⋯なんか⋯おかしい⋯。
いつもなら、どんな行動を取ってもベッドインなのに⋯。
なのかは俺を拒絶した⋯。
今まで数々の女を抱いて来たのに、なのかだけ、俺とベッドインしなかった⋯。
おかしい⋯。
⋯。
⋯⋯。
⋯⋯⋯。
おかしい?
いや待てよ⋯おかしいってなんだ?
ベッドインしなかったなら、それでいいじゃないか。
今まで必死にそれを防ごうとして来たんだ。
やっと夜のイベントを回避出来たんだから、喜ばしい事じゃないか?
⋯だが、今の俺は⋯なのかとそう言う関係にならなかった事を⋯残念⋯がっている?
⋯おかしい⋯明らかに頭がおかしくなっている⋯俺の⋯頭が⋯。
「どうなっている?なんか様子が変だぞ俺⋯。」
これじゃあまるで、俺が自らそう言う行為を望んでいるみたいじゃ無いか⋯。
「そこのあなた、どうかしたの?」
その時、大人びた女性の声が俺に話しかけて来た。
声のする方に振り向くと、そこには少し青緑がかった黒髪と立派な狐耳と尻尾を持つ綺麗な女性が俺を心配そうに見つめていた。
「⋯あんたは?」
「失礼、私は御空。天舶司の舵取りをしている者よ。」
御空⋯なんで長楽天に⋯。
と言うか⋯なんたってこんなタイミングに⋯。
「あなた、もしかして星穹列車の新しい仲間かしら?見違いじゃ無ければ三月なのかと何か話していたようだけど。」
「ああ、一応新しい乗員ではあるよ。なのかとは⋯ちょっと色々あって今し方思い切りぶたれたところだ。」
「⋯大丈夫なの?」
「ああ!勿論!あなたのような美しいお姉さんにお目にかかれたお陰で元気になったよ!」
「え?」
⋯ちょっと待て⋯なんだ今の?
御空とは初対面だ。
なんで急に口説き始めたんだ?俺⋯。
「おっお姉さんだなんて⋯口が上手いのね⋯。」
「いやいや、ただ思った事を口にしただけですよ。あなたは本当に綺麗だ。天舶司で働く男性達もきっとほっとかないでしょう。」
おい!口を閉じろ!何を言っているんだ!やめろ⋯!
⋯駄目だ⋯まったく制御が効かない⋯。
勝手に口が手が動く⋯。
「⋯ちょっとどういうつもり?こんな年増女を口説いて⋯。」
「年増だなんて⋯そんな事はない。あなたは十分魅力的だ。」
そう言って、俺は自然な動作でサングラスを外し、さり気なく片手を御空の腰に回す。
「あなたの目⋯凄く魅惑的⋯。」
俺の目に見つめられた御空は生気を吸い取られたかのように全身から力が抜け、俺に全てを委ねるように体を寄っかける。
そして、瞳孔から光が無くなり、トロンとした焦点の合わない目で俺を何かを欲しがるように見つめてくる。
「この後⋯時間あるか?」
「ええ♡」
待て待て!彼女は子持ちだ!
手を出すな!
やめろおおお!!
「目を閉じて⋯一瞬だから⋯。」
「⋯。」
ヤバいヤバいヤバい⋯!
御空がキス待ち顔でスタンバってる。
このままだと俺は⋯子持ちの女とヤル事になる!
「だっ駄目だぁああ!」
あと数センチで御空と俺の唇が触れそうになる直前、俺は何とか体の主導権に取り戻し、御空の体を引き剥がした。
「はあ⋯はあ⋯危ねえ⋯。」
何だったんだ?今のは⋯。
体がまるで言う事を聞かなかった⋯。
もしかして、繁殖の⋯力が⋯。
「ねえ♡どうかしたの?早く続きをしましょう?焦らすなんて酷いわ♡」
「⋯。」
魅了眼の効果っていつ切れるんだ?
「ねえ、どうした?」
「悪いが、少し用事を思い出した。またな。」
「え?ちょっ!」
俺を呼び止めようとする御空を置いて、その場から逃げるように走り出す。
繁殖の力が進化してるって話はヘルタからあらかじめ聞いていたんだがな⋯。
流石にこれは⋯話が違い過ぎる⋯!
