「あああ!!」
「んあ?どうしたのですか?大きな声出して⋯。」
「どうしたもこうしたもあるか!何で逆にあんたはそんなに冷静なんだよ!この状況わかってるのか!」
俺の奇声により目を覚ました霊砂に対して俺は八つ当たり気味に声を荒げる。
「この状況⋯。ああ⋯昨夜はとても熱い夜でしたね。」
「だから何でそんなに冷静なの?シちゃったんだよ!ヤッちゃったんだよ!俺達は取り返しのつかないことをしてしまったんだよ!どうしよう!俺責任取り切れないよ!このままデキ婚しちゃうのか!俺まだ学生なのに!」
「落ち着いて下さい⋯。心配しなくても私は妊娠しませんよ。」
「え?いつの間に避妊したの?」
「そうではなくて。私は持明族ですよ?生殖機能は元よりありません。」
ん?え?あ???
あ!あ〜確かに持明族って寿命が来ると卵になって転生するから子孫を残す必要が無いんだっけ?
そうだった忘れてた持明族に生殖機能は無い。
つまり、妊娠はしない。
でも、それでも俺達昨日ヤリはしたんだよな?
「俺達普通に昨夜⋯ヤッたんだよな?」
「ええ、生殖機能は無くても生殖器自体とそれに伴う性的快楽もしっかりありますので、昨夜はヤル事とことんヤリましたよ。」
さっきからずっと引っ掛かってるんだけど、霊砂さんなんかケロっとしてない?
まあ、今まで抱いてきた女も皆案外ケロっとしてたけど、あれは⋯まあ、夢の中だったし⋯納得は出来た。
でも、今回は現実だ。
普通は取り乱しません?
「あの⋯記憶が無いとは言え、あなたを美味しく頂いた俺が言えた事では無いけど、霊砂さんまったく取り乱してませんよね?」
「ええ、まあ⋯そうですね。」
「何で?普通初対面に近い男性とこんな事になってそんなに冷静では居られないと思うんですけど。例え妊娠しなくても。」
「⋯前までの私でしたら、この状況を受け入れられなくて、あなたが言うように取り乱していたかもしれません。」
なんか気になる言い方だ⋯。
羅浮で何があったんだ?
「何か悩みでもあるのか?」
「私が朱明から羅浮に派遣された話はご存知ですか?」
「ああ、まあ一応。」
この世界で実際説明された事は無いけど、ゲームの知識としては既に知っている。
「私は薬王秘伝の残党によって汚職している今の丹鼎司を内部から浄化する為に羅浮に派遣されました。影に潜んで影を狩る。地味で忍耐を必要とする仕事ですが、仙舟の為に私が尽くせる最高の任務として最初は誇りに思っていました。ですが、蓋を開ければ腐り切った上司にパワハラされるわ、セクハラされるわ、面倒な仕事を不当に押し付けられるわ、挙句には何か失敗したら責任を押し付けられて理不尽に怒られるわ、羅浮に来てからというもの腐り切ったみかん共に囲まれて八方塞がりの毎日。もう、やってられませんよ!」
「おお⋯情緒不安定だよ霊砂ちゃん⋯。」
「どいつもこいつも、アル◯ハイマーが可愛く思える程に認知の歪んだイカレポンチばかり。豊穣の星神薬師を無条件に崇拝する意味不明な宗教家達が自分達だけ長生きしようと醜く足掻き、周りの人間に迷惑をかけてる。大々、魔蔭の身が薬王からの祝福なんて論理も頭のネジもぶっ飛んだ拡大解釈してる時点でてんで話が通じないんですよ。あれを内部から浄化って何ですか?バレないように暗殺しろってことですか?私の真っ赤な金魚の鱗を血に染めろって言うのですか?」
⋯これはつまり⋯壊れてる⋯。
霊砂さん、腐り切った丹鼎司の内部事情のせいで、ストレスが天元突破してる。
「本当は私だって逃げ出したいですよ!でも、私は出来る女!ストレスとか疲労とか仕事に私情を持ち込みません。しっかり自分で発散して完璧なコンディションで仕事に打ち込めるように今まで努力してきました。少し奮発してリラックス効果のあるキャンドルを買ったり、ネットで調べたストレッチ法を試して血行を促進したり、睡眠の質を上げるために夢獏を抱き潰したり、美味しいもの食べたり、人間の三代欲求の内食欲と睡眠欲を満たして、今まで何とか紙一重で耐えてきました。ですが、それでも限界というものがあります。結局人が一番に快楽を感じるのはエッチなんです!性欲なんです!」
「⋯キャラ崩壊してるって⋯。お前、そういう芸風が許されるキャラじゃねえだろ。」
「キャラって何ですか?猫被れって事ですか?生憎私は金魚なので猫被れませーん。」
「酔ってるのか?霊砂さん⋯。」
「⋯ヒックッ!昨夜あなたを丹鼎司へ連行する為に使った御香の調整をミスってしまい、私も煙の影響を諸に受けてしまいました⋯。一晩経ってある程度マシになりましたが、今の私はまだ軽く酔っている状態です。」
あの御香の効果か⋯。
何で自分にも被害が被るような代物を使ってまで俺を連れ戻そうとしたんだよ⋯。
「本来の予定では私があなたを泥酔状態にして、丹鼎司で大人しく寝付かせるつもりでした。ですが、あなたが無駄に抵抗したせいで、私はこのザマです。つまり、あなたのせいでーす。」
「⋯人に責任を押し付けるな⋯。まあ、百歩譲って半分くらい責任が俺にあるとして、お前は俺にどうして欲しいんだ?」
「セ◯レになってください。」
「は?」
「さっきも言ったでしょ。結局人が最も快楽を感じるのはエッチだと。昨夜の対戦はそれはもう、最高でした。身体と精神の欲求が満たされて、疲れが吹っ飛びましたよ。」
俺が⋯霊砂の◯フレ?
