スオムスいらん子中隊 Re:lease   作:それいゆ

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出迎えの編成から、尚樹は外された。

 

理由は明快である。

 

「もし迎えに行った先で『これ』が出てきたら、相手が困るでしょう」

 

ハッキネンにそう言われ、彼は「はい」とだけ答えた。

 

「不服ですか」

 

「いえ。俺が逆の立場でも同じことを言います」

 

「よろしい。基地待機です」

 

というわけで、当日、中川尚樹は厨房と格納庫と主計科の帳簿の間を往復しながら一日を過ごした。

 

そして夕方、義勇独立飛行中隊は帰投した。

 

---

 

滑走路に降り立った五人のうち、四人は普通に歩いていた。

 

一人だけ、様子がおかしかった。

 

「中隊長」

 

「…………」

 

「エルマ」

 

「…………」

 

「おい」

 

返事がない。

 

エルマ・レイヴォネンは、ストライカーユニットを履いたまま、目を開けたまま、完全に停止していた。顔色が青を通り越して白い。

 

「……なんだこれ」

 

「壊れたねー」

 

「壊れてはいないだろ」

 

「壊れてまーす」

 

尚樹はため息をついて、正面から彼女の肩を掴んだ。

 

反応がない。

 

仕方がないので、そのまま抱きとめるようにして背中を二度叩いた。

 

「戻ってこい」

 

「……ぁ」

 

「はい深呼吸」

 

「……すぅ」

 

「吐け」

 

「……はぁ」

 

「もう一回」

 

三度目の呼吸で、エルマの目に焦点が戻った。

 

戻って、そして、自分が今どういう体勢にあるかを理解した。

 

「——ひゃっ、ひゃああああ!?」

 

「うわ、暴れるな、落ちる」

 

「す、す、すみません! 失礼しました! 大変失礼しました!」

 

「別にいい」

 

「よくないです!」

 

顔が首まで真っ赤になっていた。

 

尚樹は彼女の肩を押さえたまま、実に慣れた調子で言った。

 

「はい、落ち着け。息吸って。まだ震えてるだろ」

 

「震えてません!」

 

「震えてる」

 

「震えてません!!」

 

そして彼は、そのまま顔を上げて、少し離れたところに立っていた人物を見た。

 

「……智子」

 

「なによ」

 

「何した」

 

「私じゃないわよ!」

 

「中隊長がこうなるのは、大抵お前が原因だろ」

 

「今日は違うの! 断じて違うの!」

 

「じゃあ何があった」

 

「あの女よ!」

 

智子は背後を指さした。

 

---

 

このやりとりは、義勇独立飛行中隊にとって完全に見慣れた光景である。

 

誰かが限界を迎える。尚樹が回収する。原因として智子が疑われる。智子が抗議する。ハルカが油を注ぐ。オヘアが笑う。ビューリングが煙草に火を点ける。

 

いつもの、痴話喧嘩ですらない痴話喧嘩である。

 

——だが、今日それを初めて見た女がいた。

 

「ほう」

 

低い声がした。

 

金髪を後ろで束ね、鼻の上に横一文字の傷を持つ女が、腕を組んで立っていた。

 

彼女は極めて率直に、そして極めて楽しそうに言った。

 

「お前、男だな」

 

「はい、まあ、お陰様で」

 

「……お陰様で?」

 

「言い回しに困りまして」

 

ルーデルは声を上げて笑った。

 

「気に入った」

 

「困ります」

 

「道中で聞いたんだがな。ここ数ヶ月、欧州のあちこちで『オトコのウィッチ』の噂がちらちら上がってるらしい」

 

尚樹の表情が、わずかに動いた。

 

「中身や経緯はどうでもいい。だが、もしそれがお前なら、面白そうだ」

 

「全く面白くないです」

 

彼は明後日の方角を向いた。

 

「ウィッチの花園にそんなもんが混ざってると、色々と——」

 

「ネウロイを何機やった」

 

