サイトウ「受け止めてくれるっていいましたよね?」 作:パブロの犬
この仕込みを終え次第、がっつりヤンデレに着手するつもりなのでしばらく付き合って貰えると喜びます。
「タイレーツ、今です!相手の動きに合わせてインファイト!!」
彼と手合わせするようになってから、私のトレーナーとしての実力は大きく上がりました。
「突っ込めアイアント!であいがしら!!」
以前では気づくことのできなかったポケモンの動きや、次に取るであろう行動を読み取ることができるようになったと感じます。
「まだまだいきます!スマートホーン!!」
タイレーツがツノを尖らせ、アイアントに突撃する。間違いなく直撃する、そう思いましたが
「シザークロスで挟み込め!」
彼の咄嗟の指示によりアイアントの牙がタイレーツのツノを捉え、
「そのままぶん投げろ!」
まだまだ私は、未熟ですね。
彼に私の技を受け止めてもらうたび、荒削りであった私の指示が研ぎ澄まされていくように感じます。
「ササギさん、今日もありがとうございました。」
「毎日お礼言うてくれるけど別にええんやで?俺もめっちゃ教えてもらってるし。」
「いえ、感謝は口にして初めて形になると思っていますから。」
彼は自分のことをあまり大したことのないトレーナーだと思っているようですが、私は稽古のたびに彼の洗練された戦い方に目を奪われます。彼の指示は常に研ぎ澄まされ、私の隙を見逃しません。
やはり、彼にはまだまだ追いつけそうにありませんね。少し悔しいですが、私の前を走り続ける彼の姿になぜか安心感を覚えます。
いつか彼に私の全てをぶつけられるほど強くなって、彼の隣に立ちたい…。
少し、重たいかもしれませんが、受け止めてくれるって言いましたし、ちょっとくらい構いませんよね?
(一度、今の自分が彼にどこまで通用するか、手合わせをお願いしてみることにしましょう。)
稽古終わり、サイトウさんから本気のポケモンバトルを頼まれた。正直なところ、今の彼女を受け切れるか自信がない。が、ここでそれを理由に断るのは、彼女の稽古相手として、何よりはがね使いとして不誠実だ。
「わかった。直近でジムチャレンジャーおらん日っていつやっけ?」
「明日ですね。」
「ほな急になるけど明日やろか。」
「ありがとうございます。楽しみにしていますね。それで、今日はどこに寄って帰りますか?」
「戦いの前日ってお互い1人きりで戦略練るもんじゃないん?」
「それはそれ、これはこれです。」
彼女の食への異常なこだわりには勝てず、結局その日もいつも通り、2人で晩飯を共にした。
次の日俺と彼女は、ラテラルスタジアムで向かい合う。
「では2人とも、準備はいいですか?」
「「もちろん。」」
それぞれ手持ちは5匹、交代無しの勝ち抜き形式で相手のポケモンを先に全滅させた方の勝ちだ。お互い手加減なしの全力勝負ということで、トシヤさんに審判をお願いした。
彼女の初手はルチャブル。俺はキリキザンと、奇しくもあの日と同じ対面となる。
「では、始めッッ!!」
勝負は、始めから終わりまで息つく間のない激闘の連続だった。
対面は同じだったが、あの日よりも更に激しさを増したルチャブルの攻撃の前にキリキザンはなす術なく気絶させられた。
…いくらよく鍛えているとはいえ、流石に4倍弱点を受け止めるのは無理があったのかもしれない。とはいえ俺もそれ込みの戦術は立てていた。まさかそれが一切通用しないとは…。改めて、ジムリーダーという称号の重さは伊達ではない。
「ごめんなキリキザン。中から見といてや。」
俺は倒れたキリキザンをボールに戻し、次のポケモンを繰り出す。
「仇とってこい!ギギギアル!!」
「△%+]!!!!」
ルチャブルはかくとう・ひこう、でんきワザを豊富に持ち遠距離から一方的に攻められるこいつこそが適任だ。
目論見通り、ルチャブルは飛び上がったギギギアルからのほうでんを受け続け、徐々に動きが鈍る。
俺はこの時、このまま順調に進めばルチャブルの突破は容易だと考えていた。…しかし
「ルチャブル、最後の力を振り絞ってください!フライングプレス!!」
高く飛び上がったルチャブルが、ギギギアルめがけ渾身の一撃を放つ。
避けられない…迎え撃つしかないが、並の攻撃では相打ちに持っていかれるのが関の山だろう。
ならば、
「撃ち落とせギギギアル!でんじほう最大出力!!」
ギギギアルが電気を一点に集中させ、発射体制に入る。
接近するルチャブルへ間一髪、でんじほうが放たれる。本来は命中率が低いワザだが、この距離ならば外すことはない。
「ルチャブル戦闘不能!」
