飛鳥はCSを欠場した。
弟の術後経過が安定するとは限らない。
だから、傍にいる。
自分の出番は日本シリーズだと言わんばかりに。
CSなんざには出ない。
チームが勝ち上がることを信じて……いや、違う。
勝ち上がって当たり前だ。
CSなんかでつまずくなんて論外だ。
これは、常勝ファルコンズの常識を「そうだろ?」と問いかける飛鳥が背中で見せるメッセージ。
彼女のその信頼とも挑戦状ともとれる意志を、ファルコンズのナインは受け取り、闘志に火がついた。
福岡ファルコンズは一度も負けることなく勝ち進み、遂にCS王手をかける。
―――しかし、その快進撃に立ちはだかる者がいた。
『
ラ・イ・ト・ス・タ・ン・ドへーーーーー!!』
『ファルコンズファンのこっちに来るなという願いと手振りも虚しく、逆転ツーランを放ちました!!』
「こいつ……!!」
病室で、テレビを見上げる飛鳥。
彼女は下唇を噛む。
あと一歩というところで往生際悪く足掻くはパ・リーグ2位の埼玉。
ここまで孤軍奮闘の彼は、遂に天敵ファルコンズの王手を阻止する。
『逆転弾で2-4!ファルコンズ、苦しい試合展開になりました!』
「クソ……」
歯ぎしりをする飛鳥。
そんな彼女の至福の裾をか細い手が掴む。
飛鳥は驚いて彼を見る。
「姉ちゃん。ファルコンズは……負けないよね?」
「~~~~~~~~~っ!!」
飛鳥が目を見開く。
気付いたら、彼女は電話をかけていた。
CS Final 第3戦。
前夜を取ったブレーブスが追い上げる展開。
「…………っ!」
『また確信!穂石、第5号ーーーーー!!!!』
福岡 2 - 2 埼玉
4番穂石により追いつかれたファルコンズ。
さらに6回、彼にタイムリーを浴びて、遂に勝ち越しを許してしまった。
しかし、7回。
ファルコンズの監督の思わぬ采配が行われる。
『ピッチャー、横綱に代わりまして―――大和ォォォ飛鳥ぁぁぁーーー!!』
―――ええぇぇぇぇぇ!?
観客が思わず騒ぐ。
それほどまでに彼女がこの回で出てくるのは意外だった。
それどころか、なんと彼女がこのCS最終戦にベンチ入りしていた報道はなかった。
誰も情報を掴めていない中、その女はマウンドに現れた。
そして、いつもの如く打者を翻弄していく。
『ストライク!バッターアウト!』
「……」
飛鳥は淡々と抑えて7回を終えた。
仲間とハイタッチしながらベンチに下がる。
その様子を見て、誰もがこの回のみの登板だと思った。
7回ウラ。
ツーアウト。
そのカウントで彼女がベンチ前でキャッチボールをするまでは。
「……」
汗をかきながらキャッチボールをする飛鳥。
もはや逆転を狙うファルコンズの攻撃も、熾烈な攻防の衝突も、注目されていない。
飛鳥のキャッチボールにまたしても動揺の声が上がり、今度は女子の甲高い声まで上がった。
若い女性ファンが「飛鳥様!飛鳥様がキャッチボールしてる!!」と必死に指をさす。
注目の的の飛鳥は、それでも淡々と投げ込む。
『アウト!』
「……」
ファルコンズがこの回凡退すると、飛鳥は特になんの感情も見せずにキャッチボールをやめてマウンドへ向かう。
また観客がザワついた。
飛鳥はキャッチボール中に仲間の攻撃を一度も見なかった。
常勝の鷹がこんなところで負けねえからだ。
見なくてもどうせ逆転すると思っていた。
だから、やることは1つ。
ただ―――目の前のやつを抑える。
『ストライク!バッターアウト!チェンジ!』
「……」
飛鳥は8回も三者三振に抑えた。
また静かに戻っていく。
そして、また凡退続きでツーアウトになるとキャッチボールをしに出てきた。
まだ行くのかと驚くファルコンズファン。
さすがの飛鳥も淡々と抑えられているファルコンズの攻撃を一瞥した。
その回、その男の打席は。
ファルコンズファンの声も期待も一層大きかった。
『矢のような肩とー
突き刺すようなスピードー』
いざ、一振放て
『輝く岐伊多!!
完璧に捉えたッッッ!!センター上がった!
打球は……これぞ岐伊多か!!入ったぁ!
同点ソロ!第3号!!』
「――――――っ!!」
ここまで無表情だった飛鳥も「いったろ!!」と天を指さし、そして、入った瞬間はしゃあぁぁぁぁ!!と感情を露わにした。
ダイヤモンドを一周する平成最強打者。
強すぎるその打球は……王者のプライド!!
福岡ファルコンズ 3 - 3 大阪ブレーブス
「よし」
そのあと続く打者はアウトになり、飛鳥はマウンドへ向かう。
そして、2人抑えると迎えるは―――穂石。
「……」
「……」
パ・リーグの最後に立ちはだかる、山賊打線。
飛鳥と穂石は睨み合う。
まずは、初球。
「……っ!」
「……っ」
『ファールボール!』
アウトローのスプリットを、穂石はカットした。
続く2球目。
「……っぁ!!」
「……っ!!」
『ストライク!』
高め直球。
167km/hで振らせてこれでツーストライク。
「……」
「……」
1球外しなどしない。
それはもう互いの共通認識。
2人は、通じあっている。
「……」
マウンドの飛鳥。
サインを見ながら、穂石と視線を交錯する。
―――最後の悪あがきも、ここまでだ。
―――常勝の覇者は、邪魔するのを捩じ伏せる。
―――勝って当たり前、優勝して当たり前。
『ファルコンズは、負けないよね?』
「……っぁぁぁぁ!!」
「……っっっ!?」
弟の言葉。
姉の意地。
最後の一球は……ストライクゾーンギリギリ低め、ストレート。
165km/h。
『ストライク!バッターアウト!』
「~~~~~~~っ!!」
見逃した穂石はバットを支えに項垂れる。
飛鳥は、そんな彼の姿を見て口角を上げながらマウンドを降りる。
「知らないのか?ファルコンズは、負けねえんだよ」
9回、最大の鬼門を超えた。
ウラのサヨナラは凡退し―――10回、延長へ。