『雪月の軌跡』の方がスランプで少し詰まっているのでこちらで息抜きがてら投稿していきます。
1.左遷からの再スタート
夕方、クロスベル駅前の隅っこ─────
「っと・・・指示にあった場所は・・・こっちだな」
クロスベル自治州、その中央広場を1人の青年が歩く。
黒いショートヘアにフード付きの黒いジャケット、ズボンも黒で固めた遠目から見れば黒服にも見えてくる青年は地図を片手に1つの場所を目指していた。
空は茜色に変わりつつある。今は夕方頃、本来なら遅くとも昼前には到着する予定だったが色々あって大幅に遅れてしまった。
「はぁ・・・左遷、とは言えまぁ考えようによっては首の皮1枚つながったって考えた方が良いなこりゃ・・・まぁ、その左遷先で初日で大遅刻かましてる訳だが」
溜息を吐きつつ彼は駅前通りにたどり着き、そしてその脇道にある階段を降っていく。
途中で銀髪の記者のような女性とすれ違ったが彼は気にせず階段を降りた。
普段は開いていないジオフロントA区画の入口前、そこには疲れた様子の4人の男女がおり何やら無線で通信をしているようだった。
「えっと、貴方は?」
そのうちの1人、警官用のジャケットを着た茶髪の青年が話しかけてくる。
「いや、ここに行けば特務支援課に会えるってセルゲイ課長に聞いたんだが・・・もしかしてあんたらか?」
「確かに俺たちは特務支援課だけど、貴方は?」
「そうか・・・」
茶髪の青年に肯定され、黒髪の青年は空を仰ぐ。
見たところ他の3人は厳密には捜査官では無いのだろう。
ここクロスベルでは満16歳から働くことが出来る、警察官もその職業の1つではあるのだが大きく違う部分があり、試験があることだ。
ここクロスベルでは一応警察官としての仕事は捜査官としての資格が無くても出来る。しかし捜査官の資格があればそれだけで身の保証になる。また、上級捜査官になる為にも必要な資格だった。
「あの・・・大丈夫ですか?」
「ん?あぁ大丈夫だ・・・で、今は何をしているんだ?」
「今はちょうど言われた仕事を終えて本部に戻るところです」
「そうか、なら同行させてくれ。俺も君たちと同じ特務支援課に配属予定なんだ」
そう答える黒髪の青年に茶髪の青年は少し驚くがすぐに身を正して頭を下げる。
「えっと、自分はロイド・バニングスです。今日からクロスベル警察に入りました。で、こっちが─── 」
「初めまして、私はエリィ・マクダエルです。よろしくお願いします」
「ティオ・プラトーです。よろしく」
「俺はランディ・オルランドだ、よろしくな」
茶髪の青年ロイドに紹介され、銀髪の少女エリィ、水色髪の先の2人よりも幼げのある少女ティオ、赤毛の陽気そうな青年ランディが挨拶をしてくる。
「こいつは御丁寧に・・・オレはグレン・イリオスだ・・・歳は23歳、出身はノーザンブリア自治州、趣味は酒と散歩、好きな食べ物は燻製された食品だ。タメ口で良いのでよろしく」
こうして4人と合流した黒髪の青年グレンはセルゲイに指示された通り行政区にある警察本部へと向かった。
警察本部、副局長室───
「まったく!君たちは何をしているのかね!?」
部屋の中に1人の甲高い男の声が木霊する。現在特務支援課に怒鳴っているこの男はクロスベル警察の副局長であるピエールである。
副局長、といっても実の所はそこまで権限はおろか威厳は無い。クロスベルには警察以外にも警備隊がいるがそちらの副司令などにはまったく頭が上がらない上に、今の立場も基本的にはコネやおべっかが上手かったからである。オマケに恐妻家で家ではほぼ鬼嫁の奴隷のような状態である。
そんな彼に怒鳴られている特務支援課は内心うんざりしていた。
彼がここまで怒っているのはグレンが合流する前に特務支援課が遊撃士に助けられ手柄を持って行かれてしまったからなのだがピエールにとってはそれ以外にも気に入らない所があるらしく小言は増えていく一方だった。