ぐいっ、と距離が詰められた。

 

ルーデルは一歩で間合いを潰し、尚樹の顔を下から覗き込んだ。鼻先が触れそうな距離である。碧眼が、値踏みするというより、獲物を吟味する目つきで彼を見上げていた。

 

「ちょっと」

 

智子が声を上げかけたが、ハルカとオヘアに両側から押さえられた。

 

「智子少尉、静かに」

 

「これ、面白いところねー」

 

「離しなさいよ!」

 

尚樹は視線を逸らさなかった。逸らさなかったが、明らかに逃げ場を探していた。

 

そして、諦めて答えた。

 

「……数えてません」

 

「ほお」

 

ルーデルの口角が、はっきりと上がった。

 

その一言は、二重の意味を持っていた。

 

一つは、質問への回答である。

 

もう一つは——噂の人物は私めです、という肯定だった。

 

否定も誤魔化しもせず、ただ「数えていない」とだけ、あっけらかんと真面目に返した。

 

その答え方が、この女には決定的だったらしい。

 

「私もだ」

 

彼女は言った。

 

「私も数えていない。だが勝手に数えられて、勝手に担ぎ上げられてしまう」

 

「……」

 

「あれは実に不便だ。撃破数が増えるたびに、上が私を大事にしようとする。大事にされると飛べなくなる。飛べないなら、何のために撃破したのか分からん」

 

「……その通りです」

 

「だろう!」

 

ルーデルは彼の肩を思い切り叩いた。尚樹がよろけた。

 

「こんな避暑地で同類に会えるとは光栄だ!」

 

「避暑地じゃないです。氷点下です」

 

「同じことだ」

 

「同じではないです」

 

「アーデルハイド」

 

「はい」

 

「こいつは面白い」

 

「そのようですね」

 

「明日、連れていくぞ」

 

「大尉。地上支援は禁止されています」

 

「明日は許可が出るだろう」

 

「まだ出ていません」

 

「出る」

 

「……はい」

 

---

 

ルーデルが宿舎の方へ歩き去ると、尚樹は長い息を吐いた。

 

「……智子」

 

「なによ」

 

「あれ、なんだ」

 

「知らないわよ。カールスラントから来た爆撃の英雄だって」

 

「英雄ってああいうのか」

 

「私に聞かないでよ」

 

「怖い」

 

「あんたが怖がるの、初めて見たわ」

 

「怖いって。あの人、俺のこと『同類』って言ったぞ」

 

「同類でしょ」

 

「違う」

 

「同類よ」

 

「違うって!」

 

尚樹は本気で嫌そうな顔をした。

 

その顔を見て、智子は少しだけ溜飲を下げた。

 

いつもこの男は、こちらをからかう側にいる。飄々として、掴みどころがなく、追い詰められることがない。

 

その男が、今、明らかに困っている。

 

「……よかったじゃない」

 

「どこがだ」

 

「あんたを面白がる女が増えて」

 

「増えなくていい」

 

「増えたのよ」

 

「増えなくていいって言ってるだろ!」

 

そのとき、まだ顔を赤くしたままだったエルマが、ようやく口を開いた。

 

「……あの」

 

「なんだ」

 

「ルーデル大尉って、その、あの、なんというか」

 

「言え」

 

「……今日、二百五十キロ爆弾を抱えたまま、地面に激突する角度で降りて行かれました」

 

「うん」

 

「そのまま、本当に地面ギリギリで爆弾を落とされました」

 

「うん」

 

「引き起こしが、その、たぶん、十メートルくらいで」

 

「……」

 

「あれを、明日、私たちもやるそうです」

 

尚樹は、しばらく黙った。

 

そして、非常に真剣な顔で言った。

 

「……中隊長」

 

「はい」

 

「明日は、俺も出るよう頼んでみる」

 

「え」

 

「あの人一人にお前らを預けると、たぶん誰か死ぬ」

 

「そ、そうですよね!?」

 

