「なっなあ、本当に行かないといけないのか?」
「何言ってるの?困ってる人がいたら助けるのがウチら列車組の仕事だよ。」
「でもよ、この仕事は彦卿くんが将軍から任された仕事だろ?俺達が態々関わらなくても⋯。」
俺達は今、彦卿が将軍から頼まれたカンパニーとの揉め事の解決を手伝う為、工造司に向かっている。
「僕としてはカンパニーみたいな厄介な手合いとの揉め事に君達を巻き込みたくないから旅館に戻って貰ってもいいんだけど⋯。」
「駄目だよ!カンパニーの連中は本当に一筋縄じゃいかない奴らばっかなんだからね!彦卿じゃ相手にならないよ!ウチらに任せて!ウチらはあの十石心とも知り合いなんだから。」
いや、言い方⋯。
「彦卿じゃ相手にならない」は言い過ぎだよ。
心強くはあるんだが⋯。
「あっうん⋯ありがとう⋯。」
「ごめん、彦卿くん⋯。なのかも悪気があるわけじゃないんだよ。ただまあ、なんだ⋯ツラの良い女はどこかしら性格に難がある。分かるだろ?」
「うん、分かりたくないけど、わかったよ⋯。」
などと会話を交わしながら、歩く事数分。
俺達は件の工造司に到着した。
「まったく、仙舟人には理屈が通じないのか?」
工造司に着くや否、厭味ったらしい男性の声が響き渡った。
「この声⋯。」
「どうした?星。」
この聞くだけでも不愉快な声の主に心当たりがあるのか、星が気になる反応を見せる。
とは言いつつも俺もこの声に心当たりがある。
ゲームで散々聞いたからな。
俺の記憶が正しければ、ここで星と奴が激論バトルを繰り広げる事になる。
「ふふふ、わかったぞ。これは所謂火事場泥棒というやつだな?」
「何を言っているんだ?コンテナを開けて安全が確認出来れば解放するって言っているだろう!お前は耳も頭も悪いのか!」
「ちゃんと耳は聞こえるし、頭もはっきりしている。単刀直入に言う。コンテナは絶対に開けない。」
この厭味ったらしい声と雲騎軍が言い争っている場所に近付くと例の声の主の姿が露わになる。
カンパニーの社員である事を示す特徴的なスーツを身に纏い、真っ黒いサングラスを掛けている嫌味な性格と顔を持つ存在そのものが嫌味な男性。
名をスコートと言う。
謎に公式から優遇されてるモブキャラだ。
「これ以上私の荷物を返さないと言うのであれば、貴様らの将軍に書状を送りつけるぞ!」
「あの人間をかけた厭味ったらしいグラサンはよく吠えるな⋯。犬の鳴き真似が上手そうだ。」
「良く分かったね。あれは負け犬のスコートって言うんだけど、犬の鳴き真似が得意なんだ。」
「誰が負け犬だ!⋯ってうわああぁ!?」
俺と星が見事な連携で煽ると、スコートは釣られたように俺達に視線を移し、星を見て悲鳴を上げる。
「今の鳴き声は40点ってところだな。犬と言うよりも原始博士の退化実験で知恵を失った間抜けな猿みたいだった。」
「うるさい!鳴き声などではない!悲鳴を上げたのだ!それよりもそこの女⋯開拓者⋯まだ仙舟にいたのか⋯。不幸ってのは本当に重なるな⋯。お前に会うと碌な事が起きない。」
星の事を疫病神だってよ可哀想な星⋯。
まあ、「碌な事が起きない」の所は同情するし、同意もするがな⋯。
「⋯ええと⋯見たところ先生の知り合いみたいだね。あまり仲は良くなさそうだけど⋯。それよりも今の状況を詳しく教えてくれるかな?」
彦卿はスコートと言い争いをしていた雲騎兵に詳しい話を聞き出す。
大体の話を纏めるとこうだ。
先程の歩離人の襲撃でカンパニーの貿易船が破損してしまい、スコート達は暫く羅浮に滞在する事になった。
羅浮に数日間滞在する以上原則として貨物の検査を行う必要がある。
だが、スコートがそれを拒否。
厳密には完全に拒否した訳ではなく、羅浮ではスキャン検査により、貨物を開けずに調べるのが原則となっているのだが、そっちはしっかり協力してくれた。
しかし、スキャン検査のあと、貨物の中から生物組織に近い物質を検知してしまった。
その為、条例に従い貨物を開けて調べる義務が発生したのだが、そこでスコートは特許の秘密保持を理由に検査を拒否。
