カンピオーネは『覇者』である。
天上の神々を殺戮し、神を神たらしめる至高の力を奪い取るが故に。
カンピオーネは『王者』である。
神より簒奪した権能を振りかざし、地上の何人からも支配され得ないが故に。
カンピオーネは『魔王』である。
地上に生きる全ての人類が、彼らに抗うほどの力を所持できないが故に。
人類は、彼らに抗う術を持たない。
元は同じ『ヒト』でありながらも、彼らはその枠組みを超越した。
彼らに対抗しえる存在は、彼らの同胞か、神の使徒、もしくは神そのもののみである。
絶対的勝者であり、人類の頂点に君臨する王者。
人類が持つ“まつろわぬ神”への唯一の対抗手段であり、人類が抱える最大の腫瘍であり災害。
彼らは、人類の味方ではない。
気分次第で人類を滅ぼす究極の快楽主義者。
どこまでも欲望に忠実で、他者を省みない暴君。
それがカンピオーネである。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「ヒャッハハハハハハ!!!」
甲高い笑い声が木霊する。
美しく静観だった蒼銀の世界を貪り喰い、天災と呼ぶに相応しい荒々しさで駆け抜ける。
青白い光弾が飛び回り、赤黒い閃光が大地を抉り、淡黄の槍が空を切る。
まるでSFモノの宇宙戦艦同士の戦闘のようだった、と後に十六夜や燿が語るこの光景を生み出しているのは、魔王・ローリーだ。
「呵々ッ! 甘い、脆い、小賢しい!! そのような大道芸、私に通じるものか!」
そして、それらの尽くを撃ち落とし、握り潰し、避けて笑うのは元魔王・白夜叉だ。
些かテンションがおかしな方向に飛んでいってしまっているが、無理もない。これは下層の危機でも何でもない、言うなれば『プライベートの殺し合い』。そんなもの、何百、何千年ぶりだろうか。
加えて、ローリーという魔王は白夜叉を満足させる程度には強かった。もちろん、白夜叉の本気を受け止められるかと言われればそんな事は無いのだが、渇いた心に幾分かの水滴を垂らす程度にはローリーは強者であった。
「大道芸だぁ? 言ってくれるじゃあねぇの!」
光弾の数が倍に増える。だがそんなものに意味は無く、白夜叉には一発たりとも届きはしない。
さすがにこれ以上は無意味だと光弾を乱射することを止め、一度白夜叉から距離を取る。
が、その距離を一瞬で詰めた白夜叉が扇子でローリーを打った。
一撃目はなんとか避けるが、二撃目がローリーの首に直撃する。ゴリュッ、と鈍い音が鳴り、ローリーはライナー性の打球のように横に飛んでいった。
数十メートルほどで地面にワンバウンドし、水切りのように複数回地面を跳ねてから岩に激突して砕く。それでも止まらず、さらに十メートルほど転がったローリーは、ゆらりと不気味に立ち上がった。
「あ゙ー...クッソ、人の骨をポキポキポキポキお手軽に折りやがって。枯れた細枝じゃねぇんだぞ」
コキコキと首の骨を鳴らしながら、白夜叉を睨みつける。
「ふむ。今のでも無傷か」
「バカ野郎、誰が無傷だ。普通なら死んでるっての」
「その速度で治るのであれば無傷と変わらんだろう?」
ニヤニヤと愉しそうに笑う白夜叉をさらに鋭く睨み、ローリーは魔法陣を展開させた。
「また先程までの光弾か? それは私には効かんよ」
「ンなこた十分分かってんだよ。だから、これはまた少し違った魔術だ」
魔法陣から黒い球が飛び出した。
大きさは先程までの光弾の三分の一程度、野球ボール程の大きさだが、速度もまた三分の一程度。常人でも、反射神経に長けたアスリートであれば十分避けられる程度のものだ。白夜叉にとっては止まっているのとあまり変わりはない。
だが、最大の相違点が一つ。