「絶対に死ぬ」

 

「よかったです、私だけがおかしいのかと!」

 

「おかしくない。全部おかしいのはあの人だ」

 

背後で、ビューリングが煙を吐きながら呟いた。

 

「……お前が言うと説得力があるな」

 

「なんでだよ」

 

「同類だからだ」

 

「違うって言ってるだろ!!」

 

---

 

---

 

夕食も終わり、自室で寝っ転がろうかと思った智子だったが、格納庫に明かりがついていることに気がついた。

 

中にいたのはウルスラであった。

 

作業台の上には長方形の箱。側面から金具が突き出ており、両端には肩掛け用のベルトらしきものがついている。

 

「爆弾懸架装置です。ルーデル大尉のものを参考にしました」

 

「よくルーデル大尉が見せてくれたわね」

 

「快諾してくれました。ついでに『どうせなら自分で作れ』と言われました」

 

「言いそうね」

 

「中川少尉が図面を起こしてくれたので、あとは組むだけでした」

 

「……あいつも噛んでんの」

 

「金具の角度が甘いと指摘されました。四度目です」

 

「数えられてるじゃない」

 

「私は三度目だと主張しました」

 

ウルスラは油がつかないよう注意して眼鏡を直した。

 

「将来はスオムスでも、ウィッチによる爆撃部隊を編成することがあるでしょう。今からノウハウを学ぶことは決して無駄になりません」

 

「私たち外国人よね」

 

「せめて形のあるものを残します。その中の一つが爆弾懸架装置です」

 

全部で六つ完成。義勇独立飛行中隊全員の分である。

 

智子はウルスラを手伝って綺麗に並べた。

 

「私たちは爆弾を何キロまで積めるの」

 

「慣れていませんから八十キロでしょうか」

 

「その程度であのデカいの潰せるかしら」

 

「そこはルーデルさんたちにお任せするのがいいと思います。ただ……私たちの爆撃技術では効率が悪いので、苦戦は免れないかと」

 

「そりゃそうよ。本業は制空戦闘なんだから」

 

「私たちなりの効果的手段を模索する必要があるかもしれません」

 

「つまり?」

 

「……これから考えます」

 

ウルスラは手を止めたポーズのまま考えごとに入った。

 

智子はなにも言わずに格納庫から出ていった。

 

---

 

翌朝は雲交じりの晴天。絶好の飛行日和だが、つまりはネウロイからも攻撃しやすいということだ。

 

「サッコラ方面にネウロイの大軍を発見。歩行戦車型ネウロイを伴っている模様。第28戦隊はただちに出撃せよ」

 

ハッキネンの命令一下、義勇独立飛行中隊とルーデルおよびアーデルハイド、そして第一中隊はラッペーンランタ基地を飛び立った。

 

爆撃編隊に護衛のウィッチ隊、まるで一流国の空軍みたいだとエルマは感嘆の声を上げた。

 

「すごいです……なんかもうそれっぽい……」

 

「中隊長がそれっぽいとか言っちゃ駄目でしょ」

 

智子がエルマをたしなめる。

 

「これくらい当然だと思わなきゃ」

 

「でもスオムス空軍って本当に貧乏で、こんなことできなかったんです。これも皆さんのおかげです」

 

「ずっとできるよう頑張んなさいよ」

 

智子たち義勇ウィッチはよそ者だ。いつかは帰国命令が出るか、あがりを迎えて帰ることになる。スオムス人が自力でやり遂げるようにならないといけない。

 

エルマもそのことは理解しているのだろう。唇を引き締めていた。

 

---

 

そう言いながら、智子は自分の内側で、少しだけ後ろめたいものを転がしていた。

 

——偉そうなことを言える身分じゃないのよね。

 

扶桑海事変。

 

あのときの空には、ウィッチのストライカーユニットだけが浮いていたわけではない。

 

数多くの航空機が飛んでいた。戦闘機も、偵察機も、そして爆撃機も。

 