そして、そこから揉めに揉めて今に至る。
「⋯まだ、この貨物に手を出す気ならば、良いだろう!徹底的にやり合うじゃないか!天舶司の処理手続きにクレームを入れてやる!」
「完全に聞く耳を持たないね。なるべくカンパニーの人とは正面からやり合うのは避けたかったんだけど、仕方無い。」
「私が説得しようか?」
「先生は確か以前に金人港の商会を助けてくれた事があったらしいね。その際にスコートさんを相手に激論で勝ったとか⋯。お願い出来るかな?」
こうして、ファン待望のスコートと星の激論バトルが始まった⋯。
画面に映し出される選択肢もなく、完全フルオートで繰り広げられる二人の討論を聞くのは非常に退屈だったので割愛して、結果だけ言おう。
星が勝った。
「⋯お前中々口が達者だな⋯。ちっ!安全確認したいなら⋯できないこともない。だが、数日時間をくれ。何しろ重要な事だからな。カンパニー本部と話をしなくては。」
「先生、気をつけてスコートさんは先延ばし法を使うつもりだ。船の修理が終わるまでの数日間先延ばしして、乗り切れば船を検査しないままカンパニーは羅浮から帰る事が出来る。」
なんて卑怯な奴なんだ⋯。
しかし、そうなったとしても俺達にスコートを止める権利はない。
何故なら⋯。
「法を犯さない限り、カンパニーの人だろうと、当然自由に羅浮を出入りできますよ。」
そうそう、前科が無ければ好きなタイミングで羅浮とおさらば出来る。
先延ばし法で検査を避けてスコート達が逃げても俺達は奴らを攻めることはできな⋯ってあれ?今の声は誰だ?
少し気づくのが遅れたが、先程までここにいなかった筈の聞き慣れない⋯しかし、よく通る美しい女性の声がその場に響き渡った。
声のする方に視線を飛ばせば、仙舟特有の中華風の服装を身に纏い、まるで金魚のような赤い鱗が生えた手足が特徴的な黒髪の美女がそこにいた。
「失礼、自己紹介がまだでしたね。私は羅浮丹鼎司の司鼎霊砂と言います。」
うわ⋯霊砂だ⋯。
本物だよ⋯。
その赤い手足⋯ゲームだと最初は鱗だって気付かなくて殺人で血に染めたのかと思ってたけど、現実のその鱗は凄く綺麗だね。
「また、新手の仙舟人か⋯今度は何の用だ?」
「工造司から未知の生物のサンプルが入った貨物がここに留まっている為、調査して欲しいとの書類を頂いたので出向いて参りました。」
誰が書類を提出したかは知らないが、結局こうして新勢力が派遣されるなら俺達が来る必要あったかな?
これからの展開を知ってる身としては早く旅館に帰りたいんだけど⋯。
「スコートさん、どうしても検査したくないと言うのであれば、しなくて結構ですよ。」
「おお!急に話が分かるようになったではないか。では、こちらは一切貨物の中身を見せない。船の修理が終われば直ぐに貨物を持って⋯。」
「いいえ、貨物は持って帰れません。」
「は?」
「カンパニーと仙舟が締結した輸出入契約では、全ての生物製品は外界に危害を加えない物、もしくは活性を失った物しか出港できない事になっています。このままですと、この貨物の中身が危害を加えない物かどうか判断出来ないので、活性を失うまで待つしかありません。過去の事例を踏まえますと⋯そうですね⋯47西暦年だけ待っていただければ大丈夫かと。」
おお!出たよ炸裂したよ長命種の秘技長命ジョーク。
これには流石のスコートも折れるしかあるまい⋯。
「流石長命種⋯嫌味な言い方だな。お前達は時間と言う概念を気にしないのかもしれないが、そのせいで生じた1分ごとの損失は倍にして請求させてもらうからな!」
「どうやら、スコートさんは勝利の瞬間を見届けるまで自分の仕事と人生が続くと信じて疑わないみたいですね。」
「⋯。」
おっとスコート選手反論しない!
これはkoか?ノックアウトか?
スコート選手負けを認めるか?
「⋯もう良い。貨物を開けよう⋯。これ以上状況をややこしくされてはかなわん⋯。」
よし勝った!
第十一話完!