はくねこの愛した日々   作:meigetu

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三話目っス


3単位 虫取り

「はくねこさん。虫取り行きません?」

 

とある昼下がり。

 

やくねこが、虫取り網を片手に、はくねこの部屋を訪ねてきた。

 

「虫取り?」

「はい」

「……急にどうしたの?」

「そんなことどうでもいいじゃないですか。どうです?」

 

やくねこは妙に勢いがある。

はくねこは少しだけ首を傾げた。

 

「虫取りって、今から?」

「今からです」

「そう……」

 

はくねこの視線が、やくねこの持っている虫取り網へ向く。

どうやら本気らしい。

 

「まあ、いいけど」

「ホントっすか?」

「うん。久しぶりに外に出るのも悪くないしね」

「じゃあ決まりっすね」

 

やくねこが少し嬉しそうに笑う。

 

「だけど、ちょっと時間がかかるから待っていてね」

「何か準備するんですか?」

「まあね」

 

そう言って、はくねこは部屋の中へ戻っていった。

 

「……」

 

やくねこは廊下で待つ。

 

一分。

二分。

三分。

 

「……何してるんだろ」

 

そして数分後。

扉が開いた。

 

「お待たせ」

「え」

 

やくねこは固まった。

そこにいたのは、帽子を深く被り、長袖の服を着て、さらに日傘まで持ったはくねこだった。

 

「……そんなフル装備で行くんですか?」

「まあ、仕方ないよね」

 

はくねこは平然としている。

 

「私、日光には弱いもん」

「いや、そういう話は聞いてましたけど……」

 

想像以上だった。

虫取りというより、これから砂漠を横断する獣人の格好である。

やくねこが何とも言えない顔をしていると、はくねこが少し笑った。

 

「そんなに気にしなくていいよ」

「……」

「私も、ちょっと外の空気を吸いたかったし」

 

その言葉に、やくねこは少しだけ目を逸らした。

 

「……そうっすか」

「うん」

……ほんとはくねこさん、優しいな

「ん?」

「いや何でもないっす」

 

やくねこは虫取り網を持ち直す。

 

「じゃあ行きましょうか」

「うん。案内よろしくね」

 

二人はマンションを出た。

外へ出ると、夏の日差しが容赦なく照りつけている。

はくねこはすぐに日傘を開いた。

 

「うわ……暑いっすね」

「そうねえ」

「でも、たまにはこういうのもいいか」

「そうでしょう?」

 

やくねこは自転車にまたがる。

 

「はくねこさん、後ろどうぞ」

「ありがとう」

 

はくねこが荷台に腰を下ろす。

 

「じゃあ、出発しますよ」

「安全運転でお願いね」

「任せてください」

 

自転車が走り出す。

風が二人の間を抜けていく。

しばらくして、やくねこが口を開いた。

 

「……最近、ずっと家にいると息が詰まるんですよ」

「そう」

「だから、まあ……虫でも捕まえてれば、少しは気が紛れるかなって」

 

はくねこは何も言わなかった。

ただ、日傘を少し傾ける。

 

「それなら、今日はいっぱい捕まえようか」

「はい」

 

やくねこは少しだけ笑った。

 

「でっかいやつ捕まえましょう」

「虫取り網で?」

「虫取り網で」

 

そんな他愛のない話をしながら、二人は町の外れへ向かっていった。




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