転生特典に全スタンド能力を選んだら、転生先がダンまちだった 作:紫呉003
(クソ、ふざけんな!)
あのクソ宇宙人、とんでもねぇことしやがったな!
あの不思議な空間から放り出された直後、俺は意識を失った。
そして――目を覚ました俺の目に飛び込んできたのは、木々の隙間から差し込む柔らかな木漏れ日だった。
……森?
どうやら俺は、森の中にいるらしい。
まあ、いい。
サバイバル生活なんてしたことはないが、普通なら何とかなるだろう。
幸い、俺にはスタンドがある。
いざとなれば、スタンドの力で身を守ることもできる。
そう。
普通ならば。
「オギャーーー!」
……。
俺は今、
赤ん坊である。
「(いや、あり得ないだろ!!)」
声に出してツッコんだつもりだった。
だが、実際に口から出てきたのは、当然ながら赤ん坊の泣き声だけだった。
「オギャー! オギャーーー!」
(赤ん坊から始める転生とか、ラノベじゃ割とあるけどさ!)
(なんで森の中なんだよ! 何考えてんだ、あのクソ宇宙人!)
(赤ん坊がこんなところに一人で放置されて、生き残れるわけないだろ!)
(死ねってか!? 俺がお前のことを悪口言いまくったから、その報復か!?)
(なんて陰湿な野郎だ! 訂正させていただきますから、この状況から助けてくださーーーい!!)
「…………」
森は静まり返っている。
「ピーヒョロロロ……」
遠くで鳥の鳴き声が聞こえた。
「……」
ちくしょーーー!!
ふざけんなーーー!!
俺はありったけの肺活量で泣き叫んだ。
……いや。
泣き叫ぶことしかできなかった。
だが、叫ぶだけ叫んだからだろうか。
少しだけ頭が冷えてきた。
未だにあの宇宙人への怒りは収まらない。
収まるわけがない。
だが、現状を打破するには、今はあいつへの怒りをいったん脇に置くしかない。
まずは状況を整理しよう。
俺は赤ん坊。
場所は森。
そして、これだけ泣き叫んでも誰も来ない。
つまり、人里は近くにない可能性が高い。
……。
ふぅ。
…………。
(詰んでね?)
いや。
まだだ。
まだ俺には――これがある!
「オギャー!」
(《
……。
何も起きない。
「…………」
何も起きない。
(……え?)
もう一度。
「オギャー!」
(《
…………。
出てこない。
(ちょっと待て)
俺の頭の中が真っ白になった。
(何で出てこないんだよ!?)
(これはさすがに許されんぞ!!)
俺が混乱していると――。
ガサッ。
「……?」
近くの茂みが揺れた。
(もしかして、誰か助けに――)
「グルルルル……」
「……」
茂みから姿を現したのは、一匹の狼だった。
口元からは涎が垂れている。
どう見ても空腹です。
ありがとうございました。
(おぉう……)
狼と目が合う。
「…………」
「…………」
(いや、そんなことは分かってんだよ!!)
やばい。
やばいやばいやばい。
さっきまで俺が泣き叫んでいたせいで、こいつが寄ってきたのか?
だとしたら、完全に自業自得じゃねぇか!
俺は必死に《
しかし、何度試しても出てこない。
(嘘だろ……)
この状況を打破するには、俺にはスタンドしかない。
なのに、そのスタンドが出せない。
(こんなところで……また死ぬのか?)
嫌だ。
絶対に嫌だ。
俺は必死に助けを求めた。
「オギャーーーー!」
(頼む! 誰でもいい! 神でも悪魔でも天使でも精霊でもいい! 誰か助けてくれーーー!!)
「グロォーーーーッ!!」
当然、俺の願いなど届かない。
狼が地面を蹴った。
一気に距離が縮まる。
「オギャッ!」
(頼む! 《
次の瞬間――。
俺の背後から、緑色の人影が飛び出した。
「キャインッ!」
ドゴッ!
狼が横へ吹き飛ばされる。
「……?」
俺は呆然と、その光景を眺めていた。
(出た……)
(出たぞ……!)
(何かメロンみたいなやつが!)
……いや、本当にメロンみたいな見た目をしていた。
俺がそんなくだらないことを考えている間に、狼は地面から起き上がった。
どうやら大したダメージは与えられなかったらしい。
だが、こちらを警戒させるには十分だったようだ。
「グルル……」
狼が低く唸る。
俺も《
……さて。
(どうする?)
考えろ。
俺に与えられたスタンドは、すべてのスタンド能力。
なら、《
(そうだ……!)
思い出した。
《
今の俺にとってはこれ以上ないほど頼りになる。
「オギャ!」
(行け、《法皇の緑》! あいつの中に入り込め!)