彼女の成長を誰よりも近くで見てきたと思っていたが、どうやら俺の想定は甘かったらしい。ここからは、文字通りギアを上げていく必要がありそうだ。
彼女が次に繰り出したのはオトスパス。たこがためで動きを確実に封じるつもりだろうか。
だが、それでは俺のギギギアルは止められない。
「ギギギアル!エンジン全開!!ギアチェンジ!!」
ギギギアルの体を構成する歯車が火花を散らして組み変わる。この形態のギギギアルは高速物理アタッカー、並のポケモンでは捉えることはできない。
「いけ!そのままギアソーサー!なんもさせんと切り裂けや!!」
ギギギアルからオトスパス目掛けて 2枚の歯車が飛び出す。
「オトスパス、見切ってください!!」
彼女は正面から避け切ることを選択した。以前の彼女であれば取らない選択。ポケモンを信頼している良い証拠だ。
だが、それは俺も同じ。歯車は何度もその軌道を大きく変えてオトスパスを追尾し続ける。何度も交わし続けているオトスパスにも限界はくる。バランスが崩れた瞬間、2枚の歯車がオトスパスを連打した。
これで次のポケモンが見れる。
そう思った瞬間ーー
「オトスパス、うずしお!」
最後の力を振り絞ったオトスパスにより、ギギギアルが波に囚われる。ギギギアルを空から引き摺り下ろすだけで有効打にはなり得ない。しかし俺がそれに気を取られた隙を狙い、彼女は逆転の一手を打つ。
「きしかいせい!!」
ギアソーサーによって最大火力となった起死回生の一撃がギギギアルを貫く。
しかしギギギアルもタダでは倒れない、倒される直前にほうでん、なんとか相打ちに持ち込んだ。
やはり俺もまだまだ甘い。ポケモンの判断に救われたな。
「流石ですねササギさん。あの状態から両者戦闘不能とは。」
「ギギギアルのおかげやで。お疲れ様。」
「次でその余裕崩します!ネギガナイト!」
「騎士勝負やで!出番やシュバルゴ!!」
彼女の指示を受け着実に距離を詰め、スターアサルトを叩き込むチャンスを伺うネギガナイトに対し、俺のシュバルゴは動かない。どっしりと構え、ネギガナイトを睨み続ける。
正反対なように見えるが俺たちの狙いは同じだ。相手が隙を晒した瞬間に全ての火力を叩き込む、それだけのシンプルな戦略。
徐々に距離を詰め合う二匹。
先に動いたのは、ネギガナイトだった。
シュバルゴの顔面にながネギを叩きつけるが、交差した2本の槍がそれを阻む。ネギガナイトが少し後ずさった瞬間、槍はシザークロスとなり彼を襲う。それを盾で防ぐ。
攻防一体の戦いがそこにはあった。
「このままでは埒があきません!いきましょう、スターアサルト!!」
痺れを切らし、ネギガナイトがついに戦況を変えうる一撃を解禁する。
それを待っていた。
「シュバルゴ、受け止めてメタルバースト。」
渾身の一撃を槍で受け切り、動けなくなったネギガナイトに倍の威力を返す。
はがねの槍がかくとうの剣を打ち砕いた瞬間だった。
満足気に俺を振り返るシュバルゴを横目に、あの日のことを思い出す。
シュバルゴは無傷でネギガナイトを下し、続くタイレーツと相打ちになった。だが今日、勝利したとはいえ負った傷は浅くない。もしかすると俺は今日、彼女に負けるのかもしれない。
その考えが現実となったのだろうか、シュバルゴは続くタイレーツに討ち取られ、俺は次のポケモンを繰り出すことになった。
「任せるで。ナットレイ。」
個々の連携を主力とするタイレーツにとって、これ以上相性の悪いポケモンはいないだろう。彼らが動けば動くほど、ナットレイの鉄のトゲが刺さり続ける。
いくら威力の高い技を放とうと、息が合っていなければ彼の鉄壁を崩すことはできない。ナットレイがその場から動かずとも徐々に隊列は乱れ、指示も届かなくなる。
「ナットレイ、パワーウィップ。」
吹き飛ばされたタイレーツに、陣形を組み直す程の力は残っていなかった。
そしてサイトウの切り札、カイリキーが繰り出される。
「まるで、あの日みたいですね。」
「あの時の私は、力を求めるあまり大切なことを見失っていました。」
「でもササギさんはそんな私を受け止めてくれました。」
「いきますよササギさん!あなたから学んだ全てを今!ぶつけます!!」
「ぶち壊しましょうカイリキー!キョダイマックス!!」
彼女のカイリキーがみるみるうちに巨大化する。
どうやらあの日のようにはいかないらしい。
「もちろんや!はがねは何でも受け止めたる!!いくでナットレイ!ダイマックスや!!」
「さぁ、どこからでもかかってきぃ!!」
無意識に寄せる全幅の信頼っていいですよね。