「うわー羅浮に着いて早速トラブルに巻き込まれちゃったよ⋯。ウチらって何でいつも行く先々で問題が起きるの?あの狼みたいなのは何?」
「三月さん、本当に巻き込んでごめん。どうやら、カンパニーの貿易船に歩離人が紛れ込んでいたみたいだ。」
あれが本物の歩離人⋯。
思ったよりも筋骨隆々で、牙も爪も大きい⋯。
もう少しガタイは人間に近いかと思ったが、存外、化け物の様な容姿をしていて、ちょっと怖いな⋯。
「歩離人⋯か。列車のアーカイブで見たことがある。確か豊穣の忌み物だったな。仙舟と豊穣との対立関係を鑑みるにこういう事は良くあることなのか?」
丹恒先生の疑問は最もだけど、いくら仙舟でも交易船に歩離人が忍び込むのが日常茶飯時なんて考えたくもないな⋯。
ゴキブリじゃあるまいし⋯。
「いや、そんな筈は無いよ。ただでさえこの前の幻朧の騒ぎで羅浮は緊迫している状況なんだ。星天演舞典礼は敢えて幻朧騒ぎの直後に開く事で羅浮の警備は盤石である事を示す目的も兼ねている。カンパニーとの貿易船に鼠一匹でも侵入を許すなんてミスは本来あり得ない事なんだ。」
不測の事態⋯いつものパターン…
「ヒーローはいつも揉め事の渦中にいるな⋯。そう言う運命なのか⋯。」
「あんたがベッドから逃げられないみたいに?」
「⋯星、お口チャックだ。」
こんな所で新たな火種を持ち込むな!爆弾密漁者かお前は⋯。
お前の発言一つで仙舟内に新たな混乱が巻き起こったらどうする?
仙舟は
万が一星が誤って口を滑らした暁には船内に星槎海を駆け抜ける風の如く噂が広まるだろう。
そして、この船の中で俺だけが沈没する⋯嫌だ⋯絶対⋯まだ死にとうない⋯マジで⋯。
「取り敢えず今は司辰宮に向かおう。将軍に報告しないと。」
彦卿の一言に俺達は同意し、皆で将軍がいると言う司辰宮へと向かう。
しかし、この騒ぎが混乱の序章に過ぎないことに、この時の原作知識がある俺を除いた皆は知る由も無かった……。
そう言えば俺戦えないけど、このイベント参加して大丈夫なの?
「腹痛くなってきた…。」
「大丈夫?お腹さすってあげようか?」
俺の事を心配してくれた星が俺のお腹を擦ってくれる…しかし…。
「星…そこ前立腺…。」
皆に見られる前に直ちに止めてくれ…。
ー
ーー
ーーー
そんなこんなで到着したのは神策府に次ぐ羅浮の中枢と言っても過言では無い重要機関【司辰宮】
彦卿の案内の元、中に入ればそこには無数のワークデスクが立ち並ぶロボットアニメによく出てくる指令室のような空間が広がっていた。
そして、室内の奥では白髪のモッサリした髪の一部を後ろにまとめた高身長の色男と年老いた老人が話していた。
「炎翁、遠いところ、よく来てくれた。」
「いやいや、大したことではない。こちらこそお前さんの出迎え感謝する。」
「将軍、列車の皆を連れてきたよ。……ってあれ、お客さん?タイミング悪かったかな?」
「いや、丁度いい時に来てくれた。星穹列車の諸君久しぶりだな。…そこの彼は初めましてかな?」
この人が景元将軍か⋯。
ゲームでも思ったけど、なんかスタンド出してオラオラしそうな声してるね。
「お初にお目にかかるぜ!俺は空条承太郎。所謂不良のレッテルを貼られている。」
「ちょっと!あんた初対面でふざけ過ぎ!もしかして星の影響?」
「宙に相応しいレッテルは不良じゃなくて、不誠実だと思う。」
⋯なのかのツッコミが妥当だとして、星お前は駄目だ。
さっきお口チャックって言ったよな?
何?俺を陥れたいの?
俺がヤリチンな事を世間に知らしめたい感じ?
