《獅子の鐘》がある時計塔の一階広間。
三日目の《夜》までの猶予を獲得したペストたちは、ゲーム開始時にも足を踏み入れたこの場所へと舞い戻ってきていた。
街のほぼ中央に建つこの時計塔は、他の時計塔と比べ、未踏である東側に近い。東側の本格的な調査を進めるにあたり、ペストたちはここを一時的な拠点として利用すると決めたのだ。
だが、実際に動き出す前にまずは休息が必要だと、傷付いたヴェーザーを見たペストは判断する。情報整理も行っておきたかった。
ヴェーザーとラッテンが近くの民家からソファやベッドを拝借し、塔の広間へと運び込んだ。簡易的ではあるが、これで身体を休めることはできる。
「それで、謎は解けそうか?」
ヴェーザーが、運び込んだばかりのソファに深々と腰を降ろしながら呟いた。家具と一緒に持ってきたシーツを破り、雑に傷口へと巻き付けて結ぶ。白い布地に、じわりと赤黒い血が滲み出していく。
一方、ベッドを椅子代わりに腰掛けていたラッテンは、何度誘っても隣に座ってくれないペストへ悲しげな視線を送った後、軽く肩を竦めた。
「東側を調べてみないことには何ともね。なんとなくの憶測はあるけど、候補が出揃ってない状態じゃ、とてもじゃないけど絞りきれないわ」
ラッテンのため息混じりの呟きに、ヴェーザーは背もたれに頭を預けながら「そりゃそうだ」と短く返した。
「にしても、マジで化け物だなあいつ」
ヴェーザーが先の戦闘を思い出し、苦い顔をする。
明らかに手加減をされていた。それなのに、爪の先ほども勝てる気がしなかった。数発は攻撃も当たったが、ただ当たっただけ。効いていた感覚はほとんど無い。
「ね? あいつを私たちのゲームから追い出したのは正解だったでしょ?」
「ああ。あいつが盤面に居るだけでゲームが崩壊する。なんであんなのが下層の、しかも《ノーネーム》なんかに所属してやがるんだ」
なぜかラッテンが得意げに言うが、実際良い判断だったとヴェーザーは納得せざるを得なかった。
特に、あの分身体は厄介だ。
極論、ローリーとその分身体がペストたち全員を封じ込めている間に、他の参加者たちが悠々と謎解きすることもできる。そうなれば、ペストたちのゲームがクリアされるのは時間の問題だ。
「...でも、付け入る隙はあるわ。あの男、多分ギフトゲームには慣れていない。ゲームを作る側の人間としては、ルールの扱いが杜撰よ」
それまでじっと石畳の地面を見つめていたペストが、冷徹な光を宿した顔を上げた。
「この《余興》というゲームの構造も、私たちの《The PIED PIPER of HAMELIN》を参考にしているんじゃないかしら」
「あー、言われてみれば、なんとなく似てますねぇ。ホストを殺すか謎を解け、っていうところとか。謎解きの方向性もちょっと似てるかも?」
ラッテンが“契約書類”を取り出し、眺めながら呟く。
「それにあの男、自分で設定したルールの『抜け穴』すら正しく理解していなかったわ」
「そりゃあ、あいつにとって有利に働く穴だろ?」
「ええ。だとしても、よ。たまたま私たちにとって有利だったというだけの話。多分、あの男は、自分がゲームマスターになった経験はほとんどないんじゃない? そこに隙があるはずよ」
ペストの言葉に、ヴェーザーとラッテンが頷く。
「『試してやる』っていう気が溢れてるからな。本当に暇潰しでやってる可能性すらあるぜ、アレは」
「自分が楽しみたいだけっぽいですよねぇ。謎解きより、どっちかっていうと私たちと戦いたがってましたし」
二人が各々の感覚から得たローリーの印象を口にする。
実際のところ、このゲームに負けたところでペストたちに実害はない。しかも不殺のハンデが設けられているのだ。言ってしまえば、驚くほどに生温いゲーム。
だが、だからこそ、ペストたちは負けられない。
舐められっぱなしは性に合わないことと、そして何より、ここで膝を屈してしまえば、将来的に不安が残る。
ペストはローリーを自身の配下にすることを諦めたわけではない。むしろ、あの力を見てしまった今、より欲しいと思い始めていた。
しかし、「一度負けている」という事実を残すのはよろしくない。許せない。
ここで、あの傲岸な鼻柱を叩き折っておかねばならなかった。
「確かに、あの男はとんでもない強さを持っているわ。頭も、随分と回るようね。けれど、ふふ。あの男は自分が負けた時、一体どんな顔をするのかしら」
この《余興》に勝って、《The PIED PIPER of HAMELIN》でも勝って。
