設定間違いや誤字などあれば指摘頂けると幸いです。
「カイリキー戦闘不能!」
私の最後の手持ちポケモン、カイリキーが力尽きて倒れる。
『なんということでしょうッッあのサイトウが敗北を喫しました!!大接戦の末勝者は〇〇!でんきジムはメジャーリーグ昇格となります!』
『ワアァァァァァア!!!!!』
「そんな….カイリキー、ごめんなさい…」
湧き上がる歓声の中、私は目の前が真っ暗になった….
「すいませ〜ん、ラテラルタウンのスタジアムってここであってます?
そうですか、ありがとうございます!」
俺はスマホロトムを頼りにラテラルタウンにやってきていた。
ガラル地方に来るのは2度目だが、この地方はやはり広い。
(約束の10分前やし、ここでゆっくり待っといたらええか…)
そう思っていると、スタジアムの扉が開き、中から灰色ショートヘアの女性が姿を現した。
「こんにちは。あなたがササギさんですね?
カブさんから話は聞いています。中へどうぞ。」
こちらも簡単な挨拶を返し、彼女に案内されながらスタジアムへと進む
「突然のお願いやのに、聞き入れてくださってありがとうございます。」
「いえ、道場にも新しい刺激が必要だと思っていた所です。私は少し用があるので直接指導は難しいですが、ぜひ技術を磨いていってください」
「ありがとうございます!そうさせてもらいます!」
俺がここに来たのはガラル空手を学ぶためである。
故郷であるイッシュで強いポケモンと心を通わすには自身もそれ相応の
強さが必要だと考えた俺は、恩師であるカブさんに紹介されたガラル空手を学ぶことにしたのだ。
しばらく歩き、サイトウさんがスタジアム中央で立ち止まる。
「ここが私が普段戦っているスタジアムです。」
「おぉ!イッシュに比べて随分デカいですね。
で、なんでここに?」
「カブさんから、あなたはかなりの実力者だと伺っています。私と手合わせ願えませんか?」
聞けば彼女は普段からポケモンとトレーニングを行なっているという。
きっとポケモンとの連携から、俺のトレーナーとしてのレベルを測ろうとしているだろう。
「わかりました!よろしくお願いします!」
「ありがとうございます。では始めましょうか。
お願いします!カイリキー!!」
「頼むで!!キリキザン!!」
俺は負けた。
「ありがとうございます。良い試合でした。」
「サイトウさんこそ、ええ勝負でした。」
声を掛けてくれるサイトウさんにお礼を言い、キリキザンをボールに引っ込める。
4倍弱点ながらかなり善戦し、あと一歩のところまでカイリキーを追い詰めたが、鬼気迫る猛攻の前に力負けし、戦闘不能となった。
(やっぱジムリーダーなだけあって攻撃的な立ち回りやなぁ…しかし前テレビで見た戦い方とはなんか違うような….)
「それじゃあ、これからよろしくお願いします。」
「ええ、共に高め合っていきましょう。」
ここから、俺の修業生活が始まる!!!
はずだったのだが….
