『残り600!
ディープインパクトが既に先頭に立っている!
最後の直線…リンカーンだ!
ここでリンカーンが追い込んできた!
しかし、ディープインパクトが逃げる逃げる!
残り200!
差は2バ身…差は縮まらない!
ディープインパクトだ!
ディープインパクトが圧勝のゴールイン!』
───
半年ほど時は流れ、天皇賞(春)の数日後…場所はとある喫茶店。
「いらっしゃいませ…あら?アナタはアグネスタキオンの…!」
「本当に日本にいたんだねイージーゴア。」
「…私の前で他の女をナンパしない!」つねっ
「痛い痛い!してねぇだろ…
ソウジとユキの姿がそこにあった。イージーゴアに案内された席に座り、それぞれケーキと紅茶を注文する。
「無事にトレーナー復帰が出来たようだな。あの豹変ぶりはマジでビビったぞ。」
「正確にはようやく落ち着いた、ね。スティルのことを始め、チームを持つことになったり、担当が一人増えたりで色々と大変だったわ。まだチーム名は決まってないけど…まぁ、何か良い感じのを考えるわ。」
「スティルインラブは元気か?」
「元気よ…夏のドリームレースに向けて鍛え直してるわ。全盛期の強さをどこまで取り戻せるやら…」
「大変だな。」
「大変だったのはソウジさんも一緒でしょ。時間は大丈夫なの?まぁ、正直私を誘ってくれて嬉しいけど…」ぼそっ
ユキが小さな声で言ったことを流しつつ、ソウジは書類を1枚取り出した。凱旋門賞への申請書だ。
「ディープインパクトの天皇賞(春)が終わったからな。とりあえず、あいつは正式に凱旋門賞に出ることが決まった。当然か。」
「2着とは着差3バ身以上のレコード勝ち…何かもう別次元にいるウマ娘みたいね。」
「…次は宝塚記念を走るが…凱旋門賞にいくかはサンデーサイレンス次第だな。」
「ん?ディープインパクトがフランスに行かないならなんでその書類があるのよ?」
「いや、ディープインパクトは行くからな。ただ…サンデーサイレンスが行くか、俺が行くかだ。」
「何?また正式な担当トレーナーになってって言われたの?」
「それは毎日言われる…」
「はんっ!随分と遠い存在になりましたね、エリートトレーナーソウジさん?」
「スティルインラブで3冠取ったお前が言うかソレ?」
「私じゃなくてもそう言うわよ!」
「お待たせしました…ショートケーキとモンブラン、紅茶セット2人前です。本日の紅茶はルフレとなっております…ごゆっくりどうぞ。」
2人がヒートアップした瞬間に男の店員が注文したデザートを持ってきていた。2人は静かになってそれを受け取る。
「「…」」
「とりあえず、食べないか?」
「えぇ、そうね…」
ソウジはショートケーキを、ユキはモンブランをフォークに乗せた。そして…
「「はい、あーん…んぐっ!」」ぱくっ
最初の1口を互いに食べさせた。
「ん~♪やっぱり、美味しい♪カロリー的に昔みたいにいっぱい食べれないのが残念だわ…」
「昔ってこの前…えーと、ブリザードが卒業した後はバクバク食ってただろ。」
「あれから4年は経ってるでしょ!」
「…マジか!もう4年経ってるのか!」
「顔が変わらないソウジさんが羨ましい…何なら私の方が年上に見えそう。」
「それはない…って言いきれないんだよな。」
ソウジの顔は2年前から変化が起きなくなっている…アグネスタキオンの実験を受け続けた影響であろう。特に傷の回復力は凄まじく、外傷や骨折を始め、欠損した臓器や部位までもが数日で完治する体質となっていた。故に『ウマ人』になれるのである。
「それにしても…さっきの男の店員さんカッコよくなかった?」
「あぁ、確かに爽やかな男だが…何だユキ?ああいうのがタイプなのか?」
「否定しないけど…あの人は絶対に多くの女の子にモテてるよ。その証拠に…」
ユキが目線を後ろに向け、それにソウジもつられると先ほどの店員とイージーゴアの姿があった。
「店長!その…良かったら今度ケーキの作り方を…♡」
「分かったよゴアさん。2週間後までは確実にパンパンだけど…その日以降でいいなら空いてる日を教えるね。」
「ありがとうございます♡」
「イージーゴアがメロメロよ。」
「なるほど、左手の薬指はそういう…ん?イージーゴアは付けてなくない?」
「…ま、そういうことね。」
「イージーゴア…」
尻尾を振って喜ぶイージーゴア。しかし、察したソウジとユキは温かい目でそれを見る。そうしているうちにケーキも紅茶もなくなり…そのタイミングで先ほどの店員…もとい店長がお代わりを注いでくる。
「ごゆっくりどうぞ。」