そしてあの生意気で傲慢な《ノーネーム》をオモチャにしたら、一体どれほど気持ち良いだろうか。
勝ち筋とは呼べないほどの、細く脆い糸。それを慎重に手繰り寄せながら、ペストは実に愉しそうに、昏い笑みを浮かべた。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
街中の鐘がけたたましく鳴り響く。
二日目の朝、ゲームで言うところの《昼》がやってきた。
それと同時に、ペストたちは《獅子の鐘》の時計塔を出て東へ向かう。
探索は順調に進んでいた。それなりに広い街ではあるが、ローリーの妨害がなければただの移動にすぎない。
「これで最後だな」
太陽が天頂を通り過ぎ、わずかに西へと傾き始めた頃。
最も東に位置する時計塔に辿り着き、ヴェーザーが時計塔を見上げながら言う。この街に存在する全ての時計塔の中で、これが最も巨大な構造をしている。
「鐘が鳴るのは一日で三回でしたねぇ。日の出、正午、日没。何か意味があるんでしょうか?」
つい先ほど街中に大合唱を響かせたばかりの時報の余韻を思い出し、ラッテンが顎に手を当ててうーんと唸る。
「普通に考えりゃ単なる時報だが、これはギフトゲームだからな。何かしらのギミックが仕込まれていても不思議じゃない」
「深読みしても余計沼にハマるだけよ。今は刻印の種類に集中して」
ペストが冷ややかにそう議論を締め、三人は巨大な時計塔の内部へと足を踏み入れた。
螺旋階段を登り、最上階の鐘楼へ辿り着く。
「ここも黄金製かぁ。東は随分黄金製が多いですねぇ。...あ、ここの刻印は炎です」
鐘の下から中を覗いたラッテンが報告する。
ヴェーザーも同じように覗き込み、火のような紋様が刻まれていることを確認した。
「ここまでは蟹、笛、天使、二人の人間、牛、孔雀、羊。孔雀以外は全部黄金か。確かに多いな」
ラッテンが懐から一枚の紙を取り出し、素早く『炎』を追記する。
その紙きれには、これまでに集めてきた鐘の情報が書き連ねられていた。
────
『中央』
・獅子(黄金)
『南側』
・イノシシ(青銅)、鶏(青銅)、猿(青銅)、鷲(鉄)、虎(青銅)、女(黄金)、向日葵(黄金)
『西側』
・サソリ(黄金)、ウサギ(青銅)、ヤギ(黄金)、竜(青銅)、魚(黄金)、犬(青銅)、ネズミ(青銅)、ケンタウロス(黄金)、瓶(黄金)
『北側』
・キツネ(鉄)、亀(木製)、秤(黄金)、三日月(鉄)、車輪(木製)、王冠(黄金)、骸骨(鉄)、砂時計(木製)
『東側』
・蟹(黄金)、笛(黄金)、天使(黄金)、二人の人間(黄金)、牛(黄金)、孔雀(青銅)、羊(黄金)、炎(黄金)
────
ペストは書き込まれた刻印の種類と、その材質を上から下まで網羅するように視線でなぞり、しばらくの間沈黙して思考の海へと潜った。
「...ちなみに、あなたたちは謎は解けた?」
ふと顔を上げ、ヴェーザーとラッテンに視線を向ける。
先に答えたのはヴェーザーだった。
「俺はまだだ。強いて言えば、三日月、車輪、笛辺りが怪しいとは思ってる」
「何故?」
「黒に染まらない、つまり黒死病にかからない無生物。それに『失われてもなお還るもの』って一文があっただろ?」
言われて、ラッテンが“契約書類”を出し、その文面を細い指先でなぞりながら確認する。
「月は欠けてもまた満ちる。車輪は少し微妙だが、回るという性質が怪しい。『失われてもなお還るもの』は、循環や転輪とも読み替えられるからな」
「あれ、笛は?」
「そっちは少し違う視点だ。『伽藍の躯は打ち震え、近くも遠くもその声を落とす』。これは鐘を差してると思うんだが、笛も該当するんじゃないか?」
「あー...確かに」
ヴェーザーの推理に、ラッテンが少しだけ納得する。
だが、ヴェーザーの眉間には皺が寄っていた。自分の導き出した仮説に、自分自身で納得がいっていない様子だ
「だがまぁ、どれも『そうかもしれない』ってレベルだ。確信は無いし、何より一意に絞れない」
「そうね。こじつけでソレを正解に仕立て上げることは可能でしょうけれど、それがこのゲームの
「だよなぁ」
頭をガシガシと掻き、ため息混じりにヴェーザーは零す。
すると、その隣で「はいはぁい♪」とやけに元気な声を上げて、ラッテンが勢いよく手を挙げた。
「ふふふ、私はわりと自信ありますよ〜♪」
「そう。聞かせてちょうだい」
「ズバリ、答えは三日月です!」
「俺と同じか?」
ラッテンは「ちっちっ」と指を振って否定を示す。
