「嘘⋯だろ⋯。あんたは⋯。」
俺は背後に後光が差し、美しい純白の羽根が舞っているように錯覚するほどの美しい女性を前にして⋯激しく動揺する。
「ふふっそんなに緊張しなくて良いいのよ。今日はお忍びなの。プライベートでは歌姫としてではなくて、ただのロビンとして接して欲しいわ。」
「あ…はあ⋯そうですか。」
やっばー…生のロビンが目の前におる。
どうしようヤベっ!ヤバいやんバイヤーじゃん!
誰だよただのモブキャラって言ったやつ!バリバリメインキャラじゃん!銀河一の有名人じゃん!これ俺の死確定じゃね?
今まで数々の女性を抱いてきたが、ここまでの大物はいなかった。
星が開拓者とスターオブザフェスティバルの肩書で少し有名なくらいで、黄泉と銀狼はまあ、そこまで気にするレベルでも無かったて感じだ。
今までの女性は仮に俺との肉体関係がバレてもワンチャンのワンチャン助かる可能性があったが、ロビンの場合は違う。
銀河で彼女を知らない者は赤子を除いていない。
その分、アンチもファンも多い。
そんな彼女と万が一肉体関係をもってしまったら、そしてそのスキャンダルが世間に知れ渡ってしまったら⋯ロビンの名に傷が付き、そして俺は死ぬ。
だからそこ、ヤバい!
もしかしら今日が俺の人生の最終回になってしまうのかもしれない⋯。
嫌だ!そんな事絶対に!
何としてでも最悪な未来を阻止する!
その為に俺は⋯。
「宙さんって言ったかしら?立ち話も何だし、早く座って一杯交わしましょう?あなた普段何を飲むの?」
「ノンアルなら何でも。」
アルコールを断つ!
「ノンアルって⋯お酒を飲まないの?折角バーに来たのに。」
「俺実は下戸で⋯。」
勿論そんな事はない。
無いが、俺の死を阻止するためだ。
例え鼻が伸びようが、泥棒の始まりになろうが嘘を突き通させてもらう。
酒は呑んでも呑まれるなとはよく言うが、呑まれないための対策として最も合理的なのは飲まない事だ。
「何言ってんの?宙前に沢山お酒飲んでたじゃん。」
しかし、そこに空気を読まない芦毛女の声が一つ。
「黙れ!ゴミ箱の中に捨てるぞ!」
「え?それなんてご褒美⋯。」
ご褒美なわけあるか⋯ちくしょう。
こいつが空気読んでくれない限り俺の命はどんどん黄泉の世界へと近づいていくぞ。
何せ店には今星しかバーテンダーがいない。
つまり、この飲み会の舵取りはこいつが担っていると言っても過言ではないだろう。
こいつから提供されるモクテルにアルコールが入っているかいないかで俺の運命は吉にも凶にもなる。
「頼む星協力してくれ⋯。分かるだろ?俺が酒飲むとどうなるか。」
「どうなるかって⋯ああ、そういう事。わかった私に任せて!」
ロビンに聞こえないように小声で星に頼むと星は二つ返事で了承してくれた。
普段奇行の目立つ奴だが、それでいて話はしっかり通じる奴だ。
こいつの協力があれば今夜はなんとか乗り切れそうだな。
「リクエストはある?何でも作れるよ。」
「俺は少し辛目の味の物が良いな。グラスは小さめで。」
「私は甘いのが良いわ。グラスは小さめで氷は少なめ、おしゃれなグラデーションを作って欲しいわ。」
「了解!見てて私の可憐なグラス裁き!」
俺達のリクエストを聞いた直後、星は手際よく棚から複数の酒瓶とグラスを取り出す。
そして、俺達の前で得意げな笑みを浮かべて、いきなりグラスをスタイリッシュに投げ回し始めた。
そして、そのグラスは空中で行き場を無くし、バーカウンターの上で無残に粉々になってしまった。
パリンッ!!と言う乾いた音がその場の悲壮感をより一層際立たせている⋯。
「なにしてんの?」
「よく動画でバーテンダーがスタイリッシュにグラスを投げてキャッチするシーンがあっから、私も出来るかもって⋯。」
「慣れない事すんなよ。」
