マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~ 作:メスキャン界隈
じめっとした空気が、肌に纏わりつく。少し外に出てるだけでも、もうずいぶん暑い。
「夏ですねー」
ひらひら、と俺の隣で喫茶店のバイトJK――結城ナギが風を扇いだ。
そのまま、額の汗を拭っている。
「暑いな」
「そうですねー」
「本当に暑い」
「焼き死んだ幽霊みたいになってますよ」
ふふっ、と笑いながら俺はナギと一緒に歩いていく。
ちらり、と横目でナギの方を見る。
こいつの話をすべて鵜呑みにすると、どうやら元男で、催眠アプリで自己暗示をかけているらしい。
なんだ、そりゃ。って話なんだが、まあちょっと不思議なことぐらいあってもおかしくはないわな。
ふと、ナギもこちらに目線を寄越したせいで、目が合った。
ふわり、と軽く笑う。
「マスター、私に見惚れちゃいました?」
「そうだな」
面倒なので、適当に返しているとぴしり、とナギが固まる。
「……えっ、今の本当ですか?」
「なんか言ったっけ」
「もう、マスターってそういうところありますよね」
唇を尖らせて、たったったっ、と俺の前を走っていく。
今日はバイトには来てもらったが、買い出しが必要だったので、留守番してもらうつもりだったんだけどな。
――マスターと一緒がいいですっ!
とか急に言われて、なぜかこいつと買い出しすることになってしまった。
暑いんだから室内にいればいいのに。
「マスター、早く来てください」
「はいはい」
仕方なく、あいつの後を追う。
そんな時だった。
――じじじじじ
何か、耳障りな音がした。
そちらの方を見ると、地面に妙な機械が設置されてる。
その周囲には透明なガラスで覆われていた。なんだこれ。
「あっ、メス堕ちキャンセラーだ」
立ち止まった俺に気付いて、戻ってきたナギがそう呟いた。
……待って、何て言った?
「メス堕ちキャンセラーって言った?」
「え?はい。これがメス堕ちキャンセラーですよ」
よく見ると、機械にはメーターのようなものがついていて、針が振りきれんばかりにずっと動いている。
……確かに壊れそうになってるな。
「これが壊れたらどうなっちゃうんですかねー?」
と、意味ありげな視線を送ってくるナギを無視した。
「なんでお前、これがそういう機械ってわかるんだ?」
くすり、と笑って唇の前に人差し指を立てた。
「いいTS娘には秘密があるものなんですよ」
「そっか」
まあ、メス堕ちキャンセラーがここにあっても、気にしなくてもいいだろ。壊れたらその時わかるし。
まあそもそも、これが本当にそういうものかはわからないけどな。
「っていうか、暑いから早く戻りません?」
「それもそうだな」
買うものも買ったしな。さっさと喫茶店に戻るか。
少し歩いて、喫茶店についた。
少しだけ上を見上げる。……ここに催眠アプリ会社があるのか。
まあいいや。
「マスター、お客さん来ないかもしれないですけど準備しますよ」
「一言余計なんだよ」
中に入って、買ってきたものをしまう。服装を着替えて、カウンターに立った。
いつの間にか、ナギのやつも着替えていたらしく、カウンター席に腰を下ろす。
「にしても、暑かったですねー」
「もう夏か」
「そうですねえ」
ナギはしみじみと呟いて。いつの間にかグラスに氷と水を入れて、それに口をつけている。
飲んだ水が喉を通っていく。
それを見てると、なんかこっちも喉が乾いてきたな。
「こんな暑いと、お客さんもなかなか来ないかもですね」
「暑いから室内に来るんじゃないか?」
「んー、でもまず外に出たくないじゃないですか」
「確かに」
ことん、とナギがグラスを置いた。
「だから、お客さんもマスター、このままだと――」
ああ、来た。いつものナギのお決まりの台詞だ。
でも、最近はそうと見せかけて全く違う話をしてくる。
さて、今日は何が潰れそうだったり壊れそうだったりするんだ?
「――七夕シェアハピシャークが出ちゃいますよ~」
「なんて?」
少しだけ、ナギの口角が上がる。こいつ、変な単語を言って人の反応を楽しんでないか?
