生存報告です。
7年前の冬、クロスベル歓楽街の路地裏─────
その日は夜に小雨が降っていた。
15歳からクロスベル警察に就職し、2年目となったグレンは疲れた顔で路地裏を歩く。
今日は終日晴れの予報だったから傘も持って行かなかったのだ、まさか降るとは思っていなかった。
だがこの時のグレンには予報を責める気にはなれない。
現在は午前0時を回っている、故に終日晴れの予報自体は外れていない。
こうなったのも仕事が終わる直前に交通事故が起きたためだ。
事情聴取をして資料をまとめ気が付けばこの時間、お腹も減るが開いている店もなくトボトボと雨に濡れながら歩いていた。
「腹減った・・・家になんか残りあったかな・・・」
静かにボヤきながらグレンは歩く。
クロスベル警察に就職してすぐに1年が過ぎた、そしてその間にある程度現実が見えた。
どんなに希望を持とうが正義感を持とうがこのクロスベルという街での警察という仕事は基本徒労に終わる、圧倒的に報われずただひたすらに虚無だけが強く残る、そんな夢のない仕事だと。
「はぁ・・・」
ため息を着く、心なしか雨の勢いが強くなった気がした。
「こんなもん、なのか・・・」
そう言って俯いた時だった。
視界の隅に誰かが倒れているのが見えた。
「は・・・?」
つい声が出た。そして───────
「おい!お前大丈夫か!?」
「・・・寒い、よ・・・助けて・・・」
気が付いたらそれに駆け寄って声を掛けていた。
冬なのに白いキャミソールワンピースを着ていた少女、靴も靴下も履かずそれ1枚だけを着てその場に倒れて震えていた。
「待ってろよ、すぐになんとかしてやるからな!」
「・・・・・うん」
急いで彼女を抱き抱えてグレンは路地裏を走った、ここからなら自分の家も近い。
パシャパシャと音を立てながら必死に走るグレン、それを見た少女は抱き抱えられたまま安心してそのまま意識を手放した。
これが後にグレンの妻を自称する少女、サヨとの出会いだった。
特務支援課仮結成の翌日─────
「ここに来るのも久しぶりだな・・・」
献花を持ったグレンはクロスベル大聖堂、その横にある墓地を訪れていた。
「さて、と・・・」
そう呟くとグレンはある墓の前に向かう、するとそこには人影があった。
「グレン?」
「お、ロイドか・・・」
墓の前には手を合わせるロイドがいた。何故、ということは無く必然とも言える事だった。
グレンが墓参りに来たのはかつて捜査1課だった頃の先輩であるガイ・バニングスの墓だった。
「まさかとは思ってたけど兄貴の後輩だったんだな、グレンって」
「あぁ、駆け出しの頃は世話になってた・・・港湾区の屋台で奢ってもらった事もある。だからこそあの人が殉職した時はショックだった。葬式だって出たんだぜ?」
「え、そうなのか?・・・ごめん、あの時のことはよく覚えてなくて・・・」
「家族を亡くしたんだ、無理もないさ」
そうやり取りをしながらグレンは花を墓前に供え手を合わせる。
「・・・よし、んじゃあ行こうかな」
「あのさグレン、もし良かったら仕事中の兄貴のこと教えてくれないか?」
「ん?あぁ良いぞ。でもここじゃあちょいと湿っぽいからな、場所は移そうぜ」
そう言ってグレンはロイドを連れて墓地から教会正面に向かう階段を降りる。
途中で階段を箒で掃除している神父見習いを見かけ軽く声をかけた。
「お疲れさんです」
「お疲れ様です」
「・・・どうも」
軽く言うグレンと礼儀正しく言うロイド、2人に対して神父見習いは少し無愛想に軽く会釈を返した。
「グレン、あんな神父さんこの大聖堂にいたかな?」
「ん?そう言えばロイドは知らないか。あの神父見習いは去年の夏くらいからここで掃除とかの雑用してんだよ、喋ったことは無いが大司教が太鼓判押すくらいには仕事は真面目にやってるみたいだぜ?」
「へぇ、そんな人が・・・」
そんな風に会話をしていると今度は目の前にシスターが1人現れロイドに声をかけてきた。
「あら、ロイド君ではありませんか?」
「あなたは・・・シスターマーブル!お久しぶりです」
穏やかに声をかけてきた女性にロイドは驚きつつも嬉しそうに頭を下げる。シスターマーブルはロイドがまだ日曜学校に通っていた頃からこの大聖堂に務めているベテランのシスターであり、ロイドにとっては先生でもある。
そしてそれはグレンも例外ではないようでロイドと同じように頭を下げた。
「お久しぶりです、シスターマーブル」
「あら、グレンもいたのですね。元気そうでなによりです、サヨちゃんは最近どうですか?」
「えぇ、最近は動力ネットの方の仕事に就けたようで毎日楽しそうです。あいつのおかげで俺としても前みたいな無茶は減りましたし・・・ってシスターマーブル、何か俺ら以外に用件があったんじゃないですか?」
「あぁ、そうでした!今も掃除をしている神父見習いの子に手紙が届いたのでそれを届けるつもりだったんです。ではこれで・・・」
グレンに言われたシスターマーブルは用件を思い出したのか手を静かに叩き笑ってみせるとそのまま墓地の方へと歩いて行った。
「俺も以前はシスターマーブルに色々と世話になってさ、今もなんだか頭が上がらないよな」
「ははっ、わかるよ。先生ってそんな感じだよな」