「…すげぇ。完璧なタイミングだ…俺も見習いたいな。」
「そういえばアグネスタキオンも紅茶が好きだったわね。ここに連れてきたらどうなの?」
「ダメダメ…そもそも外食すら億劫だからな。そろそろ、話を戻すか…何だっけ?」
「えーと、サンデーサイレンス次第でディープインパクトが凱旋門賞にどうたらこうたら…」
「あぁ!はいはい!そうだったそうだった!体調次第なんだが…おそらく、俺が一緒に行くことになりそうなんだよな。」
「随分と先の話なのに何でそうなるの?」
「まぁ、あれだ…妊娠した。」
「…はぁ!?ったく、最強クラスの担当ウマ娘が活躍してるこの時期にどこの男と子作りしてんだか…」
「…目の前の男なんだよな。」
「アンタかよ!!自分のチームのサブトレーナーに手を出すとか何をしてんの!?ブリザードの時から何を学んだの!?」
ユキはソウジにドン引きしつつ責めると…気まずそうに言葉を返す。
「…はめられた。」
「いや、はめたのはアンタでしょうが!」
「違うんだユキ。ゴムに穴が開いてて、目の前で飲んだのがピルと思ったらただのビタミン剤だって、もっといえば安全日とか言ってたのに…」
「おろさせなさい!何で産ますこと前提なの!」
「あいつはな…サンデーサイレンスはな…現役前にバスの事故で自分以外のチームメイトは走れなくなってしまって…アメリカでG1を6勝と大活躍したのにあんまり評価されず…日本でも来てすぐにトラックの事故の大ケガで何年も眠ってて…だからさ…そんなアイツが産ませろとか言われたら…」
「…じゃあ、私がソウジさんの子供を○みたいって言ったら生でシてくれるの?」
「ヤラねぇよ。なに言ってるんだお前?」
「このウマ娘フェチが!」ぺちんっ
ユキがソウジへとデコピンを決めた。
「…だってお前の足、プヨプヨなんだよ!」
「その割には私とシた時はたっぷり楽しんでたじゃないの!」
「…」ぷいっ
「何か言いなさいよ!はぁ、頭痛くなってきたからソウジさんの話はもういいわ。」ずきずき
「そ、そうだな…そういえばユキの新しい担当って誰……だ?」ぐいっ
「…」もぐもぐ
気まずそうに露骨に話を変えるソウジ…こっそりと自身のショートケーキのイチゴをユキの皿へと乗せようとする。そんなソウジの手を掴み、イチゴを自身の口へと運ばせたユキは上機嫌となり、話を続けた。
「ごくん。『ホッコータルマエ』よ。とっても良い娘でね…フフフ、スティルともすっかり仲良しになったわ♪この前はタルマエが地元のハスカップから作ったお菓子で楽しいパーティをしたの♪そうそう!タルマエってロコドルもしてるからスティルと一緒に手伝ったりね…」
「あぁ!あのダートの子か!」
「どんな覚え方よ!もぉ…今度ロコドルとして苫小牧のPRするライブあるから見に来なさいよ。あ!そういえば、この帽子!タルマエが選んでくれたのよ!」
「へー、ユキに似合ってるな。フワフワしてて、お前の名前通り雪みたいで…」
「いや、私のユキは"幸せ"から来てるから別物よ。」
「うぐっ!?そうだったのか…なら、チーム名もそこから取るのもありだよな。俺のチーム"エレメント"と戦うことになるかもしれないしな。」
「フフフ…チームトレーナーとしてソウジさんに負けてられないわ。デビューしたらアグネスタキオンやディープインパクト以上に活躍させてやるんだから!」
「BCクラシック出たくなったらアドバイスしてやるからな~」
「うぎぎ…!私の方が先輩なのに…」
悔しそうな顔になるユキをスルーしつつソウジはカップの中の紅茶を飲み干した。そして、その頭の中には昔の記憶が再生されていた。
「今度コハルとフライトと…チヒロさんも呼んで飯でもいかないか?」
「なに急に?」
「元チーム"パシフィック"出身のトレーナー同士でさ、チヒロさんに見てもらおうかなーって。」
「フライト抜きなら良いわよ。」
「…え?」
「だってあの娘、怖いんだもん…」
「そういえばフライトに食われたって…」
「あ"ぁ"!?」
「…!」びくっ
ユキの剣幕にソウジの言葉が詰まる。しかし、次の瞬間、ユキは死んだ目でブツブツと一人の世界へと入った。
「…事故だったの。うん、あれは事故よ…ケガしたと思って保健室連れてったら、キスされて、服剥ぎ取られて、XXXして、XXXXされて、あげくにXXXX…ラモーヌが来てくれなかったら、私どうなってたのかしら?」ぶるぶるっ
「わ、悪かった!フライトは呼ばない!呼ばないから!」
何とかユキを宥めるソウジは、そのまま飲み会の約束をして会計を済ますと店を去った。