「いーやっ、答えは同じだけど、過程がちょーっと少し違うわよ。まず、私は『黒が街を喰らう』をそのまま夜と読んだわ」
「なんでだ? これは俺たちが挑まれたゲームだろ。黒はペストと読むのが妥当じゃないか?」
「私もそう思ってたけど、ホスト側の行動と破壊行為ができるのが《夜》だけっていうのが気になったのよねぇ」
「黒が何を意味するのか。確かにペストだと決めつけるのは危険ね」
ペストの同意にも似た呟きに、ラッテンはニッコリと満足げに笑い、推理の披露を続ける。
「夜の闇の中で輝くのは星と、そして月。それに今回のゲーム、時間制限が三日でしょ? 普通に満月とかじゃなくて、わざわざ三日月が刻まれてたっていうのが最大のポイントだと思うのよねぇ。あとは大体ヴェーザーの推測と同じ。月は欠けてもまた満ちるから」
「なるほどなぁ。確かにもっともらしい。それに、あいつが報酬に要求してきた質問の数も三つ、鐘が鳴るのも三回だ。意図的だとしたら、確かに無視はできない数字だな」
ヴェーザーが、自身の直感的な推理よりもラッテンのシステム的な着眼点に納得を示す。ラッテンは自慢げにふんぞり返り、豊満な胸を張った。それだけ自分の答えに自信があるのだろう。
だが、ペストの表情は変わらない。
「...そうね。三日月も十分に有力な候補よ」
「ですよね♪」
「でも、まだ決定的な確証には至らない。最後の一文、『死を知る者よ、お前はそれを知っている』に月がどう該当するのか分からないわ」
ペストの指摘に、ラッテンの笑顔がピキリと固まり、苦い顔へと変わった。「確かに...」と小さく呟き、むむむと両手で自分の頭を抱えて唸り始める。
「私の推理を話すわ。答えは太陽よ」
「太陽? でも、太陽の刻印なんてありませんでしたよね?」
「ええ。直接的なものはね。でも、ここにあるわ。最も大きく、最も東に位置するこの時計塔の頂に、《炎》の刻印が」
炎が太陽の暗示だというペストの推測に、ヴェーザーが待ったをかけた。
「そもそも、なぜ太陽になる?」
「ペストに罹らず、太陽は沈んでもまた昇る。そして何より、最後に記されている『死を知る者』。これを
ペスト──── 《
『太陽に復讐を』。
ただ知っているだけではなく、破壊すべきモノとして認識しているものを問われている。そうペストは推理した。
「...いや、それは可能なのか? そうなると、あいつは白夜叉封印の謎にも辿り着いてるってことになるぞ」
「でも不思議じゃないかも。あいつ、全部知ってたとしてもおかしくない、って思わせるだけの妙な迫力があるもの」
ヴェーザーとラッテンが動揺を露わにする中、ペストは黄金の鐘を、その細い指先で柔らかく愛撫するように触りながら、薄く、酷薄な笑みを浮かべた。
「私の推理も確証は無いわ。少し、私を中心に考えすぎている自覚はあるもの。けれど、有力な『候補』であることに代わりはない」
「というと?」
ヴェーザーの怪訝そうな疑問に、ペストは「ふふ」と愉しげに鼻を鳴らす。
ゆっくりと振り返ったペストの顔には、この上なく嫌らしく、そして確かな怒りを滲ませた笑みが張り付いていた。
「間違いは二度までは許される。だったら、候補は全部壊してしまえばいい。太陽と月、どちらもね」
ペストが触れていた鐘を軽く押す。
カーン、と小さく甲高い鐘の音が、 静まり返った鐘楼の隅々へと冷たく染み渡っていった。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
三日目、《昼》。
太陽が西に傾き、もうすぐ《夜》が訪れる頃。
二日目の《夜》と三日目の現在までを完全な休息に当てたペストたちは、《炎の鐘》が据えられた時計塔の鐘楼に陣取っていた。
「勝負の前に、一つ奇策を用意したわ」
紅い残光を放つ太陽を睨んでいたペストが、ふとそう告げる。
その話はヴェーザーもラッテンも聞いておらず、二人とも首を傾げた。
「ヴェーザー、貴方に神格を与えるわ。──あの自称魔王に、本物の魔王の力を見せつけなさい」
ペストはヴェーザーに悠然と歩み寄り、指先を伸ばしてヴェーザーの額に押し付ける。
ヴェーザーの外見に目立った変化はない。だが、纏う空気が明確に変わった。
ヴェーザーの口角が釣り上がる。
「────いいのか、マスター? せっかく謎解きをしたのに、俺があの魔王の首を取っちまうかもしれないぞ?」
「構わないわ。力で勝つというのなら、それ以上に気持ちの良い勝ち方は無いもの」
