ソウジとディープインパクトとスティルインラブ、3人の模擬レースが終わった直後に入院しているはずのユキが姿を見せた。そのまま来たのであろう…服装は入院着であり、靴は踵があるもののルームシューズ。
「ユキ!お前、何故ここにいるっ!?」
「…スティル。次のレースについてだけどね…」
「無視するな!」
ユキはソウジの言葉を聞き流すとスティルインラブへと向き、バインダーに挟んだ資料を読み上げ始めた。
「やっぱり、貴女が最も強さを発揮できるのは京都よ!そこのG1であるエリザベス女王杯で今度こそは勝つわよ!」
「あの…私はもうトゥインクルシリーズは引退して…」
「今日のトレーニングを始めるわよ。」
「だから…」
「はジメるわ…よ?」
「はい…トレーナーさ…」
「待てスティルインラブ!」
誰がみても正常な状態ではないユキ。そんなユキの下へよろよろと歩きだすスティルインラブ。ソウジが慌ててスティルインラブの手を掴み、引き戻した。
「…はっ!?私は何を…」
「な二してるノすてィル?凄イとれーにング方法があルの。
「それは『合成因子』!?しかもドス黒い…止めろユキ!!」
「…あハっ♪」
ゴクンッ
ソウジが止めようするも、ユキはそれより早く試験管に入った『合成因子』を飲み込んだ。
「うぐッ…!?カはっ!?」ガクッ
それと同時に自身の胸を抑え、その場でしゃがみこむ。そして…口から血が吐き出された。
「タキオン、これはどうなってんだ!?ユキが『ウマ人』にならないぞ!」
「拒否反応だ!すぐに『合成因子』を吐き出させろ!しかし、ユキが何故アレを?『合成因子』は全て金庫の中に……はっ!?」
ここでアグネスタキオンは思い出す。自身の研究室の机の上に回収したばかりのスティルインラブの『因子』とデサイレンスコープから取り出したサンデーサイレンスの『因子』が置かれていたことを。また、それらは合成条件が整っていたことを。
「まさか…やはりか。」
恐る恐るデサイレンスコープとスティルインスコープを取り出し、ユキを見るアグネスタキオン。2つのスコープは反応を見せており…同時に自身の嫌な予感が当たっていたことを実感する。
「ソウジ、回収用の腕輪を取ってくる…ここは任せた。」
「あぁ、俺らは今出来そうなことをする。」
アグネスタキオンがその場から走り去り、ソウジは全員に指示を出す。
「ディープインパクト、救急車を呼んでくれ!」
「…了解。」
「サンデーサイレンス、お前はユキの背中を叩け!俺は腹を押す!」
「あ、あぁ…」
「シンボリルドルフ、ネオユニヴァース。お前たちはスティルインラブを頼む。」
「…すまない。」
「ユーニヴァース。スティル行くよ……スティル?」
「トレーナーさん…嫌…こんなの…こんなの…」
各々が動く中、スティルインラブは力なくその場で座り込んでしまい…絶望して身体を震わせていた。
「こんなの……最高じゃない♡」
「「──っ!?」」
否、絶望ではない…羨望だ。それと同時にスティルインラブが纏う空気が変わり、シンボリルドルフとネオユニヴァースは反射的に距離を取る。
「ごボっ…!」
「おい!大丈夫なのかコレ!?」
「出血がかなり多い…!けど、気道を詰まらせる訳にもいかない!続けてくれ!」
「あァ、人間って何て脆いのかしら?何て愛おしいのかしら?だから…
「スティル!?」
スティルインラブ…否、"内なる紅"は吐血するユキに恍惚な顔を見せる。そして、そのまま糸が切れたようにその場で体勢が崩れ…近くにいたネオユニヴァースにより支えられた。それと同時にユキに変化が起きる。
「おいソウジ、今度は何だ!?」
「分からねぇよ!何が何だか分からねぇけど、ユキが…ユキが『ウマ人』になり始めてるのは分かる!」
突然にユキの髪が青鹿毛へと染まり…耳が上へと移動する。そして、腰から尻尾が伸び…芝コースを赤く染めていた血が、服へと付着していた血が、辺りの血という血が、ユキの足から全身へと這い上り、足を腕を顔を…肌全体を赤く潤した。それにより痩細った身体に僅かな筋肉が表れる。そして、ユキの目を開いたかと思えば…大声で笑い出す。
「あははハハハっ!いいわイイワ!何て素敵な身体ナノかしらっ!」
ソウジに次ぐ2人目の『ウマ人』が誕生した瞬間である。ユキはそのまま自身に触れていたソウジとサンデーサイレンスを突き飛ばした。
「ぐぇっ!?」
「っ!?」
「…
「大丈夫だ、それはそうとあんまり耳を触らないでくれる?人間の耳じゃないから変な感じが…」
「…もうちょっとだけ。」
「プイ、こっちの心配もしろよ…」
「…デサイレンはウマ娘。…だから問題ない。」
「今のコイツもウマ娘みたいなもんだろ!」
慌ててディープインパクトがソウジのそばへと駆け寄り心配をすると…サンデーサイレンスが突っ込みをいれる。
「ソウジトレーナー…」
「ネオユニヴァース、シンボリルドルフ、スティルインラブの身体を頼んだ。後は…俺らに任せてくれ。」
「ユーニヴァース☆」
「…行こう。」
「ディープインパクト、お前も…」
「…拒否。…私は
「そうか…」
ソウジは立ち上がり…ユキへと質問を投げた。
「さてユキ、お前は『ウマ人』になって…どうするつもりだ?」
「ユキ?まぁ、そウだけど違うわね。今のワタシはユキでも
「分かった…それでコウセツ、もう一度聞く。お前は今からどうするつもりだ?この後はすぐにタキオンが来る…その短い間に何をするつもりだ?」
ユキは…いや、コウセツはニヤリと笑う。
「逃げル…っテ言ったら?」
「不可能だと返す。そんな文字通り血生臭いを振りまいて、さらにそんな紅く目立つ肌で逃げ切れると思っているのか?」
「んー、まぁ何とかなるんジゃないかしら。しないけド。そうね…折角だから模擬レースでモしようかしら。相手はディープインパクトね。」
「…私?」
「3度も走れと!?」
「それくらイはしてもらわないと……
ベトッ
「…何これ…痛っ!?」
突然、ディープインパクトの下腿に血の手形が付いた。言っておくがコウセツとディープインパクトとの間には距離があり、直接触れているわけではない。にも関わらず、コウセツの前に伸ばし、何も掴んでいない筈の右手が、ディープインパクトの足を掴んでいるのだ。そして、その手形はそのままディープインパクトへとミシミシと食い込み始めたのだ。
「今折れルノと走って折レるの…どっちガいい?」
「俺がもう1回走る!だからディープインパクトには…」
「てめぇ!俺のプイに何しやがる!」
「止めろサンデーサイレンス!」
「うるせぇ!このまま黙ってやられてたまるかっ!」グラッ
突然にサンデーサイレンスの身体が地面へと崩れた。それと同時にディープインパクトへと貼り付いた血の手形が消えた。
「…サンデーサイレンス?まさかお前…取り憑いたのか?」
「…
「ってことは…」
「サンデーサイレンス…なのか?」
「アら、少シ出ちゃったみタいね。でも…早イ者勝ちよ。コノ身体はワタしのもの。」
「ユキの身体はユキのだ!!」
『…』ギロッ
ソウジに何かを目だけで伝えようとするサンデーサイレンス。しかし何も伝わらず、どうするべきかと考えるソウジ。
「…