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所見。
「女の子らしさ」なる概念を、今から学び直すことは、現実的でない。
理由は以下の通り。
第一に、穴拭少尉のような性質は習得不可能である。あの人は立っているだけで何かを発している。自信、と呼ぶのが最も近いが、正確ではない。あれは自信を持とうとして持ったものではなく、最初からああである。顔立ちについても同様であり、これは努力の対象外に分類される。
第二に、迫水軍曹のような熱狂は再現できない。あの人は自分の感情を人前で全開にすることができ、なおかつ相手にそれを許させる。加えて菓子を作れる。菓子を作れるというのは、些細に見えて、実は極めて有効な特技である。私は湯を沸かすことすら失敗した経験がある。
第三に、オヘア少尉の声量と発育については、雲の上の話であり、比較を試みること自体が非合理である。
第四に、ビューリング少尉の破天荒さは、私のロジックのどこにも埋め込めない。あの人の行動には規則性がない。規則性のないものは学習できない。
中隊長については……ひとまず、置いておく。
結論。私は上記いずれの領域にも属さない。
料理をせず、裁縫を知らず、前髪を気にしたことがなく、流行り廃りに至っては存在すら把握していなかった。
雑誌でようやくそれらが「私の性に特有のもの」であると知った程度である。
無縁である。今後も無縁であろう。
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さて、ここで一つ、極めて不都合な事実がある。
仮に。
億に一つ、私がそれらを身につけられたとして。
それを示したい相手が。
——このスオムスにおいて、それらを教えるのが一番手際のいい人物である
世話がない、という慣用句を、私はこの二ヶ月で初めて正しく理解した。
料理。あの人は作れる。整備兵に振る舞っている。
裁縫。あの人は自分の飛行服の裂けたところを、その場で縫っていた。手つきが速かった。
髪。ハルカが絡めたのを梳いていた。私も一度、飛行帽で癖がついたのを直された。無言で、実に手際よく。
つまり、私が習得したい技能の教師と、それを披露したい相手が、同一人物である。
これは論理的に破綻している。
破綻しているが、事実である。
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追加所見。「兄」という概念について。
私には姉がいる。兄はいない。
姉は世話焼きではなかった。
これは非難ではなく、事実の記述である。姉は自分が飛ぶことに忙しく、私が転んでも立たせなかった。立てるようになるまで待っていた。「ウルスラは自分でやりたいでしょ」と言われた。実際その通りだったので、私は不満を持たなかった。
姉は、私の才能について「たくさん活かして欲しい。ただしどこか遠くで」と言った。
これも非難ではない。合理的な判断である。私も同じ立場ならそう言う。
彼は、世話焼きである。
倉庫に来る。溶接を見る。「ここが甘い」と言う。理由を説明する。危険であることを説明し、それでも実験そのものを禁止しない。屋外でやれと言う。人のいない方角を指定する。立ち会う。
そして先日、こう言った。
「お前が死んだら、次の実験ができないからだ」
この一文の処理に、私は現在も失敗している。
姉に対して、何らかの焦げ付いた欲求が湧いたことはない。
姉は姉であり、私は私であり、それで完結していた。
が。
……が。
これ以上は、やめておく。
記録として残すべき内容ではない。
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総括。
単純な話である。
私は、人生で初めて、身内以外の異性と継続的に関わった。
その最初の一例が、彼だった。
比較対象が存在しない状態で、私は「異性とはこういうものである」という基準を、彼一人から抽出してしまった。
説明が的確であること。危険と安全を理屈で分けること。年齢を理由に説明を省略しないこと。「悪くない発想だ」と評価すること。約束の条件を先に提示すること。子供扱いをしないこと。そして——絡んだ髪を、無言で梳くこと。
これらが「標準」として、私の内側に刷り込まれた。
比較対象がないので、修正の機会もなかった。
つまり、私はもう、二度と帰れない。
将来、私がカールスラントに戻り、しかるべき年齢になり、しかるべき誰かと出会ったとして。
私はその人物に対し、無意識に問うだろう。
この人は、私の図面の甘いところを指摘できるか。
この人は、私が失敗したときに「三度目だ」と数えているか。
この人は、私が死んだら次の実験ができないと言うか。
言わないだろう。
そして私は、非常に事務的に、こう結論するのだ。
「条件を満たしていません」
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その夜、ウルスラは机の一番下の引き出しを開けた。
工具箱を出し、二重底を開け、油紙の包みを取り出す。
雑誌を開いた。
「気になるあの人の前ではいつもと違う自分を」という頁を、もう一度読んだ。
そして、静かに閉じた。
「……無理です」
代わりにノートを開き、彼女は新しい頁にこう書いた。
課題:菓子の製法について。
理由:迫水軍曹が可能である以上、技能として習得可能な範囲にあると推定される。
問題:製法を知る者に教えを請う必要があるが、当該人物は本件における観測対象と同一である。
対応:迫水軍曹に依頼する。
懸念:迫水軍曹は理由を尋ねるであろう。
回答案:「熱量計算の実地演習」と説明する。
書き終えて、ウルスラは満足そうに頷いた。
完璧な計画である。
論理的で、無駄がなく、目的を秘匿しつつ達成できる。
翌日、彼女はハルカに声をかけ、そして開口一番にこう言われた。
「あっ、中川少尉のためですか?」
「……違います」
「そうですよね! 違いますよね!」
「違います」
「うんうん、私も違います!」
「……あなたは何の話をしているのですか」
「同志の話です」
「同志ではありません」
「そうですね! 同志ではありません!」
ハルカは実に晴れやかな顔で、粉と砂糖を持ってきた。
追加所見。秘匿は失敗した。
原因不明。継続観測とする。
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