転生特典に全スタンド能力を選んだら、転生先がダンまちだった   作:紫呉003

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4. 恩師の力を胸に、いざオラリオへ

――あれから、さらに五年が経った。

 

 俺は十五歳になった。

 

 そして今。

 

「……これなら、いけるな」

 

 森の中で、俺は一人呟いた。

 

 目の前には一本の木。

 

 その幹には、いくつもの傷が刻まれている。

 

 その傷のほとんどは、俺がつけたものだ。

 

 弓によるもの。

 

 短剣によるもの。

 

 そして――スタンドによるもの。

 

 五年前、ローディと約束した。

 

 冒険者になるなら、まずは自分自身の力を身につける。

 

 その約束を果たすため、この五年間も訓練を続けてきた。

 

 弓を引き。

 

 短剣を振るい。

 

 走り。

 

 身体を鍛え。

 

 そして、スタンドを使う。

 

 五年という時間は長い。

 

 そのおかげで、俺はようやく自分の力について、ある程度理解できるようになった。

 

 ――そして。

 

 俺は、自分の「弱点」についても理解した。

 

 まず一つ。

 

 精神力だ。

 

 俺はすべてのスタンドを使える。

 

 だが、何の代償もなく使えるわけではない。

 

 スタンドを出す。

 

 動かす。

 

 能力を使う。

 

 そして、別のスタンドへ切り替える。

 

 そのすべてで、俺の精神力が消耗する。

 

 特に強力なスタンドほど消耗が激しい。

 

 《世界(ザ・ワールド)》や《スタープラチナ》なんかは、その代表格だ。

 

 時間停止なんて使った日には、終わったあとに一気に疲労が押し寄せてくる。

 

 だから――。

 

 強いスタンドを使い続ければ勝てる、というわけではない。

 

 これが一つ目の弱点。

 

 二つ目。

 

 知識と経験は別物だ。

 

 俺はジョジョの知識を持っている。

 

 ……と言っても、某動画サイトやインターネットで得た程度のものだが。

 

 だから、スタンドの能力について「知っている」ものは多い。

 

 だが。

 

 知っていることと、使いこなせることは別だ。

 

 例えば《キング・クリムゾン》。

 

 能力の概要は知っている。

 

 だが、実際の戦闘でどのタイミングで使うのが最適なのか。

 

 相手がどう動くのか。

 

 能力発動後にどう攻撃へ繋げるのか。

 

 そんなものは、実際に使ってみなければ分からない。

 

 つまり俺は、

 

 「全スタンドを使える初心者」

 

 から始まったわけだ。

 

 それを五年間かけて、一つずつ経験として積み重ねてきた。

 

 そして最後。

 

 三つ目の弱点。

 

 ――スタンドを出さないためにも、精神力が必要だ。

 

 これは《チープ・トリック》のおかげで嫌というほど理解した。

 

「……お前は本当に厄介だったよ」

 

 俺は背後を見る。

 

 そこには何もいない。

 

 昔は、気を抜くと勝手に《チープ・トリック》が背後に現れた。

 

 俺が望んでいなくても。

 

 呼んでいなくても。

 

 気づけば背後にいる。

 

 あの頃は本当に困った。

 

 ローディに見られそうになったことも、一度や二度ではない。

 

 だから俺は、スタンドを出す訓練だけではなく――。

 

 出さない訓練も続けた。

 

 精神を集中させる。

 

 自分の中の力を意識する。

 

 そして、必要なとき以外は決してスタンドを出さない。

 

 五年も続ければ、それなりに成果は出る。

 

 今では《チープ・トリック》のような勝手に出たがるスタンドも、ほとんど抑えられるようになった。

 

 ……まあ。

 

『油断してるといつでも出るからなぁ』

 

「........うるせぇ!!」

 

 《チープ・トリック》を消すと、俺は小さくため息を吐いた。

 

 完璧とはいかない。

 

 だが、これで十分だ。

 

 少なくとも、街中を歩いていたら突然背後に変な奴が現れる、なんてことは避けられる。

 

 ……たぶん。

 

 そして。

 

 俺は弓を手に取った。

 

「……」

 

 弦を引く。

 

 以前なら、弓を引くだけでも精一杯だった。

 

 だが今は違う。

 

 狙いを定める。

 

 呼吸を止める。

 

 そして――。

 

 ヒュッ!

 

 矢が飛ぶ。

 

 ドスッ!