「体幹がブレてる!足は肩幅に開いたままだと言っただろ!!」
「すいませんトシヤさん!」
「謝罪はいらん!!体に集中しろ!!」
「はい!」
俺は何週間経っても基本の型すらまともに出来ないほどに不器用であった…. 道場の様々な人に教わってはいるが、どうも体の動かし方が掴めない。
クタクタになりながら道場でのトレーニングを終え着替えていたところ、今日の稽古担当であるトシヤさんに話しかけられた。
「すまない。君はまだまだ初心者だというのに先程は少しキツい言い方をしてしまった。」
「いえいえ気にせんといてください。俺も自分の不器用さにびっくりしてるところです。」
「そうか…ありがとう。その身体つきを見るとどうしても初心者とは思えなくてな。」
「まぁ筋トレだけはずっとやってきましたから、体には自信あります!」
「それは頼もしいな!本来は俺ではなくサイトウさんから直接稽古をつけてもらうのが一番良いのだろうが…。」
少し気になった俺はトシヤさんに聞いてみることにした。
「そういえばサイトウさん、たまにしか道場で見かけませんけど何してるんですか?」
「あ〜彼女は、そうだな…その….。」
「もしかしてこの前のリーグ戦が関係してたり…?」
「なんと!知っていたのか!そこまで知っているなら今のうちに話すべきかもしれんな….。」
そういうとトシヤさんはざっくりではあるが、今のサイトウさんの状況について教えてくれた。
どうやらガラル地方には18個のジムがあり、それぞれ8個のメジャーリーグと10個のマイナーリーグに分かれているらしい。
サイトウさんがジムリーダーのかくとうジムは長い間メジャーリーグだったが、俺がこの地方に来る1週間ほど前にでんきジムに敗北し、マイナーリーグに降格となったそうだ。
リーグ戦前から不調気味であった彼女は今回の負けによって更に自分を追い込むようになり、最近はワイルドエリアまで赴き過酷な訓練を己に課しているとのこと。
「たしかにたまに道場で話す時、心なしか疲れてたような….」
「そうだ…我々としても無茶はしてほしくないのだが、彼女の今までの努力や覚悟を知っている分止めきれなくてね…」
「なるほど…。」
「暗い話になってしまってすまないな。気にしないとまではいかないだろうが、君は君の事に集中してくれて大丈夫だ。」
俺を不安にさせまいとトシヤさんは明るく言ったが、その顔には心配が浮かんでいた…。
それから半月が経った。サイトウさんが道場に来る度話しかけ少しずつ距離は縮まっているものの、俺の目から見ても今の彼女に心の余裕はないように思える。
俺は思い切ってサイトウさんに話してみる事にした。
「そういえばサイトウさんがワイルドエリアで修業してるってほんまなんですか?」
「ええ、…新しい自分を見つけたくて。」
少し言い淀んだ後、彼女はそう答えた。
それ以上追求する訳にもいかず、話はそこで終わってしまった。
明日からサイトウさんはまたワイルドエリアでの修業を始めるらしい。
天気が大きく崩れるため、道場の人達はなんとか彼女に思いとどまってもらえないかと話しているが、彼女は聞く耳を持たず、周囲の反対を押し切ってワイルドエリアに行く事を決めていた。
次の日、予報通り天気は大きく崩れた。彼女のことを気にかけながらも俺たちが稽古を続けていると、道場にビショビショに濡れたサイトウさんがよろけながら戻ってきた。
道場中の人達が駆け寄って声をかける。
「サイトウさん!大丈夫ですか??」
「師範代!お怪我はありませんか?」
「いえ、私なら大丈夫です。心配をかけてしまいすみません…。稽古に戻って頂いて大丈夫です。」
「ですが…!!」
「サイトウさん、これタオルです。良かったら使ってください。」
トシヤさんが心配そうに見守る中、俺は代わりにタオルを渡した。
「ありがとうございます。」
「それで、明日は稽古どうするんですか?明日の夜まで雨らしいしやめといたほうが….」
「お気遣い痛み入ります。ですが構いません。
私は、…強くならなければなりませんから。」
「そうですか….」
体を拭くと心配をかけたことを皆に謝り、彼女は道場を後にした。
本来は部外者の俺が立ち入る事ではないのだろうが、今の彼女の姿に過去の自分が重なって見えて、少し話が聞きたくなった。
「トシヤさん、明日って俺休みでしたっけ?」
「そうだが…まさか彼女を止めるつもりか?」
「いやいやそんな大それた事できませんよ。ただ、ちょっと気になっただけです。」
帰宅後もサイトウさんの姿が頭から離れない。雨の中ずぶ濡れになり、それでも「強くなりたい」と言っていた。
カブさんからは彼女はストイックで、どんな時も動じない強い心の持ち主だと聞いていた。確かにストイックではある。….あるのだが、どうも今の彼女は強さを求め、冷静さを欠いているように感じた。