⋯あり得ない。
俺は別に好きで女の子と肉体関係を持っているわけじゃない。
どれもこれも不可抗力だ。
⋯まあ、性的な目で皆を見てないと言えば嘘になるけど、そんなふしだらな関係は望んでない。
「答えは勿論ノーだ。」
「何でですか!私ならナマでも大丈夫ですよ!都合の良い女でもいいですから!お願いします!」
「駄目なものは駄目なの!早く酔いを覚まして、キャラ修正して来い!」
「やだ!」
「やだじゃない。さっきも言ったが、お前はそういう芸風が許されるキャラじゃない。苦労人なのは認めるし、何か悩みがあるならこれから相談くらいには乗ってやるが、セフ◯と今のお前のキャラだけは許せない。俺は厄介ヲタクなんだ。」
こう言うキャラは星みたいな愉悦に染まりきった開拓者の申し子こそ許されるものだろう。
何で御香の効果で酔ったくらいでベタにキャラ変してんだよ⋯。
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!」
「ただを捏ねるな!子供か!」
「嫌だ!セフ◯がダメなら攻めて今日一日一緒にいてください!」
「それは無理だ。今日から雲離との修行があるからな。」
「雲離にまで手を出すおつもりですか!もしかして、雲離と私を同時に召し上がるのがお望みですか?」
「⋯あと一回口を開いてみろ。お望み通りもう二度と仕事出来ないようにしてやる。」
「⋯。」
⋯やっと黙ってくれた。
比較的キャラ崩壊が頻繁に起こり易いスタレ世界でよりによって崩壊しちゃいけないタイプの奴がキャラ崩壊しててマジで焦った⋯。
「じゃあ、俺はもう行くから。またな。」
俺は服を着て丹鼎司を後にする。
今何時だ?時間にまだ余裕があるなら、朝飯を食ってから雲離に会いに行くか。
などと少し考え事をしながら、歩いていると⋯。
「あっ宙。丹鼎司にいたんだ。」
ばったり雲離と遭遇してしまった。
「よっよお。奇遇だな。」
「そうだね。何で丹鼎司に?何か用でもあったの?」
「昨日少し大きな怪我をしてな。傷は完治したんだが、念の為一晩だけ療養してたんだ。そう言う雲離はどんな用でここに来たんだ?」
「私は霊砂お姉ちゃんに会いに⋯。」
「やめておけ。」
何でこうもタイミングが悪い時に来るんだよ⋯。
今の霊砂はお前が知ってる霊砂お姉ちゃんじゃない。
雲離の中の霊砂のイメージの為にここは絶対に雲離を通してはいけない。
「何で駄目なの?」
「今の霊砂は色々大変なんだよ⋯そう、それはもう大変だ⋯。」
「要領を得ないね⋯。具体的にどう大変なの?」
「⋯上司からの度重なるパワハラとセクハラによって募りに募ったストレスの影響で彼女は今、内なる獣が暴走しようとしている。それを抑え込むのに必死なのさ⋯。」
「魔蔭の身って事?霊砂お姉ちゃんが?」
「違うけど、近い。兎に角今はとてもデリケートな状態なんだ。そっとしておいてあげてくれ。」
「分かった⋯。」
うん、素直でいい子だ。
騙しているようで申し訳ないけど、今の霊砂に会わせる訳には行かないんだ。
許せ。
「ねえ、予定が崩れちゃったし、あなたさえ良ければ少し早めに修行を始めない?」
「ああ、良いぞ。だが、その前に朝飯を食いたい。」
「あっ私もまだだった⋯。」
「一緒に食べるか?」
「うん。」
こうして、色々ありながらも新生俺雲離師弟ペアは仲良く朝食を共にするのだった。
「そう言えば、宙から霊砂お姉ちゃんの匂いがするんだけど何で?」
「⋯霊砂さんのストレス解消法に付き合ってました⋯。」
俺の独自解釈ですけど、霊砂って多分金魚モチーフですよね?
イベントで赤龍の末裔とかって言われてた場面あったけど、あれは結局椒丘のデタラメだったし、金魚だか鯉だか忘れたけど、滝を登って龍に進化するって伝説があった気がするから多分霊砂は金魚⋯もしくは鯉。