「(長ぇなー、副局長の小言・・・)」
頭の中でグレンは内心舌打ちする。チラリと横を見れば他の4人も少しずつ疲れが見え始めていた。
「(助け舟、出すかー)」
そうしてグレンは口を開いた。
「あー副局長?」
「なんだねグレン君!?そもそも君も左遷先初日から遅刻をするとは一体何事なんだ!大方寝坊でもしたのだろう!?これだから汚職警官は・・・」
「俺の遅れた理由、副局長の奥さんなんすけど?」
「は、え?い、今・・・なんて?」
「俺の遅刻の原因副局長の奥さんなんすけど!」
「な、ななななな何故私の妻の名前が出る!?」
奥さん、という言葉が出た瞬間、副局長の顔が歪む。顔からは血の気が引き身体は小さく震え始める。
しかしグレンは止まらない、いつも小言ばかりの副局長に対してここぞとばかりに反撃を始めた。
「実は今日集合前に中央広場のオーバルストアゲンテンに行ったんすけど、導力家電のコーナーに副局長の奥さんがいたんすよ」
「ど、導力家電!?ま、まさか!」
「なんか3、4台くらい家電買おうとしてましたよー?いやーあれ多分最新式の高級品だから低くても合計200万ミラ超えんじゃないっすかねー?」
「に、200万!?」
あまりにも高すぎる金額に副局長は声を上ずらせた、だが自身の妻ならばやりかねないと思ったのか顔色がどんどん青くなっていく。
「でもそこで酔っ払いが来まして『警察のお偉いさんの妻だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!?』って奥さんに絡んでいきまして」
「な、何があったんだね!?」
「結局暴行しそうになってたので取り押さえて酔っ払いを警察学校に併設されてる拘置所に連れていきました」
「な、なんだか脱線してないかね!?何も関係の無い話なら聞く気は無いぞ!?」
少し脱線し始めたように感じるグレンの話に副局長は安堵を浮かべつつ詰め寄るがグレンはここでトドメをさした。
「なんでも犯人は『普段からバーで副局長である事をホステスたちに自慢げに話してプレゼントまで用意しているのが気に食わなかった』って供述してて、その話は奥さんも聞きつけたらしいっすわ」
「・・・・へ?」
「奥さん言ってましたよ?『今日遅く帰ってきたら命は無いと思え』って」
「・・・・・」
時間が止まった。
ロイドたちはグレンの話を聞きピタリと止まった副局長を見てみると声を出さない静かさとは裏腹に顔色がまるで壊れた信号機のように変わっていく副局長がいた。
青、白と変わりどんどん死人のような生気の無い顔になっていく。恐らくはどうやって奥さんの機嫌をとるか、どうすれば自分は生き残れるかを必死で考えているのだろう。
顔からは文字通りに滝のような汗をかき、若干の過呼吸、そしてわなわなと震える左腕の腕時計を見る。
現在は夜20時の5分前、普段の彼の仕事終わりは18時なのだがどう見ても遅い。
「わ、わわ、わた、わた私は急用を思い出した!今すぐこの部屋を空けるからさっさと出て行きたまえ!早く!」
必死、なんて言葉じゃ物足りない程に副局長は取り乱しながら特務支援課を部屋から追い出すと自身も10秒足らずで部屋から飛び出し廊下を駆け抜ける。
その姿は警察と言うよりは警察に追われて慌てて逃げる泥棒のように見えるのだった。
警察本部前───
「いやー、おかげで助かったぜ!」
「本当ね、あの小言がいつまで続くか分からなかったから終わって良かったわ」
「グッジョブ、です」
「本当に、助かりました」
警察本部から出るとランディ、エリィ、ティオ、ロイドがグレンに礼を言う。それに対してグレンは笑って答えた。
「良いってことよ。あの副局長、話の中身ほとんど無いくせに話自体は長いんだ。でも奥さん関連だと黙って聞くんだよ、文字通り命に関わるからな」
「そ、そんなになのね・・・」
グレンの笑いながらの説明にエリィが若干引いたような声を上げる。