俺は走りながらスマホを取り出し、ある人物にメールを送る。
「頼む⋯早く返信をくれ⋯。」
『[オート返信]ただいま離席中、返信は期待しないで。』
「クソ!直接会いに行くしかないか⋯。」
メールでのやり取りが不可能と悟り、俺は界域アンカーを再び使用して、ある場所へと向かうのだった。
ー
ーー
ーーー
「⋯ふーん。」
「どうだ?ヘルタ。」
「繁殖による軽い精神汚染だよ。大した事ない。」
「本当か?結構実害があったんだけど⋯。」
俺は今、再び宇宙ステーションヘルタに来て、ヘルタ本体に直接診察してもらっている。
ヘルタ達との朝チュンを迎えて別れてから、ほんの数時間しか経っていないのに、再び宇宙ステーションを訪れる羽目になるとは⋯今日と言う日は本当に忙しないったらありゃしない。
「軽い精神汚染でもこのまま放っておいたら、結構ヤバいかもね。老若問わず見境無く襲う獣になっちゃうかも。」
「どうにか出来ないのか?」
「繁殖の精神汚染を無効化するには同じく運命の力じゃないと相殺出来ない。つまり、今から直ぐに別の星神からの一瞥を受ける必要がある。」
一瞥⋯星神の一瞥ってそんな簡単に貰えるものじゃないよな?
てことは俺詰んでね?
「星神からの一瞥なんてどうやって貰うんだよ。」
「そんなの、それぞれの運命の星神に気に入られるように努力するしかないでしょ。」
「それが出来たら苦労しねえよ⋯。」
俺は主人公じゃねえんだよ。
星みたいにバンバン頻繁に星神から一瞥貰えるような都合の良い体も主人公補正も無いの!
そんな「コンビニでアイス買って来て」くらいの感覚で一瞥貰って来いなんて言われても無理なもんは無理!
「はあ⋯。仕方ない⋯乗りかかった船だし、私がヌースから一瞥を貰えるようにあなたをサポートしてあげる。」
「え?マジ!?滅茶苦茶助かるんだけど⋯ヌースからの一瞥なんて本当に貰えるのか?」
「それはあなた次第⋯。天才じゃなくても其に認められる程の知識量を蓄えれば一瞥は貰えるの。ちゃんと前例もあるんだから。」
「へえ⋯。」
「ただその人は其から一瞥を貰った直後に精神崩壊して発狂したらしいけど⋯。」
⋯急に不安になってきた⋯。
「取り敢えず、やるだけやってみましょう?」
「失敗したら俺精神崩壊するのに?」
「見境無く女の子を襲う獣に成り下がるよりはマシでしょ。」
「⋯確かに。」
と言うわけで、ヘルタ先生による『レッツ!ヌースの一瞥貰おう!集中講座』が始まった。
ー
ーー
ーーー
「先ずさっきも言ったけど、必要なのは才能じゃなくて知識だよ。私は生まれた時から天才だったから、そんなに苦労せずに一瞥が貰えたけど、あなたのような凡人が一瞥を貰うには死ぬ程勉強して沢山知識を蓄える必要がある。」
「ふむふむ⋯。わかった!なら、滅茶苦茶勉強してやる!こう見えて俺は結構勉強は得意なんだよ!」
「あっそ。まあ、期待せずに待ってて上げる。」
舐めてやがるな⋯。
俺はこう見えて折り紙大学を首席で入学してんだ!
俺の天才的な頭脳と圧倒的な知識をとくと見よ!
「ヘルタ、何か問題出してくれ!」
「良いよ。じゃあ円の直径に対する円周の長さの比率である「円周率」を表す数学記号は?」
「おっぱい。」
「⋯惜しいね。じゃあ次は理想気体の状態方程式を表す公式は?」
「 AV=NTR。」
「PV=NRTだよ。ふざけてるの?」
⋯おれ?おかしいな⋯真面目に答えてる筈なのに⋯何故か口が勝手に動いて違う回答を答えてしまう。
「⋯はあ、じゃあ次で最後だから。直角三角形の三平方の定理は?」
「74、55、80。」
「⋯それ、私のスリーサイズ⋯。なんで知ってるの?」
頑張ってヌースからの一瞥を貰うために勉強したが、結果は見ての通り無理でした⋯。
「俺もしかしたら、知恵の司令よりも叡智の星神の方が向いてるかも。」
「引っ叩くよ。」
まあ、冗談はさておき⋯かなり俺の状態は重症のようだな⋯。
ヌースからの一瞥は飽きらめた方が良いかもしれん。
「あなた、知恵が壊滅的に向いてないよ。」
「うん、俺もそう思う⋯。」
「こうなったら、知恵よりかはもう少し現実的な方に目標を変えましょう。」
「知恵よりも現実的?」
「『巡狩』だよ。今あなた仙舟にいるんでしょ?仙舟は巡狩の星神嵐からの庇護を受けている星だから、死ぬ気で頑張れば、あなたでも一瞥が貰えるんじゃない?」
成る程な⋯丁度今雲離の元で修行している最中だし、滅茶苦茶必死に頑張れば繁殖を祓いのける巡狩の力が貰えるかもしれない!
「わかった!やってみる!」
俺は今日から巡狩だよ!