨大な水柱が立ち上がる。

 

「なっ……!」

 

翔太郎が見上げる。

 

アノマロカリスの身体が急激に膨張していく。

 

十メートル。

 

十五メートル。

 

そして――。

 

二十メートルをゆうに超える巨大な怪物へと変貌した。

 

「グオオオオオオオオ!!」

 

その咆哮だけで水面が大きく揺れる。

 

翔太郎が見上げる。

 

「で、でけぇ……!」

 

フィリップが冷静に分析する。

 

『翔太郎。』

 

『あれは古代生物系ガイアメモリ特有の能力だ。』

 

『極限までメモリの毒素に染まった場合、宿主の肉体そのものが巨大化する。』

 

『そして、その先にあるのは――。』

 

マリバロンが続ける。

 

「破壊への権化へと変わるか。」

 

巨大な怪物を見上げ、口元を吊り上げる。

 

「……面白い。」

 

「この世界の怪人というものも、なかなか興味深いではないか。」

 

翔太郎はニヤリと笑う。

 

「なーに。」

 

「どんだけデカくなったって――。」

 

「やつを倒すことには変わりねぇ!」

 

そして拳を握る。

 

「行く……ぞ!」

 

その瞬間――。

 

ザバァァァァン!!

 

巨大なアノマロカリスが水中へ潜る。

 

「……!?」

 

次の瞬間。

 

ガシッ!!

 

巨大な鉤爪がWを捕らえた。

 

「なっ!?」

 

「おい!!」

 

そのまま――。

 

ズゴォォォン!!

 

Wが水中へ引きずり込まれる。

 

「うわあああああ!!」

 

マリバロンが目を見開く。

 

「仮面ライダー!」

 

水面の下へ消えていくW。

 

『翔太郎。』

 

フィリップの声が響く。

 

『油断したね。』

 

「フィリップ……!」

 

『亜樹ちゃんに連絡だ。』

 

『リボルギャリーを呼ぶんだ。』

 

「お、おう!」

 

翔太郎は必死に通信機を取り出す。

 

「亜樹子!」

 

『はいはい! 今どこ!?』

 

「頼む!」

 

「リボルギャリーをこっちに寄越してくれ!」

 

『分かった! 今向か――』

 

『って、なんか私も同乗してるんですけど!!』

 

「は?」

 

『私聞いてないんだけど!!』

 

ガシャァン!!

 

『って、おいおい!!』

 

『勝手に開いた!!』

 

『え!? ちょっと待って、翔太郎君!!』

 

フィリップが淡々と告げる。

 

『翔太郎。』

 

『水中なら――ハードスプラッシャーだ。』

 

「……!」

 

『これで決めるよ。』

 

「フィリップ!」

 

「任せろ!」

 

遠くから巨大な車両が姿を現す。

 

リボルギャリー。

 

その内部からハードスプラッシャーが射出される。

 

「行くぜぇぇぇ!!」

 

Wはハードスプラッシャーへ乗り込む。

 

水中へ突入。

 

「さてさて……。」

 

巨大なアロマノカリスが迫る。

 

「これで終わりだ!!」

 

Wはルナトリガーのトリガーマグナムを構える。

 

「フィリップ!」

 

『ああ!』

 

「マキシマムドライブ!!」

 

『TRIGGER!』

 

『MAXIMUM DRIVE!』

 

ルナメモリの力が最大まで増幅される。

 

放たれた弾丸が無数に分裂。

 

そして――。

 

一発一発が、まるで意思を持ったかのように軌道を変える。

 

巨大なアロマノカリスをあらゆる方向から包囲する。

 

「グオオオオオオ!!」

 

「これで――。」

 

翔太郎が叫ぶ。

 

「終わりだぁぁぁ!!」

 

トリガーフルバースト!!

 

無数の光弾が一斉に巨大な怪人へ撃ち込まれる。

 

ドドドドドドドドドドドッ!!

 

「グオオオオオオオオオ!!」

 

巨大な身体が激しく震える。

 

そして――。

 

ドォォォォォン!!

 

アノマロカリス・ドーパントが爆散する。

 

水面に巨大な水柱が立ち上がる。

 

やがて静寂。

 

水面には、一枚のガイアメモリが浮かんでいる。

 

マリバロンがそれを見つける。

 

「……。」

 

目を細める。

 

「フッ。」

 

そして不敵な笑み。

 

「ガイアメモリとやら……。」

 

「今度こそは、いただく。」

 

しかし、その手を伸ばすより先に――。

 

パキンッ。

 

メモリが自壊する。

 

マリバロンの手が止まる。

 

「……。」

 

「またか。」

 

Wが変身を解除する。

 

翔太郎は苦笑する。

 

「姉さん。」

 

「どうやら、あれは倒したら壊れちまうらしいぜ。」

 

マリバロンは無言でメモリの残骸を見つめる。

 

「……ならば。」

 

「次は――。」

 

その瞳に、怪しい光が宿る。

 

「壊れる前に奪えばよい。」

 

翔太郎が顔を引きつらせる。

 

