10回は石埼が抑え、ウラには権藤によるサヨナラタイムリーでファルコンズはCSを突破した。
迎えるは日本シリーズ。
「……うん。大丈夫。見てて、日本一の景色……見せてあげるから」
決戦前夜、飛鳥は敵地東京のホテルにて、弟と電話していた。
彼と決意を交わし、挑むはまたしても下克上を仕掛けるチーム。
―――東京ヤンキース。
『センターへ!!センターへ!!伸びていく!!大きいぞ!!これは……!!そのままセンタースタンドへーーーー!!』
「は!?」
飛鳥は思わず腰を捻り、打球の行方を見た。
彼女が放った163km/hはセンタースタンドへと吸い込まれていった。
そして、彼女の前を通過するのは、セ・リーグ最強打者。
『日本シリーズ第1号はやはりこの男!坂下だぁ!!』
「……っ!」
目の前を悠々と通過していく坂下を前に、飛鳥は顔を強ばらせる。
―――こいつ……っ!!
『坂下の打球で東京追いつきました!!6-6!!』
東京ヤンキース 6 - 6 福岡ファルコンズ
「~~~~~~っ!」
目を瞑って点を仰いだあと、項垂れる飛鳥。
これが彼女のキャリア初被本塁打だった。
初めて味わう屈辱。
もはや悔しさよりもやらかしてしまったという焦燥を始めとする処理できない感情に見舞われた。
日本シリーズ。
初戦はそのまま引き分けで幕を閉じた。
いきなり出鼻をくじかれた飛鳥。
それでも、折れない。
挫けない理由がある。
『ファルコンズ勝利まであと1人。クローザーの大和に対するは、初戦で大和を打ち砕いた坂下。熱田さん、因縁の対決ですね』
『そうですねー!熱いですねー!』
「……」
飛鳥が次に登板したのは第3戦。
打席で一昨日の悪夢を背負う打者、坂下が構える。
飛鳥は力んでいた。
こいつを抑えるにはどうしたらいいのか、そんな事をずっとグルグルと頭の中で考えている。
2回目の対戦。
結果は。
『フォアボール!』
「……っ」
「……!」
坂下は歩き、飛鳥は悔しさで最後に球を外すと項垂れた。
心のどこかで坂下との勝負を避けているのだ。
飛鳥の中でこれ以上の屈辱はない。
同時に、情けない自分に怒りMAXだった。
舌打ちしながら捕手の返球を受ける。
そして、坂下の次の打者を完璧に抑えてゲームセット。
ファルコンズは3点リードで勝利した。
第4戦。
1-0でファルコンズは勝っていた。
飛鳥は坂下にフェン直ツーベースを打たれるものの、そのあとはキッチリ抑え、本拠地福岡は2連勝となった。
第5戦。
飛鳥は登板なし。
東京が勝った。
第6戦。
1点差でファルコンズは負けていたが、9回に飛鳥を登板させ彼女が完璧に抑えることで流れを呼び寄せ、サヨナラで勝利した。
第7戦。
再び敵地東京。
王手まであと1勝。
しかし、東京打線が爆発し、福岡は負けた。
第8戦。
互いに王手。
延長にもつれ込み、飛鳥が同点の場面で11回と12回を完璧に抑えるも引き分けとなった。
そして、第9戦。
遂にその時は来た。
スコアは3-2。
ファルコンズがリードしていた。
9回。
ツーアウト。
大和 VS 坂下
「……っぁぁ!!」
「……っ!!」
飛鳥はスプリット2球で彼を追い込んだ。
そして、飛鳥が投じた―――ここまで打たれてきた豪速球168km/hの高めストレートで
最後は空振りにとる!!!!
『三振ーーーーー!!!!最後は因縁の対決!大和が坂下を下し、この9戦にも及ぶシリーズの雪辱を、やり返した!!ファルコンズ日本一!!』
「―――――――――っっっ!!!!」
飛鳥はマウンドで吠えた。
そして、今度はマウンドから足を動かさなかった。
吠えたまま上体を起こし、天に向かって両手のガッツポーズと咆哮を轟かせる。
仲間は初めて優勝投手の女に触れることを許され、歓喜の抱擁とハイタッチ。
そして……史上初、女の投手が胴上げされた。
ファルコンズ日本一!!
連覇!!
大和飛鳥、女が胴上げ投手!!
次の年、彼女は引退を宣言する。