 

 木の中心に刺さった。

 

「……よし」

 

 まだローディには遠く及ばない。

 

 だが、冒険者として戦うには十分使える程度にはなった。

 

 短剣も同じだ。

 

 接近されたときのために、最低限の扱いは身につけた。

 

 もちろん。

 

 俺にはスタンドがある。

 

 それでも――。

 

 ローディの言った通りだった。

 

 スタンドが使えなくなったとき、自分自身が戦えなければ意味がない。

 

 その言葉を、この五年間で何度も実感した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そして、その日の夜。

 

「食わないのか?」

 

「食べてるよ」

 

「遅い」

 

「……熱いんだよ」

 

「猫舌か」

 

「十五歳にもなって猫舌扱いするな」

 

「実際、熱がってるだろ」

 

「…………あっつ!?」

 

 いつも通りの夕食だった。

 

 特別豪華な料理ではない。

 

 肉と野菜。

 

 それにスープ。

 

 森で暮らす俺たちにとっては、いつもの食事だ。

 

 だが――。

 

 今日で、この食卓を囲むのも最後になる。

 

「明日、出るんだったな」

 

「うん」

 

「そうか」

 

 ローディはそれだけ言って、肉を口に運んだ。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙。

 

 気まずい。

 

 何か話した方がいいのだろうか。

 

「なあ、ローディ」

 

「なんだ」

 

「俺がいなくなったら寂しい?」

 

「別に」

 

「即答!?」

 

「食事が一人になるだけだ」

 

「そこはちょっとくらい寂しがれよ!」

 

 ローディは少しだけ口元を緩めた。

 

「……そうだな」

 

「え?」

 

「食事が一人になるのは、少し面倒だ」

 

「そこ!?」

 

 俺は思わず笑ってしまった。

 

「まあ、俺もローディの飯が食えなくなるのは残念だな」

 

「向こうでも自炊しろ」

 

「料理できない」

 

「知ってる」

 

「知ってるのかよ」

 

「五年間見てきたからな」

 

「…………」

 

 俺は気まずそうに視線を逸らした。

 

「一応、卵くらいは焼けるぞ」

 

「それを料理と言うなら、俺は明日から料理人を名乗る」

 

「じゃあローディ、料理人になれば?」

 

「断る」

 

「即答!?」

 

 くだらない会話だった。

 

 本当に、くだらない。

 

 だが――。

 

 こういう時間が、俺は好きだった。

 

「……そういえば」

 

 ローディが突然言った。

 

「オラリオには行ったことがあるのか?」

 

「いや、ない」

 

「そうか」

 

「でも有名なんだろ?」

 

「ああ」

 

「冒険者がたくさんいて、ダンジョンがあって、金も稼げる」

 

「……」

 

「それに神様もいる」

 

「神様か」

 

 ローディが少し嫌そうな顔をした。

 

「何?」

 

「いや」

 

 ローディはスープを一口飲む。

 

「お前、神に気をつけろよ」

 

「……なんで?」

 

「人間より面倒だからだ」

 

「……」

 

 俺は妙に納得してしまった。

 

 俺の頭の中に、あのクソ宇宙人の顔が浮かぶ。

 

「……確かに」

 

「だろう?」

 

「神って、ろくな奴いないのか?」

 

「さあな」

 

 ローディは肩をすくめた。

 

「だが、少なくとも俺が知ってる神は――」

 

「うん」

 

「酒癖が悪かった」

 

「神様って酒飲むの!?」

 

「飲む」

 

「自由すぎない!?」

 

 思わず吹き出した。

 

 ローディも、珍しく笑っている。

 

 しばらく二人で笑った。

 

 そして――。

 

 笑いが収まったあと。

 

 ローディが静かに言った。

 

「……気をつけて行け」

 

「うん」

 

「無茶はするな」

 

「善処する」

 

「それは信用できんな」

 

「ひどい」

 

「死ぬな」

 

「……分かってる」

 

 短い言葉だった。

 

 けれど。

 

 その一言に、五年間分の想いが詰まっているような気がした。

 

「ローディ」

 

「なんだ」

 

「五年間、ありがとう」

 

「……」

 

 ローディはしばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「こちらこそ」

 

 小さく、それだけ言った。

 

 俺は笑った。

 

 明日。

 

 俺はこの森を出る。

 

 五年間過ごした、この家を。

 

 俺を拾ってくれた、この人を。

 

 そして――。

 

 俺の「故郷」と呼べる場所を。

 

 離れることになる。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 翌朝。

 

 荷物を背負い、短剣を腰に差す。

 

 弓を背負う。

 

 最後に、ローディから譲り受けた矢筒を確認する。

 

「忘れ物は?」

 

「ない」

 

「本当に?」

 

「……たぶん」

 

「確認しろ」

 

「はい」

 

 俺は荷物を確認する。

 

 問題ない。

 

 顔を上げる。

 

 ローディがこちらを見ている。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「ああ」

 

「また戻ってくるから」

 

「……そうしろ」

 

 俺は背を向けた。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 森の中を歩いていく。

 

 何度も振り返りそうになった。

 

 だが、振り返らなかった。

 

 俺には、行きたい場所がある。

 

 目指す場所がある。

 

 ――迷宮都市オラリオ。

 

 そこで待っているのは、ダンジョン。

 

 魔物。

 

 神々。

 

 そして、俺の知らない世界。

 

 胸が高鳴る。

 

「……よし」

 

 俺は拳を握った。

 

「冒険の始まりだ!」

 

 こうして俺は――。

 

 五年間を過ごした森を後にした。

 

 目指すは、迷宮都市オラリオ。

 

 そして俺の異世界での物語は――。

 

 ここから、本当の意味で始まる。

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