それは、地面が剥がれて黒球に吸い込まれているという点だ。
地面だけではない。まだ距離のある白夜叉の着物の裾も、黒球に向かって風に靡くようにはためいている。
「...なるほど、引力か」
黒球が近付いてくる程に白夜叉の服や髪が強くはためいていく。だが、白夜叉の顔から余裕は消えない。
スッと右手を前に出した。
「面白い技だが、弱いな?」
言って、黒球を握り潰す。
力場の消失に風が荒れ、砂塵が舞った。扇子の一閃で晴れた白夜叉の目に写ったのは、紫電を散らすローリーの姿だ。
「呵々ッ、芸が豊富だな」
愉しげに笑った後、背後に向けて回し蹴る。
「ゔッ」
短い息が漏れ、背後から黒球を手に忍び寄っていたローリーが打球のように飛んでいく。
それと同時に、白夜叉の前に立っていたローリーが揺らぎ、霧のように消えていった。
「この私に『本物かも』と思わせる分身か。愉快愉快、次はどんな芸を見せてくれるか楽しみだ」
「ナメやがって。こっちの必死な攻撃を芸とか...ッ!」
折れた骨、潰れた内臓を治し、血の混じった唾を吐きながら舌打ちして白夜叉を睨みつける。
「そんじゃあ、次の“芸”を見せてやんよ」
そう言い、ゆっくりと宙に上がる。
十メートルほど上がったところで静止し、両手を広げて白夜叉に向けて伸ばした。
隙だらけで、白夜叉であれば一瞬で手が届く。にも関わらず、白夜叉は構えもせずただ立っているだけ。くつくつと笑いながらローリーを見上げている。
「(気に食わねぇ)」
そんな白夜叉を見て、ローリーの中に苛立ちが募る。
今この瞬間だけではない。この決闘が始まってからずっと、白夜叉はローリーを見下していた。
態度だけではなく、その行動すべてがそれを物語っている。証拠に、白夜叉はずっと自分の攻撃を一ターンで終わらせているのだ。
殴り飛ばして見下して、蹴り飛ばして笑い飛ばす。
もし追撃されていれば、今頃きっとローリーの回復が追いつかずもっと早くに『奥の手』を出していただろう。
「...ヒャハッ、ここまでコケにされたのは久々だ。その余裕顔、絶対に崩してやる」
「ほほぅ? よいよい、大きな口を叩くのは無知な若者の特権よ」
「言ってろ! 吠え面かきやがれ!!」
ローリーが力むと、白夜叉の立っている場所から半径二十メートル程の地面に大穴が空いた。
浮遊感を感じ、白夜叉はチラリと下を見る。底が見えない。
「奈落に叩き落とそうと? 大口を叩いたわりには随分と...」
「ハッ、んなわけねぇだろ!」
瞬間、大穴の底から光が昇る。
天に翔ける極光は白夜叉を飲み込み、空を割った。
「この程度じゃ傷も付かねぇんだろ? 知ってるよ!」
続いて、光柱を囲むように黒い魔法陣が多数展開される。
魔法陣から光柱に向かって、先程の黒球が放たれた。その数は百をゆうに越え、光柱を引きずり込みながら白夜叉へと向かっていく。
が、これも白夜叉は腕を払うように撃退する。
「効かぬと何度────」
爆風の中でため息を吐きそうになった白夜叉が、不意に二次元になる。
平らになった白夜叉がそこから脱出する前に、ローリーの拳が白夜叉を砕いた。
「くっ...!」
「! ヒャッハハハハッハァ!!!」
初めて白夜叉の口から漏れた苦悶に、ローリーの顔が厭らしく歪む。
体勢が崩れた白夜叉へ、ローリーは手を休めることなく猛追した。
山を砕く拳撃を、大地を割る蹴りを、空間を捻じ曲げる魔術を。ここで決めると言わんばかりの猛攻を白夜叉へと叩き込む。
だが、そんなもので終わるほど《白き夜の魔王》はヤワではない。
死角から放たれたローリーの拳を無理やり体を捻って避け、空を切ったローリーの腕を掴み取って地面に叩き付ける。
「ヴッ、ハッ───」
肺から空気が弾き出され、ローリーの呼吸が一瞬止まった。