そう笑いながらグレンとロイドは大聖堂を歩く。
その後グレンはロイドを連れて港湾区に向かいガイによく奢ってもらっていたラーメンを奢るのだった。
ちなみに2人が出て行ったあとの墓地前─────
「あぁ、ここにいましたか」
「・・・シスターマーブル?なにかお遣いか・・・ですか?」
シスターマーブルに声をかけられて神父見習いが掃除の手を止める。神父見習い用の帽子が乗ったその頭は白と灰色が混ざった髪の所々に赤いメッシュが入っている。
目は髪と同じ灰色でどこか寂しげに見え、そしてただの神父見習いにしては妙に隙のない雰囲気を纏っていた。
「いえ、あなた宛に手紙が届いています。」
「・・・どうも」
シスターマーブルが差し出した手紙を少しぎこちなく受け取ると彼は早速開封し中身を読み始める。
暫くすると手紙を読み終えたのか軽く息を一つ吐き懐にしまった。
「・・・感謝します、シスターマーブル」
「いえそんな・・・ところでその手紙は・・・その、親しい友達からでしょうか?」
「まぁ、そうですね・・・友達、というよりはお節介な詩人気取りというか・・・まぁ、そんなところです」
濁すように答えて神父見習いはそのまま箒を持ち直して掃除を再開する。その様子をシスターマーブルは少し困った様子で見守るのだった。
更に翌日のAM8:30、特務支援課分室─────
「よう、今日からよろしく頼むぜ」
「あぁ、おはようグレン」
特務支援課分室に入りながら一声かけるグレンにロイドが答える、既にミーティングは始まっていたようで全員がテーブルに着いていた。
「っともう始まってたか、もしかして俺また遅刻したか?」
「いや、単純にこいつらが早かっただけだ」
頭を掻きながら苦笑いを浮かべるグレンの問いにセルゲイが気だるげに答えると席に座るように促した。
「さて、どこまで話したか・・・あぁ警察手帳の使い方だったな。ロイド、続きだ」
「あ、はい。じゃあ続きを─────」
セルゲイに言われたロイドが警察手帳の必要性や使用方法を話していく。
グレンとしても少し懐かしさを感じる説明を聞く。
そしてロイドの説明が終わるとセルゲイが口を開いた。
「さて、そんじゃ手始めにティオが昨日調整した導力端末でなにか依頼が無いか確認しろ」
そうして全員で端末の前に立ち、ティオが端末を操作する。すると依頼が1つだけ出てきた。
「ひ、1つ・・・それもクロスベル警察からのオーブメントに関する説明・・・ガクッ」
「まぁ、そうだわな・・・今現在、俺らのイメージはさながら遊撃士のパクリ、猿回しの猿って奴だ。オマケにクロスベル警察自体が遊撃士の影響、その他諸々で市民からの信頼も低い。どうやったってカス扱いだ」
「おいおい、見事なまでの最低評価だな・・・」
ショックを受けた表情のロイドにグレンが笑顔でトドメを指す、それにランディも苦々しい顔をした。
だが実際クロスベルの警察組織は信頼が低い。
事件を起こした犯人を逮捕してもその人物が共和国か帝国出身であれば大した罰は下せず、精々厳重注意で終わる。オマケに上層部が腐っているので政治面で権力のある議員と思い切り癒着しており例えクロスベル人が犯罪をしようが最悪横槍が入りお咎めなしも普通にある。
むしろこんな組織を信頼するなら余程の身内贔屓か外に出たことが無いかだった。
「実際警備隊のトップも腐ってるしな・・・はぁ」
「いきなり幸先不安です・・・」
色々思い出しため息を吐くランディ、それを見たティオも愚痴る。そんなどんよりした空気をグレンがパンッと柏手を鳴らし払拭した。
「まぁそう沈むな、要は現状がドン底ならこれ以上低くなる事は無いって事だ。それに多少暴れてもセルゲイ課長が軽く流して誤魔化してくれるしな、恐れること無く思い切り行こうぜ」
ニヤリと笑いながら言うグレンにセルゲイが薄く笑いって答える。
「まぁな、それに悪いことばかりじゃない。今グレンが言ったようにクロスベルにおける遊撃士の信頼は強い、だが奴らも手を出せない部分がある。ロイド、何かわかるか?」
そう聞いてくるセルゲイにロイドは少し考えるとハッと思いついたように返した。
「国絡みの事件・・・遊撃士は国家権力に対しては不干渉だから公的組織が起こした事件には捜査権と逮捕権が使えない」
「その通りだ、まぁ厳密には現行犯なら少し変わってくるそうだが・・・その点警察ならそれらが可能な訳だ」
「じゃあつまり・・・!」
ロイドの答えに頷くセルゲイ、僅かに見えた光明にエリィも明るく声を出した。
「今現在、クロスベルは色々なものが入り乱れている。一見すれば煌びやかで華やかな街の裏は真っ黒く汚れた悪事に溢れている。俺たち特務支援課はそういった事件に対して言っちまえば遊撃士のように自由に動き捜査し現場を抑え悪事を暴く。そして警察としてそういう連中に手錠を掛けるのさ・・・他の警察や遊撃士とは違う、もう1つの視点としてな!」
そう言ってグレンは大きく手を広げて不敵に笑う。他のメンバーも合点がいったようで頷き笑う。
その後軽く話した支援課は分室を出ていく。目指すのは初めての依頼があったクロスベル警察の受付だ。
ご拝読ありがとうございました。
グレン、もといこっちの作品は基本的に明るく行く予定です。
次話もよろしくお願いいたします。