列車の扉を潜り、俺は遂に前世からずっと憧れていた星穹列車に乗車することが出来た。
「これが本物の星穹列車の内装⋯。」
液晶画面越しにゲームでしか見られなかったその光景は現実になると圧巻の一言で、限界オタクと成り果てた俺は完全に言葉を失ってしまった。
「宙、何呆けてるの?皆ラウンジに集まってるよ。早く来て。」
「おっおう。ごめん。」
そうだった⋯先ずはこれからお世話になる星穹列車の皆に挨拶しないと⋯。
俺は慌てて星に着いて行き、列車のラウンジの中に入る。
⋯するとそこには赤毛長髪に黒コートと白ドレスを着た美女とピンク髪にオシャレなミニスカートを履いた美少女、それから茶髪眼鏡ロングコートの紳士イケメンと黒髪に中華風の服装を身に纏った素朴なイケメンが勢揃いして俺達を出迎えていた。
「はじめまして、あんたが宙ね。私は姫子。列車のナビゲーターよ。星穹列車は来る者を拒まない。あなたを歓迎するわ。よろしくね。」
「はい、これから暫くお世話になります。」
生姫子だ!本物だ!
ずっと会いたかったよ⋯。
美人過ぎる⋯。
考えてみれば、この世界でママ系のキャラと会うのは初めてか⋯。
この世界にはまだ、カフカママやアグライアママと言った母性溢れる魅了的なキャラがまだまだいる。
その事実に⋯震えが止まらん。
「俺はヴェルト・ヨウ。ヴェルトともヨウとも好きな呼び方で呼んでくれ。君は他の│星《ほし》からピノコニーに進学の為に上京して来たと星から聞いている。宇宙船に乗るのはこれが初めてではないだろうが、宇宙を駆ける列車に乗る体験は新鮮だろう。何かわからない事、困った事があれば遠慮なく聞いてくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
この人が本物のヨウおじちゃんか⋯。
言動の端々から溢れる父性⋯。
流石子持ち。
そう言えばメインキャラで男性と会うのは今回が初か。
⋯流石にメインキャラとは言え、男は無いよな⋯?
「次はウチの番!ウチは三月なのか。写真が大好きな普通な美少女だよ!」
おーノンデリ美少女なのかちゃんだ。
この子も生で見ると、かなり可愛いね。
しかし、可愛い過ぎるのも考え物だ。
同じ屋根の下、こんな魅力的な女性三人と暮らすなんて⋯何か間違いが起きるかも⋯。
いや、例のあればきっとピノコニーの呪いだ。
ピノコニーから出た今、彼女達に俺が手を出すなどあり得ん。
「うん、よろしく。」
きっと大丈夫⋯うん、多分メイビー⋯。
「最後は俺だな。俺は列車の護衛役丹恒だ。よろしく頼む。」
「⋯あ、うん。よろしく。」
まあ、知ってたけどね。
流石に初対面の俺相手じゃ、反応は蛋白か⋯。
ゲームでは開拓者相手に真のヒロインっぷりを見せてくれたのに⋯。
俺にデレを見せてくれるのはいつになるのやら⋯。
「あと、もう一人ブラックスワンって一時乗車してる乗客がいるのだけど、今は席を外しているの。」
あーブラスワさんね。
確かに、今の時期はそうか。
ブラスワさん、列車に乗ってるんだっけ。
そう言えば、今ってどの時期なんだ?
少なくもピノコニーの開拓クエストが終わってるのは知ってるけど、ピノコニーの開拓クエスト終わったあとって結構間が長いんだよな。
星天演武典礼にバナーネモンキー、そして聖杯戦争。
聖杯戦争はゲーム内ではオンパロスの開拓クエスト真っ只中に配信されていたけど、時系列的にはバナーネとオンパロスの間って事になってた筈。
「なあ、次の行き先ってもう決まってる感じッスか?」
「ええ、勿論よ。列車の燃料問題の事を考えて、次の停車駅はオンパロスって誰も開拓した事のない未観測の星にしようと思っているの。」
ほー、そうか⋯オンパロスね。
確か、ヤリーロ、仙州羅浮、ピノコニーと立て続けにイレギュラーが発生した為、列車の燃料がそこを尽きそうだったんだよな。
そこで、誰も行ったことのない未観測の星オンパロスを開拓する事で大量の開拓エネルギーをゲットしよう⋯と提案したのが我らがブラスワさんなんですよね。
「なら、早速オンパロスに行く感じッスか?」
「いいえ、実はその前に仙舟羅浮の景元将軍から星天演武典礼に参加しないかって招待状を送られているの。」
「俺と姫子はこれからルアン・メェイと会わなければならいなから、残りの三人を仙舟に降ろしてから、彼女の元へ行こうとしていた所だ。」
成る程、星天演武典礼か⋯。
時期的にはオンパロス編の前座の前座。
まだまだ、平和な時期だな。
「良かったら、あんたもあの子達と一緒に仙舟に行ってみない?」
「え?」
「星天演武典礼は何百年に一度あるかないかのビッグイベントだ。この機を逃したら、今度はいつ参加出来るかわからない。それに、これは君にとって休学中の良い社会科見学になるんじゃないか?」
確かに⋯それは良いかも知れない。
いつかは仙舟に行きたいとは思っていたんだ。
それも、星天演武典礼と言うイベントに立ち会えるなんて夢みたいだ。
「是非、行きたいです!」
「ふっ若者はこうでなくてはな。他の三人もこれで良いか?」
「うん!ウチは大歓迎!」
「俺も異論は無い。」
「やった!宙と仙舟に行ける。私が案内してあげるね。」
こうして、俺は無事星穹列車の一員として受け入れられた。
「宙、コーヒーを淹れたのだけど、一杯どうかしら?」
否、俺はどうやら世界から受け入れられなかったらしい。
まあ、何はともあれ、俺は丹恒、なのか、星と共に星天演武典礼に参加する事になったのだった。
ー
ーー
ーーー
「到ちゃーく!」
「ほぉーここが仙舟羅浮か⋯。」
あれから数回跳躍を行い、あっという間に仙舟に着いた俺達はヴェルトと姫子と別れて、羅浮の船着場へとやって来ていた。
「三月あまりはしゃぐな。宙は仙舟に来るのは今回が初めてだ。はぐれないように一緒に⋯「あっ!見てみて宙!アソコにソーダ豆汁の自販機がある。前にヴェルトと一緒に飲んだ事があるんだ。」
「そうなのか?上手いの?」
「クソまずい。」
「⋯はあ、おいお前達。俺の話を⋯「ねえ、宙!星!あれ見て!ミルクティーだって!羅浮にも普通に美味しそうな物売ってるんだね。」
「はあ⋯三月⋯。お前達な⋯。」
ん?あれ?なんで丹恒あんなに不機嫌なの?