九七式重爆撃機。編隊を組んで、はるか高いところを、ごうごうと音を立てて渡っていく双発の機体。智子はそれをやんわりと覚えている。ウィッチが前に出るための露払いに使われ、時には自分たちの護衛につき、時には自分たちが護衛についた。

 

爆弾を積んで飛ぶ専門の部隊があり、爆撃照準を専門にする搭乗員がいて、爆撃効果を判定する専門の将校がいた。

 

つまり——**あった**のだ。扶桑には。

 

軍部のいざこざを現場でも嫌というほど知っている。陸軍と海軍が同じ敵と戦いながら別の会議で別の予算を取り合い、映画の宣伝一つで悔しがるような国だ。メンツとくだらない意地を張り合う国民性である。

 

だが、それができるということは、張り合うだけのものを両方が持っているということでもある。

 

欧州と、欧州から飛び出した子供のリベリオン。その二つに、アジアの国家でありながら、なんだかんだで張り合っている。

 

**扶桑皇国は、一等国なのだ。**

 

だから智子は、爆撃機の編隊を「当たり前の風景」として覚えている。

 

このスオムスには、それがない。

 

ウィッチ用の爆弾懸架装置すら、十一歳の子供が夜中に手作りしている。二百五十キロ爆弾は倉庫で埃を被っていたものを掘り出してきた。爆撃の教範がないから、カールスラントから来た一人の女に全部を教わろうとしている。

 

「これくらい当然だと思わなきゃ」

 

——よく言うわ、と智子は自分に思った。

 

自分は、当然の側に生まれただけだ。

 

生まれた場所で、九七式戦闘脚をあてがわれ、明野で訓練を受け、映画に出され、巴御前と呼ばれた。

 

その恵まれた出自のまま北欧に流されて、腐って、拗ねて、一人で戦うと喚いた。

 

その隣で、この国の娘は、貧乏な国のボロ機体を自分で直して飛んでいる。

 

「……エルマ中尉」

 

「はい?」

 

「さっきの、訂正します」

 

「え?」

 

「『これくらい当然』じゃないです」

 

智子は前を向いたまま言った。

 

「これ、すごいことです。よくここまで持ってきましたね」

 

エルマは、しばらく返事をしなかった。

 

やがて、少し湿った声で言った。

 

「……あの、穴拭少尉」

 

「なんですか」

 

「泣きそうなので、あとにしてください」

 

「泣かないでください、爆弾積んでるんですよ」

 

「はい……!」

 

---

 

『——おい』

 

インカムに別の声が入った。

 

編隊の左後方、白い装甲がついてきている。

 

『そこ、感動するとこか?』

 

「あんたは黙ってなさい」

 

『いや、いい話だったぞ。俺も少しじんときた』

 

「嘘つきなさいよ」

 

『本当だって』

 

「じゃあなんでにやついてんのよ」

 

『見えないだろ、面覆いしてるんだから』

 

「にやついてる声してんのよ!」

 

『鋭いな』

 

「智子少尉! 私も感動しました!」

 

「ハルカは黙って!」

 

『扶桑三番より扶桑一番。爆弾積んでるんだから静かにしろ』

 

「あんたが始めたんでしょうが!!」

 

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智子たちはそれぞれ爆弾懸架装置を肩にかけ、ウィッチ用の八十キロ爆弾をぶら下げていた。ストライカーユニットが爆撃専用ではないので、このあたりが限界である。いつもの武器は背中に回し、加えて智子は愛用の備前長船を腰に下げていた。

 

その少し後ろ、白い装甲の両脇には、それぞれ八十キロ爆弾が二発ずつ、計四発が懸架されていた。

 

「……ちょっと」

 

「なんだ」

 

「あんた、なんで四つ持ってんのよ」

 

『積めたからだ』

 

「積めたからって!」

 

『減った方が身軽でいい。早く落としたい』

 

「あんたもあっち側の人間なの!?」

 

