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キャサリン・オヘアには、確信していることが一つある。
自分と中川尚樹はフレンドシップである。
これは疑う余地がない。落ちるところを掴んでもらったし、着陸の癖を直してもらったし、バッファローを褒めてもらった。合衆国において、これらは全部フレンドシップの構成要件である。少なくとも彼女の中ではそうなっている。
問題は、その先だ。
「ヘーイ、ハルカ」
「なんですか」
「フレンドシップには順番がありますかー?」
ハルカはブルーベリージュースを飲みかけたまま止まった。
「順番、ですか」
「イエース。バディにも一番と二番がありますねー。レキシントンでは、ミーの一番はサッチ大尉でしたねー」
「ああ、なるほど」
「じゃあ、ナオキの一番は誰ですかー?」
ハルカがジュースを吹いた。
「な、なんでそんなことを!?」
「気になるからでーす」
「なりません! そういうのは、こう、暗黙のうちに了解されるものであって、口に出したら負けなんです!」
「ホワイ?」
「順位が確定するからです!」
ハルカは真剣な顔で言った。
「順位が確定すると、負けた人が可哀想じゃないですか。それに私は智子お姉様の一番なので、そちらの序列には興味がありません」
「智子はハルカが一番ですかー?」
「……」
「ハルカ?」
「その話はやめましょう」
そういうわけで、この方面からの調査は失敗した。
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オヘアは自力で観測することにした。
観測は彼女の得意分野ではない。得意分野は着艦事故と空砲と大声であるが、それはそれとして、目で見て数えることくらいはできる。
一日、追いかけ回した。
朝
食堂。彼はコーヒーを二杯淹れた。一杯は自分で飲み、一杯はエルマの前に置いた。
「あっ、ありがとうございます!」
「昨日、書類やってたろ。何時までだ」
「え、えっと、二時くらいまで……」
「今日は昼寝しろ。命令だ」
「私、中隊長なんですけど!」
——エルマ、ポイント1。
午前
倉庫。ウルスラが図面を広げ、彼が横からペンで線を引いた。
「ここが甘い」
「……修正します」
「三度目だぞ」
「二度目です」
「一度目は数えてないだけだ」
ウルスラの耳の先が、ほんのわずかに赤くなった。オヘアはそれを見逃さなかった。
——ウルスラ、ポイント1
昼
宿舎の裏。ビューリングが煙草を差し出し、彼が断った。
「フレデリカ、やめろって言っただろ」
「呼び方は覚えたな」
「覚えたよ」
「よし」
——待つねー。今、名前で呼びましたねー?
——しかも真ん中の名前ねー!
ビューリング、ポイント3
午後
滑走路。ハルカが着陸に失敗しかけ、彼が「前!」と怒鳴った。ハルカが泣きそうな顔で立て直した。
「……ありがとうございます」
「礼はいい。次は自分でやれ」
——ハルカ、ポイント1
夕方
格納庫。智子が九七式の主翼を蹴っていた。
「調子が悪いのよ」
「蹴るな」
「蹴ったら直ることもあるでしょ」
「ない」
「あんたが直しなさいよ」
「はいはい」
「はいは一回」
「はい」
………
オヘアはノートを閉じた。
閉じてから、もう一度開いた。
智子、ポイント……
数えられなかった。
数えようとしたのだが、あの二人の間で発生している事象を「ポイント」という単位で数えることが、そもそも不可能だった。回数ではないのである。頻度でもない。
強いて言うなら——濃度であった。
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「……オヘアさん、なにしてるんですか」
「観測でーす」
「観測?」
エルマが手元のノートを覗き込み、そして固まった。
「これ、私の名前が……」
「ポイント1でーす」
「ポイントってなんですか!?」
「フレンドシップの順位でーす」
エルマは椅子から立ち上がった。
「や、やめてください! そういうのは、その、いけません!」
「ホワイ?」
「隊の空気が悪くなります!」
「ミーは知りたいだけでーす」
「知ったらどうするんですか」
「……」
オヘアは、そこで初めて詰まった。
言われてみれば、知ってどうするのか。
一番だったら嬉しい。それは分かる。だが一番でなかったら、どうするのか。落ち込むのか。腹を立てるのか。それとも、一番になるまで頑張るのか。
考えて、考えて、彼女は結論を出した。
「……オー」
「なんですか」
「ミー、たぶん、一番じゃないねー」
「あ、えっと……」
「でも、それでいいねー」
エルマがきょとんとした。
オヘアはノートを閉じ、ぱらぱらと机の上に放った。
「レキシントンでも、ミーは一番じゃなかったねー」
「そうなんですか」
「サッチ大尉には、もっと上手な部下がいっぱいいたねー。ミーは事故ばっかりで、名簿の一番下でしたねー」
彼女は珍しく、笑わないまま言った。
「でも、大尉はミーに手紙をくれたねー。再調査を始めたって。一番じゃないミーに、わざわざねー」
「……はい」
「だから、思ったねー。一番かどうかは、たぶん、大事じゃないねー」
オヘアはノートを指で弾いた。
「大事なのは、名簿に載ってることねー」
「名簿……」
「ミーはナオキの名簿に載ってまーす。それでオーケーでーす」
エルマはしばらく黙っていた。
それから、少しだけ笑った。
「……オヘアさん、時々すごくいいこと言いますね」
「イエース! テキサス生まれでーす!」
「関係ありますか?」
「たぶん、ないねー!」
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その夜、食堂で。
「ナオキ」
「なんだ」
「ミーとユーはフレンドシップでーす」
「そうだな」
「一番かどうかは聞きませーん」
「そうか」
「でも、これだけ教えてくださーい」
オヘアは指を一本立てた。
「キャサリンは、ユーの名簿に載ってますかー?」
尚樹はコーヒーのカップを置き、少しだけ考えた。
そして、答えた。
「載ってる」
「イエース!!」
「あと、キャサリンは名簿の一番上に自分で勝手に上がってくるから、そもそも順番がない」
「オー、それは褒め言葉ですかー?」
「半分だ」
「残り半分はー?」
「重い」
「ヘーイ!!」
その晩、リベリオンの少女は上機嫌のまま、うっかり尚樹の腕にまた抱きついて、扶桑の少女に襟首を掴まれて引き剥がされた。
いつも通りの、いらん子中隊の夜であった。
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