マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~   作:メスキャン界隈

4 / 4
マスター、常連客が来てますよ

 からから、と氷がぶつかる音がする。

 

 メロンソーダにストローをつけて、ナギがそれを口に含んだ。ストローを通ってメロンソーダがナギの口に運ばれていく。

 

「奥の方が味が濃いですよね、メロンソーダって」

 

 ぱっ、と口を離して感想を言ったと思えば、上に乗ってるアイスをスプーンで掬って、ぱくっと口に運ぶ。

 

 少しだけ、表情が緩んでいるから、たぶん好きなんだろうな。

 

 普段はあんまりこういうものは出さないが、こうして喜んでもらえるなら、たまには出してやってもいいか。

 

 そもそも、人のコーヒーをメス堕ちコーヒーだとか言い出してきたから、別のものを出そうとしただけだが。

 

「マスター、暑いですよね」

 

 ぐでー、とナギが机に突っ伏す。

 

「だらしないぞ」

「だって、暑いんですもん」

「とは言ってもな、お前バイトだろ」

「って言っても、いつもがらがらじゃないですか」

「こいつ」

 

 いつも通り、喫茶店の中は閑散としている。

 

 室内は、俺たちの会話ぐらいしか聞こえてこない。

 

 たまに、物音が聞こえてくるぐらいか。

 

「お客さん、最近来てます?」

「ぼちぼちだな」

「ぼちぼちですかー」

 

 ちらり、と横目でナギがどこかを見つめている。

 

「マスター、このままだと――」

 

 ああ、ナギのいつもの台詞か。

 

 ――マスター、このままだとお店潰れちゃいますよ~

 

 いつもはそう言うが。お店ではなく何か別のものが潰れたり壊れたり出現したりする話を、最近はよく出してる。

 

 催眠アプリ会社とか、メス堕ちキャンセラーとか、七夕シェアハピシャークとか。

 

 今回は、どんな馬鹿げたな話題が出てくるのか。

 

「――お店潰れちゃいますよ~」

 

 ああ、そっちじゃないのか。

 

「――そうだぞ、いつきても私ぐらいしかいないじゃないか」

 

 そして、それに答える声がした。

 

 よく通る声、少し低めのハスキーボイスというのが正しいだろうか。

 

 ナギが横目で見ている視線の先に、一人の女性がいた。

 

 ことり、とコーヒーのカップを置く。

 

「マスターのコーヒーは味わい深いのに」

「何、常連みたいな雰囲気出してるんだ。来てまだ三日目だろ」

「マスター、そういう口の聞き方がよくないんじゃないのかい?」

 

 くすり、と妖しく女性が笑う。そのまま、コーヒーのカップに口をつけた。

 

 快活なナギと比べて、落ち着いている印象のある女性。黒い髪を背中まで伸ばしていて、それとは対照的なひどく白い肌が、やけに彼女の存在を際立たせている。

 

 柊コヨミ、三日前に急にこの店にやってきたと思えば、やけにこのコーヒーを気に入ったらしくてそのまま、ここに来るようになった。

 

 連続で来るやつはあまりいないから珍しい。

 

 にしても、よくここにたどり着いたな。最近だと、ナギの知り合いらしい子たちがたまに来る程度でろくに客もいないのに。

 

「いいんです、マスターはこれで」

「いやいや、君がよくお店が潰れるだとか言っているが、マスターのせいかもしれないだろう?」

「なんですか、まだ来て三日の癖に」

「マスター、バイトの子も攻撃的なんだが」

 

 なぜかわからないが、ナギはコヨミのことが苦手らしくてよく突っかかっている。

 

 仮にもバイトなんだから、接客はちゃんとしてほしいんだけど。

 

「別に、もう注文を受け取ってるじゃないですか。じゃあ接客で愛想よくする必要ありますか?」

「無茶苦茶だね、君は。そう威嚇しなくても、君のことを取って食いやしないさ」

「そんなことは心配してないですけど」

「ああ、安心してくれ。マスターのことも、勝手につまみ食いすることもないから」

「……いや、マスターのことは関係ないですけどね」

「その間が怪しすぎるよ」

 

 にしても、ここまで来ると仲がいいんじゃないか?

 正直、こんなところに来ているナギのことは少し心配だ。

 

 バイトとはいえ、友達と遊ぶ時間がなくなってしまって、貴重な青春をこんなところで潰してしまうことになるのはこう、あんまりよくないだろうし。

 

 とはいっても、友達ぐらいはいるみたいで。なんだかんだ、複雑な事情を抱えてそうなんだが。

 

 まあ、ここでも俺以外に話し相手ぐらいはいた方がいいだろうし。

 

 ……なんか、俺の話をしてなかったか?