初日に刻まれたヴェーザーの深い傷は、昨日の休息でそれなりに塞がったものの、未だ完治には程遠い。しかし、今の彼には、あの理不尽なローリーと正面から命を賭して事を構えられると思えるだけの、圧倒的な『力』が漲っていた。
ゴォォォォンッ、と。
街中の鐘が一斉に鳴り響く。日没を、そして最後の開戦を告げる鐘の音が。
次の瞬間、空が不気味な暗雲によって瞬く間に覆い尽くされた。
「────ヒャッッハハハハハハハハ!!!!!!!」
鐘の凄まじい音響すら完全に掻き消さんばかりの、獣めいた大咆哮。
街の中心部から炸裂したそれは、突如としてペストたちの眼前へと躍り出た。
「おいおいなんだよ最高か? いいや最悪だ。テメェ、そこのロリだけでも我慢すンのに苦労したってのによォ...」
宙に浮かぶローリーの、神殺しの魔王の顔は、抑えきれない原初の愉悦によって、歪に、狂おしく歪んでいた。
「
超烈な突風が街の建物を根こそぎ震わせる。天から降り出した激しい雨が、激突の舞台となる石畳を、血の代わりのように黒く濡らし始めていた。
「やりやがったな黒死病! いいやどうやったかなんざ分からねェが、よくやった! もう我慢しなくていいよな? いいんだよな!? ヒャッハハハ!! 楽しい楽しい、神狩りの時間だァ!!」
「やっぱりあいつ狂ってますよ!!!」
叩きつける暴風雨に吹き飛ばされそうになりながら、ラッテンが悲鳴のような声を上げた。ペストもまた、想像を遥かに超えていたローリーの狂態に、一瞬だけ思考を硬直させる。
と、その時。嵐の咆哮の中でも決して掻き消えない、凄まじい金属の破砕音が響き渡った。
「《炎》はハズレだ。マスター、ラッテン。行け」
《炎の鐘》を大笛で破壊したヴェーザーが、ローリーを睨み上げながら二人に告げる。
二人は軽く頷くと、鐘楼から飛び出した。ローリーはそちらに目も向けない。
「チッ。二人は無視かよ。余裕じゃねぇか」
「無視? 違うね、ペストとも後でたっぷり遊んでやるよ。けど、今はお前だ。お前と
ローリーの姿が文字通り掻き消えた。
直線上の大気を爆破するような急接近。その神殺しの拳を、ヴェーザーは反射的に大笛で受け止め、神格の全力を込めて押し返す。そのままヴェーザーは獰猛に追撃へと移り、大笛の重い一撃がローリーの胴体を真正面から捉えた。
煉瓦造りの建物を数軒巻き込んで粉砕しながら吹き飛んだローリーだったが、即座に瓦礫の下から爆発的な勢いで飛び出した。そのままヴェーザーの頭上へと跳躍し、脳天目掛けて容赦のない一蹴を振り下ろす。
間一髪で大笛を盾代わりにするものの、その威力に耐え切れず、今度はヴェーザーが石畳を激しく削りながら遥か後方へと吹き飛ばされる。
「ガッ、ハッ...! この野郎、神格を得た状態でもこれか...!」
内臓を震わせる衝撃に悪態を吐きながら、ヴェーザーは強引に体勢を立て直して立ち上がる。そんなヴェーザーを、ローリーは空から見下ろしていた。
ヴェーザーが地を蹴って跳ぶ。上空のローリーへ肉薄し、渾身の力で大笛を叩き付けた。それを両手で事もなげに受け止めたローリーだったが、その背後から、突如として黒い泥流が津波となって襲いかかる。
ヴェーザーは河川の氾濫という
この閉ざされた街に河はない。だが、降り注ぐ無数の雨があった。
ローリーを呑み込んだ泥流は勢いをさらに増し、煉瓦でできた街並みを巻き込んで氾濫する。
荒れ狂う泥の奔流と、激突する瓦礫の塊を一身に受けながら──しかし、ローリーはその中心で呪力を一気に解放し、津波そのものを爆風のように弾き飛ばした。
衣服に付着した泥の汚れを激しい雨に注がせながら、ローリーは満たされたように笑みを零す。
「ヒャハッ! 神としちゃちょっとばかし気配が薄いから期待半分だったんだが、いいね、ちゃんと楽しめそうだ!」
「言ってろ自称魔王!」
嵐が吹き荒れる夜の街を、一際大きな衝撃が彩った。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
叩きつけるような冷たい雨に打たれながら、ペストとラッテンは夜の街を、屋根伝いを滑るように駆け抜けた。
背後に大きな衝撃音を受けつつ、すぐに《三日月の鐘》がある時計塔に辿り着く。
「壊しなさい、ラッテン!」
「はぁい♪」
ラッテンが走ってきた勢いをそのままに、鐘を蹴り飛ばす。それだけでは鐘は壊れないが、固定具が外れ、鐘が鐘楼から落下した。
鐘が地面に激突し、大きな音を上げて割れる。