「慣れない事に挑戦するのが開拓だよ。大丈夫、このグラスで10杯目くらいだから次は成功する。」
「割りすぎだろ⋯。大丈夫な要素一つもねえじゃん。」
本当にコイツにバーテンダーを任せていいのだろうか⋯。
不安になってきた⋯。
「気を取り直して、早速作っていくよ。先ずはロビンの方から。」
星は小さなグラスに氷を一つ入れて、ペッパードクター、クールスラーダ、ペッパードクターの順に入れて3層のグラデーションを形成する。
最後に付け合わせにレモンを乗せて、あっという間に完成した。
「はい、ロビン。魅惑の甘みで心を癒やすクールスイートドクターだよ。」
「ありがとう。とても美味しそうね。」
思ったより手際が良いな。
あのモクテルも凄く美味しそうだ。
「次は宙のだね。少し待ってて。」
次に星が作るのは俺のモクテルだ。
グラスは小さめで味は辛目、それ以外は特に指定していないが、どんなモクテルが出るのか楽しみだ。
俺は少しワクワクしながら星がモクテルを作る姿を静かに見守る。
先程ロビンのモクテルを作った時と同じグラスを取り出し、氷は一切入れない。
そして、どこからともなく取り出した96%と謎の数字がデカデカと記載しているラベルが貼られた謎の瓶を開けて、その中身をグラスが一杯になるまで注ぐ。
最後に付け合わせとして、プラスドライバー、マイナスドライバー、精密ドライバーをぶっ刺せば完成⋯。
「はい、お待たせ。スクリュードライバーだよ。」
「俺の知ってるスクリュードライバーじゃねえ。」
何これ?こんなの知らない。
ぐ◯んぶるでしか見たことないよこれ。
第一にスクリュードライバーはアルコール入りの酒だろ。
俺ノンアル頼んだよな?
「お前ふざけてるのか?」
「至って真面目だよ。辛目のモクテルが良いんでしょ?スピリタスの刺激的な味にドライバーの鉄分が合わさって最高のマリアージュが生まれるからきっと宙も気に入ると思う。」
今スピリタスって言ったか?
アルコール度数96%の酒だよな?
人間が飲むようなもんじゃねえだろ。
「スピリタスもドライバーも総じて人にお出しす物じゃないよな!俺を殺す気か?俺に恨みでもあるの?」
「⋯良いからほら!グビッと行っちゃって!」
星は俺の顎を掴んで無理矢理スクリュードライバーを口の中に流し込む。
「グガッ!」
その瞬間、想像を絶する焼けるような痛みが、口から胃袋に掛けて食道の至るところを刺激し、地獄の様な不快感が俺を襲った。
「いやあああ!!」
「良かった、気に入ってくれたみたい。」
「阿鼻叫喚にしか見えないのだけど⋯。」
痛い⋯喉が⋯声が出ない⋯。
体全身が焼けるように熱い⋯。
クソ⋯ノンアルって言ったのに⋯マジで今回は何か間違いが起きたらヤバいのに⋯。
星の奴、俺が一体何をしたって⋯⋯⋯いや、ちゃんと恨みを買うよな事してたな⋯俺。
「ロビンはどう?そのモクテル気に入ってくれた?」
「ええ、とっても美味しいわ。凄く甘いのにくどくなくて心が安らぐの。なんだか⋯昔兄様と一緒に食べたお菓子を思い出すわ⋯。」
安らいだような笑みのなかに、僅かに憂いと悲しみが見て取れる表情を浮かべるロビン。
確かこの時期はサンデーが色々起こした事で監獄にぶち込まれている頃だから、ロビンのメンタルって結構追い詰められている時期なんだよな⋯。
「ロビン⋯大丈夫?」
「ええ⋯平気よ⋯。ただ最近今までよりも忙しくて、疲れているだけ。兄様が当主の座を追いやられてからオーク家の当代当主は
ふーん⋯そんな話が裏であったのか⋯。
そりゃ銀河の歌姫としての仕事に加えて、かつて週休7日制を掲げていた兄様の後を継げば仕事が増えるのは当たり前か。
「
「ロビン⋯。」
「でも、そんな甘い考えは直ぐに消え去ったわ。オーク家の当主となった
兄様聞いてるか?あんたの妹は立派に病んでるよ。
ゲームでは知らなかったロビンの悩みか⋯。