「…昔の俺も、あんな風に見えてたんかなぁ。」
強くなりたい。
勝たなければ。
そう思っていた頃の自分。
雨に濡れた彼女の姿に、どうしてもあの頃の自分を重ねてしまう。
強さに取り憑かれた俺に手を差し伸べてくれたのが、カブさんだった。
「カブさんに紹介してもろたんも、なんかの縁なんかもしれんな。」
そう思った俺は翌朝ーーーー
「………なんのつもりですか?」
「稽古の前にちょっと俺と話していきません?」
「強くなりたいと昨日言ったはずです。そこをどいてください。」
修業場に行くサイトウさんを引き留めていた。
やはり彼女は強さを求めるあまり、視野が狭くなっている。
…あまりしたくはないが、少し踏み込む必要があるのかもしれない。
「その答えだけやったらここはどけませんよ。道場の皆もめっちゃ心配してます。せめて安心させたげてください。それとも、この前のリーグ戦のこと引きずってはるんですか?」
「そんなこと!部外者のあなたには関係ないでしょう!!!…私は!!強くならなければなりません!!どいてください!!今!すぐに!」
「……わかりました。そこまで言うんやったら、ポケモンバトルで決めましょう。もしサイトウさんが勝ったら俺はこのまま帰ります。…ただもし俺が勝ったんなら、その時はちょっとは話聞かせてくださいよ」
「いいでしょう、押し通らせてもらいます!!」
「言質とりましたからね!
いってこい!!キリキザン!!」
「お願いします!ルチャブル!!」
さて、啖呵を切ったのはいいものの、俺の手持ちは全員かくとう弱点。ここからどう戦うかをかなり慎重に考える必要がある。
ーーそう思っていた矢先、ルチャブルが距離を詰め飛び膝蹴りを放つ
あまりの速度に俺もキリキザンも反応できず吹き飛ばされる。始まったばかりで攻撃はしかけてこないだろうと油断していた。
しかしキリキザンは立ち上がり、俺を仰ぎ見る。
鋼鉄のように鋭い、良い目をしている。
「すまんキリキザン、気抜いてた!今から仕切り直すで!!」
「立っているとはいえもう満身創痍のはず!ルチャブル!一気に畳みかけなさい!!」
ルチャブルが再び突っ込んでくる。
「キリキザン!うまく躱してつばめがえし!」
キリキザンはルチャブルの翼をギリギリで躱し、ガラ空きの胴体につばめがえしを叩き込んだ。
ルチャブルが大きく後ろによろける。
それでも彼の戦いの意思はまだ尽きていない。サイトウの指示を受け、キリキザンに向けて反撃の技を放とうとしている。
「今や!ふいうち!」
が、キリキザンのふいうちがその前に意識を刈り取った。
「戻ってください、ルチャブル。
まさか、一対一なんて言いませんよね!」
「もちろんや、手持ち全部出し切るで!」
そういうと彼女は次のポケモン、オトスパスを繰り出した。
そしてーー
「タイレーツ、お疲れ様でした。」
「ようやったシュバルゴ、大活躍やで!」
お互いに残り1匹となった。
ここまで戦っていて確信した。
やはり彼女は強さを求めるあまり、指示が攻撃的になり、持ち味である正確無比なスタイルを失っている。
実際、以前であればポケモン自身の判断に任せるような場面や、一度距離を取って立て直すような場面でも、彼女はポケモンにとにかく攻撃を要求し続けた。
(これは…勝ち負け関係なく、全部受け止めたらなあかんな)
そう思い、彼女のカイリキーに合わせ最後のポケモンを繰り出す。
「任せるで、ナットレイ!」
「いきなさいカイリキー!インファイト!!」
最初の手合わせより激しさを増したカイリキーの攻撃がナットレイを襲う。思えばあの時からこうなっていたのかもしれない。
「ナットレイ!ねをはる!真正面から受け止めたれ!!」
大地に根を張ったナットレイへ、カイリキーが拳を叩き込む。
鋭い棘がその腕を容赦なく傷つけた。
それでも彼女は止まらない。
「ッッ構いません! そのまま押し切って!!」
距離を取ることも、変化技を使うこともなく攻めの手を緩めない。
ナットレイは根を張るでその場から動けず、全ての攻撃を受け続ける。
「まだいけるぞナットレイ!根性見せろ!」
「…ッッ!!インファイト!!!」
「大丈夫や!お前ならまだ耐えられる!」
「ばくれつパンチで押しきりなさい!!」
「相手もギリギリやぞ!はがねタイプの意地見せたれや!!」
その後もカイリキーは傷付きながらも攻撃を続け、ナットレイは何度もそれを受け止めた。
何としても前に進みたいサイトウさんと、立ち止まってほしい俺、どちらも声の限り自身のポケモンを鼓舞し続けた。
いつの間にかポケモンバトルはお互いの意地を賭けた勝負へと変わる。
先に倒れたのは、ナットレイだった。
「…ようやったナットレイ。すまんな無茶さして。」
「さて、サイトウさ「どうして!?どうして攻撃しなかったんですか!?