そんな中ロイドは自身の導力端末であるENIGMA(エニグマ)に通信が入ったようでそれに応答していた。
「はい、こちらバニングス・・・あ、セルゲイ課長、今どちらに?・・・え?中央広場の元クロスベルタイムズのビル?・・・はい、はい・・・分かりました」
通信が終わったのかため息をつくロイド、そんな彼にグレンが声をかけた。
「どうしたバニングス、セルゲイさんからなのは分かるが」
「あぁ、課長が『今から中央広場の元クロスベルタイムズのビルに来い』って言ってました」
「良いよタメ口で。しかしなるほど、あのビルか・・・セルゲイさんも考えたもんだ・・・じゃあそこに行こうか」
「あ、あぁ」
ぎこちないながらもロイドはグレンに答える。そんなロイドと仲間たちを連れてグレンは中央広場へと向かう。
グレンに連れられながら歩くロイドの視界の隅にはこちらを見てヒソヒソと話す警官たちがいた。
中央広場、元クロスベルタイムズビル前───
「な、なんというか・・・」
「オンボロですね・・・」
目の前の建物にエリィとティオが零す。
色々と都市開発が進み続けるクロスベル、その中でもその様子が顕著なのがこの中央広場なのだが広場から少し外れるようにある階段を降りていくと1軒だけ妙に年季の入った3階建ての建物がある。
それがこの元クロスベルタイムズビルで築年数は20年程、先程の通り都市開発が進んでいるクロスベルでは十分取り壊しがあったもおかしくない築年数であり、新しいものが増え続けるこの街並みでは逆に目立つという状態だった。
「何度見てもこの街の中じゃ余計年季が入って見えるな」
「築年数20年、取り壊しがあってもおかしくないですね」
苦笑いのロイドにティオが呆れるような声で情報を追加する、聞けば聞くほど場末感というか追い出し部屋感が強く感じられた。
「ま、まぁ住めば都とも言うし・・・」
「味があるって考えるべきなのかしら・・・」
何とか取り繕うロイドとエリィ、そんな風に話していると建物の扉がガチャりと開く。
「おーお前らか、遅かったな」
「セルゲイ課長?」
中から出てきたのは昼にグレン以外をジオフロントに送り込んだセルゲイだった。
「よく来たな、ようこそ特務支援課の分室へ」
「え、ここがですか?」
セルゲイの言葉にロイドは驚きの声を上げる。確かに建物の扉の上にはクロスベル警察の看板が飾ってある、だが本部がある行政区とは離れているし何よりこんな街中に警察組織の分室があることが不思議だった。
その反応も予想の範囲内だったのか特に動じることなくセルゲイは口を開く。
「とりあえず入れ、中で説明してやる・・・この特務支援課ってやつをな・・・」
そう言うとセルゲイはロイドたちに手招きをする。
ロイドたちはそのまま建物に入ろうとするが唯一グレンだけは入ろうとしない。
「グレンは入らないのか?」
気付いたランディが不思議そうに声をかけるがグレンは笑って返した。
「俺はここに住まないからな、家から通う予定なんだ。・・・で、セルゲイ課長?」
「おう、とりあえず明日は休みだから明後日の朝8:30にまた来い」
笑いながら言うグレンにセルゲイも笑って返す。
「あ、いた・・・」
そんな2人の背中に声がかかり振り返ると真っ白な髪が毛先につれて黒のグラデーションになっているポニーテールの少女がいた。
「サヨ!迎えに来てくれたのか?」
「だってグレン遅いから、遅くとも夕方には帰るって言ってたのにもう完全に夜だし・・・」
「あ、やべ・・・そう言えばすっかり遅くなっちまったな。悪いな、サヨ」
「ううん、グレンもお仕事お疲れ様・・・じゃあ帰ろっか」
グレンと親しく話す少女、それをポカンとした顔で見るランディと見守るような顔で見るセルゲイ。そして2人が入って来なかったために他の支援課のメンバーの声が聞こえてきた。
「どうかしたのか?」
「話があるんじゃなかったんですか?」
「誰か来たみたいだけど・・・」