編隊の先頭で、ルーデルが実に愉快そうに笑った。

 

「聞いたか、アーデルハイド」

 

「聞きました」

 

「気に入った。あいつ、私の隣に来い」

 

『遠慮します』

 

「命令だ」

 

『大尉、俺は海軍です』

 

「細かいことを言うな!」

 

サッコラの空が、近づいていた。

 

---

 

---

 

『ここはカールスラントに比べて、まだ楽に昼間爆撃ができるな』

 

ルーデルの声がインカムから流れる。

 

『いい機会だ、諸君らに質問しよう。急降下爆撃の利点はなんだ』

 

「水平爆撃よりも命中精度が上がること……でしょうか」

 

『それは二番目の利点だな』

 

「一番目というのは……」

 

『ただで牛乳が飲めることだ』

 

『大尉は冗談を言っているのです。笑うかどうかは皆さんの判断にお任せします』

 

沈黙。

 

『……まあ、爆弾に目でもつかない限り、急降下爆撃しか命中精度を高める方法はない』

 

「……訓練では……」

 

『そんな暇はない』

 

ルーデルは真下を指した。ぎゅうぎゅう詰めの避難列車が、東から西へ走っている。

 

『ああいう人たちが一日でも早く元の家に帰れるように、全力で戦わなければならないのだ』

 

『大尉はただ戦いたいだけです』

 

「アーデルハイド、余計なことを言うな。——それと、投下順を決めておく」

 

ルーデルは振り返らずに続けた。

 

「一番手は私。二番手はアーデルハイド」

 

「はい」

 

「三番手、そこの男」

 

『……は?』

 

「聞こえなかったか。三番手だ」

 

『大尉、俺は編隊の後ろで——』

 

「四発積んでいるやつが後ろにいる理由がない」

 

『それは、その』

 

「返事は」

 

『……了解しました』

 

「よし」

 

智子は隣で聞きながら、口の端が引き攣るのを感じた。

 

「あんた、断らないの」

 

『断ったろ。二回』

 

「もう一回断りなさいよ」

 

『あの人、三回目で階級を出してくるタイプだぞ』

 

「よく分かってるじゃない」

 

『同じ人種を何人か知ってる』

 

---

 

ヴォクシ川。ペタヤルヴィの鉄道駅。そして、その先。

 

『いたぞ! あのネウロイだ!』

 

地面を震わせながら前進する銀色の怪物。周囲に地上型ネウロイをいくつも従え、まるで宮殿が移動しているかのようだ。

 

歩行戦車型ネウロイが停止。主砲が火を吹き、歩兵部隊が消し飛んだ。

 

『攻撃する!』

 

ルーデルが降下を開始。二百五十キロ爆弾をぶら下げたまま、自殺としか思えない角度で突っ込んでいく。

 

投下。同時にアーデルハイドも投射。

 

轟音と火炎。

 

——そして、歩行戦車型ネウロイは、ゆっくりと前進を再開した。

 

「くっ、しくじったか」

 

「直撃しませんでした。もっとも、あれでは直撃しても効果があるかどうかは疑問ですが」

 

「二百五十じゃ駄目か」

 

『——三番手、行きます』

 

白い装甲が、上空から落ちてきた。

 

角度はルーデルより浅い。だが速度が違った。減速していないどころか、推進機を吹かして加速している。

 

『四発、時間差で落とす』

 

「なにをするつもりだ」

 

『一発目で足を止めます。二発目と三発目で同じ場所に。四発目は本体』

 

「同じ場所に三発!?」

 

エルマが叫んだ。

 

『やってみます』

 

投下。

 

一発目が、六本ある脚の一本の付け根に落ちた。

 

装甲は割れない。だが、その脚が半歩だけ遅れた。六本足の歩行は、一本が遅れると全体の位相が崩れる。巨体がわずかに沈んだ。

 

その沈んだ姿勢の、同じ関節に、二発目。

 

続けて三発目。

 