あそこで攻撃していれば、あなたは私に勝てたはずです!!」
「そらそうですよ。俺はサイトウさんを倒すために戦ってたんとちゃいますから。」
「では、なぜ!なぜ戦ったんですか!?勝つことを考えていないなら最初から戦う必要はなかった!」
「サイトウさんが今抱えてるもん、部外者の俺には分かりません。せやからせめて、気持ちも力も全部受け止めようと思ったんです。」
サイトウさんは一瞬驚いたような顔をするが、すぐに顔を引き締める。
「そんな事をして何になるんですか?私はただ強くなりたいだけです。それ以上でもそれ以下でもありません。」
「かもしれませんね。でも最後の試合、傷付くカイリキー見てる時の目、めっちゃ辛そうやったやないですか。」
「それは…..」
「せやけど最後カイリキーが勝った時、顔、緩んでましたよね。」
「…………….」
「ほんまに強さだけ求めてる人は、あそこまで感情出んと思いますよ。」
「サイトウさんの抱えてるもん俺にはまだまだ分からんけど、部外者やからこそ話せることもあるんちゃいますか?」
「しかし、私は….。」
「まぁでも俺に踏み込む権利はありません。もし話そうと思ったら、また聞かせてください。」
結果的に力ずくにはなってしまったが、俺は彼女を無理矢理止めにきたわけではない。ただ、カブさんが自分にしてくれたように彼女が自分を追い込む理由を聞きたかったのだ。
俺がそれ以上話さないのを見ると、彼女は観念したように少しずつ自分の現状について話し始めた。
「私は…私が負けたせいで…長い間メジャーリーグで名を挙げてきたかくとうジムの看板に泥を塗ってしまいました。」
「それに…私の指示が良くないせいで、カイリキー達も上手く戦うことが出来ず、本来の力を発揮できずにいます。」
「このままでは、メジャーリーグの復帰どころか、トレーナーであると胸を張ることもできません。」
「私は….強くならなければならないのです….」
その後も彼女は話し続けた。今の無茶な鍛錬では傷が増えるばかりなのは分かっていること、しかし自身の今までのやり方ではこのスランプを脱せそうにないこと。
強さへの葛藤や未来への不安、現状への焦燥感、彼女が背負っているものはあまりに多く、全てを吐き出す頃にはもう夕方となっていた。
「もう遅なりましたし、今日のとこは帰りません?サイトウさんも疲れてるでしょ。早よ帰って皆のこと安心させたげてください。」
「そう、ですね….。」
よろけながら立ちあがろうとする彼女に、俺は手を差し出す。
「ほら、立てますか?」
彼女は一瞬悩んだ後、
「はい、大丈夫です。」
自らの力で立ち上がった。
「ササギさんは…お強いんですね。」
「そうですか?毎日腹一杯食って筋トレしてるからですかね?俺、飯食うのめっちゃ好きなんですよ。そういえばサイトウさんは好きな食べ物とかあります?」
「私は…甘いものが好きです。」
「おぉ!ええやないですか。今度ラテラルタウンの美味いスイーツ屋教えてくださいよ。」
「えぇ、勿論です。」
俺たち2人は、くだらない世間話をしながら道場に戻った。疲れ果てていたのもあって、俺はサイトウさんが道場に入るのを見送った後、家に帰ってすぐ寝てしまった。
翌日、俺はサイトウさんから呼び出された。思いの丈を吐き出してもらったとはいえ、やはり無理矢理彼女を止めてしまったのは良くなかった。ここはどんなお叱りも受け入れようと思って向かうとーー
「昨日はすいません。私としたことが取り乱してしまいました。」