《法皇の緑》が一瞬で狼との距離を詰める。
そして、その身体へ潜り込んだ。
「グ……」
狼の身体がぐらりと揺れる。
そして――。
「グゴォ……」
その場に、ぐったりと伏せた。
(……成功した?)
どうやら、うまく操れたらしい。
(はぁーーーー……)
心の底から安堵した。
(マジで死んだかと思ったわ……)
だが、これで当面の問題は解決した。
あとは――。
俺は狼をこちらへ近づける。
そして、その身体をじっくり観察した。
(……やっぱり)
腹部を確認する。
(こいつ、雌だ!)
先ほど俺に飛びかかってきたとき、ちらりと見えたものがあった。
もしかしたらと思っていたのだが、どうやら俺の予想は当たっていたらしい。
以前、どこかで「狼に育てられた野生児」の話題を見たことがある。
正直、この選択肢はできれば取りたくない。
だが――。
今の俺には、選択肢を選べるほどの余裕がない。
(……やるしかないか)
俺は狼を見つめた。
(勝手に操っておいてなんだが……しばらく頼むぜ)
(お母さん)
……。
(どうしよう)
(自分がクソ野郎に思えてきた)
いや。
大丈夫。
あの宇宙人ほどじゃない。
……たぶん。
「オギャーーー!」
(とりあえず、今は誰かおしめくださーーーい!)
……。
さっき宇宙人に「糞尿をまき散らしてもいい」と言われたときは否定したが。
どうやら俺は、本当に糞尿をまき散らすことになりそうだった。
そんなことを考えていると――。
ヒュッ!
「――?」
突然、風を切る音が聞こえた。
次の瞬間。
ドスッ!
目の前にいた狼の身体が、大きく横へ吹き飛んだ。
「――!?」
何が起きた?
俺は呆然と狼を見つめる。
狼は地面に倒れ込んでいる。
そして、その身体には一本の矢が突き刺さっていた。
(……矢?)
どうやら、弓で射られたらしい。
突然の出来事に、頭が追いつかない。
狼を狙った?
いや、それよりも――。
(誰だ!?)
俺は必死に周囲を見回した。
だが、木々が邪魔をしてよく見えない。
そんな俺の耳に、男の声が届いた。
「やれやれ。声を頼りに来てみれば……」
ガサッ。
茂みが揺れる。
そして、その奥から一人の男が姿を現した。
手には弓。
腰には短剣。
森の中を歩き慣れているのか、足取りに迷いがない。
男は倒れている狼を確認すると、ため息を吐いた。
「まさか狼に襲われているとはな」
「……オギャ」
俺は男を見上げる。
(助かった……のか?)
いや、まだ分からない。
こいつが善人だという保証はどこにもない。
むしろ、弓を持っている時点で油断はできない。
それに――。
(俺、赤ん坊なんだよな)
今さらながら、自分の置かれている状況を再確認する。
森の中。
謎の狼。
そして、弓を持った見知らぬ男。
……普通に考えれば、俺が一番弱い。
「しかし……」
男がこちらへ視線を向ける。
「どうしてこんなところに赤ん坊がいるんだ?」
「…………」
俺は固まった。
(ですよねー)
そりゃそうなるよな。
こんな森の中に赤ん坊が一人で転がっていたら、誰だって疑問に思う。
男は周囲を見渡した。
「親は……近くにいないのか?」
「オギャ……」
(いるわけないだろ)
いるとしたら、俺をこんなところに放置したクソ宇宙人くらいだ。
……いや、あいつは親ですらない。
俺は男に向かって、必死に手を伸ばした。
「オギャー!」
(頼む! この際、誰でもいい!)
(俺を拾ってくれ!)
男はしばらく俺を見つめていた。
そして――。
「……仕方ないな」
そう呟くと、俺へ近づいてきた。
(よっしゃあああああ!!)
心の中でガッツポーズを決める。
これで助かる。
これで人里に行ける。
食事にもありつける。
何より――。
(森でサバイバルしなくていい!)
俺は人生最大級の安堵を覚えた。
……しかし。
「ん?」
男が足を止める。
そして、倒れている狼を見た。
「こいつ……まだ生きてるな」
「……!」
俺は狼へ視線を向ける。
しまった、今は《
俺は慌てて狼を操るのをやめて、そうすると動きを止めた。ついでに《
「……いや、気のせいか」
「……オギャ」
男は困ったように頭を掻く。
「さて……どうしたものかな」
その声を聞きながら、俺は思った。
(頼む)
(どうか、いい人であってくれ……)
そして。
俺の異世界生活は――。
手がかかったが、ようやく「人間社会」へ向けて動き始めた。