俺のスキャンダル偏向報道しようとしてる?
「ハハハこれはまた愉快な仲間だね。」
「⋯はあ、星が連れてきた新しい仲間だ。きっと類友と言う奴だろう。大目に見てやってくれ。」
俺の自己紹介に苦笑いする景元と溜息を付く丹恒。
一応弁明すると、丹恒と言う保護者枠がいるからはっちゃけるだけで、普段の俺はツッコミ役だ⋯本当だよ?
あと、俺と星は類友ではなく、セフr⋯おっといかんいかん⋯これ以上は規制が掛かるかもしれん。
「私と宙は類友じゃなくてセフr「シャラップ!星!お口チャックだ!これ以上言うならその口を10針縫うぞ!」⋯。」
危ねえ⋯危機一髪だった。
危機一髪は危機一髪でも黒髭みたいに飛んで散りたくはないよ⋯。
「「「「「⋯。」」」」」
「ん?」
必死に星の口を塞ぐ俺を見て皆何かを疑うような表情を浮かべている。
「なんか星とあんた距離近くない?」
「これはただのスキンシップだ。ピノコニーでは常識だぞ。」
「そんな常識は聞いたことも無いぞ。」
「⋯なら、俺の故郷の常識だ。それよりも⋯ほら、将軍の話を聞こう。俺達に用があって呼んだんだろ?」
なのかと丹恒から攻められような視線を向けられながらも、何とか誤魔化して、脱線した話を軌道修正する。
「⋯そうだね。君達を呼んだ目的を話す前に先ずはこの人を紹介しよう。こちらは仙舟朱明の燭淵将軍。懐炎殿だ。」
「ははは!そうかしこまる必要はない。今回は将軍として来ている訳ではないからな。ただの観光客と変わらん。」
この人が懐炎⋯ゲームではちゃんとしたモデリングが作られなかった準メインキャラ一本手前のモブだ⋯。
人気と活躍がスコートに負けてる悲しき将軍⋯。
でも、俺は嫌いじゃない。
今までこの世界で会ってきた奴らは皆美男美女のメインキャラばかりだったから、彼のようなモブキャラには親近感が湧く。
「「お目にかかれて光栄です、懐炎将軍。」」
うぉ!⋯びっくりした⋯いきなり丹恒と彦卿がかしこまり始めた⋯。
まあ、でも仙舟出身の丹恒と『羅浮』雲騎驍衛の彦卿に取っては、たしかにここで礼を欠く訳には行かないよな⋯。
「お目にかかれて光栄です、懐炎将軍⋯⋯。」
「お目にかかれて光栄です、懐炎将軍。」
あれ?これ皆言うパターン?
「あ、えっと⋯お目にかかれて光栄です、懐炎将軍。」
「かしこまる必要は無いと言っておろうに⋯。今日のわしはお前さん達と同じ羅浮の客だ。」
かしこまるつもりは無かったんだけど⋯同調圧力に負けました⋯。
「景元、この三人がこの前の健木の危機を救ってくれた救世主か?」
「ああ、丹恒殿、三月殿そして星殿の力が無ければ羅浮は健木の危機を乗り越えられなかっただろう。」
⋯いいな⋯俺も英雄扱いされたい。
俺もどこかの星を救ってみたい!
「ところで、そこにいる子供は?」
懐炎は彦卿の方を指差して、景元に疑問を問う。
「私の弟子の彦卿だ。まだ若いから護衛として側に置き、経験を積ませようと思っている。今回の演舞典礼でも羅浮雲騎軍の代表⋯守り人として各来訪者の挑戦を受ける予定だ。」
「⋯いい、実にいい。今日だけでこれ程多くの優秀な若者に出会えるとは、ここまで来た甲斐があったというものだ。」
その優秀な若者に俺って含まれてます?
やっぱり含まれてない?何か実績必要?折り紙大学首席合格じゃ不十分かな?