「...何も起きませんね?」
耳を澄ませど、聞こえるのは未だ続くヴェーザーとローリーの戦闘音だけ。ゲームがクリアされた気配はない。
ペストが激しく歯噛みする。
「太陽でも月でもないっていうの...!? じゃあ、正解は...」
「いや、まだ分かりませんよ。向日葵とか、ちょっとこじつけですけど獅子とか、太陽を連想できるものはまだあります」
ラッテンに言われて考えるが、ペストはすぐに首を振る。
「...どれも確信が持てないわ。もう二つ壊してしまった。これ以上は間違えられない」
「ですよねぇ...せめてあと二回くらい壊して確認できたらなぁ...」
ラッテンがボヤき、それでも他に正解は無いかと考える。
「考え方自体はだいたい合ってると思うんですけど...太陽も月も、どっちも星って考えは? いや、でも星の刻印も無かったし...」
「...星?」
雨に濡れて重くなった前髪を掻き上げながら呟いたラッテンの言葉に、ペストが引っかかりを覚える。
しばらく考え、そして決意を瞳に込めて顔を上げた。
「ラッテン、作戦があるわ。上手くいけばこのゲーム、勝てるわよ」
「え? さっすがマスター♪ どんな作戦ですか?」
「それは────」
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
激化したローリーとヴェーザーの戦闘は東側に収まらず、お互いに殴り飛ばされ蹴り飛ばされ、気が付けば南側にまで移動していた。
「オラオラどォしたヴェーザー! 息が上がってきてンぞ情けねェ!!」
「チッ...!」
ローリーの突進に、ヴェーザーがカウンター気味に大笛を叩き込む。
即座にローリーが左腕で防御するが、ボキ、という鈍い音が響いた。ローリーの腕が折れた音だ。
だが、ローリーは笑顔を崩さず、折れたはずの左腕でヴェーザーの顔を殴りつける。なんとかその場に留まったヴェーザーが舌打ちした。
「この...! 巫山戯やがって、今のは絶対に折れただろうが!」
「ああ、折れたな。でも治せば問題ねェだろ?」
「普通は治らないんだよ!」
ヴェーザーが大笛を横に薙ぐ。ローリーが腕で防御するも、耐え切れず飛ばされ、民家に激突する。
だが、ローリーはすぐに立ち上がり、獰猛な瞳をヴェーザーにぶつけた。
「ヒャハッ! 単純な膂力ならお前の方が上か。怖い怖い、このままじゃあ負けちまいそうだぜ」
「抜かせ化け物。そういうことはちゃんとダメージを受けてから言うんだよ」
ヴェーザーの攻撃は、決して効いていないことはない。しかし、どんな負傷も、ローリーはすぐに回復して立ち上がってくる。
対してヴェーザーは、受けたダメージが徐々に蓄積していた。体の節々が痛み、できるなら今すぐ横になりたいくらいだ。
「(...それに加えて、チッ、まだ手加減されてやがる)」
ローリーの攻撃は主に打撃。殴り、蹴る。そんな単純な攻撃ばかり。
一日目にヴェーザーを撃ち落とした魔術や、最も警戒していた権能は使われていない。
腰を落とし、大笛を握る手に力が入る。神格を得たことで多少自信を付けていたが、これでは勝てそうにない。
「(だが、それでいい)」
ローリーを倒せればそれでいい。だが、それができなくとも、ローリーの足留めができれば十分。
ローリーとの戦闘が始まってから、すでに一時間は経っている。それでもまだゲームが終わっていないということは、《三日月の鐘》が不正解だったか、ペストたちが何かしらの妨害にあっているかの二択。どちらにせよ、ヴェーザーの役割は変わらない。
疲れ切った体に鞭を打ち、自身を奮い立たせるために声を張り上げる。
「ハッ、来やがれ化け物! デカい口を叩く暇があるなら、俺を動けなくしてみろよ!」
「────よく吠えたわ、ヴェーザー。それでこそ私の忠臣よ」
ローリーを黒い風が覆う。
風はすぐにローリーによって霧散させられた。だが、ローリーの意識がヴェーザーから一瞬逸れる。
その隙を狙って、ヴェーザーが肉薄し、全霊の力を込めて大笛を振り抜いた。大笛はローリーの首を捉え、ゴリュ、という鈍い音とともにローリーを叩き飛ばす。
ローリーは空中で回転した後、建物の壁に着地し、鋭い目をペストに向ける。
「ヒャッハハ! テメェも来たか黒死病! いいや、疫病の神がよォ!!」
ローリーが歓喜したように叫んだ。
折れた首は、何事も無かったように治っている。
「疫病の神? それって私のこと? 何か勘違いしているようね」
ペストがふわりと、ヴェーザーから少し離れた場所に舞い降りた。