やはり、この世界は本当に重い世界だな。
皆何かしらの悩みや十字架を背負っている。
俺は運良く何事も無く生きていけたが、それは本当に運が良かっただけで、明日になればロビンのように家族と離れ離れになる様な不幸が訪れるかもしれない⋯。
皆他人事では無いのだ。
「
「⋯理想から現実が乖離しているのなら、理想を現実にすれば良いんじゃないか?」
「え?」
やっと喉が回復した俺は気が付けば、口を開いてそんな事を言っていた。
理想を現実になんてそう簡単に出来ることではないだろう。
それが出来たら、この世界に貧困は存在しないし、星核によって滅ぼされる星だってない筈だ。
でも、俺は知ってる。
今この場にいるロビンも星も理想を現実にする力がある事を⋯。
絶望する人々に希望を与えられる特別な存在である事を⋯。
だから、気付けば口が勝手に動いていた。
「お前の理想と現実が大きく乖離していたのなら、お前の力で現実を理想に塗り替えて道を切開けば良い。」
「そんな事
「出来るだろ。それだけの力があんたにはあるし、あんた一人だけじゃ無理でもあんたには頼れる友人がいるだろ。」
そう言って俺はバーカウンターにいる星の方を指差す。
「なあ、ロビンさん。あんたは歌姫だ。銀河で一番名の知れた有名人で皆の希望だ。俺みたいなモブに取ってあんたは人々の理想そのもので皆の憧れなんだぜ。そんなあんたが理想を実現しなくて一体誰がやるんだよ。」
「宙さん…。」
「辛いなら、その辛い現実ごと理想で塗り替えちまえばいい。やるせない気持ちがあるなら、それを歌に変えてみればいい。歌姫なんだろう?今の気持ちを全て歌にして理想を実現する調律を奏でてみろ。」
「なんか…宙がまともな事言ってる。」
「あ?何だと?」
折角のシリアスモードをぶち壊すなよ…。
「ふふっ!ありがとう宙さん。とても元気が出たわ。
そう言ってロビンは最高に眩しい笑顔を浮かべる。
「ふっ…そうか⋯。なんか今日は少し気分が良くなってきたな…。星、おかわりだ。今度はアルコール入りで良い。気分が上がる奴を頼む。」
ロビンの笑顔を見て少し気分が高揚した俺はアルコールを解禁し、星に追加のモクテルを注文する。
やがて、手際よく星が新たなモクテルを作り、俺の前に差し出す。
「はい、どうぞ。即席全部入りモクテル。」
出されたモクテルは大きなグラスにバーにあった全ての酒を入れたミックルドリンク。
なんとも斬新な飲み物だが、無数に重なるグラデーションが綺麗でつい見惚れてしまう。
「頂きます。」
俺はグラスを手に取り、そのモクテルを口に流し込む。
だが、次の瞬間封印されし俺の記憶が蘇る。
それは星と迎えた初夜の事。
俺が泥酔して星と致してしまった時の記憶だ。
俺はずっと疑問だった⋯。
何故酒を飲んでいなかった星が泥酔した俺と肉体関係を持つに至ったのか⋯。
その答えはただ一つ。
それはこのモクテルが原因だったのだ。
星が作るモクテルには不思議が力がある。
分身したり、別人に変身したりとかな、中でもこのモクテルは異質で飲んだ人間の精力を倍増し、近くにいる異性を魅了するフェロモンを分泌すると言う…まるで俺の為に都合良く作られたかのような効果を持っているのだ。
そんなモクテルをたった今俺は再び口にしてしまった⋯。
「くっ!このモクテルは⋯。」
「あれ?何これ?なんか…甘い匂いが…。」
「あら?少し酔い過ぎたかしら?頭がクラクラするわ…。」
俺、星、ロビンはこのモクテルの毒牙にかかり、意識が混濁してしまう。
そして…。
ー
ーー
ーーー
翌朝…気付けば俺は…いや、俺達は俺の家にいて…俺の両脇には生まれたままの姿のロビンと星がスースーと寝息を立てて寝ていた。
また…このパターン…。
「いぃやああああ!!!」
次回、ピノコニー編最終回さよならピノコニー!
次次回