マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~   作:あまぐりムリーパー

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赤バーMAAXになりました!皆さんありがとうございます!


マスター、このままだとインフェルノコトリバコが壊れちゃいますよ~

「ふんふんふーん」

 

 喫茶店の中に、軽快な鼻歌が響く。

 

 今日のナギは上機嫌らしい。暇すぎたのか、そのまま喫茶店の掃除をしている。客がいないから仕方ないんだけどな。俺もだいたい、カップとか拭いているし。

 

「メリィさんの拳、メリメリ拳」

 

 なんだその歌?

 

「メリィさんの拳、真っ赤だね~」

 

 なんか、メリーさんの羊を変な怪異でアレンジし始めたんだが。……上機嫌だからいいか。

 

「マスター、暇ですね」

 

 テーブルを拭き終えて、ナギは椅子に座り込んだ。そのまま、テーブルにぐでーっと倒れ込んだ。

 

 どうやら、この前解けたらしい催眠は、完全に元に戻ったらしい。それが、いいのか悪いのかはいまいちわからないが。

 でも、催眠が掛かってないときはろくに喋れないような感じらしいしな。

 

「マスター、なんか出してください」

「客じゃないんだからさ」

「ぶーぶー」

「わかったわかった」

 

 そそくさと準備を始める。少しぐらいは優しくしてやるか。

 

 ことり、とクリームコーラを出した。ぴくり、とナギの眉が上がる。

 

「む、さすがマスターですね。クリームソーダの気分ですらないことを見抜いているとは」

「そうだったのか?」

「たまたまだったんですか?ガーン」

 

 と、冗談めかしてから、軽く笑ってスプーンで、上に乗っているアイスを掬う。そのまま、ぱくり、と口に含むと少しだけナギの頬が緩む。

 

 なんというか、こういうところを見てると和む。

 

「やっぱり、この静かな空間でこーやって、マスターが出してくれたものを飲んだり食べたりしてる瞬間が、一番落ち着きますね」

 

 どこか遠くをナギが見つめている。

 

「どうかしたか?急にそんなことを言って」

「いやその、ここが静かなのがいいかそうじゃないかを悩んでてですね……」

「バイトがそんなことを悩むなよ」

「えー、でも。マスター、このままだと――」

 

 ああ、いつものパターンに入った。もうなんでも来い。

 

「――インフェルノコトリバコが壊れちゃいますよ~」

「なんて?」

 

 なんでも来いとは言ったが、普通によくわからないものが来たな。

 

「だから、インフェルノコトリバコですって。煉獄パワーで強化されたコトリバコですっ」

 

 ストローをクリームコーラに差して、ちゅるちゅると少しずつ飲み始めている。

 

「コトリバコってあのコトリバコか?都市伝説の」

「そうですそうです。そのなんか呪いの箱みたいなのです」

「それが強化されたってことか?」

「はい、煉獄パワーです」

 

 なんだよ、煉獄パワーって。リンフォンでもくっつけたか?

 いや、それは地獄だから違うか。

 

「それが煉獄パワーで強化されたらどうなるんだ?」

「それはですねー、コトリバコって段階があるじゃないですか?」

「あー、なんかあったな。一番ヤバイのがハッカイだっけな」

「なんと、ハッカイの上である"オクジョウ"を作り上げたんです」

 

 たぶん、ハッカイは階数ではないよな。とは思ったがまあ、そういうものなんだろう。

 

 くるくる、とスプーンでコップを回している。すでに、上に乗っていたアイスはすべて食べ終わったようで、少しずつ飲んでいる状態らしい。

 

「そうか、コトリバコは今まで八階建てだったわけか」

「それに煉獄パワーを入れて屋上を増築したんです」

「っていうかその煉獄パワーってのはなんなんだ?」

 

 ずずず、とストローから音がする。ナギが飲み終えたようで、パッと口を離した。

 

「尋常ならざる力じゃなければ、呪物なんて強化できませんからね。煉獄の力を掬って、コトリバコに振り掛けたんです」

「トッピングみたいに言うなよ」

「コーラの上にアイス乗っけてるのと同じですよね」

「もしかして、そこから思い出した?」

「どうでしょうね?」

 

 ふふっ、と軽く笑って、飲み終わったそのコップを運んでいく。

 

「で、なんで壊れそうなんだ?そのインフェルノコトリバコは」

 

 ざー、と蛇口から水が流れた。ナギがコップを洗っていく。カウンターにずっといるせいで、自然とナギの横に立つ形になる。

 

 そのときに、ナギがふとこちらを見上げた。

 

「コトリバコは女性や子供を標的にするえぐい呪物ですけど、インフェルノコトリバコはなんと煉獄パワーによって性質が反転したんです」

「男だけ標的にするとか?」

「なんと、女性や子供を守る力に」

「ああ、そっち」

 

 呪物が強化してそっち方向に行くことあるのか。

 名前に反して、いいアイテムすぎるだろ。呪物にインフェルノがついたものが、なんでいい影響与えているんだよ。

 

「それで、ですね。私みたいにその、TSしてる人いるじゃないですか?」

「まあ、そうだな」

 

 なんかこれにも慣れてきた。

 TS?まあいるよな、ぐらいにな気持ちだよな実際。

 

 まだ、メス堕ちキャンセラーは動いてるんだろうか。

 

「TSのせいで、インフェルノコトリバコの守備範囲が広くなって、インフェルノコトリバコが耐えられなくなってきたんです」

「落ちがメス堕ちキャンセラーと同じじゃないか?」

「メス堕ちだけに?」

「別にうまくないから」

 

 洗い終えたコップを、ナギが拭いていく。きゅっ、と甲高い音がした。

 

「インフェルノコトリバコは、少しずつ悪い影響から守ってくれてるんですけどね。それが壊れちゃったら、私にも悪い影響が出てしまうかもな、なんて思ったんです」

 

 拭き終わったそれを、仕舞っていく。そのときに、じっとナギがこちらを見つめた。

 

「私にとって、この静かで緩やかな空間がいいものだとして。それが、なくなってしまったりするのかな、なんて考えてしまった、みたいな話です」

 

 パッと俺の側から離れて、ナギはまた椅子に座り込んだ。

 

「でも、それが終わるならこの喫茶店が繁盛して、マスターにとってはいいことかもしれないじゃないですか?」

「別に、俺は今の状態でもいいけどな」

「……そうなんですか?」

 

 顔を上げて、きょとんとした顔を見せる。

 

「ナギとこうやって、適当に駄弁ってるのも、まあまあ楽しいし」

 

 ナギの口元が緩んだ。少しだけ、口角が上がる。

 

「ふーん、そうですかそうですか」

 

 と楽しげに言った後に、もごもごと口元を動かしてから、

 

「でも、お客さん来ないと困りますよ?」

 

 と誤魔化すように呟く。

 

「最近はアオイとコヨミも来ただろ」

「……呼び捨てなんですね?」

「ナギもそうだけど」

「確かに。でもマスター、このままだとお店潰れちゃいますよ~」

 

 いつものナギの言葉を聞いて、こういう日が続いてくれるのを、こっそりと願った。

 




二日に一回ぐらいはひねり出せそうなので頑張ります
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