大きな裾で口元を隠しながら、目の前の猛獣を挑発するようにクスクスと冷ややかに笑う。
「少し安心したわ。全部見透かされていると思っていたけれど、そういうわけでもないみたいね? それとも、単なる知ったかぶりなのかしら」
「言ってくれンなァおい。神だってことは分かってんだ。じゃあお前、何の神だってんだよ」
「わざわざ懇切丁寧に教えてあげるとでも思って? 自分で考えなさい。それとも、答えを教えて貰わなければ何も分からない愚鈍なのかしら」
次の瞬間、返答もせずローリーが石畳を踏み抜いた。
迫り来るローリーに対し、ペストはあえて回避の動作を取らなかった。最低限の風の防壁を纏い、神殺しの暴力を、その華奢な肉体で真正面から受け止める。
「ッ...!」
苦悶の息を僅かに漏らし、ペストの身体が凄まじい速度で後方に吹き飛んだ。
そのまま、《向日葵の鐘》が据えられた時計塔に激突する。轟音と共に時計塔の土台がへし折れ、大量の煉瓦が崩落を始めた。
ペストは瓦礫の下敷きになるが、その程度で傷付くほどペストの身体はヤワではない。暗い瓦礫の隙間から、冷静に外の様子を確認する。
激突の衝撃で《向日葵の鐘》が地面へと落下し、時計塔の崩壊に巻き込まれて、ぐしゃりと無残に圧壊していく様を確かに見届けた。
「────ふふ、なるほどね」
一拍の間を置いてから、ペストは黒い風を爆発させて周囲の瓦礫を吹き飛ばし、何事もなかったかのように立ち上がった。
そのまま浮遊し、ローリーの視線を惹き付けながら、徐々に左側へと移動し始める。
「貴方、随分と自分の力に自信があるみたいだけれど、私の小さな体すら破壊できないの?」
「...あん?」
再度、冷ややかに編み上げられた挑発の笑みを浮かべ、ペストが言い放つ。
「不殺を掲げるのは便利よね? 本当は殺せもしないくせに、『本当は殺せるんだぞ』だなんて
クスクスと、必要以上に神経を逆撫でする小馬鹿にした声を響かせる。
それが挑発だと分かっていても、ローリーの本能は、もはやそれを聞き流すことを拒絶した。
ペストが神であるということは、展示会場で出会った時から気付いていた。ローリーの知る神々とは少し気配が違ったが、神であることには確信があった。
カンピオーネにとって、神とは絶対的な天敵だ。本能のレベルで闘争を求める宿敵である。
そんな不倶戴天の敵を眼前にして、ローリーは「勝手に
ゲームの穴を突き、ようやく戦えると思った矢先に「二日間の行動禁止」という制約。そして、ついに戦えるとなったところで、ヴェーザーという新たな神の気配が顕れた。その時点で我慢の限界などとうに超えている。
その上で、他ならぬ
「────......ヒッ」
悲鳴のような風の音が響き、吹き荒れていた突風が凶悪なまでの暴風へと変貌した。
周囲の煉瓦造りの頑強な建物が、まるで紙細工のように一斉に薙ぎ倒される。ローリーを中心に発生したその凶風は、しかし、数秒と経たずにピタリと、不自然なほど完全に吹き止んだ。
轟音に塗れていたはずの世界に、ただ、天から降り注ぐ冷たい雨音だけが静かに染み渡っていく。
「─────────殺すぞ」
ローリーの感情が、完全に決壊した。
静寂の中を、肌を切り裂くような異様な殺気が駆け抜けていく。
狂騒とともに呪力を高め、その双眸は、ただ目の前の神を噛み砕くためだけの苛烈な怒りへと染まり上がった。
「《一条の光が闇夜を照らす。我が矢は必中の一撃、天より放つ黄金の焔》ッ!!」
聖句を唱えるや否や、ローリーの眼前に巨大な黄金の弓が召喚された。奔流する呪力が眩い矢の形を成し、強靭な弦へと番えられる。
「やべぇ...! マスター!」
「待ってヴェーザー!」
主の危機にヴェーザーが身を挺して駆け出そうとしたが、駆け寄ってきたラッテンがヴェーザーの腕を掴んで制止した。
黄金の矢が放たれる。必中の加護を受けた矢は、迷うことなくペストの華奢な肉体を捉えに走った。
「こ、の...!」
先程までとは質が違う。そう直感したペストは全力で、何重もの風壁を張るが、それでも矢は止まらない。
ペストを貫かんと猛進する矢の背後には、西側の《サソリの鐘》の時計塔が迫っていた。このままいけば《サソリの鐘》の時計塔ごと貫かれるかと思った、その刹那。
「《此岸と彼岸。背を合わせし双極は此処にあり。我が眼は彼方を捉え、我が
唐突に、ペストの視界が切り替わった。
すぐ近くにあった街並みは、遥か眼下へと遠ざかっている。
