飛鳥は、福岡ファルコンズのテストを受けた。
そこで大人の男たちを驚かせる。
彼女は150~160km/hをバンバン投げ込んだ。
しかもコントロールがいい。
球が速くとも荒れ球すぎて戦力外になる選手もいる。
その点、飛鳥は即戦力だった。
天性の才能は無駄にされないことを望み、制球力というオマケもつけた。
これは魅力的な要素だ。
「……」
飛鳥は汗を拭いながら返球を受け取る。
正直、テストに受かるかどうかは微妙なライン。
仮に飛鳥が男だったとしても豪速球と制球力しか武器のない現状で果たして選ばれるかどうか。
それでも、飛鳥が誇れるのはたったひとつだけ。
このストレートだけを信じて力一杯腕を振るうしかない!
「……っぁ!」
全力で投げる飛鳥。
ミットの乾いた音が響き、試験官がメモをとる。
その時。
「タイム、タイム!」
『……!』
飛鳥が投げている途中、テストが中断された。
止めた者に視線が集まると……スタッフに誘導される男がグランドに入っていた。
周りからの扱われ方を見るに、その男は明らかに偉い立場にいた。
男はもう70後半はいってるであろう風貌だった。
―――しかし、その男の放つ威圧感は凄まじい。
誰もが彼と距離を取り、一瞬で空間を支配した。
男は、マウンドにまで上がり、飛鳥を見上げる。
「なんだ、女か」
「……!」
開口一番その一言に飛鳥はキッ!と彼を睨む。
それでも彼は「冷やかしも大概にしろ」といった様子でふんと鼻を鳴らす。
しかし、さっきの160km/hを見ていたのか、彼は顎で捕手をさす。
今ここでもう一度投げてみろ、と。
「……わかりました」
飛鳥は頷いて、受け入れた。
最初は気に食わなかったが、なぜかこの男の態度はすんなり受け入れることができた。
それは、第一印象で終わらず、すぐに次は力を見せろと言ってきたから。
その態度に飛鳥は静かに高揚した。
ここまでで一番、ファルコンズのテストにきた実感を得たからだ。
彼女はその男の目の前で投球フォームに入り、そして、腕をしならせる。
「……っぁ!!」
「おー。いいね」
飛鳥の投げた球筋を見て深く頷く男。
隣の若い男に「何キロ?」と聞いて答えを知ると、目を丸くして飛鳥を見る。
そして、彼の目の色が変わった。
使える駒を見つけた目だ。
「うーん……女もありなのかなぁ」
「……」
男は顎に手を当てて飛鳥を上から下まで見て考える。
その間にも肩で息をつく飛鳥は、彼のその品出めする視線にむしろもっと見てくれと思う。
そして、目で訴える。
私は使えるぞ、と。
その目と男の目が合った。
彼は、気づいて、彼女と3秒見つめ合う。
その目は、険しいものに変わった。
「お前、なんでウチに入りたいの?」
「……正直に言うと、野球でお金が欲しいからです」
「あぁ、うん。まあウチは出す方だけどね。でも、東京さんも出すでしょ。なんでウチ?」
「……」
質問攻め。
男は試すように聞いてくる。
その目は一切視線を外さず、ジッと飛鳥の目を見る。
飛鳥も一切物怖じせず……その目に答える。
「このチームの考え方が好きで来ました。あと、甘やかされる環境でやりたくない、です」
「じゃあお前はウチにどんな貢献をしてくれるの?お前と契約することでウチが得られるメリットは何?」
また聞かれる。
まるで試すように。
飛鳥は1回息を深くすって、吐く。
そして。
「……ファルコンズを優勝させる為に、この腕がちぎれてるまで……投げます」
「OK。合格」
「えっ」
男は背を向けた。
そして、マウンドから降りてスタスタと戻っていく。
が、ひとつ忘れたのか、一度だけ振り返り、一言だけ放つ。
「ようこそ。ファルコンズへ」
「……っ!」
その言葉を聞いて、飛鳥は瞠目しながら彼の背中を見送った。
テストは終わり、スタッフが近付いてくる。
「……あの、そういえばあの人。誰なんですか?」
「えっ!?知らずに話してたの!?」
驚かれた。
スタッフは説明してくれた。
あの男はファルコンズの会長にして、誰もが知ってる有名選手だったと。
まあ、飛鳥は知らなかったが。
とにかくテストが終わったその日のうちに飛鳥は合格を言い渡され、すぐに育成契約を結んだ。