飛鳥は、女離れした規格外の才能を見つけた。
突然変異の女たる彼女は、その力で男子に混じってプロ野球に参入することを目指す。
全ては、弟の医療費を稼ぎつつ弟の夢を代理で叶えるため。
そんな時だった。
とあるネットニュースを目にしたのは。
『北海道ベアーズからフリーエージェント(FA)権を行使した権藤外野手が、福岡ファルコンズへの移籍を決断しました。年俸は5億に加えて出来高でサインしたと契約内容を明かしています。権藤はFA制度においてAランクに該当するとみられており―――』
「……5億」
夜。
電気もつけずにプロ野球の年俸について調べていた飛鳥。
動画付きの記事を見つけて直近の高額契約を見つけた。
そして、その数字を呟く。
5億。
それだけあれば弟を治せる。
飛鳥の目に野望が宿る。
彼女は考えた。
もし、この力を使ってプロ野球に参入できたら、弟の代わりに弟の夢の舞台で野球することができる。
その姿を弟に見せてやることで、動けない彼にとっては間接的に夢を叶えているような感覚を与えられるのではないか?
そして、5億。
それだけあれば弟は夢を諦めずに済む。
手術を受けて、生き永らえることができる。
それも誰かの力を借りるリスクを犯さずに自分で稼げる。
それ以上はない。
最後に、弟はプロ野球選手に会いたいと言っていた。
弟は動けないから、彼の方から会いに行くことは難しい。
しかし、呼びかけても誰も来なかった。
来ないなら、
この身体をただの小娘からプロ野球選手に変えてやる。
そうすれば、弟の夢は一つ叶う。
まさに一石三鳥。
飛鳥は弟から借りたボールを力強く握る。
「……賭ける価値は、ある」
飛鳥は顔を上げる。
早速彼女はプロ野球チームの入団テストを調べた。
全部で12球団ある。
問題はどこに申し込むか。
もちろん手当たり次第に受けてもいいが、2つ問題がある。
ひとつは、女の飛鳥を受け入れてくれるか。
豪速球で魅せたとしても女と契約してくれるとは限らない。
ふたつめは、弟の医療費を払えるほどの高額契約をしてくれるチームかどうか。
調べた限り、日本のプロスポーツで1番お金がもらえるのは野球だ。
とはいえ全部の球団が潤沢な資金を持ってるわけではない。
このふたつを加味して優先的にその条件を満たす球団からテストを受けたい。
魅力的なのは2球団。
まずはは東京。
ヤンキース。
飛鳥でも知ってる金満球団だ。
よくネットで荒れていた。
けど、最近は鳴りをひそめているらしい……。
あまり期待できなさそうだ。
それに、古臭い慣習があり、女の飛鳥を受け入れるとは到底思えない。
次は福岡。
ここが1番魅力的だった。
ファルコンズ。
そこは最近ほかのチームから一流選手を獲得しまくっている。
敵も多いチーム。
だが、その分、待遇は素晴らしいの一言に尽きる。
年俸ランキングでも上位はファルコンズの選手が独占している。
何より、気に入ったのは金額だけではない。
チームの方針だ。
勝利こそ全て。
敗北に意味はない。
負けから得られるものなど何もない。
優勝以外は最下位と同じ。
日本一になれなければ評価に値しない。
結果が全て。
力を示した者が正義で、力のない者は悪だ。
完全実力主義。
ファルコンズは常勝の思想を持った狂気的な勝利主義者だった。
そして、それはフロントだけではなく、選手たちも同じ思想なのが素晴らしい。
そのチームはドラフトの順位など関係ない。
選手全員が狂気的な向上心を持ち、仲間意識などドブに捨て、競争に勝ち残ることを厭わない。
何位で指名されようが、育成だろうが全てを蹴落とし自分で自分は1位だとその才を誇示するのだ。
故に、育成の選手たちもギラつき、育成から始まったにも関わらず年俸が億をいくまで成長した選手がごまんといる。
なんならリーグを代表するエースになった投手までいる。
曰く、半端な選手はいらないらしい。
打者ならば、走攻守全てが高水準でなければ戦力外。
投手ならば、完璧に抑え三振を奪いフィールディングは良く防御率は低く勝ち星を稼がなければ戦力外。
代わりはいくらでもいる。
その為にドラフトで大金を注ぎ込み、大量に乱獲している。
誰もがその強制的に競争しなければ首を切られる世界で上を目指して野心を研ぎ澄ませている。
だから、代わりで這い上がってくる選手も安定して最初から実力を示す。
素晴らしい。
もう一度言う。
素晴らしい。
飛鳥は、このチームの思想が好みだった。
この者たちは勝つために必要なものが絶対だ。
それはつまり、勝利に必要だと思ったら女でもなんでも構わないはず。
そして、人を使い捨てるその身勝手な思想に協力すれば、貰えるものは貰える。
良いではないか。
実に好みだ。
昔から単純な力比べが好きだった。
全てを度外視し、実力だけで見てもらえるのが好きだった。
面白い。
素晴らしい。
甘えなんていらない。
同情も、他人の助けも必要ない。
欲しいものは自分で手に入れる。
泣いてたって、下を向いてたって、世の中は誰も助けてなんてくれない。
自分の力で切り拓くしかないんだ。
そんなこと、本当はずっと前から知っていた。
でも、気づいていないフリをしていた。
孤独になった時くらい、弱音を吐いていいと自分を甘やかすことで楽になりたかったから。
それも今日でおしまい。
待っていても、救いなんて現れない。
この腕で全て叶えてみせる。
飛鳥のその闘志は、ある男が好むものだった。