スオムスいらん子中隊 Re:lease   作:それいゆ

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★35

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義勇独立飛行中隊とシュトゥーカ隊はさらに高度を落とす。

 

「見えました!」

 

前方に小さくキビニエミ鉄橋が浮かび上がる。その周辺はネウロイのものだ。

 

「見つからないといいけどねー」

 

「まあ無理だろうな」

 

ビューリングが答えると同時に、上空がきらりと光った。

 

「やはり出迎えだ」

 

黒い小型ネウロイ。幾度か旋回すると、急速に接近してくる。

 

「上昇します。爆撃隊を守ってください!」

 

ルーデルたちと別れ、智子はキ44の出力を上げた。

 

「さあいくわよ。あいつらぶちのめすわ。命預けるわよ!」

 

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一方、水面すれすれを飛ぶ爆撃隊。

 

「直掩の戦闘機隊が離れます」

 

アーデルハイドが言う。

 

「彼女たちに任せよう」

 

「大尉はあの人たちをずいぶん信頼していますね?」

 

「自分たちとは関係のない国なのに命を懸けているんだ。軽んじたりはしないよ」

 

そしてルーデルは、隊列の最後尾を確認した。

 

「中川少尉」

 

『はい』

 

「お前は上か下か、どちらにつく」

 

『下です』

 

「なぜだ」

 

『上には智子がいるので』

 

ルーデルは笑った。

 

「よし。ならば対空砲火を頼む」

 

『了解』

 

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上空では激しい空中戦がはじまっていた。

 

「攻撃開始です!」

 

「ヒーハー!」

 

オヘアが鬨の声を上げて突進する。

 

「ヘイ、ハルカ! もっと寄るねー!」

 

「きゃーっ! ネウロイがどんどん飛んできます!」

 

「落ち着くね! これが成功したら、智子がなんでもするって言ってたねー!」

 

「本当ですか!」

 

「言ってないわよ!」

 

智子は射撃を繰り返して鉄橋の上からネウロイを追い散らす。

 

「エルマ中尉、迎え撃ちましょう!」

 

「……穴拭少尉。あなたに指揮を任せます」

 

「いいんですか?」

 

「ええ、その新鋭機の力、存分に発揮してください!」

 

「了解しました。穴拭智子、戦闘指揮を執ります!」

 

「全員、私についてきて!」

 

一撃離脱。上昇。再攻撃。

 

キ44は、まさにこのための機体だった。

 

「なかなかやるわね」

 

彼女はキ44に語りかける。

 

「私の愛機って認めてあげるわ。もう少し頑張ってもらうわよ!」

 

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その頃、水面。

 

「私が前に出ます」

 

ウルスラの多連装ロケット弾発射機が扇状に火を吐き、対空砲装備の小型ネウロイを薙ぎ払った。

 

だが、それでも残る。

 

『——右前方、三基残ってます』

 

白い装甲が編隊から離れた。

 

『拾います』

 

加速し、水面を削るように滑り、腰のヴァリスを引き抜く。

 

三射。

 

三基の対空砲塔が、順に沈黙した。

 

「……見たか、アーデルハイド」

 

「見ました」

 

「あれは何だ」

 

「射撃です」

 

「そうではない。水面すれすれで、あの速度で、三度撃った」

 

「はい」

 

「頭がおかしいのではないか」

 

「大尉が言いますか」

 

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そして反跳爆撃。

 

チュインニとアーデルハイドの爆弾が水面を跳ね、鉄橋後方に命中する。

 

「当たった!」

 

「まだ!」

 

橋が傾く。歩行戦車型ネウロイが滑り落ちていく。

 

歓声が上がった。

 

だが——落ちなかった。

 

橋の残骸に足を絡ませ、一歩一歩、北岸へ登っていく。

 

「まだ生きてるぞ!」

 

「十一時方向に敵ねー!」

 

「空のやつを迎撃して! 一番近いのは……ハルカね!」

 

「私ですか!?」

 

「あんたが一番早い!」

 

ハルカが飛び出していく。智子はオヘアとビューリングをあとに続かせた。

 

「私に任せてもらう」

 

ルーデルが言った。

 

「歩行戦車型ネウロイの動きは鈍い。次なら命中させられる」

 

「切り離し部が故障しているんですよね」

 

「あれは嘘だ」

 

「……嘘って!?」

 

「若い連中に成功体験を積ませたくてね」

 

彼女は薄く笑う。

 

「少尉、露払いを頼む。私の前でシールドを張って欲しい」

 

「やります!」

 

