仲良く朝食を済ませた俺と雲離は二人っきりで修行が出来る広場へとやって来た。
「早速、修行を始めようと思うんだけど、その前にあなたに渡したい物があるの。」
「渡したい物?」
「これ。」
そう言って、雲離はどこからともなく巨大な剣を取り出す。
「これは⋯。」
「あなたがこれから幾千もの戦を共にすることになる相棒だよ。普段私が使ってる大剣とは双子剣に当たる物で昔私が自分で鍛造して作った剣なの。」
「これを俺にくれるのか?」
「勿論⋯と言いたいけど、ただでは渡さない。以前私が彦卿の飛剣を奪った時に言ったこと覚えてる?」
「『戦場で失った剣は戦場で奪い返せ』だったけ?」
「そう、この剣は今日からあなたの物になる。でも、今は私の手にある。これから私の弟子として教えを請い、この剣を振るいたければ、戦いで私から奪って見せて。これが最初の修行。」
成る程な⋯面白い⋯!
先ずはあの剣に相応しいか、雲離の弟子として申し分ない才覚があるかどうかを見極める⋯ということだな。
正直、雲離から剣を奪えるかは自分でも無理だと思ってる。
戦いの経験はあの歩離人型のロボットが直近では最初で最後だからな。
でも、なんか⋯今日の俺はいつもよりも戦いに対して楽観的な気がする。
霊砂との一夜を迎えてからというもの⋯何となく言葉に表せない自信と言うか力が身体の奥底から湧いてきているような妙な感覚を感じるのだ。
「上等!速攻でその剣を奪って可愛がってやるよ!」
「合図は無いから、あなたの好きなタイミングで来ていいよ。」
「そんじゃ遠慮なく!」
俺は大剣を構える雲離に対して馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込み、彼女が手に持つ大剣へ手を伸ばす。
しかし、俺が剣に触れる前に雲離はヒョイッと重さを感じさせないあっさりとした動作で剣を持ち上げて、俺の手から剣を遠ざける。
「動きが単調過ぎる。あと隙もデカい⋯!」
次の瞬間、雲離は大剣の柄の部分を俺の鳩尾に打ち付ける。
「がはっ!」
大剣の重さと剣の扱いになれた雲離自身の巧みな技の組み合わせにより、俺の身体にかつてない衝撃が走る。
「いってえ⋯。反撃するなんて聞いてねえよ⋯。」
「しないなんて言ってないでしょ。剣士にとって剣は命綱。例え修行であってもそう簡単には手放せない。」
この戦いは修行以前に俺と雲離の剣士としての矜持をかけた戦争か⋯。
お前がそこまでして本気で俺と向き合ってくれるなら、俺もそれに全力で応えてやる!
「少し卑怯な真似になるが許せ。」
「良いよ。本気で来て。」
俺は地面から持てる限りの石ころを掻き集めて、雲離に向かって投げつける。
それを雲離は涼しい顔をしながら、軽く払うように撃ち落とす。
「近接戦が不利だから、飛び道具を使うのは良い考えだと思う。でも、それじゃあ私から剣は奪えない。」
「だったら近付いて石ころ投げてやるよ!」
俺は雲離を中心に円を描くように走り回って、四方八方から石を投げながら距離を詰めていく。
しかし⋯。
「はあはあ⋯。」
「息が上がってる。あなた普段からあまり運動とかしないでしょ?走り回りながら飛び道具を投げるのは相手を錯乱させる為なら悪くない手だけど、結構疲れるよ。」
「さっきから俺のこと舐め過ぎだろ⋯。でも、良い⋯それで良い⋯!もっと舐めてもっと油断しろ!そうすれば⋯てめえに目にもの見せてやれるからな!」
俺は手に持っていた石を全てその場で捨てる。
投げるのではなく捨てるのだ。
今まで飛び道具として使っていた石を目の前で手放す。
その姿は雲離からしたら、スタミナ切れを起こして飛び道具作戦を諦めたように見えるだろう。
だが、違う!俺はまだ諦めていない!
俺は石を捨てたあと、直ぐに地面に屈んで土を一握り掴む。
そして、油断している雲離の目にその土をお見舞いしてやる!
「くっ!土!?」
俺を素人と内心見くびって油断していた雲離は俺の土による目潰しを諸に食らってしまう。
今だ!この隙に剣を⋯!
「目が見えなくても⋯剣士には⋯心の眼がある!」
前が見えないにもかかわらず、雲離はまるで空間ごと俺の存在を把握しているかのように大剣を構える。
そして、その大剣の刃先を剣を奪おうと手を伸ばす俺に向けて、その一振りを放つ。
「うりぁあ!」
あ⋯ヤバい⋯死ぬ⋯。
俺の視界で大剣の鋭い刃が俺に近付いてくる光景がゆっくりと流れる。
さっきは大剣の柄の部分だったから大丈夫だった⋯。
だが、今度は大剣の刃⋯正真正銘敵を斬り伏せ、その命を狩り取る部分。
生身の人間が諸に喰らえば⋯死ぬ⋯!
ドンドンゆっくりと雲離が放った刃は俺の身体へと延びてくる。
この勢い、スピード、力、重さ、完全に俺の命を終わらせるのに十分な威力を持っている⋯。
俺⋯ここで死ぬのか?
たかが修行で?
この若さで?
まだ、俺は何も成し得てない⋯。
ただ女の子誑かしてヤル事ヤリまくってるだけの最低ヤリチン野郎のままで終わるのか?