 

「っていうか、マスターのことをつまみ食いって言いましたよね?」

「冗談じゃないか。君の横取りはしないとも」

 

 いや、してるわ。しかも、やばい話な気がするぞ。

 

「そういうんじゃないですし」

「本当かい?でも、安心してくれ。どうやら、私は魅力的に感じた異性がいても、どうにもすきになれないみたいなんだ」

「ふーん、そうですか。それは……それは?」

「どうしてだろうね。そもそも、男を好きになることには、抵抗があったんだけれど」

「……もしかして、コヨミさんって元々女じゃなかったりします?」

「不思議なことを言うね」

 

 しかも、なんか変な方面に話が派生しているし。

 

 ……一応、そんなことはないと思うんだが。これってもしかして、ナギのやつはコヨミのことをTSしてると思ってるってことじゃないか?

 

 そんなやつが何人もいてたまるか。

 そもそも、ナギだって本当にそうかはよくわからないし。

 

 ……いや、待て。そういうやつがたくさんいるから、実はメス堕ちキャンセラーが作られてるとかあるか?

 

 何を真剣に考えてるんだ。

 

 もういい、忘れよう。カップを拭いていく。

 

「マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~」

「急に来て、焼き増しなことあるんだな」

「壊れたら、そうなっちゃうかなって」

「何を言ってるんだ?いいから、そっちの皿を持ってきてくれ」

「はーい」

 

 コヨミの飲み終わったコーヒーカップを皿ごと、ナギから受け取る。

 

「マスター、君はどうにも好かれているらしいね」

 

 会計を済ませるために財布を開きながら、悪戯っぽく俺にだけ聞こえるように、小さな声でそう告げた。

 

「あんまりナギをいじめないでくれ」

「おっと、君は彼女の保護者みたいじゃないか。じゃあ、また来るよ」

「そうか」

「マスター、もう少し愛想を良くしてくれないか」

 

 本当に不愉快だとか思ってるわけではなくて、それよりも俺の適当な態度に楽しそうにしながら、コヨミは去り際にそう告げた。

 

 からんからん、と扉を開くときに音が鳴る。

 

 コヨミがいなくなると、一気に店内が静まり返る。

 

「なんか静かですね、マスター」

 

 一呼吸を置いて、ナギが話し始めた。

 

「そうだな」

「……マスターの好みってあんな人だったりします?」

「急に何を聞いてるんだ」

「隠してる、怪しい」

「三日来てるだけの客をそういう目で見るほど、惚れっぽくはないけどな」

「ふーん、そうですかそうですか」

 

 急に、ふんふんと鼻唄を歌いながら机を拭いて片付けていく。

 

 こいつの機嫌もよくわからないな。

 

 せめて、客とぐらいは仲良くしてほしいが。




たまには変じゃない回もあります

タイトルの形式、どっちがいい?

  • このままだと〇〇ですよ~形式
  • 単語だけの形式
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生者がTS魔法少女になって頑張る話。(作者:メルヘン侍)(オリジナル現代/冒険・バトル)

TSして魔法少女して頑張る話です。▼カクヨムでも同時投稿しております。


総合評価:1605/評価:7.66/連載:42話/更新日時:2026年06月03日(水) 11:57 小説情報

儚い系うすほそエルフになったので自由を謳歌する(作者:うすほそ~(挨拶))(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

人生に疲れていた社畜は、気がつけば異世界で儚い系うすほそエルフとなっていた。▼当然チートも持っている。▼ちょっと儚すぎること以外、何一つ不満のない状況を手に入れたのだ。▼これからは自由に生きていい、そんな幸福感に満ちながらうすほそエルフ”リリア”の新たな人生は始まった。▼しかし儚すぎる見た目のせいで、生き急いでいるようにしか見えないうすほそは、周囲に多大な心…


総合評価:77/評価:-.--/連載:3話/更新日時:2026年08月27日(木) 19:54 小説情報

因習村の怪しげな神にTS転生した話(作者:大崎 狂花)(オリジナルファンタジー/コメディ)

因習村の神になったおじさんの話です▼とりあえず復活させようと思います どうなるかわかりませんが、よろしくお願いします


総合評価:482/評価:7.81/連載:16話/更新日時:2026年08月27日(木) 23:07 小説情報

俺の異能が中華ゲーだった ~34歳無職、ガチャで引いたキャラに変身して働きます~(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

 ブラック企業を辞めて十一ヶ月。実家で無職生活を送っていた34歳の森川直哉の前に、ある朝突然、ゲームのような画面が現れた。▼ その名も《因果集結クロニクル》。▼ キャラクターガチャ、武器ガチャ、レベル、スキル、限定バナーに天井――どう見ても現代の中華系キャラゲーそのもの。しかも無料十連で引いた★4キャラクター《東雲セナ》を選択すると、直哉自身が黒髪の美少女剣…


総合評価:2479/評価:8.49/連載:14話/更新日時:2026年08月27日(木) 13:56 小説情報

TSギャルゲー転生主人公逆攻略実況配信(作者:一般TS好き)(オリジナルファンタジー/コメディ)

ギャルゲーのヒロインにTS転生して主人公を逆攻略する配信を強制された元男が異世界で色んなヤツらをボコりながら暮らしていく話。


総合評価:146/評価:9/連載:3話/更新日時:2026年08月26日(水) 20:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>