『——大尉』

 

「なんだ」

 

『下の小型砲塔、二基残ってます。俺が潰します』

 

「いらん」

 

『いります』

 

「私が突っ込む間、お前は撃つな。爆撃針路が乱れる」

 

『……訓練と同じことを言いますね』

 

「今日は実戦だからな。だが今のは違う。私が落とすと決めた」

 

『……了解』

 

「その代わり、一つ頼む」

 

「はい」

 

「あの娘が離脱した後の背中を見ていろ」

 

一瞬の間があって、白い装甲は短く答えた。

 

『そのつもりでした』

 

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二人は呼吸を合わせ、歩行戦車型ネウロイに急降下した。

 

智子が前でシールドを張る。対空射撃が命中し、光り続けて前が見えない。

 

「大尉!」

 

「やれ!」

 

智子はシールドを解いて離脱。

 

その離脱した先——無防備になった彼女の側面に、小型砲塔がわずかに旋回した。

 

その砲身が、根本から吹き飛んだ。

 

「————っ!」

 

智子は、自分のすぐ横を緑の光が通過するのを見た。

 

「……ばか」

 

彼女は呟いた。

 

「撃つなって言われてたでしょうが」

 

『言われたのは大尉が突っ込む間だけだ』

 

「屁理屈!」

 

『屁理屈だ』

 

そして——

 

「受け取れ!」

 

ルーデルの二百五十キロ爆弾が、ネウロイの前方に着弾した。

 

橋桁が消し飛び、鉄橋がずるりと滑って横倒しに落下していく。

 

歩行戦車型ネウロイは橋にしがみついたまま、ヴォクシ川に転落した。

 

水柱。あぶく。そして、虹色の破片。

 

歓声が上がった。

 

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——疑い、というのは底なしだ。

 

上昇しながら、白い装甲の中で、中川尚樹はそんなことを考えていた。

 

ボタンの掛け違いから始まる。掛け違った理由を考えるうちに、嘘と本当の境目が溶ける。溶けた境目を確かめようとして、また一つ掛け違える。

 

そうやって深みにはまり、二度と抜け出せなくなる。

 

彼は、その疑いを嗅ぎ分ける嗅覚だけは、圧倒的だった。

 

誰が何を隠しているか。どの言葉が本心で、どの沈黙が防御か。どこで話が一段ずれたか。

 

問題があるとすれば——嗅ぎ分けたそれを、一度、正しく扱えなかったことだ。

 

詳しく言えば「前の世界」でのことである。

 

コードとギアスが、世界の裏側で蠢いていた世界。

 

あそこでは、その嗅覚を研ぎ澄ませなければ生きられなかった。研ぎ澄ませなければ、力を持つことすら叶わなかった。

 

ランスロットという力も、その名も、かの世界で出会い、彼を振り回した二人の男の、不器用さを忘れないために継承しただけのものだ。

 

一人は、仮面に意味を持たせ、その仮面で世界をひっくり返そうとした。

 

優雅に、そしてみっともなくもがいて、その果てに自分自身を世界と引き換えにした。

 

ひどく頭が良く、ひどく馬鹿で、仕方のない男だった。

 

もう一人は、自分の一番後ろ暗い部分をかき消すために、戦いに意味を見出そうとした。

 

結局、自分を見つめ返すことは叶わず、世界の歯車になった。

 

その背中を追いかけ、その血塗れを拭き取ることもせず、嫌悪することもせず、糾弾することもせず、ただ共に無意味に戦い続けた。

 

それが、当時の中川尚樹の選択だった。

 

——そして、この世界では。

 

魔女と怪異のこの世界では、微塵も関係のない話である。

 

ここには裏側がない。

 

ネウロイは嘘をつかない。目的も、大義も、交渉も、裏切りもない。ただ来て、壊して、消える。

 

人間の側にも、そこまでの底はない。

 

軍部は醜く争うが、その争いは書類と予算とメンツの範囲に収まっている。誰も世界を書き換えようとしていないし、誰も他人の記憶をいじらない。

 

そして、魔力と、それを宿す少女たち。

 

彼女たちはその力を渇望され、消えゆく命であっても——しかし純粋に、人々の救いたる光の巫女として存在している。

 

こんなに単純で、こんなに真っ当な世界に来られたことを、彼は幸運だと思っている。

 

だからこそ。

 

チュインニ准尉が何かを隠しているのは、鼻が曲がるほど明らかだ。

 

初日から分かっていた。あの視線の置き方、あの返事の間、あの「多分」の使い方。全部、隠している人間の癖である。

 