すぐに立ち上がろうとするが、下に潜り込んだ白夜叉の蹴りがローリーの顎を直撃する。
耐えきれず宙に浮いたローリーを、白夜叉はそのまま扇子で叩き飛ばし、次いで割れた地面の一角を毟り取って岩をローリーに投げ飛ばす。
投岩はローリーを巻き込み、地面を抉るように数十メートル進んだところでようやく止まった。
「─────ヒャハッ」
爆撃の様な音が静まり、一瞬の静寂の後。
岩の下から、愉しそうな声が響く。
「ヒャッハハハハハハ!! ちったァ効いたかこの化け物が!」
ローリーを下敷きにしていた岩が爆散し、頭から血を流すローリーが狂気を感じるほどの顔で立ち上がった。
「うむ。認めよう。今のは明らかなダメージだ。ちと熱が入った」
対する白夜叉も愉しそうに、少し擦れた着物の裾をチラリと見る。
「そうかそうか、そうだよなァ? 今のでノーダメってんならさすがの俺も気力が失せる。俺たちの戦いはこれからだ、ってなァ!!」
叫ぶローリーの背後と頭上に、百を超える魔法陣が展開された。
炎の渦が、氷の礫が、風の刃が、光の槍が、闇の球が。多種多様な属性の魔術が、放出される瞬間を待っている。
「ギア上げてくぞオラァ!」
「呵々ッ! 来い小僧。その威勢がいつまで持つか、見せてみろ」
笑い合う二人の周りが蜃気楼のように揺らめき出す。
世界が怯えているかのように震える中、開戦の合図だと言わんばかりに全砲門が解放された。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
逆廻十六夜は、特別な人間である。
生まれてこのかた、敗北という敗北を味わったことがない。
“力”において、水神を一方的に屠ったことからも分かる通り、彼が元居た地球上のあらゆる生物の頂点に立つ。
“知”において、学会に名を残す学者らと同等かそれ以上の知識を持ち、こちらでも地球上で最上層と言って過言無い。
そんな《人類最高峰》である十六夜をもってして、目の前で繰り広げられる戦いは“異常・超常”と言わざるを得ないものだった。
「ヒャッハハハハハハ!!!!!」
声が響く。
声の発生源はここから百メートルほどは離れているはずなのに、やけにハッキリと聞こえてくる。
そしてすぐにその声を掻き消すように、爆発音だとか、強風音だとか、そういう破壊的な音が世界を揺らしていた。
「......あ」
防御魔術だとかいう摩訶不思議なモノで護られた狭い空間の中で、ふと小さな呟きが聞こえてくる。
「ありえない...ありえないのですよ、こんなこと......」
うわ言のようにそう呟くのは黒ウサギだ。
彼女の目には、彼女が吐いた言葉通りのものが浮かんでいる。
十六夜とは違い、《箱庭》という超常の世界で長く生きてきた黒ウサギですらこの反応だ。どれだけ今のこの状況が異質なのかを十六夜は感じ取る。
「...確認だが黒ウサギ。あいつは、《箱庭》じゃどのくらいの強さになるんだ?」
あいつ。
十六夜が差すのは、元・魔王だというロリっ子のことではない。そのロリっ子を相手に大立ち回りをしている《神殺しの魔王》の方だ。
「......分かりません。ですが、単純な戦闘力という面では、最低でも五桁といったところでしょうか......」
「“アレ”で五桁か」
ではロリっ子───白夜叉のいるという四桁や、さらにその上である三桁以上の実力とはどれ程なのか。
世界に飽き、刺激を求めて《箱庭》に殴り込んだ十六夜だが、“アレ”と正面から戦って勝てるかと聞かれれば、不可能とは言わないが、現状は『難しい』と言うしかない。
瞬間、一際大きな衝撃が訪れた。
見れば、何やら巨大な隕石が墜落しているではないか。