転移させられた、と理解すると同時に、矢が風壁を突き破り、ペストの胸へと肉薄した。黄金の矢が、その白い肌を抉る。
「あまり、舐めるな...!」
肉を削ぎ落とされる激痛に耐えながら、ペストは風の圧力を一点に集中させ、強引に矢を圧し潰した。
幸いにも心臓などの臓器までは届いていないが、決して無視はできない深手だ。
抉られた胸元を細い手で押さえると、指の隙間からどくどくと鮮血が滲み出る。激しく肩で息をしながら、ペストはふと、遥か足元に広がる光景に目を奪われた。
「...街の外側が無い?」
底の抜けたような虚無。
正確には、街の側面にあたる境界線に、壁のようにして空がそのまま広がっていたのだ。『ゲーム盤』という名前の通り、ここには文字通りこの街しか存在していないのだと、思考が一瞬だけ現実からズレる。
「随分と余裕だな。俺から気を逸らしやがってよ」
ペストの頭上に、ローリーが現れた。
咄嗟に黒い風をぶつけるが、ローリーには通じない。容赦のないかかと落としが脳天に炸裂する。隕石さながらの勢いで、ペストは街へと撃墜していった。
叩きつけられた石畳が爆砕する。蹴りや落下のダメージはそれほどでもなかったが、矢から受けたダメージがペストの想定よりも遥かに大きい。
それでも、ペストは立ち上がる。この程度で倒れてやるほど、魔王としての矜恃は軽くはない。
「...頭に血が上っても、ゲームの勝敗が絡めば冷静に対処するのね。ええ。期待通りよ、ローリー・コリンズ。これで
自身の身を賭けたペストの作戦が実を結んだ。
「ラッテン!!!」
「もうヴェーザーが向かってます!」
ペストが声を上げると、崩壊した街の瓦礫の陰からラッテンの鋭い声が即座に返ってきた。だが、そのラッテンは、次の瞬間には上空から急降下してきたローリーによって容赦なく蹴り飛ばされ、街の奥へと消えていく。
「...謎を解いたな?」
蹴り飛ばしたラッテンには目もくれず、ローリーの視線がペストを射抜く。
「ええ。すべて貴方のおかげよ。貴方が怒ってくれたおかげ。ありがとう、と言っておくわね?」
口内に溜まった血の味と胸の苦痛を完璧に覆い隠し、ペストはどこまでも優美に、薄く笑ってローリーへ頭を下げて見せた。
その嘲笑うかのような不敵な態度が心底気に入らないのだろう。ローリーは不機嫌そうに、酷く低く、舌打ちを鳴らした。
「一応、答えを聞いてやる」
「......。答えは《太陽》。それも、ただ太陽を連想できるものじゃない。貴方、私が白夜叉を封印できた理屈を知っているのね?」
質問に答えつつ、さらなる質問で返す。
ローリーは口を固く結んだ。
「黙っていないで答えたら? 安心なさい、これで『ゲーム攻略に加担した』なんて言わないから」
ローリーの猛攻でボロボロになった黒斑のドレスを、細い手でパタパタとはたいて汚れを落としながら、ペストが軽い調子で言う。ローリーはその余裕の態度を忌々しげに睨みつけながら、ゆっくりと重い口を開いた。
「お前は黒死病の具現だ。黒死病流行の原因はいくつかあるが、その中に『太陽が寒冷期に入ったことによる地球の気候変動』がある。だいぶ無理やりだが、お前が現れたという逆説から太陽を───白夜の化身である白夜叉を弱体化できるんだろ」
「ま、概ねは正解よ。それじゃあ、私の推理を聞かせてあげましょうか」
雨の中に悠然と立つペストが、ローリーを真っ直ぐに睨み返した。
「まず、『黒が街を喰らう』。これは夜でありペスト。どちらとも捉えられるけれど、今回は少しペストとしての解釈が強いかしらね」
どれほど深い夜であっても、太陽は地球の裏側に隠れるだけで、黒く染まったわけではない。太陽系の中心で輝き続けている。
そして、ペスト菌は熱に弱い。もし太陽が通常通り地球を照らしていたならば、ペストはあれほどまでには流行しなかっただろう。
「そしてやっぱり、『死を知る者よ』の一文は私に向けたものだった。私が太陽に復讐すると誓っていることを、貴方は知っていた」
「そこまでハッキリは分からなかったさ。ただ、太陽が原因だからってだけの推論だ」
ローリーが訂正するが、ペストは気にしない。
それは推理の否定ではないからだ。
「けれど、太陽の刻印が入った鐘はない。《炎》でも、《向日葵》でもなかった」
「...なるほどな。テメェ、わざと俺に殴り飛ばされたな?」
ペストが笑う。
《向日葵の鐘》が壊れたのは、ローリーの攻撃のせいだ。ペストがぶつかることで壊れる、という事象がルール上どう判断されるか不明だったが、実際にペストが試し、それはルールに抵触しないことが実証された。