ロイド、ティオ、エリィの3人がそう言いながら出て来ると少女はグレン以外の支援課に対して頭を下げた。
「初めまして、グレンがお世話になります。私はグレンの妻のサヨです、夫をよろしくお願いします」
「え?」
誰の口から出たのか、妙にトーンの高く抜けたような声がその場に漏れ消えた。
そしてそのまま動かない支援課のメンバーにグレンが笑いながら切り出す。
「まぁ、そんな感じだ。明後日から改めてよろしく頼むわ・・・んじゃ、行こうか?」
「うん、では失礼します」
そしてそのまま2人は支援課の分室ビルを背に歩き出す。
「あの人、既婚者だったんですね・・・意外です」
面食らったティオのボソッとした言葉にセルゲイ以外の支援課は少し呆然としながら首を縦に振る。
そんな中ロイドがセルゲイに声をかけた。
「あの、セルゲイ課長。彼は一体・・・自己紹介はされましたけど名前と年齢、あと趣味と好物だけしか知らなくて」
「言われて見れば他の情報がねえな」
ロイドの言葉にランディ続く。
「でも副局長がさっき言ってましたね『汚職警官』って」
「そう言えばそうね・・・課長、何か知ってるんですか?」
思い出したように言うティオにエリィも気になったのかセルゲイに訊ねるとセルゲイは腕を組んで答えた。
「グレン・イリオス、年齢23歳。15歳の頃にクロスベル警察署に就職。初めは交通課の所属だったが非番の日に偶然巻き込まれた強盗事件で武装した強盗グループ5人を相手に4人を素手で制圧、逃げた1人も追跡の末に捕縛。その制圧能力と追跡能力を買われ捜査一課に引き抜かれる。その後に上級警官に必要な試験を筆記、実技試験を共に過去最高水準で合格し晴れて上級警官の仲間入りを果たす」
「あの人上級警官だったんだ・・・」
「確かかなり難しい試験だったわよね?」
グレンの経歴に驚いた様子のロイドとエリィ、そんな中でもグレンの経歴を話すセルゲイは止まらない。
「上級警官になった後も様々な事件の解決に奔走、特に目立ったのは1年ほど前にクロスベルに根を下ろそうとしていた共和国のマフィア『ドゥールファミリー』が売り捌こうとしていた違法薬物の摘発、他の捜査一課、遊撃士と連携し薬物を製造していた家屋やクロスベルの支部長になる予定だった幹部を見つけ出し現行犯逮捕した」
「ドゥールファミリーと言ったら・・・」
「確か共和国だと黒月《ヘイユエ》にも匹敵するっていう組織だな」
ティオとランディが感嘆の声を漏らす、ここまでは明るく喋っていたセルゲイだったがこの後の声色は少しずつ弱まっていく。
「このままクロスベル警察のホープになる、そう思われていたが1か月前に突然汚職の容疑がかかる、内容は収賄と一般市民への暴行。本人も、なんなら捜査一課の刑事たちも否定したが証拠があるという事でその訴えは棄却された」
「・・・だから副局長から汚職警官って呼ばれてたんですか」
「証拠があるって、本当にあったんすか?」
汚職の部分に対してロイドとランディが疑問の声を上げる、ティオとエリィも気になる様子でセルゲイに視線を送るとセルゲイも困った顔で答える。
「恐らく、いや確実に無い、あったとしても捏造されたものだろうな。捜査一課や俺としてもグレンがそういう事はしないやつって事はわかっている。だから特務支援課にあいつを呼んだ、あいつは必ず自分を陥れた元凶を探し当てるだろう。それにな・・・」
そう言いかけてセルゲイはクロスベルの街を見上げる。特務支援課の分室は中央広場から階段を降りた先にある、その為分室の入口前から見る中央広場の街並みは妙にキラキラと輝いて見えた。
「あいつを放っておくわけにはいかなかった、あいつは未だに過去の未解決事件を追っている。たった1人で執念深くだ・・・」
そう言うセルゲイの目は静かに遠くを見つめていた。
ご拝読ありがとうございました。
こちらの作品は雪月の軌跡より更新は遅めです。
また次話もよろしくお願いいたします。