黒インナーから始まるクロスカウンター   作:なちょす

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鬱になってました。長かった⋯⋯。
リハビリも兼ねてるのでこれはもう初投稿ですね。初めまして皆様。トラ×トレが見たくて自己生産しました。対戦よろしくお願い致します。

下ネタの方も近々やります。メインストーリーは一先ず置いておいて、アホみたいなコメディー中心で御座います故。追加でもう少し待ってて下ちい。



お披露目ってやつよ

 トランセンドは情報屋である。

 ニヒルで危険な、情報屋である。

 

 彼女にしてみれば、情報とは貨幣であった。

 何とも価値のある物で、それは時に他人との繋がりを保つ縁であり、時には他人を揺さぶる凶器であり、或いは自らの戦いを有利にする為の道具でもある。

 既知にはワクワクし、未知にはゾクゾクする──頭のてっぺんから爪先まで震え上がるあの感覚が、今日までの彼女に唯一無二の武器を取らせた。

 

 そうは言っても女学生にしてアスリートであるので、今日も今日とて何をするでも無くトレーナー室に来ては、ぼんやりとパソコンを眺める担当トレーナーを眺めていた。

 

 曰く、この男は素直である──とある先輩トレーナーはそう言った。

 曰く、天然である──無自覚なそれは愛嬌だと彼の担当も言う。

 

 即ち、クソ真面目でも適当な時はクソ適当。

 ズボラでもやる時はやる愛され系。

 

 それが彼女が担当に持った初めての印象だ。別にそんなつもりはなかったが、気付けばそれがどこか居心地良くもあったので、いつからかこの部屋に入り浸るようになった。気の合う友達のように接し、出会いをショートムービーにすれば3〜4話位で完結しそうな契約の流れで今もここに居る。

 はてさてとお手製のシネマガンをビデオカメラの様に持ち覗き見れば、画面の向こうで溜息を零す担当のトレちゃん。

 

「なに考えてんの?」

 

 愛用のフィジェットを片手に思考に耽るこの男は、一見何も考えていないように見えて──。

 

 

「ほうれん草と法蓮華経の肉体的関係性」

 

 

 本当に何も考えてない者がこの世にいる事を教えてくれるのだ。助かる。それが自身のワクワクに繋がるか繋がらないかはさておき、少なくとも溜息は大した内容では無さそうなのでひと安心である。頭の心配はあるが。

 これが現実である。少年少女よ、大志を抱け。

 

 トランセンドの視線に気付いた彼は、溜息を1つ零し、神妙な面持ちになる。次の瞬間には気持ち悪い程の笑顔とダブルピース──以上。こういう男である。走力が5なら知能は2だろう。教えてシネマガン。

 

 

 "ワイに聞かれても知らないンゴ"

 

 

 トランセンドは画面をそっと閉じる。

 以前アグネスデジタルに使用してから、どうにも調子がおかしくなってしまったようだ。数値だけでなく言語として色々な情報を出力してしまう。その言語もどこかで聞いた事のあるものだ。

 

 何度か原因を調べたがめぼしい結果は得られていない。故に、そういう物だと飲み込む事にした。この事を担当トレーナーは知らない。知らないと言うより、何故か自分が使う時にしか起きない怪現象である。怖いね。

 

 相変わらずどこか悩ましげな男に対し、トランセンドは声を掛ける。

 

「もしかしなくても勝負服?」

「うっ」

 

 トランセンドは自身の勝負服を決めあぐねていた為、彼にもその責任を追わせる事にしたのだ。クソ真面目っぷりが発揮されたのだろう事は顔を見れば分かっていた。

 

「まぁそんな事だろうと思っていたけどねぇ。そんなにマジにならなくても」

「そうはいかないさ。君にとっては今後何度も着る事になるんだ。後悔するような物にしたくない──とは言っても、もう届くのを待つだけなんだけれど。はぁ⋯⋯」

 

