「こっちには、いますか?」
やくねこが草むらを覗き込む。
「残念だけど、見つからないね」
「いないっすか……」
「もう少し奥かもしれないよ」
「じゃあ行ってみます」
二人で草むらを歩いていく。
けれど、なかなか虫は見つからない。
「……」
「……」
「今日、虫いなくないっすか?」
「そうかもしれないね」
「虫取りに来たのに」
「まあ、そういう日もあるよ」
そんなことを話していると、
「……あ!」
やくねこが突然、虫取り網を振った。
「捕まえましたよ!」
「おお」
網の中を覗く。
「セミだね」
「やりましたよ~!」
「よかったじゃない」
「いやあ、最初どうなることかと思いました」
やくねこは嬉しそうに笑った。
はくねこも、その様子を見て笑う。
「じゃあ、今日は十分成果があったね」
「そうっすね」
その後もしばらく二人で虫を探した。
結局、捕まえられたのはセミが数匹と、小さなバッタが一匹。
それでも、やくねこは満足そうだった。
帰り道。
夕日に照らされながら二人は帰っていた
自転車をこぎながら、やくねこが口を開く。
「今日は付き合ってくれて、ありがとうございました」
「こちらこそ」
はくねこは日傘を畳みながら答える。
「久しぶりに外に出たけど、楽しかったよ」
「こっちもっす」
「それならよかった」
しばらく自転車をこぐ。
「……」
「……」
「そういえば」
はくねこが、何気なくやくねこのほうを向いたまま言った。
「ちょっと元気になったね」
「え?」
「さっき会ったときより」
やくねこは少し考える。
「……そうっすかね」
「うん」
「まあ……」
そこで言葉が止まる。
はくねこは、それ以上聞かなかった。
しばらくしてから、
「仕事のこと?」
とだけ聞いた。
やくねこが少し驚いて、はくねこの方を見る。
「……分かります?」
「何となくね」
「……」
「別に話したくなければ話さなくていいよ」
「いや……」
やくねこは少し俯いた。
「……仕事、全然決まらなくて」
「そう」
「何社か受けてるんですけどね」
「うん」
「駄目なんすよ」
自嘲気味に笑う。
「自分でも、何が駄目なのか分からなくなってきちゃって」
はくねこは黙って聞いている。
「前のこともありますし」
「……」
「まあ、自業自得なんですけど」
「そうかな」
「え?」
「全部が全部、君のせいとは限らないでしょう?周りの環境もあるしね。」
「……」
「まあ、こんなこと言っても私は詳しい事情を知らないけどね」
はくねこは、少しだけ間を置いた。
「でも、そこまで自分を悪く言わなくてもいいと思うよ」
「……」
「やってしまったことは、やってしまったこと。それは仕方ない」
はくねこは前を向いたまま続ける。
「でも、私は今のやくねこ君を見ていると、素直に立派だと思うよ」
「……立派?」
「うん」
「こんな仕事も見つからずぶらぶらしているだけですよ。」
「それでもだよ、一生懸命まともに生きようと頑張っているじゃん。」
「……。」
はくねこは、それだけ言って前を向いた。
それ以上、何も言わない。
やくねこも黙って自転車を漕ぐ。
しばらくして、はくねこがちらりと後ろを見る。
「……少しは気が楽になった?」
「……まあ」
「ならよかった」
それだけだった。
ただ、話を聞いてくれた。
やくねこはしばらく考えていた。
そして、
「……はくねこさん」
「何?」
「もし、なんですけど」
「うん」
「仕事って……何かありますかね?」
はくねこは少しだけ考えた。
そして、いつものように穏やかに笑った。
「あるよ」
「……え?」
「ちょっと危険だけどね」
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