三度同じ場所を叩かれ、関節の被覆がめくれた。銀色の下から、鈍い色の構造が覗く。

 

『——四発目』

 

白い装甲は、そこで爆弾を落とさなかった。

 

代わりに、腰部から長大な砲身を引き抜いた。

 

『ヴァリス』

 

砲口が、めくれた関節に向く。

 

一射。

 

歩行戦車型ネウロイの右前脚が、根本から吹き飛んだ。

 

巨体が大きく傾ぎ、雪原に片側を突っ込んで、動きを止めた。

 

歩兵の戦列から絶叫のような歓声が上がった。

 

「————」

 

ルーデルが空中で静止していた。

 

「……アーデルハイド」

 

「はい」

 

「あれは何だ」

 

「爆弾を三発、同じ場所に落としました」

 

「その後だ」

 

「砲を撃ちました」

 

「爆弾はどうした」

 

「四発目は落としていません。三発目までで足りたのでしょう」

 

「……いや、待て。ならば四発目はまだ持っているのか」

 

『持ってます』

 

「なぜ落とさない」

 

『落とすと、次の目標がないと無駄になるので』

 

「……」

 

ルーデルは、たっぷり三秒黙った。

 

そして、この日一番の大声で笑った。

 

「気に入った!!」

 

「大尉、まだ戦闘中です」

 

「気に入ったと言っている!」

 

---

 

そして、上空に点が現れた。

 

『小型ネウロイ接近中!』

 

「……アホネン大尉! 黒! 黒いネウロイよ!」

 

智子が叫んだ瞬間には、もう白い装甲が上を向いていた。

 

『——四発目、いま落とします』

 

「え?」

 

『邪魔になる』

 

最後の八十キロ爆弾が投棄され、無人の雪原で炸裂する。

 

その爆発音を背中に聞きながら、白い装甲はすでに上昇に入っていた。

 

そして、そこからが違った。

 

黒い小型ネウロイは、四機。編隊機動を使い、一撃離脱に徹し、第一中隊の鼻面を押さえて突破してきた。

 

爆装したままの義勇独立飛行中隊にとって、これ以上ないほど不利な状況である。

 

そこへ、白い線が割り込んだ。

 

『——散れ!』

 

言うが早いか、彼は黒いネウロイの編隊の**前**に出た。

 

背中の推進機が全開になる。加速の音はしない。ただ、緑の光が一直線に伸びて、雲を裂いた。

 

そして、その速度のまま。

 

**止まった。**

 

「……は?」

 

智子が声を漏らした。

 

音速域から、ほとんど一瞬で。慣性というものを無視したような、暴力的な急制動。

 

黒いネウロイ四機の進行方向に、白い塊が突然「立ちはだかった」形になった。

 

四機が一斉に光線を放つ。彼は避けなかった。

 

避けずに、また加速した。

 

光線を掻い潜り、編隊の内側へ滑り込み、一機の鼻先を掠めて通過する。撃たない。斬らない。

 

ただ、通り過ぎる。

 

通り過ぎられた黒いネウロイは、進路を大きく崩した。

 

『撃たないのか!』

 

ルーデルの声。

 

『撃つと追います』

 

「なに?」

 

『こいつら、撃ってきた相手を狙う。だから撃たない。ぶつかりそうな相手からは逃げる。だから寄る』

 

「……牽制に徹する気か」

 

『倒すのは後です。まず、爆装した連中を逃がします』

 

白い線が、四機の間をめちゃくちゃに走り回った。

 

加速し、急停止し、また加速する。そのたびに黒いネウロイの編隊が乱れていく。二機一組の連携が崩れ、進路が交錯し、味方同士がぶつかりかけて散開する。

 

一機も墜としていない。

 

だが、四機全部が、義勇独立飛行中隊から引き剥がされていた。

 

「……なにあれ」

 

「智子、口を開けている場合か」

 

「だって」

 

「投棄しろ。今のうちだ」

 