 そう言っては気まずく笑う担当に、トランセンドは僅かなむず痒さを覚える。

 ゾクゾクするものでも、ワクワクするものでも無い、ほんの少しの違和感。ただそれは決して嫌な気持ちのするものではなかった。

 

 何度も着るというのは、今後それだけG1クラスのレースに出場する事だ。目の前の男は、自分がそうなる事に対して何も疑っていないらしい。まだ最初の1回⋯⋯それも勝てるかどうかも分からないと言うのに。

 徐ろにシネマガンを取り出し、彼女はトレちゃんに向けてそのレンズを向ける。

 

 

 "向けるべきはワイやなくて視線やろ"

 

 

 何だコイツ。

 

「なぁトラン」

「ん?」

「⋯⋯良いのが出来上がってくると良いな!」

「うんうん、そだねー。ところでさ⋯⋯好きなんだっけ?黒インナー」

 

 ガタッ、と椅子が揺れた。

 何も言わない目の前の男は、再び苦笑いを浮かべ、冷や汗をかいているようだった。

 

 トランセンドは情報屋である。そして聡明であった。

 その顔は実に愉快気な笑みを浮かべている。

 

 今日も標的が決まった瞬間であった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 トレちゃんは天然である。然し理解に乏しい男では無い。

 故に──己の最後を悟った。

 

 素直になれとアドバイスをくれたのは、言わずと知れた尊敬している大先輩である。なんならその担当ウマ娘の万能オタク娘もお墨付きであった。だから素直になりつつもバレないよう、提出する際こっそり第20希望と付箋付けまでしたと言うのに。

 

 目の前の担当は笑っている。

 その輝くメガネの奥で、煌々と赤い瞳がせせら笑っている。何をしたと言うんだ。黒インナーを勝手に付け足したんだよお前は。

 

「あー⋯⋯言った事あったっけ?実はそう──」

「付箋付けまでしなくても言えばよかったのに」

 

 金か?土下座か?辞職か?

 トレちゃんの脳内にあったのは、責任の取り方だけだった。否定しようとしたその時、扉が3度ノックされる。

 

「トランセンドさん。勝負服が届きましたよ」

「わぁどうも。すみませんね、たづなさん」

「いえ。あら、トレーナーさんはどうしたんですか?」

「おろ?」

 

 彼は机の下に避難した。おかしい。何もやましい事はしていない筈。何故自分はこんな所でこんな思いをしているのか。

 ドーキドキドキドキドキドキドキ。彼の立場が。

 

 絶対に気付いているだろう担当は少しばかりたづなさんと話をした後、1人ふぅ、と息を吐く。それからだった。

 

 パチンっ。

 

 何か、ボタンのような物が外れた音。

 

 トレちゃんは聡明である。

 こんなのでも、確りと中央でライセンスを取得した紛れも無い才を持つ者。故に今の状況がどういったものか、彼は瞬時に理解していた。

 

 ──終わった、と。

 

 どこの世界に担当が着替え始めた部屋に同席するトレーナーがいると言うのだ。隠れなどせずとも、普通にしていれば良かったではないか。

 自身の判断や思考の遅さに彼は悔いた。そして悔いながらも思う。

 

 ──黒インナーは見たい、と。

 

 ロクデナシがよぉ。

 

「何隠れてんのー?」

 

 軽口が机の上から飛んで来た。

 ハッと顔を上げれば、担当の良すぎる面だけが、机を挟んでこちらを覗き込んでいるではないか。うぉっ、火力高っ。イケイケセイちゃん5人前。想像の余地あり。スケベ過ぎんかこのウマ娘。

 

「避難訓練だ」

「今?」

「たづなさんに性癖がバレたくなかった」

「だろうね」

 

 顔が引っ込むと同時に、足音が近付いてくる。机の裏に来るようだ。

 トレちゃんの心境は穏やかでは無い。バッジを外して差し出す準備が出来てるぐらいには焦っている。無論それでどうにかして貰えるとは思っていないが──ここで彼に天啓が降りる。

