「今更1から覚えるとなると1球種を突き詰めた方がいいかもね」
コーチに言われた言葉。
飛鳥はそうなんだ、と思いながら適当に頷く。
「じゃあスライダーで」
「え?なんで?」
「……簡単そうだから」
「よし、スプリットにしようか」
「やだァ!!あれ、握り指痛いもん!!」
飛鳥は駄々をこねた。
しかし、ファルコンズには通用しない。
数時間後、プルペンで泣きながらスプリットを投げ続ける飛鳥の姿があったという。
「なんだ、一軍にもストガイいるじゃん。あー、カットボール?織り交ぜてるんだ?あ、この人はストレートしか投げてない。……真似出来ないフォームで投げないでください」
夜。
ベッドの上で飛鳥はストガイの動画を調べて自分が一軍で生きる道がないか模索していた。
ブレーブスにストガイリリーフが2人いた。
とはいえ別チームだから動画みて参考にする程度だが。
「うーん……ストガイが生き残る道ねぇ」
飛鳥は天井を仰ぐ。
そもそも自分がストガイと呼ばれる分類だということも最近知った。
野球ってストレートとホームランのスポーツじゃないの?え?違う?
飛鳥がそれしか知らないだけだった。
「あー。あとなんかもう1個言われたっけ。コーチに。球の強さ……?だっけ。それもイマイチわかんないんだよな。球の強い弱いってなんの話?」
独り言をブツブツと呟く飛鳥。
コーチ曰く、飛鳥のストレートは速いだけで『軽い』らしい。
意味がわからない。
もう少し力を込めろと言われたが、込めても出るのは160km/hくらいだった。
あとなんだっけな。
ミットに届いた時の音で判断しろ、だっけ。
その音が乾いていて音が小さく軽かったら球に力がない証拠らしい。
あと球が強ければ球速以上に打者が速く感じるとか。
「……ん?それってつまり、打者が速く感じりゃいいってことだよね?」
ピキーン、と飛鳥の脳内に閃光が走る。
そして、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべる。
―――なんだ、球強くなくてもいいじゃん。
翌週。
飛鳥は三軍の試合に先発で登板した。
そして、彼女は以前とは違うピッチングを見せる。
「……っ!」
『ストライク!バッターアウト!』
「しゃあっ!!」
全球ストレートで打者をねじ伏せた。
球速平均は152km/h→157km/h。
最高は161km/h→165km/h。
そう、つまり……球を速く見せなきゃいけないなら、もっと速い球を投げればいいのだ!!
「脳筋すぎるわ!!」
「アイタァ!?」
ベンチに戻ったらコーチにしばかれた。
でも、通用したという結果を残せばこの球団は認めてくれる。
まあいいだろう、という言葉と共に二軍昇格を言い渡された。
「よっしゃー!二軍じゃ二軍にゃ!一軍目前!ガンガン抑えて一軍いくぞー!」
飛鳥は気合い十分。
自信満々で二軍のマウンドに立った。
その初戦。
「ゑ…………?」
『ホームラン!』
飛鳥は描かれるアーチを見上げて、唖然とした。
それは3回表のことだった。
『先週ファルコンズ三軍から二軍昇格を果たしたファルコンズの大和。最速165km/hの快速を武器に素晴らしいパフォーマンスを披露していますが、やはり一軍の壁は高いか。二軍で調整中のブレーブス・メロメに先制弾を浴びました』
二軍特有の淡々とした実況に語られる飛鳥。
特大アーチでぶち込まれ、空いた口が塞がらなかった。
結局、この日の飛鳥は3回でさらに1点失い、4回には5失点の大炎上。
4回途中で降板して二軍デビューに失敗した。
「く、くそぉ……次こそは!」
飛鳥は試合後ミーティングで反省したあと、気合いを入れて次も挑むことにした。
しかし。
大和 飛鳥 二軍成績
3試合 16回3/1 防御率7.16 3奪三振
「なんでやねん!!」
飛鳥はグラブを叩きつける。
長い前髪を両手でかきあげる。
おかしい。
だって平均157、最速165だよ?
なんで二軍で打たれる?
おかしいよ
おかしいったら
おかしいよ
飛鳥、心の一句。
「コーチ!なんで私打たれるんですか!」
「体力がカス」
「はい」
飛鳥は真顔になった。
課題は丸わかりだ。
飛鳥が打たれるのはきまって3回以降。
つまり、出力が高い代わりにガス欠も早いのだ。
特に彼女の肉体は女のもの。
高出力は何かの巡り合わせで手に入れたとしても、それに耐えられる肉体は別物だ。
とはいえ女の身体でここまで怪我無しなのは十分タフネスだが……イニングイーターという意味ではタフではなかった。
「3回以降。平均球速が149km/hまで落ちてる。これが打たれる原因ってのはわかってるよな?」
「はい。もう仰る通りでございまして」
飛鳥は一言一句納得した。
ついでにいうとスプリットが未だに精度がカスらしい。
なんでや!完璧に投げとるやろがい!
「もうちょっと落差つけないと。今のところただの130km/hだよ」
「そんなわけあるかい!!」
飛鳥はずっこけた。
コーチがそこまで言うならチームメイトのスプリットを見てみろと言うので、二軍で調整中の一軍セットアッパー石埼くんのスプリットをプルペンで見せてもらった。
「すげー!めっちゃ落ちてる!カッケェっすね!教えてくーださい!」
「生意気だなぁ……」
石埼くんは苦笑いしながらも彼女にスプリットを教えてくれた。
そして、二軍にいる間、時間がある時は見てくれると約束してくれた。
あとは体力面の問題だが。
「飛鳥。明日から中継ぎね」
「はい?」
廊下ですれ違った二軍監督に告げられ、通り過ぎた彼の背中を飛鳥は2度見した。
さすがに冗談かと思ったら本当に翌日からブルペンにぶち込まれた。
「なんでやねん!!」
飛鳥は吠えた。
吠えながら、言われた通りに投げた。
速い球投げる凄いやつは先発じゃないのぉ~!?と思いながら。
彼女は結構自己肯定感が高い。
とにかく言われた通り中継ぎでガンガン投げて、岩埼の言うこともはいはい言う通りに聞いていたら―――
一軍昇格を言い渡された。