十六夜達がいる防御魔術とやらの中は驚くほど快適で、暑くも寒くもない。
だが一歩防御魔術の外に出れば、世界の終わりの様な光景が広がっていた。
美しかった白銀の世界はそこには無く、大地が裂け、抉れ、陥没し、隆起している。山脈はとうの昔に消え去り、湖は干上がった。ここがもし惑星だったとしたならば、とっくに噴火の一つや二つおきていてもおかしくないし、大絶滅の再現だと言われても信じてしまう程度には「終わって」いた。
この光景を作り出したのは元・魔王を名乗る白夜叉ではない。
この地獄とも言える惨状を生み出したのは、今も尚高らかに笑いながら光の弾やら赤黒い光線やら青白い槍やらを乱射し、時たま隕石を振り落とすような“化け物”────ローリー・コリンズである。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
高揚感に身を任せて暴れまわっているローリーだが、彼の胸中には焦燥が募り続けていた。
「(...マジで何なんだあの化け物は。何をしても、全く手応えが無い)」
唯一、次元を捻じ曲げた攻撃だけは手応えらしきものがあったが、それも一度しか通用しなかった。
勢いて隕石を落としてみたりもしたが、少し服が汚れた程度で実質ノーダメージだ。
「(
そんな事を考えていると、白夜叉が背後に現れた。目にも止まらぬ速度、というわけでもなかったが、見えることと体が反応できることは同義ではない。
蹴り飛ばされ、今日何度目になるかも分からない粉砕骨折と内臓破裂の痛みに襲われる。
「ヂックショ...!」
傷なら一秒も経たずに治せるが、そういう問題ではない。
明らかに、白夜叉は手加減をしている。
ただの直感ではあるが、ローリーはソレを確信していた。本気で攻撃されたら、回復する時間も与えられず、ただ一方的に鏖殺されるであろうことも分かる。
問題は、なぜ白夜叉が手加減をしているかということだ。
ローリーが思うに、理由は二つ。
一つは、ローリー側の敗北条件に《降参》があるため、そちらで勝利を収めようとしているということ。
そしてもう一つは────
「ハハハ!! どうした小童、その程度か! もっとあるだろう!? まだ足らんぞ、もっと私を楽しませろッ!!!」
コレである。
白夜叉は、ローリーに対して「自身を楽しませる」ことを求めているのだ。
白夜叉が仏門に降ってから幾百、幾千年が経ったか。長い長い間、白夜叉は退屈の中で生きてきた。
楽しみが無かったとは言わない。芸を見て笑ったり、黒ウサギを初めとした様々な好みの女にセクハラしたり、趣向を凝らしたゲームを眺めたり。
そんな小さな楽しみはいくつかあったが、白夜王として、三大問題児として《箱庭》を縦横無尽に暴れ回っていた彼女の渇きは中々潤うものではなかった。
加えて《最強の階層支配者》という肩書きから、魔王でさえ白夜叉には下手に手を出さない。大抵の者が戦闘を避けるか、逃げるか、向かってきても「負けて当然」という心持ちを持っている。そんなもの、何が楽しいというのか。
下層の平和を守り、秩序を保つ。そんな階層支配者としての日常は嫌ではないが、楽しいかと言われればそうでもない、というのが白夜叉の本音である。
血湧き肉躍る殺し合いを! とまでは言わないのだ。
だが、本気で自分に勝つ気で向かってくる馬鹿と戦いたい。そう思っただけ。
長らくそんな機会に恵まれてこなかった白夜叉だが、今まさに、目の前にいる馬鹿が、無謀にも「勝つ」と言い放って向かってきている。
こんな楽しい時間を簡単に終わらせてたまるかと、白夜叉は高揚していた。
まぁ、そんな最強である白夜叉の内情までローリーが知っている訳もなく。