 

 これはいつものからかいだ。

 

 そうでなければおかしいだろう。どこの世界に、着替え途中でこちらへ来るウマ娘がいると言うのだ。彼女達は個性的ではあるが、多感な女学生。みすみす自らそんな姿を晒す存在が居ようものか。

 

 深い溜息を吐き零す男が1人。机の下から這い出た彼は、担当ウマ娘と鉢合わせになるタイミングで向き合った。

 

 

 トランセンドは黒インナーであった。

 

 

「⋯⋯」

「⋯⋯」

 

 言葉は無く、どちらも同じタイミングで僅かに顔を逸らした。

 ただ静かな部屋に男女が2人。何も起きない筈は無く──。

 

 

『え、なんでなん?????』

 

 

 ハモる。ハモるな。

 

「何で先に出てきちゃったのさ?慌てふためく様を納めようと思ったのに」

「何でその格好なんだ?俺はてっきりいつものイタズラだとばかり思って」

 

 各々言いたい事を言ってみるものの、その顔を合わせようとしない。そして言い終えた内に押し黙る2人。焦った過ぎてムカついてきたな。

 

『あのさ』

 

 同時に口を開いた。

 

 西日が差し込む室内。

 心做しか担当の顔が僅かに赤く見えるのは夕日のせいだろうか。

 

「先に⋯⋯良いぞ」

「じゃあ⋯⋯遠慮なく」

 

 トランセンドは指を立てる。やがてゆっくりとそれをトレちゃんの方へと向け──ビッ!!!!と下腹部に向けた。

 

 

「窓空いてんよ兄ちゃん」

「いやぁああぁあッ!?」

「流石にウチで昂りすぎじゃん?ウケる」

「違うッ!これはたまたまだッ!それに昂るなら黒インナーにであってだなッ!」

 

 米食いてー顔からスンと戻るトランちゃん。分かる、お前は怒っていい。窓の外でエスポんも不思議そうに見ているぞ。

 

「と、とにかく⋯⋯そういうからかい方は程々にしてくれ」

「へーいへい。んで?どうよ、これ」

 

 そう言って水色のオーバーサイズなジャケットを羽織る彼女。赤いベルトがコントラストでよく映えるが、特筆すべきはその量か。彼女の近くを走るウマ娘の顔が心配になる量だ。然し多くの情報を秘匿した彼女への拘束具としてみれば納得もいく。ちょっと興奮もする。

 よくよく見ればボトムも左右非対称なスカートに見せかけたショートパンツだ。不思議な形ではあるが、この情報量の多さもまた彼女のらしさ、個性だろう。ふむり、まじまじと見てしまうがこれはまざまざと見せつけられてもいるんじゃないか。この場合どちらに非があるのかは賢いトレちゃんにも分からなかった。手強い。

 

「⋯⋯ふふっ。良いな、君らしくて。とても似合ってる」

「んー、言い方がねぇ」

「分かってる。最高に決まってるよトランセンド。これからもよろしく頼む」

 

 笑みを浮かべたトランセンドは、黙って拳を出す。トレちゃんもそれに倣い、コツンとぶつけ合った。これが彼ら流の挨拶。

 今ここに、トレセン学園が誇る新しいペアの、ゾクゾクを求める青春が始まる──。

 

 

 

「触る?」

「マジ?」

 

 流れ変わったな。

 

「ほれほれ」

「じゃあ──失礼して」

 

 トレちゃんはそっと触れる。黒インナーに。

 トレちゃんはそっと撫でる。黒インナーを。

 

「とんでもねぇぜ、おいおい。凄いなトランッ!!」

 

 

 この日──トランセンドは初めて担当を締め落とした。

 

 トランセンドは情報屋である。自身の情報を、彼女はまだ知り得ない。




黒インナーから始まり別に続かないバトル。
続けと言われれば多分続くバトル。対戦ありがとうございました。
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