転生特典に全スタンド能力を選んだら、転生先がダンまちだった 作:紫呉003
(ここ、どこだ?)
最初に浮かんだのは、そんな疑問だった。
俺――田中壮介は、困惑していた。
いや、困惑するなというほうが無理だろう。
なにしろ、ついさっきまで俺は普通に生きていたはずなのだ。
アニメやライトノベルといったサブカルチャーが好きではある。とはいえ、イベントに遠征したり、グッズを買い漁ったりするほどのガチなオタクでもない。
自分で言うなら、せいぜい「ちょっとアニメやラノベが好きな普通の人間」――つまり、軽いオタクだ。
そんな俺が、気づけば真っ白な空間に立っていた。
床もない。
天井もない。
壁もない。
ただ、どこまでも続く白。
(いや、何を言ってるのか俺にも分からないんだが……)
これが夢なら、そろそろ覚めてほしい。
しかし、頬をつねるようなことをしても、そもそも身体が思うように動かない。
そこで俺は、ふと一つの可能性に思い至った。
(……まさか)
ラノベをそれなりに読んできた俺には、この状況に心当たりがあった。
真っ白な空間。
謎の場所。
そして、生死の境目にいるような感覚。
そう。
これは――。
(転生前に神様と会うシチュエーションに、めちゃくちゃ似てるな)
……いや、待て。
(でも俺、死んでないよな?)
『いや、死んでるよ』
「――――は?」
突然、声がした。
同時に、俺の目の前に淡い光が集まり始める。
最初は小さな光だった。
それが徐々に膨らみ、やがて人の頭ほどもある、明るい球体へと変化した。
いや。
さっきまで、そこには何もなかっただろ。
俺がそうツッコむ暇もなく、球体が明滅する。
『はじめまして、田中壮介君。私は君たちが言うところの宇宙人――異星人、といったところかな』
(神様ちゃうんかい)
思わず心の中でツッコんだ。
……こんな状況で真っ先にそこへツッコんでしまうあたり、俺は本当に軽いオタクを名乗っていいのだろうか。
『実は私は、君たちとは違う次元の住人でね。私は君たち人間を観察するのが好きで、よく君たちの世界を覗いていたんだ』
光る球体は、どこか楽しそうに続ける。
『それで、ちょっとした事故が起きてね。誤って君たちの次元に干渉してしまったんだ』
(ちょっとした事故?)
『なんとか君の死という最小限の被害に抑えられてね。いやぁ、運転中に読むもんじゃないね。反省、反省』
……。
俺の中で何かが切れた。
(俺のことなんだと思ってるんだ!)
(こいつ、絶対反省してねぇだろ!)
言いたいことは山ほどあった。
むしろ今すぐ全部ぶちまけてやりたい。
できることなら、この光る球体を思いっきりぶん殴ってやりたい。
……身体がまったく動かないので、実行には移せないが。
『そこで、ささやかながら君を転生させてあげようと、優しい私は考えたわけだ』
なんだ、その恩着せがましい言い方。
『ただ、そのまま転生させるのも面白くない。だから君には特別な力を三つあげよう』
……。
特別な力?
『いわゆるチートってやつだね。よかったね。喜びのあまり泣き叫びながら糞尿をまき散らしてもいいんだよ』
(いや、そこまで人間の尊厳を捨ててないかな)
しかし――。
(……マジか。チート貰えるのか!?)
それは素直に嬉しい。
嬉しいのだが。
(こいつ、絶対なんか企んでるだろ)
さっきからの言動を見れば明らかだ。
こんな性格のクソ野郎が、何の見返りもなくチート能力を三つもくれるなんて、どう考えても怪しい。
『あーあ。そんなこと言っちゃうんだったら、チートあげるのやめようかな』
(……ん?)
そこで俺は気づいた。
そういえば、こいつ。
さっきから俺の心の中の言葉に対して、普通に返事をしている。
「おい。プライバシーの侵害だぞ。慰謝料として、もっとチートよこせよ」
『嘘でしょ。なんでそこで開き直れるの?』
「当たり前だろ。こちとら個人情報をガッチガチに守ってる日本人だぞ。アドレス交換ですらドキドキしちゃうような人種だよ」
『いや、それは人種じゃなくて、ただ君が童貞なだけだと思う』
「――童貞ちゃうし!」
反射的に叫んでしまった。
……いや、今そこ重要じゃないだろ。
『まあ、本題に戻ろうか』
光る球体は、俺の抗議など完全に無視した。
『実はね。私の今回のミスって、私たちの中でも結構重い処罰の対象なんだよ』
「……え?」
『だから、他の者にバレる前に君を別の世界へ転生させて、今回のことをなかったことにしちゃいたいんだよね』
「おい」
『そのために、今回は私自身の力だけで君に能力を与えなきゃいけない』
「……おい」
『だから代償とかも――』
一瞬、球体の光が強くなった。
『
(今回……?)
嫌な言葉が聞こえた。
普段は代償を払わせてるってことじゃないのか?
