魔法少女リリカルなのはEXCEEDS Outlaw of Magia 作:ノーザ
本編に入れたかったけど入りきれなかった話です。
こうやって本編の間に入らなかった話や違った視点の話も出す予定です。
執筆BGM『恋愛裁判』
二人の少年──リュウヤとダイチと別れたシイナは、再び侵略種の索敵をしながら廃墟の中を歩いていた。
仕事に戻った・・・・・・はずだった。
「・・・・・・」
しかし、どうにも集中できない。端末を確認しては、画面を閉じる。歩いては、立ち止まる。
そして何度目か分からないほど、先ほどの出来事が脳裏に蘇っていた。
『ごめんねオネーサン。火力強すぎちゃった』
「・・・・・・っ」
ぼんっ、と顔が熱くなる。
「いやいやいやいや!!何思い出してるの私!?」
シイナはぶんぶんと首を横に振った。
あの時、爆発の衝撃で自分が落下した瞬間、リュウヤが飛び込んできた。
そして左腕で抱き抱えられ、そのままドラゴンハングで建物に引っ掛けて助けられた。
今思えば、誰かにあんなふうに抱き抱えられたことなんて今までなかった。
シイナは自分の両手を見る。
「・・・・・・いや、普通に考えたら助けてもらっただけじゃん」
そう。
ただそれだけ。それに相手は自分よりも年下。しかも出会って1日も経ってない。
「ないないないない!」
自分に言い聞かせるように首を振る。
「そういうのじゃないから!そもそも私は仕事中だったし!あれは緊急事態!救助!そう、救助!」
理屈を並べる。誰がどう見ても完璧だ。何も問題はない。
・・・・・・なのに。
『ごめんねオネーサン』
また思い出した。至近距離であの優しい声色。落下を止めるために必死に働いていた腕。
そして、助けてもらった直後の安心感。
「・・・・・・っ」
シイナの顔が再び赤くなる。
「いや待って、なんで体温まで覚えてるの私!?」
自分の頬を両手で挟む。
あの一瞬、極限状態だったからこそ、妙に鮮明に残っている。自分の身体を支えてくれた感覚。すぐ近くにいた相手の気配。
そして何より──。
「・・・・・・心臓、まだ速いし」
彼女は自身の胸元を押さえる。
トクン、トクンと一定の速さを保っている心臓の音。それが妙にいつもより速く感じた。
「・・・・・・」
シイナは固まった。
「・・・・・・落ち着け」
心臓の速さを抑える為に深呼吸をする。
「すー・・・」
ゆっくりと吐く。
「はー・・・」
もう一度深呼吸をする。
「すー・・・」
またゆっくりと吐く。
「はー・・・」
・・・・・・トクン。
「なんでまだ速いの!?」
思わずその場で地団駄を踏む。
「違う!これは戦闘直後だから!魔人と戦ったから!そう、極限状態だったから心拍数が上がってるだけ!」
自分で自分を納得させようとする。しかし頭の中には余計な映像が浮かんでくる。
リュウヤが自分を抱えていた場面。ダイチが横からカメラを構えていた場面。
『お、良い絵』カシャリ
「…………」
シイナの顔がさらに赤くなる。
「そうだ!ダイチ!なんであいつカメラ持ってたの!?」
突然、別のことを思い出して思わず叫ぶ。彼は何処から持ってたカメラでリュウヤに抱き抱えられていた場面を撮られたのだ。まるで女優のスキャンダルを撮るかのように。
「しかも撮るなって言ったのに撮ってるし!リュウヤに関しては現像お願いとか言ってるし!あの二人本当に何なの!?」
ぶつぶつ言いながら歩く。
しかし数歩進んだところで、またリュウヤのことを思い出してしまった。
「・・・・・・」
ピタッと急停止する。
「・・・・・・いや、助けてもらったんだから・・・・・・ちゃんとお礼は言わないと」
そう考えると、少しだけ落ち着いた。
「そう、それだけ。次に会ったらちゃんとお礼を言う。それで終わり」
完璧な結論。
これでいい。何もおかしくない。何処を恥じる必要もない。落ちそうになったところを助けられた。それだけ。
「・・・・・・でも、あのとき近かったなぁ・・・・・・」
ぽつりと一言。
トクン。
再び心臓が速くなって顔が赤くなる。
「違う違う違う違う!!」
シイナは頭を抱えた。
「忘れろ私ィィィィィィ!!」
思わず魔人化して髪と瞳が橙色になるが顔は分かりやすく赤に染まっていた。
廃墟中に、魔人少女の絶叫が響き渡った。
遠く離れた場所。
「・・・・・・今なんか聞こえたか?」
缶詰を食べていたダイチが顔を上げる。
「気のせいじゃね?」
リュウヤはそう言ってスプーンを動かす。
「そっか」
「それよりも食おうぜ。さっき動いた分で余計に腹が減った」
「おう」
モグモグと二人は何事もなかったかのように昼食を再開した。
一方その頃、シイナは──。
「忘れろ・・・忘れろ・・・」
顔を真っ赤にしたまま、呪詛のように自分に言い聞かせてひたすら頭を抱えていた。鎮火したかのように煙が上がっているように見えた。
この時の彼女はまだ知らない。
この妙な二人組との縁が、ここから先、何度も自分の日常をかき回すことになるとは。
「・・・・・・ほんっと、変な子たちだったなぁ」
そう呟いたシイナの口元には、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。
しーちゃんは年頃の女の子だからこうやって恋沙汰に悩んだって良いと思うの(セツナ並感)