だが、それが「あの世界」の類のものではないことも、同じくらい明らかだった。

 

あれは、権謀ではない。策略でもない。誰かに命じられて動いている顔でもない。

 

あの娘は、智子とハルカを見るときだけ笑う。

 

そして、自分に対しては——

 

『あの人は、私が「そう」であることに、たぶん、もう気づいています』

 

——さて、どうだろうか。

 

嗅いだ匂いに分別をつけ、その後で定義し直す。

 

その作業が一苦労では済まないことを、彼は身に沁みて知っている。

 

前の世界で、それを一度、間違えた。

 

間違えた結果、追いかけるべき背中を、最後まで拭ってやれなかった。

 

だから今回は、急がない。

 

急がず、聞かず、ただ横にいる。

 

——それで足りるかどうかは、分からないが。

 

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「お見事です、大尉」

 

「どうだろうな、私は怪我のまま飛べないことになっているはずだ」

 

「……ハルカは?」

 

いくらもしないうちに、ハルカがオヘアとビューリングに支えられて戻ってきた。

 

「ちょっと! 怪我したの?」

 

「無事だ。外傷は見あたらないが意識がない」

 

「実はねー、ミーもおかしなものを見たみたいで」

 

オヘアがためらいがちに口を開く。

 

「ハルカが追いかけた最後の一機、あのネウロイは人みたいな形だったよ」

 

その瞬間、白い装甲が動いた。

 

『——オヘア』

 

「ヤーッ?」

 

『どっちに逃げた』

 

「え、えーと、東ねー。ラドガ湖の方ねー」

 

『高度は』

 

「三千くらいねー」

 

『速度は』

 

「速かったねー。でも、なんか……ふらふらしてたねー」

 

装甲は、しばらく東の空を見ていた。

 

「ちょっと」

 

智子が並んだ。

 

「追う気?」

 

『追わない』

 

「じゃあなんで聞くのよ」

 

『覚えとくためだ』

 

「……なにを」

 

『分からん。だから覚えとく』

 

智子は、その面覆いを見上げた。

 

——こいつは、こういう時に嘘をつかない。

 

嘘はつかないが、全部は言わない。

 

「……ねえ」

 

『なんだ』

 

「あんた、なんか知ってるの」

 

『知らない』

 

「本当に?」

 

『本当だ』

 

彼は、そこで少しだけ言葉を足した。

 

『ただ、匂いがする』

 

「匂い?」

 

『そういう言い方しかできない』

 

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帰投の途中。

 

チュインニがオヘアと代わり、ハルカを支えていた。

 

「……おかげで思い出しました」

 

「なあに?」

 

「急降下爆撃です。……きっと、ハルカさんも同じです」

 

「……どういうこと?」

 

「あなたたちは有名人です。私たちは大きいものを一つ失いました。それも自らの手で。それでも価値があります」

 

「私たちって、ロマーニャのことよね? 違うの?」

 

チュインニは答えない。

 

「……あえて言いますが」

 

彼女は智子にだけ聞こえるように話した。

 

「私と同じなのです、ハルカさんは。私はある戦いの最中に行方不明となりました。その後記憶を失います。ハルカさんもそうなるところだったのです」

 

「ええっ……ていうか、なんで知ってるの!」

 

「穴拭少尉だから話してます。信じる信じないかは自由です」

 

「……ですが、私は穴拭少尉の仲間です。それは本当です」

 

智子は何度も聞き返した。だがチュインニは沈黙して、それきり何も喋らなかった。

 

その少し前を、白い装甲が飛んでいる。

 

一度も振り返らなかった。

 

だが智子は、あの男が全部聞いていることを、なぜか確信していた。

 

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今回の作戦の成功で、ネウロイによるラドガ湖東岸寄りの突破は防がれた。

 

義勇独立飛行中隊の名も、ルーデルとアーデルハイドによって広まるだろう。彼女たちのカールスラント軍への報告書には、あえて「いらん子中隊」の名も載せられていた。

 

だけど、と智子は思う。

 

チュインニの妙な台詞と、ハルカの失神。人型のネウロイ。そして、東の空を見つめていたあの面覆い。

 

首を振る。やめよう。ここで考えてもしょうがない。

 

今日は勝利に終わった。明日も、多分明後日も、ネウロイとの戦いは続くのだ。

 

北欧の空に夕陽が光る。

 

ウィッチたちは勝利の余韻にわずかな疑問を加えつつ、自分たちの家へ帰っていった。

 

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