マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~ 作:メスキャン界隈
からんからん、と音が鳴って扉が開く。
静かな店内に、こつこつと足音が響いた。
それを見て、嫌そうにナギが顔をしかめる。
「げっ、また来てる」
「やあ、マスター。バイトの子の態度が悪いね」
「いらっしゃいませー、さっさとお席にどうぞ」
「それで直してるつもりなのかい?」
また今日も、コヨミとナギがじゃれている。ここまで来ると、仲がいいんじゃないか?
そう思いながら、いつも通りコーヒーを淹れていく。
ことり、とコヨミの前に置く。すると、コヨミの頬が僅かに緩んだ。
「毎日飲んでても、飽きないよ。マスターのコーヒーは」
そのまま、くすりと笑ってからカップに口をつけた。
「らしいですよ、マスター」
じっとりとした瞳で、何か言いたげにナギがこちらを見てくる。
その状態で、机にもたれている。バイトの態度じゃなくないか?
「なんか、そうしてる時は猫みたいだな」
「えっ、なんですか急に」
ふと、思ったことを言ってみると思わずナギが立ち上がった。
「飼い主に不満があるときの猫」
「……バカにされてます?」
ムッと頬を膨らませているその様子も、小動物っぽいな、と思ったが。それを言うと、すごく反発されそうなのでやめておく。
「バカにしてないぞ」
誤魔化すように、ナギの前にコップを置いた。
今日は――というか、最近はアイスカフェオレを出してる。
最近は暑いからアイスにしてるんだが、コーヒーよりもカフェオレの方がいいらしい。
白黒はっきりしないものがいい、とは言っていたがいまいちわからない。
からん、とコップに入ってる凍り同士がぶつかる音がする。そのまま、口をつけたナギの喉をカフェオレが通っていく。
……カフェオレをそこまでいい飲みっぷりのやつもなかなかいないな。
「くぅ~~」
そんなビール飲んだやつ、みたいな声出ることあるか?
「そうやって、美味しそうに飲んでいると、私も気になるね?」
コヨミが興味深そうに目を細めた。
「残念ながら、アイスカフェオレは私のものなのでコヨミさんの分はありませーん」
ナギの口角が上がる。そして、得意気に笑ってから、べーっと舌を出した。
そもそも、さん付けしてるんだな。
「おや、売り物だろう?」
「私が独占しちゃいました」
「ふうん、それは残念だね」
毎回思うが、本当にこいつは元男なのか?
それにしては、馴染みすぎというか。
いやまあ、催眠アプリのせいなのかもしれないが。
そういえば、上の階にあるらしい催眠アプリ会社を確認すると、本当にあった。
挨拶しにいくと、おっかなびっくりしながら、中から人が出てきたので、あんまり悪事には使わないようにと言い含めて来た。
まあその、ナギもあんまり催眠が解けることは望んでないだろうし。
「そういえば」
と、考え込んでいるといつの間にか、自分で飲んだ分のコップを洗い終わったナギが、店に置いている電話機に視線を向けながら、口を開いた。
「客が来ないのもそうですけど、ここの電話って鳴ってるの見たことないですね」
「そりゃあ、客があまり来ない喫茶店に電話してくることも、あまりないんじゃないか?」
「んー、そうですけどね。マスターの知り合いとかも、電話してきたりしないのかなーって」
「しないな」
と、返すとナギが考える素振りを見せた。
「確かに、知り合いらしき方もお店に来ないですもんね。でも、マスターこのままだと――」
ああ、来た。ナギの定番の台詞だ。
いやでも、最近は変則パターンもあるからな。どっちが来るか。
「――拳がメリィさんが来ちゃいますよ~」
そっちが来たか。
そういえば、コヨミが来てからは初めてだな、これ。
「――そうだぞ、マスター」
え、お前もそれに乗っかっているタイプなのか?
