お姉ちゃんはクローザー   作:伊つき

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女のクローザー

 

圧倒的な球速で飛鳥は即クローザー指名となった。

投手コーチから「やってみないか?」と問われ、食い入るように「やります。やる一択です」と話に乗った。

そのギラついた目を前に、通りすがった選手達は二度見し、彼らにも響くものあり火をつける。

この飛鳥の姿勢は全員にファルコンズの競争環境を思い出させる。

それは、プレーでも一緒。

飛鳥は、最初お試しでセーブシチュエーションではない4点差の場面で9回を登板した。

それを当たり前のように瞬殺で抑え、晴れてクローザーに。

 

 

僅差の最終イニング。

セーブシチュエーション。

日によっては1点も失点が許されない日もあった。

しかし、飛鳥にとって点差などどうでもよかった。

いついかなる時も無失点で抑えることに拘っていた。

理由は単純。

点を取られると、成績が悪くなるからだ。

 

 

「……っ!……っ!」

 

 

ある日、飛鳥はマウンドで肩で息をする。

捕手とサインのやり取りをした。

振り返ればそこは満塁。

ノーアウト。

飛鳥は、プロ入り後、初めてのピンチを迎えていた。

 

 

「……っ。……っ」

 

 

何度も間隔をあけて、飛鳥の中で焦燥する。

点差は3点ある。

チームからしたら何をそんなにもたついてるんだと思われているかもしれない。

それでも飛鳥はスコアボードを見上げ、自分の防御率の数字が0.00から変動することを恐れ、数字を睨みつけていた。

今は21試合目。

この防御率0.00という数字を一生このままにしたい。

そうすれば年俸は跳ね上がるはず。

それに、石埼が言っていた。

このクローザーというポジションで残す圧倒的な成績はより年俸に反映され、額は跳ね上がると。

ならば。

尚更、1点もやれない。

 

 

「……っ」

 

 

そうと決まれば。

ロジンを叩きつける。

今度こそ打者と向き合う。

やることは1つ。

目の前の打者を捩じ伏せる。

思い浮かべるは1つ。

弟の笑顔。

目的を果たすため、こんなところで挫けてなんていられない。

今、このグランドで最も背負ってるのは自分だという自信がある。

別にここで抑えられても誰も死にはしない奴らなら……踏み潰す!!

 

 

「……邪魔だ」

 

 

飛鳥は呟く。

帽子を深く被り、目元の影の奥から眼光を鋭くする。

その圧は、殺意すら覚える。

 

 

(お前ら、全員邪魔だ……っ!!)

 

 

「……っ!!」

 

 

『ストライク!バッターアウト!!』

 

 

無死満塁。

からの3球三振。

①162km/hストレート

②165km/hストレート

③166km/hストレート

この3つで料理してやった。

 

三振を奪ったあと、浮いた右足を暴れさせて打者に背を向ける。

これで1人目。

 

 

 

(お前も……)

 

 

次の打者が打席に立つと、飛鳥はふらつきながらロジンを落として、帽子の奥から相手を見下ろす。

向かい合うもの全てをゾクリとさせながらそれでも飛鳥は自分は普段通りと思いながら振りかぶる。

 

 

今、彼女は集中している。

弟を救うために、立ちはだかる全てを薙ぎ倒す。

数字を悪くさせてこようとする者たちを、ひとり残らず……!!

 

 

(お前も、邪魔だ!!)

 

 

『ストライク!バッターアウト!』

 

 

またしても3球三振。

全球ストレート。

最速167km/h。

返球を受けて、またマウンドに戻る。

彼女はまたふらつく。

 

『タイム!』

「……!」

 

ロジンを落として、振り返ると捕手が近寄ってきていた。

それを飛鳥は即座に手で払う。

 

 

―――来るな。消えろ。

 

 

後にファンに『マウンドにいる時の大和が怖すぎる集』でまとめられる映像のひとつになるシーン。

飛鳥は捕手を追い払って、集まろうとしていた内野陣を睨む映像を残した。

全員その場に釘付けにして、彼女はまたズンドコとプレートに歩みを進める。

次の打者は、今シーズン現状ホームラン数1位の外国人バッター。

 

 

―――ま、知らねえけどな。

 

 

飛鳥は唾を吐く。

相手が誰だろうが、どの場面で回ってこようがいつも何も感じない。

目の前に立ちゃ誰でも一緒だ。

ぶっ倒すべき相手でしかない。

彼らを倒せば倒すほど、弟を救える財産が手に入る。

ならば、全員もう金にしか見えねえぜ。

 

 

「―――お前も、手術代な」

 

 

飛鳥は呟いて、投げた。

後にその映像はファンの間で『この時の大和、なんか呟いてたけどなんて言ってるんだ?これ』と永遠に論争と大喜利になる。

同時にその打席の圧巻の投球も褒め称えられる。

 

最後も、全球ストレート。

165km/h~167km/h。

全コース高め空振り。

 

脳筋3Kゲッチュー。

 

 

 

「うしゃぁっ!!おらぁ!!」

 

 

 

飛鳥は最後の空振りと同時に雄叫びを上げて、ガッツポーズを胸の前に作った。

ゲームセットのコールが響き渡り、捕手がマスクを脱いで笑顔で駆け寄ってくる。

内野陣も寄ってきて、ハイタッチした。

そのままベンチ前で全員並んで全員と全力でハイタッチして帰る。

 

 

 

そんな調子で、飛鳥は来る日も来る日も9回のセーブシチュエーションを抑えまくった。

福岡ファルコンズはサフィラに代わる新守護神、それも絶対的な投手を手に入れた。

 

 

その名も大和 飛鳥。

シーズン成績。

 

 

59試合 63回 防御率0.29 自責点2 91奪三振

WHIP0.682 K/BB3.03 56セーブ

獲得タイトル:セーブ王

 

 

彼女は、究極の守護神である。

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