「きゅう……せん……まん……?」
「うん」
「きゅうせんまんって……9000万?」
「うん」
「9億?」
「いや、9000万」
「9000億?」
「なわけなくない?」
オフシーズン。
契約更改の交渉の場で。
飛鳥は見間違えかと思って書類から顔を上げて、何度も確認した。
何度聴いても「9000万」と告げるGMに、唖然とする飛鳥。
彼女は一旦、書類を置く。
「またまた~!」
「いや、冗談じゃないから」
飛鳥は笑いながら固まる。
もう一度契約書にがっついた。
「う、嘘……たったの9000万……?お、億すらいってないの?」
顔面蒼白で書面を至近距離で見続けながら、空いてる片手で自らの頭を消える。
彼女は一旦契約を保留にした。
そして、その足でとある男に会いに行く。
「……あの、納得がいかないんですけど」
「だったらもっと実力を見せればいい」
「見せたじゃないですか!防御率0.24!91奪三振!これ以上の成績がクローザーでありますか!?」
「しかしね。オーナーもGMも今のお前にはそれしか出せないと言っている」
「ふざけんじゃねえ!!」
飛鳥は吠えた。
周囲は驚く。
彼にそんな口を聞く選手はそうそういない。
しかし、封筒を叩きつけた大和飛鳥は特別な背景を持った選手。
背負うものがあり、女で、覚悟を有している。
何よりその性格は熱く、野心に満ちている。
飛鳥は……肩で息をして、暫く外を見た。
「……っ」
「……」
飛鳥は外を眺めながら、一呼吸を挟む。
男は何も言わない。
彼女の態度を前に声を荒らげることもなければ、呆れて見限り立ち去ることもない。
ただジッと、彼女を見ている。
彼は、彼女を知っている。
会ったのはたった1回。
それだけあれば十分だ。
彼女がどういう女か、もう完璧に把握している。
彼女は言った。
『チームが優勝する為に、この腕がもげるまで投げます』
その言葉を聞いた瞬間から、会長であるその男は、彼女がここで暴れて終わる女ではないと確信している。
「……」
「……」
何度も息を吸って、吐いて。
そんな彼女の横顔を男は見つめ、待ち続けた。
放っておいても、彼女は自分で答えを見つける。
会長が知っている【大和 飛鳥】という女は、そういう女だ。
「……わかりました。抑えればいいんですよね?」
「……」
やっと口を開いたと思ったら、飛鳥はその言葉を口にして、ゆっくりと会長と向き合う。
会長は立ち上がった彼女を座った状態で睨みあげたまま。
その眼光に物怖じせず、飛鳥は鋭い視線を返す。
「抑えて、抑えて。示せばいい。ここはそういうチームですよね?やってやりますよ。私は……稼がなきゃいけないんです。その為に邪魔なやつは―――全員ぶっ倒す」
「最初からそう言え。馬鹿」
会長が顎で封筒をさして、「ほれ、サイン」と言う。
飛鳥は封筒をぶんどって、頭を下げてそのまま部屋を出た。
ズカズカと進んで、GMと約束した日まで無心で投げた。
そして、GMがまた時間を作ってくれたその日に、サインする。
大和 飛鳥
20歳。
9500万でサイン。
コメント
『誰にも文句を言わせない成績を残します。力を示せなかった自分の責任です。自分のケツは、自分で拭います』
会見でコメントした彼女の形相は、多くを慄かせたという。
【スレタイ】福岡ファルコンズ 大和 飛鳥 契約更改 年俸9500万でサイン
シーズン成績
59試合 63回 防御率0.29 自責点2 91奪三振
WHIP0.682 K/BB13.00 56セーブ
獲得タイトル:セーブ王
ポストシーズン成績
CS
2試合 2回 防御率0.00 5奪三振
日本シリーズ
5試合 5回3/2 防御率0.00 12奪三振
7試合合計
WHIP0.285 K/BB17.00 6セーブ
[名無しの野球野郎]
なんでこの成績で9500万になるん
[名無しの野球野郎]
不合格ばい
[名無しの野球野郎]
???「携帯会社と同じ」
[名無しの野球野郎]
新規優しく、既存に厳しい……
[名無しの野球野郎]
生え抜きに対する厳しさ、来たか
[名無しの野球野郎]
嘘だろ
[名無しの野球野郎]
弟の医療費、足りそ……?
[名無しの野球野郎]
足りるんじゃない
[名無しの野球野郎]
9500万も一般的には多額だからな
医療費は大丈夫だと思うけど
[名無しの野球野郎]
大和からしたら医療費さえ払えたら別に億超えとかには拘ってないのかな?
[名無しの野球野郎]
記事ちゃんと見たか?
大和の顔、ヤバいぞ
[名無しの野球野郎]
クソキレてる顔してて小便チビった
[名無しの野球野郎]
やっぱりめっちゃキレてるやんけ
[名無しの野球野郎]
コメントからも殺意が隠せてない
[名無しの野球野郎]
性格上、頭硬いやつらに金を出させられなかった自分にも頭きてそう
[名無しの野球野郎]
9500万かぁ
いや、まあ300万→9500万で上げ幅は凄いけども
[名無しの野球野郎]
9200万増か
そう聞いたら結構上げたな
[名無しの野球野郎]
騙されるな
[名無しの野球野郎]
なんの500万だよ
ケチるなよ
[名無しの野球野郎]
億でいいじゃん
[名無しの野球野郎]
大台突破の壁ええて
[名無しの野球野郎]
難病の弟の為に戦うお姉ちゃんに対する仕打ちじゃないだろ、これ
[名無しの野球野郎]
見損なったわ
[名無しの野球野郎]
やっぱ納得いかねえ
[名無しの野球野郎]
他球団行かれても知らね