冗談だろ!
死にたくない⋯!死にたくない⋯!
俺は生きたい!このまま何も成し遂げずに終わりたくない!
そんな俺の生への強い執着により絞り出された心の叫びは俺のこの世への未練を更に増幅させる。
そして⋯。
そして⋯⋯。
そして⋯⋯⋯。
その生への執念は
《生への執念と生存本能に従い、全てを貪り尽くせ》
知性も理性も感じないただ生にしがみつき、生きようとする邪悪な声が昆虫の飛翔音とともに俺の脳内に響き渡る。
⋯これは走馬灯⋯?
いや、それにしては不気味だ⋯。
なんだ?これは⋯。
《生きたいなら、喰らえ。生きる為に生き、生きる為に殺せ。》
さっきからうるせえな!
物騒過ぎるだろ。
確かに今の俺は死にかけてるけど、余計なお世話だ!
何が生の執念だよ!
言われんでも俺は性の執念に取り憑かれてるわ!
ありとあらゆる女の子達を性的に食いまくってんだよ!
生きる為に生きろだ?
言われんでもそうしてやるよ!
俺は絶対に死なねえ!
てめえは出しゃばってくんな!
どこから聞こえてきたか分からない不気味な声にそう叫んで俺の意識は現実へと浮上する。
何だったんだ?今のは⋯。
まあ、今となってはもう、どうでも良い。
今は雲離の攻撃をどうにかしないと⋯。
正直、今のこの状態では作戦もひったくれも無いけど、何故かなんとか出来る自信がある。
この攻撃を防ぎ切れる自信が⋯!
俺はその謎の自信に従い、身体全身に力を込める。
そして、脳内に浮かぶある一つの台詞を口にする。
「槍先に火を!」
ガキンッ!!
「!?」
「ははっ!出来た!槍ねえけど。」
何でかは分かんねえけど、星の力が使えるようになった。
⋯いや、星だけじゃない⋯多分、今まで抱いてきた女の力全部使える。
何で急にこんな力が湧いたのかは分からねえ。
もしかして、さっきの不気味な声の仕業か?
まあ、分かんないもんはいくら考えても仕方ない。
取り敢えず、今は戦いに集中だ。
まだ雲離から剣を奪えてない。
「今の⋯どうやったの?」
目に着いた土を落として、驚いた表情で俺を見つめながら、雲離は疑問を零す。
「さあな⋯。俺にも分からん。でも、多分これで強さはお前と対等になれた⋯と思う。」
「舐めないで!私はそう簡単に追い付ける程甘くない。」
「そうかもな。でも、剣は頂いていくぜ。」
俺は再び新たに手に入れた力を使うために全身に力を入れて、頭に浮かぶ言葉を口にする。
「炉香嫋嫋、蒼天へ昇る。」
「っ!?その技は⋯!」
流石雲離直ぐに気付いたか。
そうだお前が大好きな霊砂お姉ちゃんの技だ。
俺は周囲に煙でできた兎型の威霊【浮元】を召喚し、雲離に放つ。
「くっ!」
「あまり無理に抵抗するなよ。今の浮元には結構強力な御香の煙を付与してるからな。」
霊砂の威霊浮元は煙でできた召喚物だ。
故に、毒ガスとか気体物を馴染ませる形で応用して使用する事が出来る。
今回俺が浮元に付与したのは、昨日霊砂が俺に使った御香と同じ効果を持つ煙だ。
これを食らった物は泥酔状態になり、戦闘不能となる。
「ぐっ⋯頭が⋯意識が朦朧として⋯。」
「勝負あったな。この剣はありがたく貰っていくぜ。」
俺は泥酔状態で倒れ込む雲離から剣を奪い取る。
これで、俺の勝ちだな。
さて、俺にまで煙の被害が被らないうちに浮元を⋯。
⋯あれ?これどうやって消すんだ?
「戻れ!消えろ!浮元!もとにー戻れー!」
ヤバい!初めて使うから制御出来ねえ⋯。
「宙⋯。流石にきつい⋯。早く能力解いて⋯。」
「⋯ごめん、やり方分かんない⋯。」
ー
ーー
ーーー
そして、この状況よ。
「やっちまった⋯。」
これは俺が悪いわ。
うん、100%言い逃れできない。
取り敢えず何があったかと言うと、あのあと、案の定俺も煙の影響で泥酔した。
まあ、でも一度既に食らってたから、少しだけ耐性が出来てて意識は保てたんだけど、雲離が⋯ヤバかったんだよね⋯。
目がトロンとしてて、息遣いも荒くて⋯。
俺も足元が覚束なくてヤバい状態ではあったんだけど、雲離はそれ以上にヤバくて、苦しそうだったから安全に雲離を休ませられる場所⋯つまり、旅館の部屋に連れて行ったわけよ。
そして⋯そこからはご想像通りの展開だよ。
限界が来て⋯ヤッてしまった。
「ん~~宙⋯。」
当然、一糸纏わぬ姿で俺の隣に雲離が寝ている訳ですよ。
お約束ですよ。
「責任取らなくちゃ⋯。」
流石にもう、逃げられない⋯。
未成年、ちゃんと生殖機能持ち、現実。
三拍子揃っとる!
これは一体どうすれば⋯そうだ!
⋯これは⋯きっと股間のバナナが全て悪いんだ。
決めた⋯俺は⋯バナナを捨てるぞ!