「そんな謝らんといてください。俺も自分勝手な真似してしまって申し訳ない限りです。」
「いえ、あなたのおかげで少し今の自分を客観視できた気がします。改めて、お礼を言わせてください。」
「そ、そうですか…?」
叱責どころか、感謝されてしまった。
昨日の俺が何か彼女の助けになったのなら、それはとても嬉しいことだ。
「さて、ここからが本題なのですが。
昨日のあなたの戦い方を見て、もう一度あなたと稽古がしたいです。お願いできますか?」
「稽古、ですか?」
「はい。あなたとの昨日の戦いで、何か掴めたような気がします。この感覚をものにするために、しばらく私の特訓に付き合って欲しいのです。」
俺は人に何かを教えるのは苦手だし、ましてや武術家、そして1人のトレーナーとして完成されたサイトウさんに教えられることなどほとんどないとは思うが、受け止めると決めた以上、ここで断る選択肢はなかった。
「勿論です。共に高め合うって言いましたもんね。」
この日から、俺とサイトウさんの共同特訓が始まった。
俺はアドバイスや手本にはなれないので、手持ちポケモン達に簡単な指示を出しながら、ひたすら彼女のポケモンの全力を受け止めてもらい、彼女が掴みかけた何かをものにするのを待った。
俺のポケモンは全員はがねタイプ、かくとうタイプの攻撃は一撃一撃が重たいが、俺もやわな鍛え方はしていない。手持ち達は全員彼女の猛攻を受け切ってなお立ち上がる余裕を見せてくれた。
ちなみに稽古中ずっとキリキザンは俺のことを睨んでいた。
……4倍弱点の彼には、流石に過酷すぎたかもしれない。
互いのポケモンが十分疲れて稽古が終わると彼女は俺にガラル空手を教えてくれた。
最初は「時間が勿体ない」と断ったのだが、付き合ってもらってばかりでは悪いという彼女の熱意に押され、ありがたく指導してもらっている。
おかげで基本の型を習得し、ガラル空手の入り口に立つことができた。
そんな日々が続きーー
「ササギさん、今日はこれで終わりましょう。」
「そうしましょか、お互い疲れたもんな。」
「今日はどこに行きましょう?」
「今日はガッツリ肉が食べたい気分やわ。」
「では、前言っていた定食屋さんにしませんか?」
「お!ええやん。」
俺が食べることが好きなのを知ってから、サイトウさんはよくおすすめの店を教えてくれるようになった。
そしていつからか、稽古終わりには二人でいろんな店に行くのが当たり
前になっていた。
「しかし結構経つけど、未だに敬語抜きってなんか慣れへんなぁ。」
「ふふ、たまに敬語口調になってますもんね。」
「サイトウさんは敬語のままなんズルない?」
「私はいいんです。」
「そういうもんなん?」
「ええ、そういうものです。」
稽古初日、共に高め合う者同士で敬語は不要であるとサイトウさんに言われたので、なるべく元の口調で話すことを心がけている。
そんなことを考えながら歩いていると、目的の定食屋に到着した。
「店員さんすいませーん。メニュー表のここからここまで全部もらっていいですか?」
「えっ?」
「すいません。彼よく食べるんです。残しはしないので、大丈夫です。」
「そうですか?まぁ、サイトウさんが言うなら…。」
「あ、私はこれください。」
やはり彼女がいると、注文がスムーズに進んで助かる。俺1人だとどうしてもある程度説明しないと、この量を食べ切れると信じてもらえない事がほとんどだ。しかしジムリーダーが同席していることで、ある程度信頼してもらえる。