(……きっと気のせいだ)
そうだ。
気のせいに決まっている。
俺は心の中で結論を出した。
(とりあえず、こいつはクソ野郎じゃなくて――クソだ)
『ちなみに能力を増やすこともできないからね』
「はいはい、分かったよ」
それよりも。
せっかく三つも能力を貰えるのだ。
何を選ぶか、それを考えたほうがいい。
俺はしばらく考えた。
そして、最近動画サイトで流れてきた、とある作品を思い出す。
(……あれがいいな)
さらに、それに関する知識も欲しい。
うん。
これしかない。
「すべてのスタンド能力。それと、そのスタンド能力に関する知識」
『君、思いっきり趣味に走ったね』
「悪いか?」
『いや、悪いとは言ってないけど……もっと他にあるでしょう』
確かに、もっとマシな能力はあると思う。
思うのだが。
ジョジョのスタンドのカッコよさを知ってしまったら、これ以外を選ぶという選択肢なんて存在しない。
そもそも、なんであんなおかっぱ頭が無茶苦茶カッコよく見えるんだろうな。
やっぱり、覚悟を決めているかどうかの違いなのだろうか。
……ただ、残念なことが一つある。
俺は『ジョジョの奇妙な冒険』を、ちゃんと全部見ているわけではない。
アニメを中心に、動画サイトやインターネットで断片的に知っている程度だ。
だってお前。
(今、何部まであるんだよ……)
さすが荒木先生だわ。
『君、よくそんなよく分かってないものを望んだね』
「うっ」
『まあいいや。なら、原作に沿ったルールをいくつか設定しておくよ』
そう言って、光る球体は淡々と説明を始めた。
『一つ目。出せるスタンドは一度に一体のみ』
『《バッド・カンパニー》や《ハーヴェスト》みたいな群体型のスタンドは、その群体全体で一体として扱うよ』
『二つ目。スタンドは誰にでも見える』
「え、そうなの?」
『君が向かう世界では、君以外にスタンド使いはいないからね。その代わり、切り替えはすぐにできるようにしてあげる』
『三つ目。スタンドには触れようと思えば触れる』
『基本的には物体へ干渉できない。けど、君が「触れたい」と思った場合は触れられる。相手にも同じことができる。つまり、相手が攻撃しようと思えば、スタンドへ攻撃できるってこと』
「なるほど……」
『四つ目。スタンドは本体の意思によって動く』
『これは原作通り。ただし、スタンドを切り替えた場合、使っていたスタンドの能力は消える』
『五つ目。スタンドが傷つけば本体も傷つき、本体が傷つけばスタンドも傷つく』
『これも原作通り。だから群体型のスタンドはダメージが分散する』
『六つ目。射程距離がある』
『これも原作通り。だから遠距離から《スタープラチナ》をけしかける、みたいなことはできない』
『七つ目。スタンドは成長する』
『ただし、成長するのは君自身の成長に合わせてのみ』
……。
待ってくれ。
情報量が多い。
『だからレクイエム化はできない。《ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム》にはならないし、緑色の赤ん坊もいないから《ホワイトスネイク》が《C-MOON》や《メイド・イン・ヘブン》になることもない』
『というか、これらは世界への影響が強すぎる。再現したら間違いなく他の者にバレるから、絶対に無しね』
「わ、分かった」
『分かってないでしょ』
「……」
『この制限についても、能力の知識と一緒に入れておくよ』
(いや、急にそんなに言われても覚えきれるか!)
俺は心の中で頭を抱えた。
……そういえば。
「聞いてなかったけど、俺が転生する先ってどこなの?」
『ああ、そういえば言ってなかったね』
光る球体が、何度か点滅する。
(いや、そこ一番重要なところだろ)
『君の転生先は――』
妙な溜めのあと。
『《ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか》』
『通称、ダンまちってやつだね』
「……」
俺はしばらく黙った。
そして。
「……あ、よかった」
思わず安堵の息が漏れる。
北○の拳とかだったら、俺は生き残れる自信がなかった。
たしかダンまちって、ダンジョンで英雄を目指す白兎の話だったよな。
昔アニメで見た程度だから、細かいところは怪しいんだよな。
『じゃあ、これで決定だね』
光が強くなる。
『それじゃあ、さようなら』
「え?」
突然、身体が浮いたような感覚に襲われた。
「ちょっ、待――」
言葉を最後まで発することすらできなかった。
視界が白く染まる。
意識が遠ざかっていく。
そして俺は――。
まるでゴミを捨てるような気軽さで、その不思議な空間から放り出された。
(あいつ……)
(ちょっと見直しかけた俺の心を返せ――!!)
◇ ◇ ◇
『さてと』
田中壮介が消えた空間で、光る球体が一人呟く。
『やっと送らせることができたよ』
満足そうに明滅する。
そして、ふと何かを思い出したように動きを止めた。
『……あ』
数秒の沈黙。
『そういえば、どこに生まれるか決めてなかったわ』
また沈黙。
『ま、別にいっか』
実に軽い。
『彼、なんだかんだで生き残りそうな感じしてたし』
そう言うと、光る球体は楽しそうに明滅した。
『さーてと』
その声には、先ほどまでのふざけた調子とは違う、何か別の響きが混じっていた。
『約束は守りましたよ、■■さん』
白い世界に、静寂が戻る。
やがて――。
なお、主人公が知っている『ジョジョの奇妙な冒険』は、某動画サイトで見たアニメが中心です。
原作を最初から最後まで読破しているわけではありません。
また、スタンドに関する知識も、インターネットなどから得られる程度のものです。
そのため、主人公は原作とは異なる発想や戦い方をする場合があります。
「原作知識がある主人公だからこそできる戦術」を期待される方には、少々物足りない部分があるかもしれません。
その点をご理解いただいたうえで、お楽しみいただければ幸いです。