マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~ 作:メスキャン界隈
最近は肌寒くなってきたせいか、たまに客が来ることが増えた。
まあ、前に比べたら結局はコヨミやナギの友達とかの方が来てるが。
にしても、もう本格的に冬だな。秋はいつでも一瞬で、もう終わってるなと毎年考えている気がする。
「ねえ、マスター。何を考えているの?」
白い指がしなやかに伸びて、こちらに突きつけられた。
「私、メリィさん。今、あなたの喫茶店に来てるの」
くすり、と拳がメリィさんが笑う。……なんで普通に来てるんだよ。
「っていうか、メリィさんでいいんだな」
「そうよ?おかしいでしょ、拳がメリィって名前は」
それ、今さら言うのか?
くるりと、拳がメリィさんがコーヒーをスプーンで混ぜていく。一緒に入れていたミルクと混ざる。
ぐるぐると混ざっていくそれをなんとなく見ていると、からん、とスプーンが置かれた。
少しだけ顔を上げると、メリィさんと目が合う。何かを見透かしたような目でこちらをじっと見ていた。
「ねえ、マスター。あなたは、バイトの子はどうしたの?」
喫茶店の隅っこを見ると、ナギがそこに佇んでいるんだが……なぜかボーッとしてる。
「よくわからんが、ずっとあの状態でな」
「……バイトだから注意した方がいいんじゃないかしら」
「それもそうなんだがな……」
ナギは不安定で、それを厳しく言うのも憚られるというか。
まあでも、いつまでもそうしてるわけにはいかないか。
「ナギ、何をボーッとしてるんだ」
「あ、ごめんなさいマスター……じゃなくて。なんでこっち見てるんですか?」
「バイトがサボってるから?」
「……それはなんかごめんなさい」
ぱしっ、と顔を軽く叩いて気合いを入れてる。そこまでやらなくてもいいけど。
「どうかしたのか?」
そう聞くと、口元をもごもごとさせて口ごもる。
「なんか、変な気分で落ち着かないだけです。……マスター、コーヒーに変なもの入れてないですよね?」
「なんで俺のせいなんだよ」
「……コーヒー飲んだ後辺りから、変な気分になってる気がするので」
今日は淹れてないし、結構前からにならないか?
「面白そうな話をしてるわね?へえ、このコーヒーに何かあるのかしら」
「なんもないけどな」
くすくす、と愉快そうに拳がメリィさんまで混じってくる。なんなんだよ。
「そうかしら?マスターは、あまり普通ではなさそうだものね」
意味ありげに視線を向けられるけど、別に潰れそうな喫茶店を経営してるだけなんだけどな。
「もー、なんでもいいでーす」
不満そうに、ぷいっとそっぽ向いた。
そのまま、机を拭き始める。ちゃんと働いてくれるならいいか。
にしても、ナギはどういう状態なんだろうな。変な気分って言われても。
「……最近になってなんとなく、マスターのよくないとこがわかりました」
ぽつり、とナギが呟く。
「なんとなく、今なんでこうなってるのかは理解できたんですよね。そういえば、メス堕ちキャンセラーが強化されてるなって」
少しだけ、机を拭く手が鈍くなっていく。
「そういう記憶が曖昧になってるのも、たぶんそういうことなんだろうなってわかるんですけど。そうなると、そういうことじゃないですか」
いまいち、要領を得ないことを言ってるな。どういうことなんだ?
……なぜか、拳をメリィさんがこっちを見てて、にまにまと気持ちの悪い笑みを浮かべている。
「で、こうなった今でも。マスターって私のことを、すんなりと受け入れてるというか。どんな感じでも受け止めてしまうんだろうなってわかってしまうんですよ」
じーっと、ナギの視線がこっちに向いた。
たぶんなんとなく、何かを伝えようとしてるんだろうと思うが。はっきりと言わないということは、たぶん直接伝えにくいんだろうな。
もしかして、ナギは元に戻りつつあるのか……?
なんとなく、そんな気がする。
にしても、メス堕ちキャンセラーって記憶にも影響が結構出てるっていうのが結構すごい装置だよな。
ナギと出会った日のことも、少しだけ曖昧なだけらしいし。
「マスター、聞いてます?」
目を細めて、抗議の視線を送ってくる。
「聞いてるよ。曖昧でよくわからんけど」
「……マスターってそういうところありますよね」
はあ、とナギは軽くため息をついて、椅子に座って頬杖をついた。
まあいいか、なんかボーッとしなくはなったしな。
にしても、メス堕ちキャンセラーへルモードの状態がずっと続いていると、ナギにもあまりよくない気がしてきたな。様子がたまにおかしいし。
だったら、なんとかした方がいいのかもしれない。……なんとかするってなんだ?
「マスター、何かお困り?」
そういえば、怪異がいたな。
「いや、メス堕ちキャンセラーの影響でナギがああなってるみたいなんだが。この状態が続くのもあまりよくないと思ってな」
「ふうん、でも破壊するわけにもいかないでしょう?」
「それもそうなんだよな。結界の役割があるみたいだし」
「じゃあ、簡単よね」
くすくす、と拳がメリィさんが笑い出す。
「バイトの子にメス堕ちをさせれば解決じゃない」
……?急に何を言ってるんだ?
なんだよ、メス堕ちさせるって。
「メス堕ちをキャンセルされてるんでしょう?それで、影響がでてるのなら……キャンセルされないぐらい堕ちてしまえばいいのよ」
「お前からとんちきな話を聞くことになるとはな」
「とんちきって何よ、普通のことを言ってるだけだけれど」
と、話をしてるとナギがこちらをなぜか眺めている。口角が下がっていて、微妙に不満そうだ。
「ほら、嫉妬してるわ」
「いや、そうか?」
そうとも見えなくもない、のか?
「兆候が出てるから、このままさせてしまえばいいのよ」
どういう悪魔の囁きだよ。
「……マスター、なんか馴れ馴れしいですね。その人と」
「お前が前、テンション上がって話してた拳がメリィさんだぞ」
「そーですけどねー」
不満そうに眉を下げて、ついにはスマホをいじり始める。これがいい兆候なのか?
そもそも、ナギをメス堕ちさせるって言ってもな。よくわからんし。
「まあそのうちしてそうだから問題なさそうね」
「お前適当だな」
「まああれね。マスター、このままだとメス堕ちしちゃいますよ~ってこと」
なんでナギの言い方を真似るんだよ。
「マスター、このままだと私怒りますよ」
「急にどうした?」
「構ってください」
「お前、直近まで冷たかったのどうしたんだよ」
「なんかメリィさんばっか相手にされてるのはムカつくので」
まあいいか。少しだけ、元に戻りそうなナギを見ながらコーヒーを淹れ始めた。