「次に、私が《サソリの鐘》にぶつかって鐘が壊れそうになった時、貴方はわざわざ私を転移させた。鐘が壊れることを避けたんじゃないの? 正解の鐘が、ね」
「ハッ。今度は俺がノせられたってか。だがそれだけじゃ────」
「黄道十二宮でしょう?」
「...ヘェ」
ローリーが目を細める。
ペストはそんなローリーの反応が面白いのか、ニヤニヤと軽薄に、どこか子供じみた笑みを浮かべる。
「サソリは夜に空に輝く星座となる。星座もまた『黒に染まらない』という解釈ができるわ。でもただの星座じゃない。太陽の通り道になる星座よ」
ここは少しだけ
だが、ローリーが何も言い返さず、笑ってもいない様子を見るに、この推理は間違っていないと思える。
ペストは推理の披露を続行した。
「少し悩んだのは、蛇遣い座───十三番目の星座が盤面に無かったこと。まぁ、無いのだから無視しても良いと考えても良いのだけれど、それではあまりスッキリしない。だからこそ考えたわ。これは単なる黄道十二星座じゃない。もっと太陽に近いもの───《太陽の主権》に辿り着いた」
箱庭における《太陽の主権》は、《黄道の十二宮》と《赤道の十二辰》という二つの区分を用いて二十四個に分けられている。
「蛇は《赤道の十二辰》にも含まれているわ。そして《赤道の十二辰》は、この盤面に蛇以外の全てが揃っている。だから答えは、《太陽の主権》じゃない。もっと細かく《黄道十二宮》に限定できる。どう? これなら、貴方が仕掛けた謎かけのすべてに筋が通るでしょう?」
ボロボロの裾で口元を隠し、今度はローリーを激昂させるためではなく、心の底からの愉悦と共に、クスクスと妖しく笑う。
「まさか《世界の核》として壊すべき鐘が複数あるとは思っていなかったけれど、確かに“契約書類”には『《世界の核》は一つだけ』とは書いていなかったものね。どう? 私の推理に、間違いはあるかしら?」
ペストがローリーに勝ち誇るように問う。
こうも長々と、敵の前で言わなくても良い推理を語って聞かせたのは、
自身の用意した謎が攻略され、牙城を崩されたローリーは、一体どんな顔をするのか。それを愉しみにし────そしてすぐに後悔することになる。
「ヒャハハ。やるなぁ黒死病。ちゃんとそこまで解ききったか」
先程までの荒々しさを潜め、ローリーが告げる。
しかし、そこに諦念はない。逆に、その瞳には強い意志が灯っていた。
謎を解かれた程度で、ローリー・コリンズは絶望などしない。諦めなどしない。する必要がない。
むしろ、謎を解かれたからこそ、彼の闘志にさらに薪が焚べられる。
「正解だ、
ペストが悪寒に襲われ、咄嗟に黒い風をローリーへぶつけた。
しかし、やはりローリーには通じない。
ペストの能力は確かに強力だ。並の者であれば一撃必殺。神や魔王であっても、苦戦を強いられることもあるだろう。だが、こと対ローリーという話であれば、その相性は最悪の一言に尽きる。ペストにとって、目の前の男は天敵という言葉すら生温い絶対の障壁だった。
ローリーが、その顔を歪に、怪しく歪めて嗤う。
「そこまで辿り着いたってンなら、俺も本気を出さなきゃあなンねェな?」
ローリーは自身の左手首を、自らの爪で深く、躊躇なく斬り裂いた。溢れ出た大量の鮮血が、雨に濡れた石畳を赤黒く染める。
それだけを見れば、ただの狂気的な自傷行為だ。追い詰められ、正気を失ったローリーが、狂った行動に走っただけに見える。
だが、ローリーには権能がある。謎を解かれた程度では覆らない、神々より簒奪した絶対の力が。
「───《焚べたるは我。我が身を貪り、奮い立て》」
聖句の響きとともに、地面に滴り落ちたローリーの血が、生き物のように蠢き始めた。
モゾモゾと不気味に脈打ち、絡み合い、練り込まれ、そして徐々に貌を成す。
それを見たペストの端正な顔が引き攣った。
「...忘れていたわけではないけれど...やはり出すのね」
雨ではない、冷や汗が頬を伝うのを感じる。
ヴェーザーもいない。ラッテンもいない。
たった一人でローリーと向き合うペストは、目の前に立つ
ローリー
「──なァ、神が生意気言ってるぜ?」
「仕方ねぇさ、神だからな。愚鈍な神へもう一度、最初から宣言してやろう」
「「ここからは神狩りの時間だ。どいつもこいつも、神であるなら噛み砕く」」
本物の魔王ローリーと、その血より生まれ出でた分身体が、高らかに絶望の開戦を宣告した。