くるくる、とスプーンで無意味に氷を混ぜている。
「七夕シェアハピシャークですよ」
「それがわからないんだが」
「もうそろそろ、七夕じゃないですか」
そういえば、ショッピングモールにそれっぽいものがあったっけな。
七夕って、普通に生活してるとあまり気にしてないしな。
まあ、それはいいんだが。
「七夕だったとしても、七夕シェアハピシャークはなんなんだよ」
「七夕といえば、天の川じゃないですか。天の川を泳いでいるサメがですね」
「待て待て、サメどこから出てきたんだ」
頭を整理するために、コーヒーのカップを拭いていく。うん、わからないな。
ことり、とカップを置いた。
「天の川って、星空に浮かぶ星が川のように見えているってやつじゃないですか」
「そうだな」
まるで、本当に天の川を眺めようとするようにナギが天井を向いた。
「まるでそれを泳ぐように、空にサメが移動していくんです」
「……そうか」
催眠アプリも、メス堕ちキャンセラーもあるんだ。空をサメが泳ぐようなこともあるかもしれない。
最近は、サメが海を泳いでいるだけで珍しいということとあるらしいしな。
「それで、そのサメが年に一度、七夕の日に織姫と彦星の再会を祝して、みんなに小さな幸せをプレゼントしにいくわけですよ」
「だから、シェアハピってことか?いやでも、シェアハピってお菓子を分け合うとかそんなんじゃなかったか?」
「おっ、そうですよ。だから、空を泳ぐサメが、急に地面に降りてきてこっそりお菓子をくれるんです」
それはそれで、なんか怖いな。だって、急にサメが出てくるんだし。デフォルメみたいな見た目だったら、まだいいかもしれないが。
「そもそも、だ。このままだとそいつが出るってどういうことだ?」
「普段は七夕シェアハピシャークはでないんですけどね。暑いので、恋人同士が盛り上がってるアツアツなのと判別がつかなくて、七夕シェアハピシャークが活性化するんです」
「本来は織姫と彦星がアツアツになってるのに反応して出てくるみたいな話か?」
「さすがマスター。話が早いですね」
と、言った後にナギはじっとこちらを見つめる。まるで、何かを探るような瞳。
心の奥底を覗こうとしてるように感じて、目を伏せた。
「マスターのせいで、私が熱に浮かされて出てくるかもしれないですね」
と、ポツリと言ってたけど。あんまり気にしないことにする。
そもそも、熱に反応して活性化してくるサメってなんだよ。最近はずっと暑いんだから、それだと毎年出てくるんじゃないか?
――するり、と横に何かが通った。
ふと、横を見ると何かの影だけが見えた。それが宙を泳ぐように喫茶店の中を横切っていく。
こと、と何かがカウンターに置かれている。
「……お菓子?」
「マスター、お腹すいてるんですか?」
「いや、ここに勝手に置かれて――」
まさか、あれが七夕シェアハピシャーク……?
いやいや、なんでこんなところに。アツアツに相当する何かを感知したとかだろうか。
「今日は淹れてくれないんですか?マスターのメス堕ちコーヒー」
ハッと、ナギの声で我に返る。
七夕シェアハピシャークがいるわけないしな。映画とかでやってくれ。
「なんだよ、メス堕ちコーヒーって」
「だって、マスターのコーヒーを飲んだ人がメス堕ちしそうになってるんだから、メス堕ちコーヒーですよね」
「変な名前をつけるな」
別にいいじゃないですか、とそっぽを向かれた。そんな名称気に入るなよ。
仕方がないので、コーヒーを淹れてやるか。
準備をしていると、ふとナギが口を開く。
「七夕にお願いしたから、こうなっちゃったのかな」
……正直、とても気になるが触れてはいけない気がする。
淹れたコーヒーを、ナギの前に置く。
「どうぞ」
「ありがとうございますっ。……にしても、きませんねお客さん」
「そうだな」
「マスター、このままだとお店潰れちゃいますよ~」
どうやら、このコーヒーもそれなりに気に入ってるみたいだし。ナギがここにいる間は、潰れないようにしとくか。
タイトルの形式、どっちがいい?
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このままだと〇〇ですよ~形式
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単語だけの形式