大和 飛鳥 二軍成績(矯正後)
21試合 28回 防御率0.64 18奪三振
WHIP0.1071 最速165km/h
「神様、仏様、石埼様~!お酒つぎます、どうぞ!」
「調子いいなぁ……ホントに」
「あっ、わかります?最近めっちゃ調子よくて」
「いや、そっちじゃなくて」
飛鳥は石埼と飲みに来ていた。
石埼はお酒をつがせてあげながら微妙な顔をした。
……めっちゃ泡だらけだし。
「いやぁ、でもホント。カケルさん様々っす!」
「いや、大和の力でしょ」
石埼は謙遜する。
というか本心だ。
彼女は元から凄かった。
石埼の目から見ても逸材だった。
石埼がやったことは、元から素材は揃ってるところに少しアクセントを加えただけだ。
彼からすれば、相手が飛鳥なら誰が指導しても化けてたと思っている。
……いや、馬鹿だし無理かも。
「駆さんはシーズン終盤は一軍昇格してましたよね?どうでした?」
「どう……いや、いつも通り」
「さすがセットアッパー。カッコイイ!」
飛鳥がもてはやす。
彼女は本当に心の底から石埼を尊敬していた。
最初は「セット……アッパー……?なんですか、それ」とか言ってた彼女も説明を聞くと「駆さんスゲー!そんけー!」と目を輝かせた。
そこで初めて中継ぎにも種類があることを知ったのだ。
「駆さんの目標はやっぱり抑えですか?それとも先発?」
「……いや、求められたところで投げるだけ、かな」
「ふーん。欲ちっちゃいっすね」
「えっ」
石埼は初めて顔を上げた。
だが、飛鳥は食事に夢中。
彼女からしたらその言葉は当たり前のように出たものなのだとわかった。
石埼の視線に気づくと、飛鳥は……視線は釘付けのままゆっくりと顔を上げて、怖い顔を貼り付ける。
「ファルコンズは上を目指さないやつを捨てますよ。拘りないなら……駆さんのセットアッパー、私が奪ってもいいですか?」
「……っ!!」
飛鳥は真剣だ。
本気で言っている。
そして、本心で口にしている。
彼女の思想は本気でその闘争心を宿し、ファルコンズの競争意識に染まっている。
石埼は思い出した。
そうだ、このチームが選手に求めている姿勢は……これだ。
常に飢えている野心の塊。
上にあがること以外は、死んでるのと同じなんだ。
石埼は、表情を固く変える。
「いや、大和には渡さない。大和以外にも……譲る気ない」
「ならよかった。競争心、思い出しました?」
「えっ。あぁ、うん」
「簡単に渡さないでくださいよ。その席。まあ私は狙いますけど」
「育成がよく言うわ。まずは支配下でしょ」
「すぐ上がるし!」
そう言って飛鳥はまた肉を口に運ぶ。
うめー!といつもの彼女に戻った。
石埼はそんな彼女を見て、ゾッとすると同時にこいつは凄い野心家が出てきたぞとチームメイトであることを喜んだ。
チームが勝つためにも、競争相手としても、これほど魅力的な女はいない。
「はぁ。食べた食べた。ね、駆さん。やっぱ割り勘にしません?」
「お金、弟くんの為に稼ぐんでしょ。1円も無駄にしちゃダメでしょ。先輩に甘えときな」
「おー。駆さん、カッコつけだ。じゃあ、そういうことにしといてあげまーす」
飛鳥はいたずらっぽくニッと笑って、手を合わせる。
石埼はそんな彼女の表情を忘れないだろう。
飛鳥が珍しく……というか初めて選手と飲みに行ったその日の夜。
彼女はその足で病院へ行った。
そして、病室のベッドの前で突っ立っている。
その手には……支配下登録された新しいユニフォーム。
「……」
『大和直樹くんの容態はよくありません。症状が進み、昏睡状態が続くようになってきました。もってあと3年。手術をするなら来年のうちにはしないと、間に合いません。お姉さん―――それまでに稼げそうですか?』
医師の言葉を思い出し、目を瞑る。
飛鳥は……黙ってユニフォームを着た。
「福岡ファルコンズ。背番号98。大和飛鳥です。プロ野球選手、ちゃんと連れてきたよ。直樹」
「……」
語りかけてももう応えてくれる弟はいない。
彼はずっと眠っている。
飛鳥は、そんな彼を見下ろし、背を向ける。
「待ってて、直樹。残り二つの約束もすぐに果たすから」
飛鳥は、病室を後にする。
プロ野球選手として歩き出す。
あとは弟の代わりに弟の夢を叶えてプロの舞台で活躍するのと、手術代を稼ぐことだけ。
このふたつも必ず達成してみせる。
タイムリミットは―――あと2年。