「⋯おっといかんいかん。歳を取ると忘れっぽくなってしまっていかんな⋯。紹介しようこやつは儂の孫弟子の雲離だ。」
懐炎将軍がそう言うと、どこからともなく司辰宮内に裸足に少し青味がかった黒髪の少女が現れた。
⋯この子は確か⋯先程歩離人を倒して彦卿の飛剣を奪って行った少女だ。
「君はさっきの!」
「ああ、あなただったんだ。こんにちは。」
「なんだ?もう既に知り合いだったのか?なら、紹介の必要はなかったな。」
知り合い⋯ではないな⋯。
寧ろ結構複雑な関係かな?
彦卿の飛剣を奪って行った訳だし⋯。
「良かった探す手間が省けた。さっき歩離人を倒した時に僕の飛剣を持って行っちゃってただろう?返してくれないかな?」
「嫌だ。」
うん、まあ知ってた。
大体原作通りだ。
ここから彦卿と雲離の犬猿の仲が始まるんだよな⋯。
「⋯どうしてだい?」
「戦場で失った剣は戦場で取り戻すのが朱明のルールだから。そう簡単には渡せない。どうしても返して欲しいなら私に剣の勝負で勝って、奪い返せば良い。」
「何それ?君、人の物を勝手に奪うのは泥棒だって習わなかったのかい?」
「あなたこそ、ただ戦いで剣を私から奪い返せば済むのに、問題を矮小化してただ適当に剣を返せって言って⋯率直に言うけど、あなたはこの剣に相応しくない。この剣は本来なら鷹の如く獲物である歩離人の急所を捉えて仕留める筈だった。でも、肝心な場面であなたの剣術に迷いが生じた⋯。」
「確かに⋯さっきの彦卿くん、歩離人に一撃を叩き込む一瞬だけ迷ってたよな。一瞬だけだけど⋯。」
雲離と彦卿の喧嘩の合間、呟くように誰かに聞かせるでもなく、俺は独り言を呟く。
しかし、思いの外俺の声が大きかったらしく、皆の注目が俺に集中してしまった。
「「「「「「「⋯。」」」」」」」
「ん?何だよ?」
なんでこんな微妙な空気になる⋯?
「あんた、さっきの戦い見えてたの?ウチ速すぎて見えなかったんだけど。」
「彦卿は今回の演舞典礼の守り人だ。例え多少の武術の心得があろうともその動きを捉えるのは至難だろう。」
「お兄さん、剣を握ったことは?」
⋯成る程、なんか無自覚にとんでも無いことをしてしまったらしい。
なろう系主人公風に言うなら、俺何かやっちゃいました?って奴だ。
考えてみれば彦卿はゲームでの性能はイマイチでも設定では稀代の天才と呼ばれていた。
そんな彼の動きを目で捉えたのだがら、確かに異常だろう。
そんな事よりも彦卿からの質問への答え⋯俺が剣術の経験があるかどうかだが⋯。
「ふんっ勿論⋯⋯童貞だ。」
「「「「「「はあ?」」」」」」
やっべ変な空気になった⋯。
「あっいや、別に変な意味じゃなくてね⋯経験が無いって事を言いたいんだよ。」
「⋯成る程、まあこの話はこの辺にしておこう。それよりも私はこれから懐炎殿と話がある。星穹列車の客人と雲離さんの宿泊手続きは⋯ひとまず彦卿、君に任せる。」
しゅっ宿泊だーやったー。
ピノコニー以外の星のホテルは行っことが無いから楽しみだなー。
「ほれ、雲離お前も行ってこい。これを期に彦卿くんと仲直りして来なさい。」
「私は旅館には行かないよおじいちゃん。霊砂お姉ちゃんに会いに行く。丁度羅浮についたところで、腰を落ち着かせるために手伝ってくれる人を探しているみたいだから。」
そっか⋯霊砂もいるんだ⋯そうだよな⋯。
まあ、大丈夫でしょ。
ピノコニー以外ではきっと間違いは起きない⋯多分。
「彦卿、旅館の手続きが終わったら、私の代わりに工造司に行ってもらえるかい?カンパニーの船が襲われて押収されたそうなんだが、貨物から中身を取り出したいと抗議していると青鏃から報告があったんだ。」
「わかったよ将軍。」
こうして、一旦話は一段落し、俺達は先ず旅館へ宿泊手続きをしに行くのだった。