「……分かってる!」

 

---

 

爆弾が投棄され、身軽になった義勇独立飛行中隊は即座に回避行動に移った。

 

「今度はこっちの番よ!」

 

「私も行こう」

 

智子とビューリングが上昇し、旋回して小型ネウロイと向かい合う。

 

すれ違い様、備前長船が一機を縦に断ち割った。

 

「やった!」

 

「後ろだ智子! 後ろ!」

 

残りが急上昇し、一撃離脱の態勢に入る。

 

追いつけない。九七式の上昇力では届かない。

 

再び速度の優勢を生かして突き進んでくるネウロイ。智子は刀を諦め、機関銃を構え直す。

 

その隙を突かれた。

 

光の束が一直線に飛んでくる。シールドで一撃は防いだ。だが別の一機が距離を詰める。

 

シールドを向ける余裕がない。

 

「智子!」

 

ビューリングの銃弾が牽制する。彼女はハリケーンを全開にし、グルカ・ナイフで一機の正面を粉砕した。

 

だが、最後の一機がフリーだった。

 

十分に狙いをつけた光線が放たれる。

 

智子はとっさに右脚を跳ね上げてシールドを張った。扶桑海事変で鍛えたサーカス技だ。

 

それでも、左脚だけは残った。

 

光線が九七式戦闘脚の先端を吹き飛ばした。

 

「うっ!」

 

外板が剝がれ、魔導エンジンが剝き出しになり、黒煙を上げて脱落していく。

 

智子の身体がひっくり返り、上空を向いたまま落ちていく。

 

そのまま、ネウロイ軍の真っただ中へ——

 

『智子!』

 

視界の端を、緑の光が横切った。

 

だが、届かない。距離がありすぎた。あの位置からでは、いくらあの機体でも間に合わない——

 

「穴拭さん、そのまま頑張ってください!」

 

先に届いたのは、エルマとオヘアだった。

 

右腕をエルマが、左腕をオヘアが掴む。二人がかりで引き上げられ、智子の身体は空中に浮いた。

 

数瞬遅れて、白い装甲が横に並んだ。

 

『……間に合わなかった』

 

「間に合ってるじゃない」

 

『間に合ってない』

 

「掴んだのは、この二人よ」

 

智子は自分の両腕を見た。

 

「あんたが黒いのを引き剥がしてなかったら、私たちは爆弾抱えたまま全滅してた」

 

『……』

 

「だから、間に合ってるの」

 

尚樹は何も言わなかった。

 

言わずに、剝き出しになった智子の左足を一度だけ見て、それから前を向いた。

 

---

 

小型ネウロイは数で不利になったと見るや、緩降下してそのまま遠ざかっていく。引き揚げ方まで見事であった。

 

「智子、大丈夫ねー?」

 

「平気……。ネウロイは?」

 

地上に目をやる。

 

歩行戦車型は一体、片脚を失って雪原に沈んでいた。

 

だがその後方から、二体目、三体目が姿を現していた。

 

前線は総崩れだ。敗走する兵士を追って、地上型ネウロイの群れがキビニエミ鉄橋に殺到しつつある。

 

「川が渡られます」

 

ウルスラが咳く。

 

「工兵は……?」

 

「爆薬を仕掛ける余裕がなかったんです。スオムス軍は貧乏ですから……」

 

エルマが残念そうに目を伏せた。

 

「……大尉」

 

『なんだ』

 

ルーデルの声に、尚樹が答えた。

 

『あの橋、俺なら落とせます』

 

「爆弾は全部落としただろう」

 

『ヴァリスなら、橋脚を三本抜けます』

 

「——だが」

 

ルーデルは、珍しく間を置いた。

 

「あれは、この国の橋だ」

 

『……はい』

 

「命令を待て」

 

『はい』

 

ウィッチたちはしばらくネウロイの行動を見つめていた。

 

それから無言で、ラッペーンランタ基地への帰路に就いていった。

 

---

 

 

 

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