マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~   作:あまぐりムリーパー

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ノット喫茶店回
たまには日常回もあります


マスター、今日は休みですよ

 ころころ、となんとなくノートにシャーペンを転がした。まだまだ、暑い日が続く。

 

 なんとなく、頬杖をついて教室の中を眺める。ボーッと、見ていても飽きるな、と思いながらスマホに指を滑らせた。

 

 TS.NET、と表示されているアプリをタップ。

 

 憑依、呪い、薬……と色んな項目の中で祝福と書かれたところを選んで、そのまま進むと色んな記事が表示されていく。

 

 『インフェルノコトリバコ、新たにチカを追加』、か。この前話題にしたばっかりなので気になるけど、強化されたってことかな。

 さすが、煉獄パワー。え、煉獄パワーが何かって?なんだろね。

 

 『メス堕ちキャンセラー、強化モード実装か』、って。何々、へルモードを追加する?

 

 壊れそうになってるのを修理するとかではないんだ。

 なんて、へんてこな記事を適当に見て時間を潰していく。

 

 TS.NETは私たちのための、情報サイトみたいなもので、不慮の事故でTSしてしまった人がオカルトチックな情報を拾って現状打破とかするためのものなんだけど。

 正直、使えそうなものとかないから、あんまり意味はないかなって思ってる。私は、もう戻るつもりもないし。

 

 飽きたので、SNSの方でも見ようかな。

 

 開いたSNSの一番上には、マスターが見えている。別に、チャットをたまに返してもらってるだけだけど。

 私が勝手に絡んでるだけで、マスターから来ることはあんまりない。

 

 今日は、喫茶店が珍しく休みで、なんとなくつまらない。

 というよりも、あそこまで客が来ないのにずっと開いてる方が不思議。

 

 いつもは、マスターとどういう話をしようかなとか、何を出してもらおうかなとか。そういうことを考えているから、放課後が楽しみなんだけど。

 逆に、今日は何もないから少し寂しいというか、なんだろうなこの気持ち。言葉にしにくい。

 

「ナギ、どしたの」

 

 クラスメイトに声をかけられて、思わず顔を上げた。

 

「なんでもないよ」

「えー、なんか彼氏からの連絡でも待ってそうだったじゃん」

「……そんなんじゃないよ?」

 

 何、彼氏って。バイト先のマスターだってば。

 ……まあ、それなりにアピールとかはしてみてるけど。あの人、1ミリも反応しないから、よくわかんない。

 

「えー、あやしー」

 

 けらけら、と笑うクラスメイトに苦笑した。人の恋愛事に飢えすぎでしょ。

 

 なんとか抜け出せないかなー、と思って視線を彷徨わせている先に、一人の女の子を見つけた。女の子っていうとちょっと反発しそうだけど。

 

「ごめんね、ちょっと」

 

 と言って追撃してきそうなクラスメイトを抜けて、そっちの方へと進んだ。

 

「あおちゃん」

「ん?ナギじゃん。どした?」

 

 髪を染めたギャルっぽい子、あおちゃんこと桜木アオイ。私のことを気にしてたクラスメイトも、もうあおちゃんを見たせいで目をそらしてる。効果抜群だね。

 

「男避けになってもらおうかなって」

「女に話しかけられてなかった?」

「じゃあ、女避けでいいよ」

「なんそれ」

 

 ははは、と笑いながらぺちっと額を弾かれた。

 

「いたいってば」

「あたしの扱いが酷いから、しゃーないでしょ」

 

 あおちゃんは、見た目が完全に校則違反バチバチなせいで結構敬遠されがちなんだけども。普通に話してみると、話しやすい。

 

 それもそう。あおちゃんはTSしたせいで寄ってくる人たちがうざいと思って、だいぶ派手な格好をしてるんだよね。

 

 でも、なんかだらしないだけにも見えるからどうなんだろうか。

 

 最近は、たまに抑え目になってる気もするけど。ほら、今日もボタンを留めてる。胸元を開けるのは嫌らしい。たぶん、誰かからの視線を意識してるんだと思うけど。

 

 そう思うと、私も催眠を自分に掛けてからは、身だしなみを気にしてるとも言える。

 

 別に、元々の性格とか考えるとあおちゃんとは、あんまり相性がいいわけじゃない。

 

 でも、同じ境遇だから自然と仲良くなった。あの喫茶店に来てるのも、きっとみんな引き寄せられる何かがあるのかもしれない。

 

 そう、TS収集機とかそんな感じのがきっとあるんじゃないかな。

 

「で、あたしを使ってまで何の話題から避けてきたん」

「んー?彼氏からの連絡でも待ってるとか言われたから」

「なんだ、喫茶店のマスターかよ。もう彼氏扱いでいいんじゃね」

「それはマスターに失礼でしょ。勝手に彼氏扱いされるのは」

「あっそ」

 

 あほらし、とでも言わんばかりに、軽くため息をついて、ボーッと横を眺めている。

 

「そういうあおちゃんはどうなの?」

「ん、何が?」

「好きな人のこと」

 

 ぴたり、と止まる。ぎぎぎ、とでも音が出そうなぐらいぎこちなくこちらを向いた。

 

「……なんのこと?」

「誤魔化しちゃって」

「うざ、別に何もないって」

 

 TSしてる知り合いのみんなは、なぜか気になる異性がいるのが不思議。そういう、何かを引き寄せる因果でもあるのかも。なんてね。

 

「でも、放課後毎日会ってて」

「……」

「で、会えない日だけ喫茶店に来てるって」

「誰から聞いたん?」

「みっちゃん」

「だる」

 

 まあ、お互いにみんな、その様子をからかったり、いじったりしてるんだけど。

 

 ――ぴろん、と突然スマホが震えた。

 

 スッとロックを解除して見ると、マスターの名前。

 

 するり、と頬が緩んでいく。

 

「ふーん、そっか」

 

 今日は店を開くから暇なら来てほしい、との文言が見えた。

 

 来てほしい、か。そっかそっか。仕方ないな、マスターは。

 

「どしたん?にやにやして」

「してないけど」

「どうせ、マスターからでしょ」

「……」

「ほら、黙り込んだ」

 

 つついてくる頬が鬱陶しい。あおちゃんって、男の時からこの距離感なのかな。

 

「何?人の顔見て」

「いーや。あおちゃんって、元からそんな性格だったのかなって」

「あたしたちの境遇で、そのままいられるやつなんていないでしょ」

「それもそう」

 

 放課後が待ち遠しくなる。

 

 ああ、もう少しで昼休みも終わりか。

 

 また、マスターに会いに行こ。

 

 でも、そんなにバイトをさせてもいいんですか?

 時給が無駄にいいから、結構給料出さないといけないのに。

 

 マスター、このままだとお店潰れちゃいますよ。

 

 そんな言葉を胸にしまって、あおちゃんの隣で時間が早く進まないかな、なんて思いながら時間が過ぎていくのを待った。

 

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