俺達なんかしちゃいました?
「星、丹恒の眉間に皺が寄ってる。なんか機嫌悪そうだ。」
「いつもでしょ。気にしなくて良いよ。」
そうか、丹恒が不機嫌なのはいつもだな。
特に仙舟は丹恒にとっては因縁深い場所だし、表情が険しくなるのは仕方ないことか⋯。
「あっいたいた。皆久しぶりだね。」
そんな時、神策府の方角から金髪の長髪を後ろにまとめた中性的な美少年が現れて、俺達に近付いて来た。
「えっと⋯そこのお兄さんは初めましてかな?」
「ああ、えっと⋯君は⋯。」
「『羅浮』雲騎驍衛彦卿、よろしく。」
ああー彦さんね。
そうだったね、星天演武典礼では彦さんが主役みたいなもんだったよな。
いや、つい忘れていた。
「彦卿、久しぶりだな。」
「本当だね。少し背が伸びたんじゃない?」
丹恒となのかが各々彦卿との再会を喜ぶ傍ら、星だけ一人黙りこくったまま彦卿を見つめいていた。
「⋯。」
「星?どうした?」
少し様子が変な星に声を掛けるが一向に反応無し⋯。
だが、次の瞬間、星は突然手を伸ばして彦卿の頬を思いっきりつねった。
「っ!?先生⋯なっ何を?」
「ごめん、彦卿。今までの開拓の旅でいつも最初に会った人達に何かしらの秘密があったから、少し警戒しちゃって。」
急にいつもの奇行が始まったかと思ったが、そう言う理由だったか⋯。
確かに、過去にも未来にも開拓の旅では必ず最初に重要な秘密を持った奴と遭遇するジンクスみたいなのがある。
警戒するのも仕方ないこと事だ。
「⋯ふむ、石の橋を叩いて渡るとも言うし、警戒しておいて損はないか⋯。俺も一応彦卿くんの頬をつねっておこう。」
「止めておけ。」
流石に丹恒に止められてしまった。
しかし、本当にこれで良いのでしょか?
丹恒は彦卿が敵じゃないと確信しているようだが、万が一彼の中身が絶滅大君だったら、大惨事だろう。
もう少し、警戒しておいた方がいいと思います。
まあ、ゲーム知識がある俺は彦卿が味方である事は知ってるんだけどね。
「将軍が皆のことを呼んでいたよ。今から神策府に⋯。」
「ガァアアア!」
その時、何処からか獣の様な雄叫びが響き渡る。
「あれは、歩離人!?」
彦卿が驚く声につられて、雄叫びが聞こえてきた方に視線を飛ばせば、そこには筋骨隆々の狼が二足歩行になったような容姿をした怪人がいた。
その姿を視界に収めるや否や彦卿は韋駄天の如く剣を抜き、船着場で暴れる歩離人との距離を一瞬で詰める。
そして、相手が彦卿のスピードに翻弄され、彦卿の剣筋に対応出来ない隙を突いて渾身の一太刀を繰り出す⋯しかし、その刹那、僅かコンマ0.1秒⋯彦卿の剣に迷いが生じる。
「ウォオオオ!」
「くっ!」
たった一瞬、されど一瞬判断が鈍った事で威力が死んだ一太刀は歩離人を絶命に至らしめることが出来ず、彦卿は反撃を諸に受けてしまう。
それにより、彦卿が愛用している飛剣が数本地面に散乱する。
だが、その程度でやられる彦卿ではない。
瞬時に体勢を整えて、一、二本の飛剣を拾って再び歩離人に斬りかかる。
しかし⋯その瞬間、何処から巨大な剣が飛来し、歩離人を一撃で鎮める。
「なっ!?」
そして、次の瞬間、その大剣の持ち主だと想しき人物⋯裸足に少し青味がかった黒髪の少女が現れ、さっき投げた自身の剣と地面に落とした彦卿の剣を拾い、無言で立ち去る。
「ちょっと!僕の飛剣!」
彦卿の情けない声が船着場にて木霊するのだった。
「⋯。」
すっげぇ⋯夜の戦い以外初めて見たかも⋯。