「いつ来ても私ぐらいしか……なんて言った?」
よかった、そうではないらしい。コヨミは一度固まってから、カップを置いた。
そして、額に手を当ててひとしきり悩んでから、こちらを見てくる。
「変なことを言ってなかったかい?」
「そうだな、拳がメリィさんが来るそうだ」
「いや、拳がメリィさんってなんだい!?」
思わず、コヨミの手が机に当たって揺れたカップが、かちゃんと音を立てる。
その様子を意に介さず、ナギが話を続けた。
「だから、電話をかけてくる都市伝説ですよ。『私、拳がメリィさん。今ゴミ捨て場にいるの。今日はあなたのゴミ捨て日よ』ってやつ」
「メリーさんじゃなくて、かい……?」
「え、同じじゃないですか」
「違うだろう!?」
なんか、突っ込み役がいると楽だな。
というよりも、今まで余裕綽々みたいな態度のコヨミがここまで混乱してるのも面白い。
まあ、それは置いておいて、だ。
「で、なんなんだ?その拳がメリィさんって」
多少、慣れてはいるが、普通に意味わからんからな。俺も若干、混乱はしている。
なんだよ、拳がメリィさんって言いながら電話をかけてくる怪異って。
「だから、電話を掛けてくるんですってば。私、拳がメリィさんって言いながら今いる場所を教えてくるんです」
「何回か掛けてきて、段々近づいてくるで合ってるのか?」
「そうそう、それですよ。で、最後に『今あなたの後ろにいるの』って言ったのを聞いて、振り向くと拳が飛んでくるんです」
「……直接攻撃してくるタイプの怪異なんだな」
うん、やっぱり理解を放棄しても良さそうだ。物理で来られると、逆に怖くないかもしれない。
「で、そのときに拳がめり込むから拳がメリィさんってことなんです」
「いや、なんで普通に会話を続けてるんだい?頭がおかしくなってしまいそうだよ」
「よく言うじゃないですか。壁に耳あり拳がメリィって」
「言わないよ???」
和気あいあいとしてるけど、怪異の話なんだよな。
「で、なんでその拳がメリィさんとやらが、このままだと来るんだ?」
「それはですね、誰からも掛かってこないような電話に積極的に掛けてくるらしくて」
「ぼっちキラーの怪異だったか」
「なので、マスターの電話番号教えてください」
「怪異を前振りにしてそれ聞くこと普通ないだろ。まあいいが」
「わーい。たまに掛けて、拳がメリィさんの接近を防いでおきますね?」
そもそも、この店の番号は知ってるだろ。とは思ったが、プライベートで相談したいことでもあるのかもしれない。
スマホの番号ぐらいは教えてやるか。
「……なんというか、マスターも甘過ぎやしないかい?」
ナギとの連絡先を交換し終えると、俺の様子を見てコヨミが眉を下げた。
「なんだ、甘過ぎるって」
「これ以上口にするのはやめておくよ」
まあ、ナギに甘いかと言われたら否定はできないな。なんとなく、放っておけないし。
にしても、拳がメリィさんか。
「そういえば、最近パリィさんとやらから電話が掛かってきたが、あれも同種か?」
と、言うとナギは目を見開いてぱちくり、と瞬いている。コヨミも、驚いたようにこちらを見ていた。
「マスターも、そういう変なことを言うタイプだったかい?」
「実体験の話なんだが」
「いやいや、拳がメリィさんもパリィさんもいるわけないだろう」
「そうは言われてもな」
そもそも、メス堕ちキャンセラーも七夕シェアハピシャークもいるんだから、それぐらいいてもおかしくないし。
「えっと、マスターはそのパリィさんと会っても無事だったんですか?」
心配そうに、ナギがこちらを覗き込んでくる。
「まあな。なんともない」
「え、すご。壁に耳あり障子でパリィ、で有名なあのパリィさんと遭遇して無事だなんて」
「ちゃんとネームドだったか」
「待ってくれ、私だけもしかして生きている世界が違ったりするかい?」
と、騒がしい時間も過ぎていく。
確かに、紙で打撃をパリィするあの腕前は本物だったな、と思いながらカップを洗う。
「にしても、来ませんねお客さん」
「目の前にいるだろう」
「マスター、このままだとお店潰れちゃいますよ~」
「聞いているかい?」
ナギも、なんだかんだコヨミのいる日常も楽しんでそうな気がするな、と思いながらカップを拭いて、奥に仕舞った。
ちなみに、この作品は毎回変な概念を用意しないといけないという都合上、ネタ切れと常に戦っており、そのうち毎日投稿とかは無理になります
不定期更新タグはそういうことなので勘弁してくださいね
タイトルの形式、どっちがいい?
-
このままだと〇〇ですよ~形式
-
単語だけの形式