女性に頼りきりなのは何か申し訳ない気もするが、気にしなくてもいいと言われたため、最近は堂々と注文させてもらっている。
「というか、道場でも何か食べてましたよね。」
「あれは筋トレしたからノーカンや。」
「本当によく食べますね。最初は驚きましたが、もう見慣れましたよ。」
「それいうならサイトウさんかて、スイーツめっちゃ食べるやん。」
「もう!女性にそういうことを言ってはいけないんですよ!」
「えぇ…前は気にしてないって言うてたやん…。」
なんだかんだで、彼女とは良好な関係を築けていると思う。少なくとも出会った時のような固さはもうないし、お互いのプライベートについて話すこともかなり多くなった。お互いよく食べるタイプなこともあり、話す事には困らない。
そんな日々が続き、サイトウさんは調子を少しずつ取り戻していった。スランプを脱却したのかはわからないが、少なくともポケモンと息を合わせ、余裕ある彼女本来のスタイルに戻りつつあると感じる。
「俺の役目も、そろそろ終わりですかね?」
「何言ってんだササギ。お前のガラル空手の腕前はまだまだだ。もしサイトウさんとの稽古が終わっても、俺がビシバシ鍛えるからな。」
「トシヤさん….。」
「とは言っても、あそこまで仲良くなったんだ!サイトウさんはお前が一人前になるまで教えてくれるだろ!」
「実際、彼女から教えられるようになってかなり感覚が掴めるようになりました。」
「なんだ?俺の教え方が悪かったってか?」
「そんな事ないですよ!勘弁してください!」
「ハッハッハ、冗談だよ。これからもその調子で頼んだぜ!」
そしてついにリーグ昇格戦当日
『サイトウ勝利ッッ!!前回のリーグ戦の雪辱を果たしでんきタイプジムを打ち破りました!!これによりかくとうジムのメジャーリーグ復帰が確定!!リベンジ成功です!!』
彼女は以前敗北したでんきジムを下し、
見事メジャーリーグへと返り咲いた。
「ササギさん!見てましたか!!私、勝ちましたよ!!」
満面の笑みで、サイトウさんが駆け寄ってくる。
「流石の戦い方やったで!もう向かう所敵なしって感じちゃう?めちゃくちゃええ試合やった、おめでとう!!」
あまりに嬉しそうだったので、俺も釣られて笑顔になってしまった。
大きな歓声と共に道場の人達が駆け寄って、彼女の勝利を喜ぶ。
その夜はラテラルタウン全体でメジャーリーグ昇格を祝った。
お祭り騒ぎもひと段落し、大盛り上がりする皆を少し離れたところから
見ていると、サイトウさんがやってきた。
「混ざらなくてよかったんですか?」
「さっき十分混ざらしてもらったしな。今はラテラルタウンの人らで盛り上がってほしいって思ってな。」
「そうですか。では、私も少しここで休憩しましょうかね。」
「ええの?本日の主役やろ?」
「いいんです。私も十分楽しみましたから。」
「ふーん。」
まぁ、本人がそういうのならいいのだろう。
「ササギさん、ありがとうございます。」
彼女が急に切り出す。
「あなたがあの日私を止めてくれなければ、今日の結果は得られませんでした。」
「そんなかしこまらんでええって。それにあん時止めんくても、たぶん自分の力で立ち直れてたで?実際、俺は話聞いただけやしな。」
「あの時の私には、それで十分だったんです。」
「まぁでもおかげでええもん見さしてもらったわ。これからも稽古、お願いしますよ?」
「えぇ、勿論です。これからも、ずっと。」
「お、おぉ。頼りにしてますわ。」
……なんやろ。
一瞬だけ、サイトウさんの目つきがいつもと違って見えた気がした。
まだヤンデレではない