「……姉さん、やっぱり怖ぇよ。」

 

フィリップは小さく笑った。

 

『でも、彼女のおかげで今回はかなり助かったね。』

 

「……まあな。」

 

マリバロンは風都の夜景を見つめる。

 

「この世界には――。」

 

「まだまだ、知らぬ力がある。」

 

「ガイアメモリ。」

 

「そして仮面ライダー……。」

 

彼女の異世界での旅は、まだ始まったばかりだった。

 

 

###ディガール・コーポレーション

 

夜。

 

風都の高層ビル、その最上階。

 

園崎冴子は、誰もいない社長室から窓の外を見つめていた。

 

携帯電話を耳に当てる。

 

「……お父様。」

 

「鷹村の工場は、破棄します。」

 

電話の向こうから何かを告げられる。

 

冴子は静かに目を伏せた。

 

「はい。」

 

「大変申し訳ございません。」

 

「私の監督不行き届きです。」

 

電話を切る。

 

しばらく沈黙。

 

冴子はデスクの上に置かれた一枚の写真を見る。

 

そこには――仮面ライダーW。

 

そして、見慣れない女。

 

マリバロン。

 

「……仮面ライダー。」

 

冴子の目が冷たくなる。

 

「そして……あの女。」

 

「私の邪魔をする者は、必ず――。」

 

握りしめた拳に力が入る。

 

「……私が排除する。」

 

風都の夜景を見下ろしながら、冴子は静かに復讐を誓った。

 

 

 

数日後

 

市議会。

 

楠原みやびは、議員辞職を発表した。

 

「私は……市議会議員を辞めます。」

 

記者たちからどよめきが起こる。

 

「第二風都タワー計画についても、私は身を引きます。」

 

そして、少しだけ笑った。

 

「主人が残した夢を追い続けることも、大切なことだったのかもしれません。」

 

「でも……。」

 

みやびは、隣にいるあすかを見る。

 

「私には、もっと大切なものがあると気づきました。」

 

あすかが母の手を握る。

 

「私はこれから、娘と向き合って生きていきます。」

 

それは、市議会議員としてではなく――。

 

一人の母親としての決断だった。

 

鳴海探偵事務所

 

「お姉ちゃーん!」

 

「また遊んでねー!」

 

あすかがマリバロンに駆け寄る。

 

マリバロンは困惑した顔。

 

「……。」

 

「それは私の役目ではない。」

 

「えー!」

 

あすかが頬を膨らませる。

 

「遊んでくれないの?」

 

「ええい!」

 

マリバロンが亜樹子を見る。

 

「亜樹子!」

 

「対応せんか!」

 

亜樹子は笑いながら胸を張る。

 

「あたしは所長よ、マリバロンさん!」

 

「こういう時はね――。」

 

「遊んであげるの!」

 

「な、なんだと!?」

 

あすかがマリバロンの腕を掴む。

 

「ね!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「……。」

 

マリバロンは固まる。

 

そして――。

 

「ええい!」

 

「鏡渡りの術!!」

 

パァァァン!

 

紫色の光が広がる。

 

マリバロンの姿が消える。

 

「あっ!」

 

あすかが驚く。

 

亜樹子は大笑い。

 

「もう!」

 

翔太郎も笑いを堪えきれない。

 

「逃げたな、姉さん!」

 

フィリップも微笑む。

 

『どうやらマリバロンは、子供との接し方についてはまだ研究の余地があるようだね。』

 

「研究とか言うなよ!」

 

事務所に笑い声が響く。

 

その頃――。

 

風都のどこか。

 

鏡の中からマリバロンが顔を出す。

 

「……。」

 

「なぜ私が、あのような小娘の相手をせねばならぬのだ。」

 

しかし――。

 

ほんの少しだけ。

 

口元が緩んでいた。

 

そして夜。

 

鳴海探偵事務所。

 

静かな室内に、タイプライターの音だけが響く。

 

カチッ。

 

カチカチ……。

 

翔太郎が椅子に座り、今回の事件を記録していた。

 

「今回も任務達成……っと。」

 

紙を抜き取る。

 

窓の外には、風都の街。

 

「……。」

 

翔太郎はしばらく街を眺める。

 

そこへフィリップがやってくる。

 

「翔太郎。」

 

「ん?」

 

「次の依頼が来ているよ。」

 

「おっ。」

 

翔太郎が椅子を回す。

 

「さーて。」

 

「次の依頼は何かな?」

 

亜樹子が机の向こうから顔を出す。

 

「はいはい、依頼人来たわよ!」

 

「なにぃ!?」

 

マリバロンも鏡の中から戻ってくる。

 

「……また事件か。」

 

翔太郎は帽子を被る。

 

「行くぜ、フィリップ。」

 

『ああ、翔太郎。』

 

風都にまた一つ、新たな事件が生まれる。

 

そして――。

 

異世界からやって来た怪魔妖族の大隊長、マリバロン。

 

彼女の知らない「風都の日常」も、少しずつ始まっていた。

 

――異世界転生マリバロン。

 

 

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