「(コイツに俺の本気がここまでだと、これ以上つついても何も出ないと思われた時が最後、だろうなぁ)」
白夜叉がこの戦いに飽きた時が終わる時。
そう解釈したローリーはすでに“本気”で戦っており、戦いの中で成長を見せている。
例えば、傷を癒す速度。戦いが始まったばかりの頃は腕一本の骨折を治すのに一秒かかっていたが、今ではコンマ1秒で治るほど早くなった。
例えば、攻撃手段。基本的に魔術を使って攻撃しているが、並の魔術どころか山河を砕く魔術でさえ白夜叉には効かない。そこで、ローリーはこの戦いの中で「星を揺るがす」ほどの魔術を編み出し、行使している。
にも関わらず、白夜叉はほぼ無傷。本気すら引き出せず、ただジワジワと追い詰められている。
今はまだ受けた傷を即座に回復できているが、それもいつまでもは続かない。呪力で回復させているため、呪力が尽きれば回復できず一瞬で殺される。
「────チッ、これまでか」
猛攻を止め、ローリーは地に降り立った。
苛立たしげに頭を掻き、なんの構えも無くただそこに立っている。
「む? なんだ、諦めたのか?」
不思議そうに、そしてどこか寂しそうに、白夜叉は突然大人しくなったローリーを見た。
そんな白夜叉に苛立ちを覚えつつ、ローリーは再度舌打ちをしてから白夜叉に睨む。
「ああ、そうだな。諦めた。このまま続けても無駄だ」
「......そうか。むぅ、つまらんなぁ」
ため息を漏らしそうな程に落胆を滲ませ、白夜叉も構えを解く。せっかく楽しかったのに、という不満を隠すこともしていない。
「ハハッ、悪ぃな。だけど安心しろよ。諦めたっつっても、勝負を投げるわけじゃねぇ。ただ、ここから先は“全力”を出す」
「...ほほぅ?」
落胆が滲む瞳に一筋の光を取り戻し、白夜叉は再びローリーを見据えた。
「これはまた面白いことを言う。今までは手を抜いていたと?」
「ンなわけあるか。本気でやってたさ。けど、今までのは“本気”であって“全力”じゃあねぇ」
「うん? トンチか? 何かの謎かけか?」
「そう難しい話じゃない。文字通り、俺の全ての力を出す。そう言ってんのさ」
ローリーから不気味とも言える“波”が溢れ出る。
あの白夜叉に一気に臨戦態勢を取らせる程の異変。先程までも十二分に異質であったローリーの気配が、より一層濃密になっていく。
「《太陽は沈み、闇駆ける夜の訪れ。暗く、昏く。夜を連れて翔けよ神馬》」
ゆっくりと。殊更にゆっくりと。
その声、その言葉に圧力が乗っているかのように、ローリーの聖句が世界に浸透する。
世界の異変は、それからすぐに訪れた。
「...? 何...!?」
白夜叉の顔が初めて歪む。
ローリーから目を離し、その視線は天へと向けられた。
対照的に、ローリーは嗤う。
白夜叉を真っ直ぐに見つめ、その様子を愉しむように口角を上げた。
「白き夜の魔王。沈まぬ太陽、白夜の化身。残念だが、ここからは《夜》の時間だ。太陽は大人しく沈んでろ」
白夜叉の目線の先で、落ちるはずのない太陽が徐々に地平線へとその姿を隠していく。
有り得ない。白夜叉の背筋に悪寒が走り、太陽が沈み切るのを見届ける前に視線をローリーに戻した。
その先で、ローリーは斜陽を背に酷く歪んだ笑顔を浮かべている。
「ヒャハッ! ここは一つ、改めて名乗ろうか」
両手を広げ、高らかに。
己の存在を世界へと認知させんと、魔王は嗤う。
「生意気な神々をブッ殺し、力を奪い、オーストラリアを...いや、一つの世界を統べた大魔王。《
「そして、」とローリーは続ける。
悔しそうに、申し訳なさそうに、双眸をそっと閉じ、
「───────《魔王必滅》」
太陽が落ちた夜の中、開かれた魔王の眼光が淡く、妖しく、金色に輝いた。